保健の先生が言うには、彼女が倒れたのは疲労と風邪が重なった結果、だそうだ。
特に問題はないが大事を取って軽く入院することになった。
そして数日後、思うところがあった俺は病院を訪ねた。
選択肢『体調はどうかな?』
ダイサンゲン『え、あんた…誰?』
ウェーブした長い髪の毛を後ろに流して額を出したウマ娘が怪訝な顔をして此方を見ていた。
選択肢『倒れていた君を見つけたものだよ』
ダイサンゲン『ああ、倒れたあたいを保健室に運んでくれたっていう…。ありがとう。助かったわ。』
少し気落ちしているようだが、顔色は良さそうだ。
選択肢『それより、どうしてあんな状態でレースを?』
ダイサンゲン『うーん、あんまり話したくないんだけど。ま、この先もう機会もないだろうしね。』
彼女は少し悩んだあと、ぽつぽつと話し始めた。
--回想--
ダイサンゲン『はっ…はっ…よし、一着だ!』
子供の頃から、あたいは体が弱かったんだけど、足の速さでは回りの誰にも負けなかった。
女の子『わぁー。サンちゃん足が速いねえ!』
父親『きっと将来はレースで活躍できるぞ!』
ダイサンゲン『へへっ、そんなの当たり前…げほっ!ごほっ!』
母親『大丈夫?心配だわ…』
そしてあたいはトレセン学園の門を潜ったんだけど…。
オグリキャップ『…ふう』
ダイサンゲン『ぜぇ…ぜぇ…』
スーパークリーク『あらあら…貴方、大丈夫?』
ダイサンゲン『へい…き…げほごほ!』
トレセン学園というのは恐ろしいところだった。
カサマツから来た怪物…オグリキャップ。圧倒的な実力差にあたいは打ちのめされた。
それ以外にも、スーパークリークやヤエノムテキ、サクラチヨノオー、バンブーメモリーといった実力あるウマ娘が同期にはたくさんいた。
あたいは彼女らに追い付こうと、必死でトレーニングを始めたんたけど…。
ダイサンゲン『うっ…足が…げほっ!ごほっ!』
すぐに体が音を上げ、寝込んでしまう。
治ってはトレーニングしてまた寝込み、そしてまたトレーニング…。
その繰り返しで、レースも出れぬまま時が過ぎていき…。
実況『オグリキャップ、破竹の重賞六連勝!』
実況『ゴールイン!今年のダービーを制したのはサクラチヨノオーだー!』
同期の彼女ら活躍を耳にするたび、焦りはどんどん募っていき…。
いよいよクラシック戦線も終わろうか、という時期に、
耐えられなくなったあたいは、選抜レースへの出走登録をした。
ダイサンゲン『足が痛い…熱もある気がする…けど!』
大丈夫だ、あたいは…走れる。勝つ!
そう思って出走し…。
---回想終わり---
ダイサンゲン『で…結果は2連続のタイムオーバーだったってわけ…さすがにもう無理なのかな…』
選択肢『これからどうするんだい?』
ダイサンゲン『退院したら、たづなさんあたりが訪ねてくるんじゃないかな…地方への転校とか、引退とか。』
彼女は暗い顔のまま自嘲の笑みを浮かべる。
ダイサンゲン『地方行きもこんな成績では無理かなあ、いっそレースはやめて、テーマパークとかで働こうか?』
選択肢『たづなさんは来ないよ』
ダイサンゲン『え?』
---回想---
あのあと、ダイサンゲンが体調を大きく崩していたことをたづなさんに話した。
たづなさん『そうですか…では、一旦勧告はやめておきますね。しかし、このままだと彼女の状況は…。』
選択肢『それなんですが…』
---回想終わり---
たづなさんと相談して、次のレースで恥ずかしくない記録を残せば問題なく学園に残れることになったと、ダイサンゲンに伝える。
ダイサンゲン『それはありがたいけど…なんでこんな落ちこぼれにそんなことしてくれるのさ?』
選択肢『君の目が、まだ死んでいなかったから。』
ダイサンゲン『あたいの…目?』
あの日、最後尾を走っていたダイサンゲン。
当然スピードにもフォームにも見るべきものはなく、無様と言ってよい走りだったのだが…。
ダイサンゲン『はぁっ…はあ……ゲホッ!ゴホッ!』
咳き込み、ふらつきながらも走るその顔には、確かに未だ折れぬ闘志が、勝ちたいという想いが宿っていたのだ。
それは、今クラシックで活躍する彼女の同期たちにも劣らぬもので…。
彼女らが走るきらびやかな表舞台でなく。活躍どころか出走すらできず、泥沼の底でもがき続けながら、それでも想いは失わない。
そんなウマ娘に力を貸してやりたいと思ってしまったのだ。
これは同情かもしれない。彼女に失礼になるかもしれないが…。それでも申し出る。
選択肢『実はね…俺は…』
自分が新人トレーナーで担当するウマ娘がいないことを伝えた。
ダイサンゲン『え、それって…』
選択肢『悪いが、スカウトじゃないよ』
よければ、次の選考レースまで練習を見てもいい、と伝えた。
彼女が活躍するのは難しいだろうが…学園を去るにせよ、悔いを残さないようにしてやりたかったのだ。
ダイサンゲン『そっかあ…まあいいや!ありがたいよ!』
ダイサンゲン『知ってるだろうけど、あたいはダイサンゲン!これから少しだけど、よろしく!トレー…じゃない、◯◯さん!』
こうして、俺は彼女の面倒を見ることになった…。
競走馬の維持には金がかかりますし、タイムオーバー2連発、四歳を未勝利で終えた馬などどう考えても引退まったなしと思われましたが、馬主さんはダイユウサクの翌年の現役続行を選択します。
理由はよくわかりません。
自分としては、
孫の幸作くんから取ってダイコウサク、と名付けようとしたものの、字が汚くてダイ「ユ」ウサクと間違えて登録されてしまった
というエピソードを当の幸作くんにも話していて、もし幸作くんに「ダイユウサクどうなった?」と聞かれて
「ダメそうだから手放したよ」とか答えるのが気まずかったんじゃないかと思います。
しょうがねぇヤツだなあ、と思われながらもとにかく生き延びるのは人徳…馬徳?でしょうか