遊戯王ARC-V 次元戦争なんて冗談じゃない!!! 作:皐月の王
一回戦を突破した次の日、遊希は思うように眠れず起きてデッキの調整を行っていた。眠れない理由はどうしてもこの日に起きるであろう事が夢に出て眠れなかったのだ。デッキについては二回戦目に備えてと言うのもあるが、それよりも大事な事が今日起こると知っているから対策と心を落ち着かせるために調整しているのだ。だが……
「ね、眠い……」
生憎と彼女にそんな行為が向いている筈も無く、ただただ睡魔に抗いながら、半端に心身に疲労を蓄積させるだけとなっている。
『雑念混じりにやるにしても酷いな』
『普段考え事してる時の3倍は酷いよ?寝た方がいいんじゃない?』
ユイとリオは遊希の頭上で遊希に言うが、遊希は腕を組考えたあと、遊希は立ち上がり
「あーもう!!外野うるさい!!見直しできないでしょ!!それに!時間も時間だから……顔洗ってくる!気合いも入れないといけないし」
声を荒らげ、投げやりに言う遊希にリオは聞く。
『えー?今日は試合無いじゃん!応援するのは分かるけど、そこまで気合いを入れないと行けないの?』
そう言われた遊希は半透明な二人を視界に収めながらに言う。その目は迷いと覚悟が混在した目をしていた。
「今日が私や君達、他の人たちの運命を決めるターニングポイントになるから」
そう言い、遊希は洗面所に向かう。その背を見送る二人は
『私達の運命を決める……』
『ターニングポイント?一体なんの事だろうね?』
リオは首を傾げなら考える。ユイは自分達が置かれている状況、兄や遊矢と言う瓜二つの存在について、そして今の現状を考えて今日なにか大きな事が起こるのかもしれないと、遊希の言葉から読み取る。
(何を知っているんだ?お前は……何者なんだ?私達とは異なる何かをお前から感じるのは……)
ユイは遊希を見守りながらも疑念を抱く。だが、自分を目覚めさせたのは遊希であり、レジスタンスが赤馬零児と接触し協力体制を築く切っ掛けを作ったのも彼女である。
(いや、考えるのは良いか。彼女は私達の敵じゃない。それが分かるだけで十分だ)
そう結論つける。当の本人は洗面所で顔を洗い、歯を磨き、頬を叩き気持ちを入れていた。
(やる事を決めたんだ。まだ、怖気付いて引きそうだけど、そんなんじゃ……柚子や遊矢、権現坂、塾の皆、ユートや黒咲だってろくな運命を辿らない。私が何とかしないとなんだから)
そう決めていたが、腕が震える。体は正直である。震えていない方の手で震える手を掴み
「情けない事言いっこなしだから……!覚悟決めろよ!」
自分に言い聞かせるように自身を奮い立たせる。そうでもしないと、目の前の現実は何も変わらず多くの人がと考える。弱気な自分を振り払うようにもう一度顔を洗っていると
「……大丈夫?遊希?」
後ろから声がかかる。その声の主は、柚子だった。髪を下ろし、パジャマ姿の柚子が立っていた。その表情は心底心配して今にも泣き出しそうな表情である。遊希はハッとしてどうするべきか考える。咄嗟に誤魔化そうとしたが……それはあの時の柚子の誓いを蔑ろにするようなものである。それに、柚子の顔を見た時、気丈に振る舞おうとしていた気持ちが不安で押し潰されそうな気持ちを上回った。限界だった。
「……柚子」
「……何?遊希……え?」
遊希は柚子を抱きしめた。突然の事で柚子は戸惑う。だが、遊希の体が少し震えている事に気づき
「どうしたの?遊希!?」
「ごめん、やっぱり少し辛いから、落ち着くまで柚子の部屋に行かせて……」
それを聞いた柚子は遊希の背中を擦りながら
「分かった。部屋に行きましょう」
遊希を部屋に招き入れた。それから落ち着いた遊希が柚子に話し始める。
「まだ、詳しくは……言えないんだけど、不安を煽るような事を言うんだけど……。今日が、私やリオ、ユイ、遊矢、柚子、ユートや他の人たちの運命を決めるターニングポイントになると思うの」
「っ!」
突然告げられる内容に柚子は驚きを隠せない。そんな様子を見ながらも遊希は胸の内の一部を吐露する。
「でもさ、私に上手く出来るか不安なの……。仮にその場が上手く行ってもその先は?私みたいな一介の決闘者がいくら足掻いて抗っても意味が無いんじゃないかって……!!怖いんだよ!自分1人が痛い目に遭うなら自業自得で済むけど……。だけど、私の思いだけで周りの人が不幸な目に遭うのだけは絶対に嫌なの。なら……私は諦めた方がいいのかなって……逃げた方がいいのかなって、こんな思いするなら……」
