遊戯王ARC-V 次元戦争なんて冗談じゃない!!!   作:皐月の王

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少女の名は

少女が目覚めると視界に写ったのは天井だった。

 

「……何処だろう」

 

周りを見渡すと清潔感のある白が支配する一室だった。少女以外に人は無く、近くには花が飾られていた。小型のテレビがあり、ベットの頭部には、名前が記されており、ナースコールがあった。つまり、現在地は病院だということが分かる

 

「……生きてたんだ、私」

 

ホッとしたように息を吐く。深い闇に溺れるような、光に飛び込むようなアレは夢だったと思い体を起こす。いや、体を起こせる事に驚く。

 

「うそ!?トラックに轢かれたのに骨折どころか傷が無い!?どういう事!?」

 

服は患者服である以外特に変化はなく、体は問題無く動く。近くの台にはデッキケースが三つ置かれてあった。そのデッキケースには見覚えがあった。

 

「これ、私のデッキケースだ」

 

急いで中身を確認して少女は目を疑う。何度もカードを確認して首を傾げてはカードと睨めっこ。

 

「私のデッキだけど……これ始めた時のデッキとほぼ同じだ……。しかも三つとも……あんなに苦労してカード集めたのに……しかもExカード殆ど絵が描いてないブランクカードばっかりになってるし……どういうことよ」

 

大きな溜息をしてガックリと肩を落とす少女。しかし、直ぐに三つのデッキの切り札を手に取り大切そうに胸に当て

 

「とりあえずメインの三枚が無事で良かったぁ……」

 

切り札との再会に安堵していた。トラックに轢かれたのだからカードは絶望的と考えるのが普通である。

 

「にしても、トラックに轢かれたのに、五体満足でデッキも中身が少し変わってるけど、大まかな中身は変わってない。普通ならもう見る影もないほどにボロボロになっててもおかしくないはずなのに」

 

ベットから降りて立ち、違和感を覚える。

 

「あれ……視界が、少し低い?」

 

疑問に思った少女は、部屋の中にある鏡を見る。鏡に映るのは銀髪。髪の長さは首元位あるだろう。サイドの髪は鎖骨まで伸びている。そして、その顔は、整った顔立ちで碧眼であり、それは少女の想像より幼くなっているものだった。

 

「どうして……こうなった。それにここは……?」

 

少女は外の風景を見る。どこにでもある街並みと言えばそういう感想しか出ないが、少女にとっては驚くべき事はそこじゃない。

 

「違う……私の知る街並みじゃない。ここは……本当にどこよ?」

 

少女が住む街並みではなく、全く知らない街並みが眼下に広がる。

 

「いや、待って冷静になろう。どうにもならなかったから隣町の病院とかに運ばれたんでしょ。きっとそうに違いない……と言いたいけど、隣町を知らない私じゃないしね」

 

病室からの景色を見て少女は溜息をこぼし、再びベットに横になる。色々なことが頭によぎる。本当は死んでいて、何か走馬灯的な夢を見ているんだとか、トラックに轢かれたこと自体夢でまだ夢から覚めて無いんだとか。そんなこと考えては頬をつねってみたが、

 

「痛っ!夢じゃない」

 

感じる痛みは現実。夢でここまで痛みを感じることはあるのだろうか。

 

「そう言えば、他の荷物はどうなったんだろう……むぅ」

 

ふと疑問に思ったのだが、眠気が襲ってきた。情報が処理しきれなくなったための眠気なのか、単純に眠たくなっただけなのかは不明だが、再び眠りにつく。

 

――――――――――――

 

舞網市の病院に二人の男女が足を運んでいた。一人はハネ毛気味の赤の髪に緑色の前髪が特徴でオレンジのシャツとグリーンのズボン、右目の方のみ青い星のついたゴーグルを身に着けている。少年の名前は榊遊矢。つい最近ペンデュラム召喚を生み出し、プロデュエリストであるストロング石島を倒したのは記憶に新しい。

