CINDERELLA BRE@KER~BUILD THE FUTURE   作:wataru012

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乱入者とミスターの悔恨

「…ありがとう、本当に素晴らしいバトルだったよ…

 年甲斐もなくはしゃいでしまうぐらいに」

 

「そこまで喜んでもらえたなら、幸いです」

 

エキシビジョンマッチが終わり、泰葉とミスターが互いの機体を

向き合わせて感謝の言葉とそれへの返答をしていた次の瞬間…

 

「…はしゃぎ過ぎだよ」

 

「なっ…ぐわっ!」

 

「うわっ!?」

 

ミスター機の背後から突然に現れた

「アストレイゴールドフレーム」の頭部に

「アストレイブルーフレームセカンドリバイ」の腕部、

そして「ガンダムサンドロック」の胴体と脚部に

「バンシィ・ノルン」のバックパックという構成で

白と金を中心に胴体とバックパックは黒という塗装の

ガンプラが、その一言と共に「ガーベラ・ストレート」を振るい

ミスター機を吹き飛ばし…それにぶつかられる形で

泰葉機「ガンダムティガーストライク」も吹き飛ばされる。

 

「何だありゃ!?」

 

「この会場以外のシミュレーターからのクラッキングの形で

 接続されているみたいです、カドマツさん!」

 

「何処からの接続かわかるか、泉!?」

 

「駄目…複数のプロキシサーバーを経由してるから、

 大本のIPアドレスを確認するには相応の時間がなきゃ…!」

 

「チィッ…今度は何だ!?」

 

その様子を目の当たりにしたエンジニア組は、乱入者へのカドマツの

驚きの言葉への返答代わりに泉がクラッキングが行われている事を話し

それを聞いた晶葉が接続元について尋ねるが…泉からは乱入者側が

接続元の判明に時間がかかるよう細工が施されていると返され、

それを聞いた晶葉が舌打ちをした直後に警告音が鳴り響く。

 

~~~~~

 

「な、何!?」

 

「何者だ!」

 

「悪いけど、君達に用がない以上名乗る義理はない。

 …用があるのは、チャンプだけだからね」

 

ミサの驚きの声とロボ太の警戒心からの言葉を

気に留めず、乱入者は立ち上がり体勢を立て直した

ミスター機に向けて歩を進め…近寄ると一言声をかける。

 

「…今回も彼女達に花を持たせてあげたって事かい?」

 

「そ、そんな事は…!」

 

「前科があるんだ、違うとは言わせないよ」

 

乱入者の一言に焦り気味の口調で否定しようとする

ミスターであったが、乱入者は有無を言わさぬ様子の

声色と口調でミスターの発言を封じ込める。

 

「ちょっと、何勝手な事言ってんの!?」

 

「これは僕とチャンプの問題だ、済まないが君達は

 黙ってログアウトして大人しく引き下がってくれ」

 

乱入者とミスターのやり取りを聞いて、ミサが

黙っていられず会話に割り込もうとするも

乱入者はそれを食い止めるように言葉を返し

ミサ達に半ば命令気味にログアウトするように言う。

 

「何様のつもりですか…」

 

そしてその乱入者の発言をきっかけに、ここまで黙って

状況の観察に徹していた泰葉が自機を立ち上がらせながら

普段は見られない怒りの籠った声で乱入者に向けて話し始めた。

 

「舞台の演者どころか観客ですらない身で土足で舞台に

 上がり込んでぶち壊すのみならずケチを付け、

 その上元々の演者を追い出すような身勝手な事を

 言われて…黙って従うと思ってるんですかっ!!」

 

そこから一気呵成と言わんばかりの勢いで心に生じた

怒り任せに怒声を吐き捨てると、泰葉はそのまま

「グランドスラム」を上段に振りかぶった姿勢で

自機を乱入者機目掛けて全速力で突進させる。

 

「舞台を汚された怒り、か…その気持ちは

 理解出来る。だが、怒り任せの突撃など…」

 

その様子を見た乱入者は、泰葉の抱いた怒りに対して

理解を示すような言葉を発した後に自機を突進して来る

泰葉機に向き合わせると迎撃せんとブーストを吹かせ前進した。

 

~~~~~

 

(ガンプラの動きが鈍い…!?)