遊希はいつの間にか涙を流しながらに話していた。何度も再起しては不安に駆られる。昨日とて1回戦を乗り越え、ミニ祝勝会をして楽しんでいたが、積み重なった不安と重圧はターニングポイントと言う運命の日を迎えた事で、決壊寸前だった。何度もデッキを見返した、何度も最悪のケースを考えた。大会中起こる悲劇、そして、遊矢や柚子が皆が悲しむ顔を。そして、朝、柚子の顔を見て決壊したのだ。だって彼女も今の遊希と同じ姿をしていたのだから。
柚子は涙を流す遊希をもう一度優しく抱きしめる。
「……柚子?」
「ありがとう……遊希」
「え?」
遊希は訳が分からないと、鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くする。柚子はそのまま続ける。
「話してくれて……。遊希の胸の内を聞かせてくれて……。私は嬉しいよ、こうして話してくれたのが。だって、昨日の夜でも勝ったのに憂鬱な表情を浮かべてたし、次の対戦相手について言っていた時も嘘なのは分かっていたわ」
「そ、そうなんだ」
バレていたのかと苦笑いが出てくる。虚しい抵抗だったと思っていた所に柚子が言う。
「遊希が何と戦っているのかは分からない。ただ、あの夜に関わっている一端を知って、ユートや黒咲が戦っている理由、そこに遊希と赤馬零児が協力体制を取り付けていた。何かに備える様に。そこまで遊希が頑張っているのに意味が無い……わけが無い…!」
語気が強くなり柚子は遊希の顔を見て言う。その表情は真剣で
「遊希が励ましたから遊矢が前を向いて走れるようになった!遊希が戦ったから塾が守られた!遊希が頑張って動いたからユート達は赤馬零児と協力体制を築くことが出来た!遊希が決闘してきたからリオやユイが目覚めることが出来た!皆、遊希が動いたから諦めずに何とかしようとしたから、私も含めて今ここに立っていられるのよ!」
いつの間にか柚子も涙をポロポロと零していたが、構うことなく続けた。
「不安なら何時でも励ましてあげる!怖かったら手を握るしなんだってする!先が不安なら私や皆が一緒に歩くわ!だから、自分のことを否定しないで!遊希の行動で救われた人は多いんだから!決して無意味じゃないから!!他の誰が、遊希が言っても無駄じゃないと言うわ!」
柚子の言葉を聞いた遊希の目に涙が溢れる。柚子の言葉を聞いた時に暗い道に光が灯った気がした。全てを照らす光では無いが、確かに道標とも言える希望が灯ったのだ。星風遊希は一般人である。何の因果かアニメの世界に迷い込み、自分と似た存在を身に宿し、あまつさえデッキが弱体化すると言う事態に見舞われただけの少女に過ぎない。それ故に、これから起こる事柄に主人公の様に大立ち回りなんて、と線引きを引いていた。だが、その少女はヒロインによって自分が辿ってきた道を伝えられ、進むであろう道を照らされた。
(あぁ……そうだった。あの時も叫んでくれたのに。また、自分しか見えてなかった……。でも、もう……)
その輝きは忘れることの無い。ヒロインをヒロインたらしめる輝きであった。それ故に、これから先
「……ありがとう、柚子」
何度心が折れそうになろうとも
「おかげで……」
何度苦しい思いをしても
「心が軽くなった」
何度倒れそうになったとしても
「毎回支えてくれて……助けてくれてありがとう……!」
「うん……!気にしないで、それじゃあ朝ご飯作ろう!お父さんが起きる前に!」
その輝きが灯り続ける限り、遊希は何度でも立ち上がり進み続ける。
そして二人は共に朝食を作り、修造を起こし三人で朝食をとる。その後は、権現坂、遊矢、素良のデュエルがあるので共に応援に行く。途中、権現坂のタスキの件で一悶着があったが、それは想定の範囲内なので問題は無かった。柚子と一緒に遊矢の心配をしたのは言うまでもないが。
遊矢と沢渡の決闘も分かっていたがハラハラするものだったり、実際の熱気と演出を間近で見るのとでは感動が違った。遊希は朝のへたばり具合が嘘のように楽しんでいた。
