友人「先ず他の小説進めろよ」
だって、水星の魔女とかフレッシュトマトのせいでモチベ急降下したし、ぼざろの妄想してたら性癖に刺さるキャラが出来ちまったんだ…という訳でいつも通りの駄文ですがそれでも楽しんでいただければ幸いです。
「…………」
後藤ひとり、中学一年生。
小さい頃から人付き合いが苦手過ぎる圧倒的陰キャ。最近人気者になる為にギターを始め、早数週間…
(ど、どうしよう…)
そんな彼女は今、学校から帰り、もう家の目の前という所である問題に唐突だが直面してしまった。それは…
「えへへ、もっと褒めて、母さん…」
後藤家の目の前で酔い潰れて地面に寝ている綺麗な黒髪の人物であった…
私は家族が好きだ。
「静音がそう言うならパパは止めないよ…けど、本当に大丈夫なんだね?」
家族が喜ぶ事が、何よりも、嬉しかった。
「さっき電話で、お父さんが、事故に巻き込まれたって…」
だからあの時は、私の人生で最も苦しい時だった。けれど私は、そこで止まる訳にはいかなかった。
「静音、あなたは天才よ…お母さんの夢、静音が代わりに叶えて…」
残された母さんの為にも、私は出来る事なら何でもやった。母さんが望む事なら、私は何でもやる。
「静音…本当に綺麗よ…あなたは私の最後の希望…」
そう、母さんには私しかいない。私だけしか母さんを助けられない。
「先輩、ピアノ好きじゃないなら、何でそんなに頑張るんすか」
─母さんの為だよ。
「…はっきり言いますけど、先輩のお母さんっておかしいですよ。先輩の事、代わりに夢を叶えてくれる道具としてしか見てない」
─そんな事は無いよ、母さんは私の事をちゃんと愛してくれている。
「…先輩、小さい頃からずっとピアノを弾いてきたって聞きました。遊ぶ時間も無い、学校から帰ったらピアノ、休みの日もピアノ…自由なんて一切無かった」
─けど、私は幸せだよ。
「とにかく、先輩はもっと自分の為に生きるとか…」
─生きているよ、だって私は、母さんの事、大好きだから。
「…趣味でも無い
分かっている、母さんが異常な事くらい、私は、母さんにとって一種の願望機である事くらい、分かっている。
母さんは私がピアノを弾くと喜ぶ、賞を取れば褒めてくれる、愛してくれる。私はそれで良い、母さんが自分の代わりに夢を叶えろと言うならやってみせる。それが私が母さんに返せる愛だ。
私は、母さんの夢を叶えた。
国際ピアノコンクールも沢山一位で入賞したし、世界中から絶賛された。流石に女装は出来なかったが、それでも母さんの代わりとして立派に役目を果たしたんだ!
