泡沫の夢:リテイク   作:ただのおーとりかぶと

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夢ー1

 

 月明かりに照らされた人通りの少ない海沿いの道をデート帰りであろう高校生くらいの男女が歩いていた。

 青年は彼女の数歩後ろを離れすぎないくらいの距離で見守っており、彼女の方は彼氏の数歩先をスキップしながら軽快に進んでいる。

 二人は、付かず離れずの距離で道路を進み、横断歩道に差し掛かる。

 信号が丁度よく青に変わり、彼女がスキップのまま横断歩道に入っていく。また、彼氏の方もその後を追って駆け足で横断歩道に入った。

 瞬間、爆音と共に二人の間を風と誤認するほどの速度の二輪が通り抜け、その後ろに付いていた大きなトラックが走り去っていった。

 静けさが戻った道路で、横たわる身体に駆け寄り、抱き起こす。月明かりは無情なほど鮮やかに、美しく。横たわったそれから溢れ出る紅を照らしていた―――

 

 瞬間、僕はベッドから弾かれるように飛び起きる。

 

「夢······だよな」

 

 自分の中に残る嫌悪感を振り払うように、つぶやく。

 寝起きだというのに体には疲れが残ったような気怠さを感じるし、脳も部分的にぼんやりと、またハッキリともしているようなそんな不思議な状態だった。先程の夢の記憶についても、『嫌な夢だった』ということだけは覚えているのに、肝心の内容はすっぽりと抜け落ちている。

 ······不意に枕元の目覚まし時計からけたたましい電子音が鳴り出した。それにより今日から休みではなく登校日であることを思い出した僕は、アラームを止めて、寝ぼけ眼をさすりながら食卓へと足を進めた。

 

 

「ふぁ〜あ」

 

 体に残る眠気の霧を晴らすため大きくあくびをする。大きく吸い込んだ空気は気道が凍るのではないかと思うほどに冷たかった。

 朝食と身支度を早々に済ませて、僕は集合場所である公園を目的地として相変わらず静かな朝の住宅街を歩いていた。

 

「それにしても、この時間帯はどうしても寒いな」

 

 季節は冬頃。ここ数日でより冷え込んだ空気は僕達の体を冷やし、吐き出した息を白く色づけた。

 

「······僕が一番乗り、らしいな」

 

 誰もいない公園の、中央に設置されたベンチに腰を下ろす。

 公園自体は狭く、中心に太めの木が一本と、木を囲むようにベンチが設置されているだけの、本当に簡単な公園で、夏休みのラジオ体操で人が集まったときも、半分は外側でやるくらいに小さい公園だ。

 

(それにしても、待っている間、何をしようか······)

 

 貰い物の懐中時計で時間を確認し、隣に置いたカバンを漁っていると、聞き慣れた声が鼓膜を揺らす。

 

「おっはよぅ鈴村くん! 早いね〜」

「おはよう、ゲン。少し待たせたか?」

「おはよう桔梗、八千草(はちぐさ)さん。僕もつい今来たところだ」

 

 いつものようにペアの首飾りを身につけ、恋人繋ぎで現れた友人二人に挨拶を返す。

 

「僕達も現もいる。あとは春風さんだけだね」

「だね〜、まだ時間に余裕はあるけど、折角だからチユちゃん迎えに行こう!!」

 

 僕を他所にして公園を出た二人を、追いかけるように僕もベンチを離れて歩き出した。

 

「到着っ!」

 

 八千草さんの声にぼんやりしていた意識が引き戻される。

 

「ゲン······昨日は何時に寝たんだい?」

「あぁ、確か······昨夜はチユと寝落ちするまで電話していた······と思う」

 

 いまだ微かにぼやけた記憶を探って、答えを返す。

 そんな話をしている間に、八千草さんがインターホンに手を伸ばしていた。と同時に玄関のドアが半分開き、彼女が靴を履いて出てきた。

 