 

乱入者目掛けて自機を突撃させた直後、機体各部の動きや

ブーストの速度がこれまでの戦いより鈍っているのを

泰葉が感じ取った直後に晶葉から焦った声で通信が入る。

 

「泰葉! 奴の乱入の影響かこっちのシミュレーターの

 アセンブルシステムがエラーを起こしてパーツのLvと

 アビリティが初期化されてしまっている! このまま

 真っ向から突っ込んで行くのは無謀極まりないぞ!」

 

その発言を聞いて泰葉は自機の行動速度が鈍った

理由を理解するが、それでも前進を止める事はなかった。

 

(この状況で相手を撃破するのは無理だとしても、一発でも

 攻撃を当ててダウンさせられれば撤退させられるかもしれない…

 啖呵を切って踏み出した以上、最早そうするしかありません!)

 

そう腹をくくって乱入者機との間合いを詰めて行く最中…

乱入者機が急激に速度を上げたのか泰葉のモニターから姿を消す。

 

「消えた…!?」

 

その光景に、半ば勘で上段に構えた「グランドスラム」を

袈裟斬りの軌跡で振り下ろし…「ガーベラ・ストレート」を

横一文字に振り抜いた乱入者機とすれ違った状態で

互いに固まったかのように動きを止める。そこから乱入者が

「ガーベラ・ストレート」を鞘に納め始めて行き…

 

「…止まっているも同然、だよ」

 

「うっ…!」

 

完全に鞘に納められると同時に発せられた乱入者の一言の直後、

泰葉機の前面に斬撃の軌跡が描かれ…その直後に泰葉の入っているポッドが

激しく振動し唸り声が聞こえた直後、泰葉機はそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「…なっ!?」

 

「主殿っ!!」

 

「泰葉ちゃんっ! こんのぉぉぉぉっ!!」

 

その直後の乱入者の驚きの声に続く形で、

ミサとロボ太は泰葉に声をかけ…それと同時に、

ミサは怒りを剥き出しにして乱入者機目掛けて

自機の右腕を伸ばす姿勢で突撃していく。

 

「…くっ!」

 

「わわっ!?」

 

だが、「アザレア・ヘヴィガンナー」の右腕が

乱入者機に届く直前で硬直が解け…伸ばした右手を

乱入者機に掴まれそのまま背負い投げをされ、

仰向けの姿で背中から地面に叩き付けられていた。

 

「…惜しかったね」

 

「主殿のみならずミサまで…許せん!」

 

その様子を見たロボ太が怒りに満ちた言葉と共に

「フルアーマー騎士ガンダム」を乱入者機に

向き合わせると同時に全速力で突撃させるが…

 

「…失礼するよ」

 

「…ととっ!」

 

乱入者がその一言と共にログアウトを行い、

全力でぶつかっていくつもりだったロボ太は

勢い余って躓き盛大に土煙を上げる結果となった。

 

「み、皆さん…大丈夫ですか?」

 

「うむ、私の方は大した問題ではない」

 

「私もそんなにダメージはなかったけど…

 一体何でまたこんな事になったわけ?」

 

「済まない…こうなったのは私のせいだ」

 

「それはどういう…」

 

乱入者のログアウト後、泰葉が皆に声をかけ…

ミサの疑問に対しミスターが申し訳なさを込めた声で

自分が原因だという発言に対し泰葉が詳しい事情を

尋ねようとするが…その言葉を最後まで言い切る前に

ミスターはログアウトしていた。

 

「…一先ず泰葉達もログアウトをしてくれ、

 その後全員でミスターさんの楽屋に行って

 挨拶の後に改めて尋ねてみる事にしよう」

 

「わかりました」

 