「ごめんね、静音…」
だから。
「ずっと縛り付けて、ごめんなさい…」
謝らないで、泣かないで、笑ってよ母さん。
「ちゃんと愛せなくて、ごめんなさい…」
─…私、幸せだったよ、母さんが、ピアノを弾いて、喜んでくれるの、本当に嬉しかった。
「─ありがとう…私も、貴方がピアノを弾いてくれて、沢山の人から拍手を貰って、嬉しかったし、誇らしかったわ…だからね、静音…私はもう───」
その時の母さんの笑顔は、今までで一番綺麗で…私はその時悟った。
「本当に、幸せよ。ありがとう…だから、これからは、自分の為に生きて、母さんの事は、もういいから…」
母さんはもう、満足してしまったのだ、本当に、未練など何も無く、心底嬉しそうにして…母さんは、病で亡くなった。そして私は───
「ん……ん〜?」
目が覚めた人物…静音は目の前に知らない天井が広がっている事に気付く。
(えっと…確か…昨日は何かナンパされて〜、酒飲んで〜、男ってバレてショックされて〜、一人で酒飲み続けて〜…あー…うん、記憶無いわ、思い出すのは諦めよ)
取り敢えず自身が寝かされているソファから起き上がる。するとふと、ギターの音が上の方から聞こえて来る。
「ギター…?てか頭イテ〜…」
「あ、おきた」
「ん?」
横から声が聞こえたのでそちらを見ると、ピンクの髪の小さい女の子と犬がいた。
「お、可愛いが一人と一匹」
「おかあさ〜ん!きれいなお姉さんおきた〜!」
「ワンッ!」
「ん〜、頭に響いてイテ〜」
元気な子供の声と犬の鳴き声に二日酔いに苦しむ頭に更にダメージを与えもう一度ソファに倒れそうになるも、恐らく自身の介護をしてくれた人様の家でいつまでも寝る訳にはいかないと、堪えていると、女性が現れる。
「あら〜、目が覚めたのね。このまま起きなかったらどうしようと思っていたわ〜。気分はどう?」
「二日酔いで頭が痛いだけですね…すみません、ご迷惑をおかけして。すぐ出て行きます…」
「あらそう?因みにお家は何処かしら?」
「え、あ〜…東京の…」
「東京?だったらもう今日は家に泊まった方が良いわよ〜」
「え、何でですか?」
「だってここ神奈川よ?」
「───は?」
「酔って県外くるとかヤバすぎでしょ私…」
結局今日は後藤家に世話になる事になった藍崎静音。現在は後藤家と一緒に食卓を囲んでいた。
「しじみの味噌汁出来たよ〜。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…ひとりちゃんもごめんね、ビックリしちゃったでしょ」
「あ、いえ…その…大丈夫です、はい…」
「絶対大丈夫じゃないじゃん」
「ひとりは知らない人には何時もこんな感じですから大丈夫ですよ」
「あ、そうなんですか……しじみの味噌汁美味しい…」
二日酔いの体に染み渡るしじみ味噌汁を味わいながら静音は後藤家での食事を楽しんでいた。
(…何か、新鮮だな、こういうの)
静音にとって、家族で食卓を囲むというのは幼少期、父が亡くなる前の記憶にしかない。父が亡くなってから女手一つで静音を育てる為に母は忙しくしており、静音は基本、一人でご飯を食べていた。
(家族に不満は無い、何処に行っても、何年経っても、最高の両親だと言える。けれど…)
すると静音をチラチラと見ていたひとりが突然ビクゥ!!っと震え、静音を驚いた表情で見た。
「どうしたひとり?」
「あ、あの…お姉さん…」
「あ、お姉さんないてる〜、どうしたの〜?」
「え?あ、マジだ、ヤバ」
「も、もしかして、料理美味しくなかった!?」
「いや、大丈夫です、今まで食った家庭料理の中で一番美味いです」
「あら〜、じゃあ美味しすぎて涙が出たのかしら〜」
「そうですね、本当に美味しいですから」
静音は、本心ではそうでは無いと分かっていても、無理矢理そういう事にした。ティッシュで涙を拭き、引き続き食事を楽しんでいると、静音はふと気になっていた事を話題に出す。