そして、黒咲と素良の決闘が始まり、フィールド魔法でハートランドが出た時には、ドクンと心臓が跳ね上がったように胸に痛みが走った。思わずうずくまりそうになるが胸を手で押える。そしてその理由をすぐに知ることとなる。
『は、ハートランド……!?紛れも無くハートランドだ……!隼さん……!兄さん……!』
ユイの感情が大きく遊希に鳴動する。それはあり日の健在だった時の光景。ユイは嗚咽を漏らしながら視線の先の黒咲を見ていた。
「ユイ……?」
『え!?ユイちゃん大丈夫!?ものすごく泣いてるけど!?遊希!ハンカチ!』
「わ、渡せないでしょ!?」
遊希は小声で言う。周りに変に思われないためだ。異変に気づくものは居ない。
『だ、大丈夫だ……仮初であろうと……故郷を見れたんだ……それだけで何も言うことは無い』
ユイはそれきり黙り込み決闘を見る。遊希も見ているが大方の展開はやはり大方の展開は同じであった。素良があの手この手で攻め立てるが黒咲の先回りの対応力により思うように動けず最後にはレヴォリューション・ファルコンの効果により素良はLPを0にされ敗北する。
「素良……不幸中の幸いだね」
フィールド魔法が切れたおかげで素良は軽傷で済んでいた。LDSの医療チームは優秀だから大丈夫と話を聞いたあとは、大人組が小学生組を送って行く事になり、遊希、遊矢、柚子、権現坂が素良の為に残っていた。
「どう思う?」
遊矢が三人に問うように話し始める。
「黒咲はLDSを何度も襲った襲撃犯だ。オレはトップチームがやられるのを見たし……柚子は」
「その襲撃犯を追っていた真澄が襲われそうになっているのを見たわ。……でも、真澄は」
柚子が思い出したのはLDSに入っている黒咲について尋ねた時だ。
『何言ってんの?彼は元々私達の仲間よ』
「何!?追っていた敵を仲間だと!?」
詰め寄る権現坂にたじろぎながらも続きを話す柚子。
「真澄が何故、そんな事を言ったのかは分からない。でも、LDSを襲うのは仲間を救うためだって……」
『……オレたちは囚われた仲間を救い出したいだけだ』
ユートの言っていた言葉を柚子が思い出して口にする。その言葉は確かにその時に発した言葉であった。
「では、そのユートが沢渡を襲った犯人で、遊希が決闘した人物か!」
「うん、まぁ、あの時は完全な別人って確信してたの私だけだしね。柚子が確信持てなかった訳もあったでしょうし」
「確信を持てなかった訳だと?」
権現坂は柚子の方を見るが、遊矢が
「ユート、俺にそっくりな男……柚子のブレスレットが光ると消えてしまうと言う男か?」
「消える?」
権現坂が再び柚子の方、厳密に言うとブレスレットを見る。柚子も改めてブレスレットを見る。
「何故、このブレスレットが光るとユートが居なくなるのかが分からない。遊希がはっきり別人と答えてくれたから、大丈夫だけどそれが無ければ変装の可能性も考えたかもしれない。でも、態々変装する理由が無い」
「LDSを襲う理由もな」
「……襲うのは敵に囚われた仲間を救う為の手段」
呟く様に、考える様に遊矢が呟く。柚子は遊希の方を見る。遊希と視線が合う。柚子が何かを訴えているのは遊希は直ぐに分かる。おそらく、話を続ければ、ユート、黒咲のレジスタンスの件と赤馬零児が協力体制を取り、融合次元への対抗を考えている件、次元戦争の件、遊希の秘密の件を話す事になる。それについて話すかどうかを確認していると遊希は推察する。
(まぁ、避けては通れない道だし。いずれは話さないと行けない。まぁ、話して痛いことは何も無いだけどね)
遊希は静かに頷いた。その頷きを見て柚子は意を決したように
「LDSを襲っていたのは、赤馬零児を引きずり出す為だったという話なの」
「赤馬零児を!?」
「引きずり出す!?」
その言葉に驚く権現坂と遊矢。流石に目を丸くして柚子に問い詰める。
「ええ、目的までは詳しくは分からないけど……。遊希が赤馬零児に助けられた際に取引をして、引き合わせるって」
「赤馬零児と取引!?」
「どういった取引をしたのだ遊希!」
権現坂が遊希に詰め寄る。遊希は苦笑いをしながらに下がり
「赤馬零児に協力する代わりに黒咲とユートに会ってもらうという取引かな」
「どうしてそんな取引をしたんだ?」
遊矢が少し心配そうに遊希を見る。遊希は困ったようにしていると周りが騒がしくなっていく。耳を澄ますと。