その後のプロデューサーの言葉を聞いて泰葉達もログアウトし、

ステージ上ではあちこちでどよめきが起こっている状況を

MCハルが強引にジャパンカップの閉会宣言を行う事で

半ば無理やりに観客の退場へと誘導していた。

 

~~~~~

 

「お疲れ様でした、ウィル坊ちゃま」

 

「ああ…ん?」

 

シミュレーターから出て来たタイミングで掛けられた

ドロシーの言葉に返答するウィルに、ジャパンカップ会場の

シミュレーターへのクラッキング作業を実行した

元スリーエス社員が駆け寄ってUSBメモリを差し出し

内部に保存されているレポートに目を通すように言う。

 

「わかった、ホテルへの帰り道すがら確認させてもらうよ」

 

それを受け取ったウィルはそう返答すると、ドロシーらを

引き連れる形で車に戻り…そうしてホテルへと

帰還する車内で、ウィルは先程手渡されたUSBメモリを

ノートPCに接続し保存されていたレポートに目を通していた。

 

(…バトル終了直後というイレギュラーなタイミングで

 イレギュラーな手段による接続を行った影響で、

 向こう側のシミュレーターのアセンブルシステムが

 エラーを起こしスキャンと登録を行ったガンプラの

 各パーツのLvとアビリティが初期化されていた…)

 

(これに加えて今日の大会での多数のバトルによる疲労、

 そして僕の乱入に激昂した事で冷静さを欠いていた状態…

 さらには『覚醒』を使い切ってしまったという状況で

 ありながら、彼女の突進を見切って回避し一閃を叩き込んだ

 僕のガンプラにかすり傷ながら一太刀を浴びせていた)

 

(ここまでの悪条件が重なってなお、そういう事が出来る程の

 腕前と言うのならば…向こうのガンプラや心身のコンディションが

 万全であったなら、もしくは『覚醒』が続いていたなら…

 十中八九、僕の方が返り討ちにされていただろう)

 

(…それに、あの商店街のお嬢さん…ミサと言ったか、

 彼女を切り伏せた直後に僕のガンプラを押し倒そうと

 突進して来たが…かすり傷ながらダメージを受けた驚きで

 固まっていたとはいえ、あと少し僕の反応が遅れていたか

 向こうのガンプラや心身のコンディションが万全であったなら…

 僕のガンプラは押し倒され地面を舐める事になっていただろう)

 

(…3機目のSDガンダムとは接触する前に離脱してしまったから

 詳細はわからないが、彼女達2人だけでもあのチームの

 強さは紛れもなく高いレベルだと断言出来る)

 

(だとすれば…ああは言ったが、もしチャンプが本当に

 彼女達に対して手加減していたのであればもっと一方的な

 試合になっていただろう。わかってはいたが、やっぱり…)

 

「…着きましたよ、ウィル坊ちゃま」

 

「ん…ああ。すまないが部屋に戻ったら

 頼みたい事がある、聞いてもらえるか?」

 

「内容次第ではありますが…聞くだけは聞きましょう」

 

レポートを見ながらあれこれと思案していたウィルに、

ドロシーがホテルに戻った事を告げる。それを聞いたウィルは

返事の後に頼み事がある事を話し、ドロシーの返事を合図代わりに

車から降りホテルに入り…運転手や同行した元スリーエス社員が

途中階で降りていき、残った2人は最上階のスイートルームへと戻って行った。

 

「それで、頼み事とは何でしょうか」

 

「ガンプラバトル公式大会の運営とのアポイントを取って来て欲しい。

 それに加えて、うちの会社の企業口座と僕個人の口座からいつでも

 まとまった金額を出金出来るように準備もしてもらいたい」

 

「現在は出張状態でありますが、これ以上の業務に取り掛かるとなると

 業務規定時間をオーバーしてしまいます。それらの頼み事を

 実行してもらいたいと言うのでしたら時間外手当を…」

 

「わかっている、時間外労働の割増分は給与に上乗せしておくし

 君が出発前に要求していた日本観光についても時間が許す限り

 君の希望を叶えるように最大限善処する。…だから、頼む」

 

ドロシーからの質問に対してウィルが「頼み事」について話すと、

ドロシーは以前のように屁理屈気味な理由付けから追加報酬を頼むが

ウィルは食い気味に追加報酬を含めた希望を最大限叶えると

約束した上で深々と頭を下げてドロシーに頼み込む。

 

「…そこまでの追加報酬を約束して頂いた上に、

 こうも頭を深々と下げられるのでしたら仕方ありません…

 全力で早急に取り掛からせて頂きます」

 

余りにもあっさりと追加報酬について約束してもらった上に、

これまでに見た事がないレベルで深々と頭を下げるウィルの姿に

ドロシーもある種の覚悟を決めてウィルの「頼み事」を

叶える為にスイートルームから足早に外に出て行く。

そうして1人になったウィルはソファに座り込み…

 

(こうしてまたガンプラバトルに関わる事になっただけでなく、

 ここまで心が燃え上がる事になるとは…全く予想出来なかったよ。

 付け焼刃になるのは否めないが…出来る限りの事はさせてもらうよ)

 

自分でも信じられない程に心が燃え上がっているのを認めた上で、

泰葉達と真っ向からぶつかり合った時に勝利を掴み取る為に

今の自分に出来る全力でガンプラバトルに取り組む決意を固めていた。

 