「そういえば、さっきギターの音が聞こえましたけど、直樹さんのご趣味ですか?」
「え?あー違うよ、確かに僕は音楽好きだけど、さっきのギターは僕じゃなくてひとりなんだ」
「へぇ、ひとりちゃんが…」
「ひぇ…」
その言葉に静音は目を細めてひとりを見ると、ひとりは怯え顔面が崩壊してガタガタと震え始めた。
「あぁ、ごめんごめん、ちょっと気になってさ…あ、良かったら後で弾いてるところ見させてもらっていい?」
「え…」
「あら〜良いじゃない!」
「いや、あの…」
「ダメかな?」
「……スゥー…イエ、ゼンゼンダイジョウブデス」
哀れ、断れない女、後藤ひとりである。
「そういえば今自然な感じで流しましたけど、ひとりちゃんの顔崩壊してましたよね?大丈夫ですかアレ」
「何時もの事だから大丈夫よ〜」
「ええ…」
食事などが終わり暇になった頃、静音はひとりの自室に居た。目の前には緊張した様子でギターを持っているひとりがいる。
「そ、それじゃあ、やります…」
「うん、どーぞ」
静音はひとりが最近流行りの曲を弾き始めると、その姿を黙ってジッと見つめている。最初はその視線に緊張していたひとりだが、徐々に慣れていき、本来の調子を取り戻し始める。
(……うん、始めて数週間でコレか…天才だな、ひとりちゃん)
母親からこの世で最も優れた音楽の才を持つと言われた静音は、目の前にいる少女をそう評価した。
(この子、絶対伸びるわ、私の音楽の才能がそう断言している。それに…)
ひとりは静音の視線もあまり気になってないのか、楽しそうな表情を浮かべながらギターを弾いていた。
(私と違ってちゃんと楽しんでやってる。自分の意思と才能の方向が一致してる子が、伸びない訳無いよなぁ…)
ま、私は別に音楽好きじゃないけど、嫌いでも無いし、そんなの関係ないくらい才能あったけど。とか思っている内に、演奏が終わった。
「ど、どうでしたか…?」
「ひとりちゃんスゲ〜…」
「うぇ!?あ、ありがとうございます…うぇへへ…」
(ちょろいな)
「私も少し前までは音楽漬けな日々送ってたし、知り合いにバンドやってるギターの子とかいたけど、そんな私から見てもひとりちゃんは本当に凄いと思う」
「そ、そうですかぁ?え、えへへへ…」
静音から褒められてニヤけ顔が止まらないひとり。そんなひとりを見て静音は微笑む。
「ひとりちゃんは何でギター始めたの?」
「え、あ…せ、世界平和を伝える為…」
「嘘じゃん」
「はい、嘘ですすみませんホントはギター弾いてバンドやって皆からチヤホヤされたいだけです」
「へ〜、良いじゃん」
「こんな不純理由でギター弾いてごめんなさい今すぐ腹切ってお詫び…へ?」
「良いじゃん、充分立派な理由だよ」
「え、あ…け、けど…」
「大事なのはどんな理由でもそれに込められる熱意だよ。ひとりちゃんが凄く努力してるのは今の演奏で分かった。ギター弾くのを楽しんでるのもね」
「し、藍崎さん…!」
ひとりは感動した、絶対に引かれると思っていたのに静音は受け入れるどころかひとりを更に褒めていく。
「ひとりちゃんがそれだけ頑張れば、それはきっといつか誰かの為になるよ。だからこれからも頑張りなよ」
「あ、ありがとうございます!」
「うんうん…いや〜!ホント、何かに打ち込めるって幸せなんだろーなー」
「あ、藍崎さんは、何かやってたり?さ、さっき音楽漬けの日々を送ってたって…」
「あーうん、あの頃は楽しかったよ、幸せだった…けど、音楽やる意味が無くなっちゃってさ、そこからは何やっても楽しくない、やり続ける意味が無いってなって…今、絶賛無職」
「そ、そうなんですか…」
「そうそう」
(まぁピアノコンクールの賞金で金めっちゃあるし、なんならパチンコやら競馬やらで増やせるし、何かこの前宝くじ当たったし)
藍崎静音、実はあり得ないほど運が良い。
「お金には困ってないから良いけどさ〜、ひとりちゃん見てると何か、自分が惨めになってきたよ…」