「本社に伝えろ!紫雲院素良が逃げ出した!」
「素良が逃げ出した!?」
「私お父さんに連絡する!」
柚子が連絡を取ると同時に遊希も連絡を取り始める。その相手は
『私だ、君からかけてくるとは……紫雲院素良の件なら報告を受けている』
赤馬零児であった。遊希は皆と少し距離を置いて話をする。
「それじゃあ話が早い。そっちに柚子を向かわせるから管制室の入室の許可と迎えをお願いします!」
そう伝える。赤馬はディスク越しで思案する。赤馬にとって柚子は協力者の遊希の精神的支柱と認識している。あの夜の決闘を見た赤馬の印象はそう認識している。
『分かった、迎えを向かわせる。君はどうするつもりだ?』
赤馬は遊希に問う。遊希は大きく深呼吸して暴れる心臓を押さえつけて静かに言う。
「私は私の役割を……私の役割を果たすだけ」
そう言い通話を切る。そして手分けして探すことになる。権現坂と遊矢が離れたのを見計らい遊希は柚子の腕を掴んで探しに行くのを止める。
「遊希何してるの!?素良を探さないと!」
「薄々分かってるんじゃないの?素良がユートや黒咲が言っていた敵なんかじゃないのかって」
それを聞き目を見開く柚子。だけど遊希は
「だけど、塾の仲間でもあるのも変わらないのは事実。過ごした時間に嘘偽りは無いはずとも思っている。でしょ?」
「ええ。何があったかは分からない…でも!」
柚子がそう言う瞬間遊希は止める。
「だから、柚子には赤馬零児の所に向かって欲しい。あの人は街の監視カメラを掌握してるはず。そして、私に素良達がいる場所を教えて欲しいんだ。向こうには伝えてあるから」
そう言う。柚子は何かを察して逆に遊希の手を握り
「私じゃ力になれない?」
そう遊希に聞く。遊希はハッキリと首を横に振り
「柚子の……その優しさと強さが私を支えてくれて立ち上がらせてくれたんだよ。だから大いに力になってくれているよ。だから、力を貸してくれる?」
遊希は微笑みながらに言う。柚子は溜息をつきながら負けたと言わんばかりに苦笑いを浮かべ。
「分かったわ。でも、無茶はしないでよ!」
そう言うと柚子は走り出した。そして遊希はゆっくりと歩き出す。
柚子のナビゲートにより公園らしき場所に着く。それと同時にユーゴが現れたため、カメラが機能を停止する。かろうじて通話は繋がっている。そして、遊希は柚子に
「後は任せて」
そう言い通話を切る。潜んで様子を見ているがやがて決闘が始まりユーゴがドラゴンを出した。
『ユーゴ!何でそんなふざけた事で決闘なんてするのさ!!』
『兄さん落ち着くんだ!話を聞かずに決闘するなんて隼さんと同じだぞ!』
二人の言葉を聞きながら苦笑いを聞きながら息を吐き、ユイに向き声をかける。
「ユイ。私と二人であの二人を止める気ある?」
その言葉を聞いた瞬間、ユイは遊希の目を見て
『ああ!止めたい!力を貸してくれ!!』
ユイの勢いは必死のそれだった。このまま見ていれば何か取り返しのつかないことが起こると言うのが、胸の早鐘を鳴らしていたのだから。
『デッキ相性的にボクじゃあキツいし、本当はボクが止めたいけど……お願いしようかな』
リオは譲るように下がる。ユイはそれを見て
『ああ、必ず救ってみせる!』
『任せたよ!」
ユイは頷きリオとハイタッチを交わし、遊希と向き合う。遊希はユイを見据えて
「これからが地獄だけど……準備は良いかい?」
『ああ、この先が地獄だろうとも、ここでその手を取らない理由にはならない……そうだろう?』
遊希とユイは互いに手を重ね、やがてユイの半透明の身体は遊希と完全に重なる。
「お、オレは……ターンエンド」
遊矢の呼び掛けにより、辛うじて正気を取り戻したユートはアタックせずターンエンドを宣言した。苦しそうに胸を押えながらも大きく呼吸をする。この次のターンはユーゴだ。この光景を見て止まってくれればと遊矢が思っていた時、機械音声が遊矢、ユートの耳に入る。
『乱入ペナルティ2000ポイント!』
誰かが乱入した事を告げる音声。その音声が聞こえた方を見ると、髪が灰色でマフラーとスカーフを腕に巻いたオッドアイの少女が街灯を背にユートとユーゴの間に割って入るように歩んで来ていた。そして告げる。
「私のターン!」
やるぞ〜ここが、本当の意味でのターニングポイントだ!