~~~~~

 

それから数時間後、彩渡商店街の小料理屋「みやこ」。

 

「…もう8年も前の事になる」

 

ミサと泰葉達にユウイチら商店街店主達のいつもの10人と

泰葉達が「乱入者に関する詳細を知りたい」と頼み込んで

招き寄せたミスターガンプラと彼のマネージャーを加えた

12人がテーブルを囲んで座る中、ミスターはイベントで

着用しているアフロヘアーのカツラとサングラスを外した

素顔を晒した姿でポツリポツリと話し始めた。

 

「当時、私は多くのスポンサーを抱えるファイターとして

 世界各国の大会に参加し…その全てで優勝するという、

 まさにファイターとして脂が乗っていた時期だった」

 

「ちょうどその頃から、今でも続いている『ミスターガンプラ』という

 呼ばれ方もされ始め…そんな折、私はアメリカで開催された大会に参加し

 そこでウィルという1人の少年ファイターと出会った。彼は私のファンだと言い、

 決勝まで勝ち進んで私に挑戦してみせると宣言し…その宣言に対して

 私は『力を尽くした素晴らしいバトルをしよう』と返したが、

 正直な話…当時の私は彼が決勝まで勝ち進むとは思っていなかった」

 

「だが彼はその言葉を現実のものとし、決勝戦は私と彼のバトルとなった。

 そんな彼とのバトルは、私にとって忘れかけていた感覚である

『互角の実力を持った相手との戦いによる高揚感』を思い出させてくれた。

 最早年齢差など忘れ、新たに『ライバル』と呼べるファイターが現れた事を

 心から喜び…バトルの中で互いの力をさらに高め合い、成長し続ける感覚を

 味わい…そんな時間もあっという間に過ぎ去っていき、私は彼に敗れた」

 

「敗れた事への悔しさもあったが、それ以上に私の心は素晴らしいバトルが

 出来た事への満足感で満たされ…晴れやかな気持ちで、彼の勝利と…

 私の心を奮い立たせる、強いファイターとの出会いを祝福した」

 

8年前に起こった、ミスターにとって忘れられない「最高のバトル」に

至るまでの流れとそのバトルについて…そして決着後に抱いた

満足感について語るミスターの表情と声は抑え目ながらもその時の

喜びがどれほどのものか感じさせる明るいものになっていた。

 

「…しかし、スポンサーは『私の敗北』を許してはくれなかった」

 

…だが、その直後の言葉は再び沈んだ調子に戻っていた。

 

「大会の翌日、とあるニュースサイトに掲載されていた昨日の大会に関する

 記事の1つに『努力を積み重ねて決勝の舞台に上がった11歳の少年に花を持たせ、

 彼の抱いていた夢を叶える為にミスターガンプラは勝利を譲った』という事が

 書かれていた…スポンサーが私の商品価値の下落を嫌い、そういう風に書くように

 マスコミ各社に圧力をかけたのか…私は彼に対し手加減をしたという事にされていた」

 

「それを見て、私は急いで彼の元に向かった。だが…その時の詳しい事は覚えておらず、

 気付いた時には私は宿泊していたホテルの前で彼に渡された優勝トロフィー…

 あちこちが破損し折れ曲がってしまっていたそれを手にして立ち尽くしていた」

 

「…そのトロフィーを目の当たりにした時、ある意味私の心も折れてしまった。

 もう永遠に、2度とあのようなバトルは出来ないと悟ってしまい…

 ただの金稼ぎの手段でしかなくなってしまったバトルに価値を見出せなくなり、

 私はファイターである事をやめた。…だが、それでもガンプラからも

 ガンプラバトルからも離れる気にはなれず…せめて少しでもファイターを増やす事で

 ガンプラバトルが末永く続くようにと願って司会・解説として関わり続けようと決めた」

 