「だ、大丈夫ですか…?」
「はぁ…ごめんね、愚痴溢しちゃって…」
「…そ、その…きっと藍崎さんにもあります、夢中になれる事…」
「ええ、本当ぉ?」
「あ、いえ、ごめんなさい、やっぱり無い…い、いえ、きっとあります、きっと、多分…」
「すっごい自信の無さ」
「その…や、やっぱり、そういうのは、好きなものから始まるものじゃ、ないですか?」
「好きなものね、あるよ」
「ほ、ホントですか…!」
「うん、私はね、家族が大好き」
「か、家族…」
「音楽やってたのも、母さんが喜んでくれるからだったからね」
「え、じゃ、じゃあ今は…」
ひとりはそこで気付く、家族が喜ぶ事に夢中になれる静音が、それを出来ていないとはつまり…
「え、あ、ご、ごめんなさい!」
「え、どうして謝るの?え、何かごめん」
ひとりは静音の事情を察し、反射的に謝る。静音は何故か謝ったひとりに対して頭を上げさせ、訳を聞いた。
「何だ、そんな事か〜」
「そ、そんな事…?」
「私またひとりちゃんを知らず知らずのうちに怖がらせたのかと思ったよ…てかホントごめんね、無関係なひとりちゃんにそんな事考えさせちゃって…」
「その…辛くない…んですか?」
「あーまぁね」
「……」
「いや気にし過ぎ、あー…今はそんなに悲しんでないから大丈夫だよ。優しいね〜ひとりちゃんは」
静音は畳から立ち上がり、襖を開ける。
「そろそろ下で寝させてもらうよ。今日はありがとね」
「い、いえ…」
「…ひとりちゃん。私が夢中になれるものを探していたら、手伝ってくれる?」
「そ、それは勿論…!」
「ん、ありがと」
静音はそう言うとひとりの部屋から出ていった。翌日、東京に帰る静音は「また後日、お礼しに来ます」と言って帰って行った…
そしてその数日後の土曜の日…
「ひとりちゃん、一緒に演奏しない?」
宣言通りにお礼の品を持って後藤家に訪れた静音。お礼品を持つ手の反対には、キーボードの入ったケースが握られていた。
「……えっ?」
突然そう言った静音は、お礼品を渡した後、再びひとりの自室に訪れ、キーボードを取り出していた。
「あ、あの、本当にやるんですか…?」
「うん、曲は……あっ、これとか、どう?」
「あ、この曲なら大丈夫です…じゃ、じゃなくて、何でいきなり一緒に演奏を…!?」
「えー、秘密♪…強いて言うなら私の夢中になれるものの為って事で、ね?」
「け、けど私、まだ誰かと一緒に演奏出来るほど上手くないと思いますし…」
「いやそんな難しく考えなくて良いから…練習の一環だと思ってくれれば良いよ」
「は、はぁ…」
演奏前に軽く弾こうと、二人はそれぞれの楽器の音を出す。静音はギターの音が聴いてある確信を得ていた。
(やっぱり、ひとりちゃんには何かある、私の音楽の才能が、この音に、人の人生を変えるだけの何かがあると言っている…!)
静音は確信していた、後藤ひとりという少女の才覚に、自身の才能が惚れ込んでいる事を。
(もし今の私に生きる意味を見出せる存在がいるとすれば、それは君だ、後藤ひとり)
準備を済ませ、向かい合ってそれぞれギターとキーボードを構える。
「ひとりちゃんのタイミングで好きに弾いて良いよ、こっちで勝手に合わせるから」
「え、あ、だ、大丈夫なんでしょうか…」
「大丈夫大丈夫…今から君と一緒に演奏するのは、世界で最も音楽に愛されたとまで言わしめた男だよ?遠慮せずに、全力でギターを弾いてみな!」
「っ…!」
静音のその言葉にひとりは覚悟を決めたような表情になり、ゆっくりとギターを弾き始めた。
「はぁ…はぁ…」
「うーん、やっぱり凄いねぇ、ひとりちゃん」
演奏終了後、汗をかいたひとりの表情は静音が見てきた中では最もハキハキしたものだった。
(最初だけは緊張してだけど、サポートしたら直ぐに調子取り戻すどころか、昨日より良い演奏してたし、私みたいに合わせられる人間がいれば最強になるな)