 

もう一人は髪は紫がかった赤髪のツインテールで青い半球状の髪飾りを二つ。首元には音符の形をしたアクセサリーを付け、服装は上はノースリーブのシャツにネクタイ、下はミニスカートにニーハイソックスを履いている。少女の名前は柊柚子。遊勝塾の塾長・柊修造の娘であり、遊矢の幼なじみである。

 

「あの子、目を覚ましたかなぁ」

 

「行ってみないと分からないわよ。でも、驚いたわよね……塾前の土手に倒れてるなんて」

 

「そうだよなぁー。急いで救急車を呼んで、医者に聞けば命に別状は無いらしいけど、入院してから五日経つしな」

 

遊勝塾の対岸の土手に、二人がお見舞い来た目的の人物が倒れていた。塾長である修造どれだけ揺さぶっても目を覚ますことも無く、何が原因で倒れているのかも分からないが、そのままにしておく訳にも行かないので、救急車を呼び今に至る。

 

「着いたね。起きてるといいんだけど」

 

「そうだな。起きているといいな」

 

柚子が扉をノックをすると……。

 

「はーい、どうぞ」

 

中から返答があった。柚子でも遊矢でも無い第三者の声が二人の耳に届く。二人は顔を見合わせて、慌てて扉を開けて病室に入る。そして。入院している人物のベットへ駆け寄る。

 

そこには5日前に助けた少女が上体を起こしこちらに視線を向けていた。その表情は驚愕に染まっていた。

 

「良かった!目が覚めたんだ!」

 

「命に別状は無いって聞いていたけど、目が覚めてよかった……」

 

二人は良かったと安堵の声を漏らす。その当事者は事態が呑み込めないでいる。

 

「え?え?何がどうなったの?」

 

「どうもこうも、倒れてた貴女が病院に運ばれて5日間眠っていたのよ」

 

「い、5日も!?5日も眠っていたんだ……」

 

その少女は考え込むようにして口元に手を当て唸る。

 

「それで、どうして塾前に倒れていたの?」

 

「塾前?」

 

「ああ、塾前の土手に君が倒れていたんだ。柚子も俺もその時はさすがに慌てて塾長に言って救急車呼んでもらったんだ」

 

「なるほど……そうだったんだ」

 

「何があったか教えてくれる?」

 

柚子が少女に言うが少女は少女で困った風に

 

「うーん、何も覚えていないんだよね。どうして倒れていたのか、それまでの経緯とか……」

 

「そんなことあるのか……つまり、記憶喪失ということなのか?」

 

「そんなこと言われても私には分からないわよ。でも、あんまり無理に聞き出すのも」

 

柚子と遊矢は少し離れてコソコソと話す。蚊帳の外の少女は思い出したように手を叩き

 

「そう言えば、自己紹介してないよね?」

 

「ああ!そうだった!俺の名前は榊遊矢!エンタメ決闘者で遊勝塾に通っているだ。よろしくな」

 

「私の名前は柊柚子。私も遊勝塾に通っているわ。よろしくね」

 

「私は遊希、星風遊希。これからよろしく、遊矢、柚子」

 

「ああ!」

 

「もちろんよ」

 

二人は遊希と握手をする。それから話を続け

 

「「デュエルディスクが無い!?」」

 

「うん。というか、持ってない。それどころか、多分住む家も、お金も何も無い」

 

「そう言えば、荷物らしい荷物見つけた時には無かったもんな……。どうしたらいいと思う?柚子」

 

「そうね……。よし、退院したら私の家に来たらいいと思う。事情を話せば父さんなら何とかしてくれるかも」

 

「え……良いの?迷惑じゃ」

 

「困っている人を見捨てる方が、よっぽど悪いわ。それに、行く宛てがないんでしょ?」

 

柚子は遊希に提案する。遊希は申し訳なさそうに頷き

 

「お言葉に甘えてお願いします」

 

「分かったわ。また、退院の日が分かったら教えてね」

 