「お母さん、行ってきまーす······ってみんないる!! なんで!?」

「春風さん以外早く集まったから、話し合って迎えに行こうってなったのさ」

「正しくは八千草さんと桔梗が決めたから、僕は付いてきただけだけどな」

 

 学校に向かいながら、多少の補足を挟んでチユに説明する。

 

「そっか〜、徒花くんとこーりん発案なのか〜······でも、迎えに来てくれたのは嬉しいなぁ〜」

 

 にぱ〜、と効果音が付くほどの笑顔をこちらに向けてくる彼女から、つい顔を背けてしまう。

 

「ゲンく〜ん、どうしたの〜?」

「······何でもない」

 

 先程の笑顔のせいで眠気は完全に消え去り、顔が熱くなっている気がする。

 

「じゃあこっち向いてよ〜」

 

 僕の周囲をくるくると回る彼女も可愛いのだが、今の顔は絶対に見られたくないので、全力で見られないようにしている。ちなみにぶつからないくらいの距離を保っているあたり、彼女もからかっているだけらしい。

 

 

 キーンコーンカーンコーン······

 

「やっと終わったぁ······ふぁ〜」

 

 いつものように授業が終わり、桔梗達が僕の席へ集まってくる。そのため、ぶり返してきた眠気を吹き飛ばすために大きく息を吸い、同時に軽く伸びをする。

 

「······え?」

 

 瞬間、『ぷつり』と糸が途切れたような感覚。その間に、見たことのない白い天井と、ピッ、ピッ、ピッ。という電子音の鳴る部屋のベッドに眠る誰かを見下ろす、やけにリアルな夢を見ていた。

 

 

「鈴村くーん、起きろー!!」 

 

 八千草さんに体を揺さぶられ、僕の意識は眠りから覚めた。僕は伸びをしてそのまま机に突っ伏していたようだ。

 桔梗が気遣うように僕に問いかける。

 

「ゲン、大丈夫か?」

「······ただ睡魔にやられて夢を見ていただけだから大丈夫だ······と思う」

「大丈夫ならいいけど······夢の内容聞いてもいいか?」

 

 隠すことでもないので、桔梗に夢の内容を話すと、桔梗は少し考えて、言った。

 

「······ゲン、このあとすぐ時間あるかな? あるのなら少し散歩に付き合ってほしい」

「散歩? 僕はいいけどチユと八千草さんは?」

「私はいいよ。チユちゃんと話したかったし。チユちゃんは?」

「······私もそれでいいかな。多分何か大事な話があるんだろうし、たまには女子だけで話したい······かな〜」

 

 ノータイムで八千草さんが答え、その後少し間はあったものの、チユも答えを出した。

 

「······ってことだから行こう、ゲン」

 

 足早に教室を出ていく桔梗に驚きながらも、僕は桔梗の後を付いて行く。

 

「桔梗、どこに向かってるんだ?」

 

 学校を出て少し歩いたあたりで、ふと行き先が気になった僕は、桔梗に行き先を聞くことにした。

 

「君が······ゲンが行くべき場所。今はそれだけしか言えない。でも、行けばなぜ行くべきなのか分かるはずだよ」

 

 そうして歩き始めて数十分間。僕達は街外れの墓地にまで来ていた。

 

「ここに何があるんだ? 桔梗、そろそろ教えてくれてもいいだろ?」

 

 墓地に入ってから、微かな頭痛が僕の脳を刺激している。何かを思い出そうとしているような······そんな感覚にすら思える。

 

「もう少しでその場所に着く。わかるとは思うが、答え合わせは······ここでするよ」

 

 桔梗が一つの墓の前で足を止め、墓碑銘が見えるようにズレる。

 

「······おい、桔梗これはどういうことだ?」

「どういうことも何もこれが現実だよ」

 

 墓石には『春風 千夢ここに眠る』といった風なことが彫られていた。それにより頭痛が激しさを増し、僕はまた意識を失った。

 

 

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