最弱の第一席   作:かすてらもちぱん

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互いの目的

「……はぁぁぁあぁ――死ぬかと思いました……。

 と言うかもし私本体があそこ行ってたら死んでましたよね? 近衛長さん、実は加減って言葉あるんですよ……知らない? そうですかそうですか……もういやです……」

 

 壁にもたれ掛かる人影――先程玉座の間で第一席(ファースト)と呼ばれた少女は再び肩を落とす。

 近衛長の怒りに満ちた顔を思い出す。そしてこれからの事を考え。――あまりの気苦労に少女の心はまさしく真っ暗闇に落ちていた。

 

「うるさいわね……近衛長なんて雑魚の事なんて話すんじゃないわよ。そもそもファルは死んでないし死なないんだからどうでもいいじゃない。

 それで? どうだったの、新しい陛下は?」

 

 肩を抱きながら長いため息を吐く第一席(ファースト)に向かい、目の前の椅子で本を片手に脚を組んでいた少女は軽く目を向ける。

 目を引く銀髪に赤い瞳。その声は少し大人びた物。だが少女の見た目はそれに相反し、最早幼女とでも呼んで差し支えない程若々しいものであった。本を閉じながらゆったりとした艶やかな動作で椅子から離れる。

 

 一席はふるふると首を振るう。それを追いかけるように水色の髪が揺れた。暗い色を瞳に落としたまま一席は呟く。

 

「あれは不味いですね……大なり小なり『改革』を目指そうとする瞳をしていました」

 

「へー。別に良いじゃない。志しが高いのは大したものよ。それにファルの目的に支障はないでしょ?」

 

 少し離れた本棚へ本をしまいながら、少女は淡々と告げる。それを聞き、一席は再び首を振った。

 

「そうとも言えません……最悪の場合、過去の絶対王政の時代に戻された場合……私の計画は破綻します」

 

「えー?今ファルに文句言える人なんて一人もいないじゃない」

 

「……文句を言えなくてもいずれ不満が爆発したとき、私は成すすべもなく死ぬでしょう」

 

 「なぜなら――」と、そこで一旦息を切り、自信満々に大きく深呼吸して第一席(ファースト)は、ファラールは言った。

 

「私はそこらの人族を引っ張ってきた方が強い! と断言出来るくらいの戦闘能力しか持っていませんからね!!」

 

「へー…………何度も言うけど自信満々に言うことじゃないわよ?」

 

「え……私が強いと騙されている奴等がいるのですよ」

 

 ここで嬉しげに何度か笑い、そして天を仰ぐ。

 

 「ああ――なんて滑稽な事でしょう! これ、凄いと思いません? 新聞にでも投稿すれば大騒ぎですよ!」

 

「『最弱! 最低! 偽りの第一席!!』って見出しでね。一番最初、無駄に実力主義のこの国では特に重要ね。つまりお先真っ暗よ。

 なんなら貴女を目の敵にしている魔術師(アデプト)の最高位なら嬉々として告発するでしょうね。私がいるからにはそんな事させないけど」

 

「そんなのはどうでもよいんですよ! なにより――なんの力もない私に踊らされる陛下! ……これ面白くないですか?」

 

「いや……力がないって……ファルには『(リエカリフト)』の加護があるじゃない」

 

 世界十二神が一柱、リエカリフトが授ける、第四の加護。

 それを得た者は、何もかも、いかなる幻でも思いのまま――、

 

 と、そういえば聞こえは良いが、余りにもマイナスが酷すぎた。

 

 授かった者は『永劫の虚飾』と『最弱』を強いられる、ほとんどデメリットな加護の名前。それを聞くと同時、ファラールの顔が目に見えて歪んだ。産まれた時から肉体能力は赤子同然で停止し、魔術はそもそも魔力すら無いのでセンスがあるない以前の問題。

 

 産まれた時から成長の無い肉体を恨んだ事は数知れず――思わずファラールは愚痴を溢していた。

 

「……そんなマイナスだらけの加護持ってるって、むしろステータスじゃありません? なにしても他の人より凄いって褒められてもおかしくないと思うんです」

 

「あら? ファルが褒めて欲しいなら、褒めてあげるのもやぶさかじゃないわよ?」

 

「いらないです止めてください」

 

 真っ向から否定され、うっ、と銀髪の少女は停止する。そして、ふいっと顔を背ける。

 

「冗談なんだからそんなにつんけんしなくても良いじゃない……全く、もう……」

 

「何を隠そう私、冗談が通じないタイプの魔族ですので」

 

 「それ嫌われるヤツね……」と、呟きそこで少女は大きくため息を付いた。そしてスッと視線をファラールに向ける。

 

「──で? 陛下は障害になるの?」

 

「……冗談なんですからいきなり話を戻さなくても……まあ、いいです。そうですね、その答えは――」

 

 一瞬不満げに少女を見たファラールは、しかしすぐさま気を取り直すと人差し指を立て格好つけた。

 

「――なり得ます」

 

「へえ……」

 

 それを聞くと同時、どこか獰猛な笑みを浮かべながらも、意外そうに少女は目を見開いた。

 

 

◆◇

 

 

 大臣達との話を終えた今代の魔王は、がらんどうとした部屋で椅子に座りながら書類を漁っていた。

 そして、ある一枚へと目を留めるとそれを手に持つ。それは、この国の軍部を纏める彼女が何故そこへ至ったのかを記した書類だった。

 

 記された内容をジッと見詰める。何度も見直し、やがて見間違いでもないことを悟ると魔王は諦めるように空を見上げた。

 

「……化け物が正しいよ、これは……私1人では手に負えないかも知れないね」

 

 魔王のみが立ち入ることの出来る秘書庫。そこで、彼女は諦観もこもった笑いを浮かべた。

 だが、直ぐに彼女は姿勢を正す。

 

「だけど、私は諦めないよ、一席。例え何を犠牲にしても──例えそれが仲間だろうと己だろうと──私は諦めない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()君がいなくならない限り、私達の目的は達されることはない……」

 

 そして、彼女は思い返す。彼女に『魔王』を目指すきっかけを与えてくれた、立った一人の()()を。

 

 

「……私の……昔からの夢。それは――」

 

 

◆◇

 

 

 

「私と言うものがありながら?」

 

「ええ、第四席(フォース)、いえ、我が友リア。貴女程の実力者がいても難しいと言わざるを得ません。

 何せあの女は、恐らく歴代の陛下を凌ぐ程の力を単体で持っているであろうからです」

 

 難しそうにリアが眉をひそめる。

 自身の方が強い。そう言いたいのが分かったファラールは先んじて言った。

 

「貴女でも魔導師長と近衛長、そして今代の陛下と戦い、勝利を収めるのは難しいでしょう?」

 

「まあ、流石に……そうだけど……あ、方法がなくもないわ――」

 

「却下です」

 

 ふと思い出したように付け加えられた情報にファラールは察しがついた。閉口しかけたが言われる前に拒否する。あまりに『なし』な方法だったのだ。

 

 不満そうなリアを無視してファラールは話を進めた。不敵な笑みを浮かべ、彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

 

 

「私達の計画。これはこの国に反逆を翻すも同義です。何故なら私達の計画とは――」

 

 

◆◇

 

 

「――他種族との融和なのですから」

 

 

「──他種族との融和なのだから」

 

 

それはまるで自分自身に言い聞かせるように、ある部屋で。

 片方は一人で、しかし誰かに語りかけるように。

 

 

 今ここに、静かに戦いの火蓋は切られたのだった。




プロローグ終、って感じです!
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