「多くの人々の耳目を集める為に…そして、あの悲しみを忘れたいという気持ちの為に

 私は必死に道化に徹した。それによって少しでも多くの人がファイターとなる事で、

 あの時の私のような高揚感を抱くバトルが生まれるように…同時に、外野によって

 バトルに対し水を差される事のないようにという願いを込めながら」

 

「…リージョンカップ関東第2大会での君達の戦いを見て、現役時代の気持ちが蘇り…

 戦いたい気持ちを抑え切れず、職権乱用と言われても仕方ない手段を用いてしまった。

 それによって君達の優勝にケチが付いてしまうのみならず、彼にもああいう

 非合法的な手段を使わせてしまうという最悪の結果になってしまった…」

 

「…ミスターさん、頭を上げて下さい」

 

「そうだよ、私達だって曲がりなりにもファイターなんだから

 強い相手と戦いたいって言うミスターの気持ちは理解出来るし…

 そのウィルって子も傷付いたってのはわかるけど、だからといって

 ああいう手段を使った事が正当化されるなんて思えないし

 それに対してミスターが罪の意識を感じる必要なんてないよ」

 

外野の都合で捻じ曲げられてしまった真実と、それによってかけがえのない物を

失ってしまった悲しみ…そうして目標を失いファイターから身を引いてもなお、

ガンプラもガンプラバトルも切り捨てられず末永く続いて欲しいという願いから

自身に向いているとは言い難い道化となってでも関わり続けようとした決意。

そんな中で見る事となった泰葉達彩渡商店街チームの戦いぶりによって生じた

心の昂りを抑え切れずに立場を乱用する形で泰葉達との戦いに漕ぎ着けた事と

それによる結果を後悔するミスターの言葉に対し、泰葉とミサはミスターの

その感情に理解を示す言葉を返し…タイミングを見計らうようにユウイチが尋ねる。

 

「…ミスター、どうしてまたその子は今になって突然現れたんだろう?」

 

「私がバトルをしている事が許せなかった…そういう事でしょう」

 

「もちろんそれも理由だろうけれど、それだけじゃないように思うな」

 

「ですが、他に思い当たる理由は…」

 

「…ま、ずーっと腹ん中に溜め込んでたもんを吐き出したってんなら

 それで空いた分思いっきり飲み食いして嫌な事は忘れようぜ」

 

「そうですよ、冷める前に食べちゃって下さいね」

 

沈んだ調子でユウイチからの言葉に返答するミスターに対し、

マチオとミヤコが飲み食いに誘導して気持ちを晴らさせようと声をかける。

 

「…そうだよ、あんな事になっちゃったとはいえ私達が優勝して

 日本代表になった事に変わりはないんだから…ここからでも盛り上がってこうよ」

 