「その時はデュエルしようぜ!じゃあなー!」

 

柚子と遊矢は病室を去り、塾長・柊修造の説得に行く。説得には苦労すること無く、すぐ了承が出たのはまた別の話である。

 

――――――――――――――――――――

 

「どこも異常はないね。明日には退院できるよ」

 

遊希の退院が決まったのは翌日のことだった。それを柚子と遊矢に伝えると良かったと言ってくれたり、部屋の準備をしないとと言い直ぐに帰宅した。

 

「なるほど……だいたい分かった」

 

病院の売店でデュエル雑誌を立ち読みしながら遊希は情報を集めていた。そして分かったことは……。

 

「ここは遊戯王ARC-Vの世界……だね。遊矢と柚子が見舞いに来た時点で驚いて心臓止まるかと思ったけど……。はぁ、まさか転生してるとは思わなかったなぁ。道理でカードだけ無事なわけだ」

 

遊希は雑誌を元に戻し、デッキに目をやる。小学生自分に作って死ぬ間際までハマっていたカードゲーム。それがメインの世界であり、結末に納得がほんの少しできなかった世界。

 

「でも、一度死んだ私に何が出来るのかな。次元戦争なんてどうしようも無いし、ズァークに対して何も出来ないだろうし……嫌だぁ……」

 

遊希は溜息を吐き自分の病室に戻り、ベットでうずくまる。

 

「そう言えばこの世界での私の荷物は、搬送される前に着てたであろう服とデッキだけ……身分証が無いのが痛いなぁ。これからどうなるんだろう」

 

先行き不安な転生者は肩を落とすしかない。そんな不安とは裏腹にデュエルディスクを用いたデュエルを楽しみにしている遊希も居た。そしてあっという間に退院の日が来て、新しい生活が始まる。

 

「これからお世話になります。星風遊希です」

 

「うむ!元気な自己紹介ありがとう!僕が柚子の父であり、遊勝塾の塾長である柊修造だ!柚子から話は聞いている。自分の家の様にくつろいでくて構わないよ!君も色々事情があるだろうし。しかぁし!困ったことがあればなんでも言いなさい!私達は同じ屋根の下に暮らす、言わば、家族も同然!助け合っていこうじゃないか!」

 

「父さん暑苦しいわよ。でも、困ったことがあったら言ってね。それでこれ、遊希のデュエルディスク。これで、連絡が取れるようになってるわ」

 

柚子は遊希の手にライトグリーンのデュエルディスクが渡される。

 

「すっごおおおい!本物だ!本物のデュエルディスクだ!!!」

 

遊希は嬉しそうにデュエルディスクを掲げてみたりマジマジとデュエルディスクを見たりする。

 

「そうだ!塾に帰ってデュエルしよう!遊希はアクションデュエルを見たことないだろ?」

 

「うん、見たことないね」

 

「こういうのは実際にやってみるのが一番だしさ!」

 

遊矢は遊希に提案する。それを聞いた柚子は

 

「遊矢!遊希は退院したばかりのよ!?何も今日しなくてもいいじゃない!」

 

もちろん遊希の見た事無いは実際に見たことが無いと言うだけで、アニメでは散々見ていた。しかし見ているのと実際にやるのとは違う。

 

(それに、いきなり主人公とデュエルかぁ……上手く動けるかなぁ。手足や、身長の変化もある。前のイメージではしばらく動けないよね。でも、やってみたい自分もいる。今の私がどれくらい動けるか、どれくらいデッキを動かせるか知りたいしね)

 

遊希はデュエルディスクとデッキケースを見て心を決めた。

 

「いいよ、デュエル」

 

その場に居る三人が遊希の方を見る。遊希は続ける。

 

「入院しててどれだけ体が鈍ったか確かめたいしね。それにアクションデュエルやってみたいんだよね。せっかくこんなにいいデュエルディスク貰ったのにデュエルしないのはもったいないしね」

 

遊希の初デュエルが幕を開けようとした。




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