それに続けてミサが少しでもこの場を盛り上げようとするが、

全くの無意味とは行かずとも今までの祝勝会のように

盛り上がるには至らず…料理が尽きた所で解散と相成った。

 

~~~~~

 

「…泰葉、やっぱりショックだったかい?」

 

ミサ達やミスターと別れた後、ミスターから話された過去を

聞いてから浮かない顔で今一つ盛り上がれてなかった

泰葉の姿を傍で見ていたプロデューサーが心配の声をかける。

 

「…はい、ですが私としては乱入された事よりも

 ミスターさんの過去のお話の方が辛かったですね…

 好きな事を生業として、高い実力も備えていて…

 それ故に得られなくなってしまっていたものを

 得られた事を嬉しく思っていたのに、金銭が絡む故の

 しがらみで事実を捻じ曲げられ…ミスターさんも、

 彼が語ったウィル君も心に傷を負ってしまうという…

 芸能界以外でも、こういう事が起こっていた事に」

 

「泰葉ちゃん…」

 

「…忘れかけていた古傷をまた抉られた、といったとこか」

 

それに対する返事として、泰葉がミスターの過去話を

聞いての率直な感想を一気に口にすると比奈からの

心配そうな声色での一言に続いて晶葉が泰葉の経歴から

予測した「落ち込んでいる理由」を口にする。

 

「…プロデューサー、念の為確認しますが世界大会にも

 ミサさん達と一緒に出場するんですよね?」

 

「ああ、ああいう事態にはなったがジャパンカップで

 優勝した事そのものは変わりないからね。それに…

 泰葉としても、あの光景がガンプラバトルでの

 最後の記憶になるというのは望んでないだろう?

 言い方は悪いが、向こうから汚名返上の機会を

 プレゼントされていると言えるこの状況を

 有難く使わせてもらって華々しく活躍する事で

 今日のあの光景を上書きしようじゃないか」

 

「そうっスね、世界大会で『魅せる』勝ち方をすれば

 観戦する人の数もジャパンカップを大きく上回るでしょうし

 それに比例してSNSとかのネット上の拡散速度も高まるでしょうから

 今日のあの光景をあっさり掻き消せる可能性は高いと思われるっスよ」

 

「ならば明日から世界大会に向けての鍛錬あるのみだな、

 もちろん私もより適切なサポートが出来るように

 泉ともどもシステムについてより深く学んでいくぞ」

 

「そうだね…とは言え、世界大会の前にもそれこそ日本を含めた

 世界各国で開催される『ワールドツアー』があるし…

 大会の感覚を忘れない為にそっちにも参加するって事になるの?」

 

「だな…今の所は日本で開催される『ジャパンツアー』への参加を

 考えてはいるが、ちょうどその時期に事務所でも過去に行われた

 海外開催イベントゆかりの地をイベントのメインとなったアイドル達が

 旅するという企画が立てられているからそれに同行する形で海外のツアーに

 参加するという形になるかもしれない。…泰葉達がすっかり

 ガンプラバトル関係専任状態になっているから、ファンの一部で

『久々にアイドルとしての姿を見たい』という声が上がってるのもあってね」

 

「そうですか…それならば、私もいつまでも引きずっている訳には行きませんね」

 

「そうなるね、だけど無理は禁物だ…辛くなったら何時でも言ってくれ」

 

「プロデューサーだけじゃなく、みんなで泰葉ちゃんを支えまスから」

 

「うむ、時に愚痴を吐き出す事も心身の健康には必要だからな」

 

「私達とミサさん達みんなで、この躓きを乗り越えて行きましょう」

 

「…ありがとうございます」

 

晶葉の言葉に続ける形で吐き出された泰葉の確認の言葉をきっかけに、

改めての世界大会出場とそれを利用しての汚名返上のチャンス…

そしてある意味世界大会の前哨戦と言える『ワールドツアー』への

参加とそれと同タイミングで予定している事務所の企画についての

話を聞き、泰葉は改めて気合を入れ直す。その姿を見たプロデューサーは

心強さを感じながらも無理はしないようにと声をかけ、その言葉から

続く形で比奈も晶葉も泉も泰葉を支える事を改めて宣言する。

そんな皆の言葉に、泰葉は笑顔を見せて皆に感謝の言葉を返す。

 

…だが、この「敗北」が泰葉達どころかアイドル業界や彩渡商店街…

そして泰葉達がこれまでガンプラバトルを通して関わった者達も巻き込む

とてつもない規模の嵐の呼び水になるとは、誰も知る由がなかった。




比奈:今章のサブタイトルが完全に回収される時が来ましたね…
   前々から細かく手を入れてるウィル君関係の描写ですが、
   ここは小馬鹿にしてる感を抜いて彼なりの真剣さを入れていると
   いった感じでスな…その分ある意味原作より悪辣になったとも
   言えなくもない描写が混じっちゃった感じもするっスが

P:まぁ、そこは若干頭に血が上ってた辺りに補完してもらえればと…

比奈:後はガンブレキャラ側のセリフをニュアンスを保った上での
   言い回しの変化と、ムービー故にガンプラの性能を問わず
   強制的に敗北してしまうメタ描写を補完する表現に…
   あと、最後に不穏さを感じさせる一文が出て来たっスね

P:…どんな形であれ、ここまで無敗を保って来た泰葉が明確に
 「敗北」した場面だからな…色々な意味で嵐を呼ぶのは確実だろうし、
 次回からはタグに「アンチ・ヘイト」が必要な描写が具体的に
 なり始めるという風に考えてはいる。とはいえ、ただ叩かれるだけで
 済ませる気はないのでそこは信じて欲しいとしか言えないけど
 上手くカタルシスへと繋げていく最大限の努力はしていく

比奈:そこはPのお手並み拝見と言わせてもらいまスかね

P:ありがとう…さて、次回が「ジャパンカップ編」の最終話と
 なりますが今回に負けない勢いで独自設定を織り込む予定なので
 楽しみにして頂ければ幸いです…それでは、また来月末に
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