「あ、ありがとうございます…!お、お姉さんも、凄かったです…!何時もより楽しかったし、弾きやすかった…」
「うんうん…っと、ひとりちゃんと演奏したら、何だか凄く満足できるよ。この調子でやりたい事見つけないとね…」
「…あ、あの、その事で私、少し、考えたんですけど…」
「お、何々?」
ひとりは若干言うのを戸惑っていたが、目を逸らしながらも静音に言葉を放つ。
「その、ご家族が大好きなら…えっと、自分に夢中になってみるのはどうかなって…」
「私が、私に?」
「は、はい…演奏しているお姉さん…その、凄く綺麗で…わ、私なんかが言えることじゃないんですけど、そんなお姉さんの事、きっとご両親は大事に思っていたと思うんです、だから…」
「…綺麗か…」
静音は少し微笑んで考え込むと、ひとりに演奏の様子を撮影したいと言った。そして二人は、再度演奏を開始した。
二度目の演奏終了後、静音は演奏の様子を撮影していたスマホを手に取り、映像を確認した。
「…これ、綺麗に見えたの?」
「は、はい…」
静音はジッと演奏している自分を見つめる。自分の演奏した様子など興味無いし、殆ど見なかったが、こうしてじっくり見ると感じるものがあった。
(…女装してるのもあると思うけど…似てるな、母さんに)
遥か昔の、小さい頃の記憶。しかし静音はその想いから今でも鮮明に思い出せる、母がピアノを弾く姿。
(母さんは、私と違って音楽に全てを捧げていた…自分の人生も、私の人生も…そんな母さんが私は好きだった…そしてそれに役立てる事が何よりも嬉しかった…)
「…ありがとう、ひとりちゃん」
「え?」
「なんとなく、分かった気がする。私がこれから、大切に出来るもの…本当にありがとう。君と演奏をした事は、私にとって一生の思い出になる」
「い、いえ!そ、そんなの私の方が…!」
物凄い勢いで首を振るひとりを見てくすくすと笑っていると、ふと視線を感じ、廊下へと通ずる襖の方を見ると…
「あら、見つかっちゃったわ」
「みつかった〜」
「ワンッ!」
「お、お母さん達!?も、もしかしてずっと見てたの!?」
「お茶を持って来たんだけれど、二人が楽しそうに演奏してたから邪魔出来なくて〜」
襖を開けてゾロゾロと入って来る後藤家の面々、すると何だか後藤家の父親である直樹が緊張した様子で入って来る。
「あの、直樹さん、なんか凄い緊張してますけど、大丈夫ですか?」
「いや〜、まさかとは思ったんだけど、もしかして僕達は今とんでもない人物を家に招いているんじゃないかと思ってね?」
「あ、そう言えば演奏始める前にお姉さん、何か世界とか…」
「あ〜…」
「えっと…もしかして静音さんって…あのピアニストの藍崎静音さんで合ってる?」
「ピアニストの藍崎静音ってなると、確かに自分しかいないですね」
「ってなると、お姉さんじゃなくて…お兄さん?」
「あ、ようやく気付いてもらえました?」
「え…あ…」
突然の父の言葉に状況が飲み込めないひとり。その時、演奏前に静音が言った言葉を思い出す。
『大丈夫大丈夫…今から君と一緒に演奏するのは、世界で最も音楽に愛されたとまで言わしめた男だよ?遠慮せずに、全力でギターを弾いてみな!』
「あ…あ…!?」
確かに、男と言っていた…しかし、それにも驚いたが、ひとりは他に気になる事があった為、スマホを取り出し藍崎静音と検索すると、真っ先に男性のピアニストの画像などが出て来る。
(だ、男装してるけど、確かにお姉…いや、お兄さんだ…!ちょ、ちょっと待って…!)
調べると出て来る、藍崎静音を絶賛する言葉の数々。ひとりの目には藍崎静音という人物がいかに優れていたかを物語る内容がズラリと並んで映っていた。
(つ、つまり私は、知らず知らずのうちにそんな人と演奏したって事…?私みたいなまだギター始めて数週間のペーペーな初心者が、あろう事か天の上とまで言える存在と?も、もしこの事が世に出回ったら…!)
「はぁ?お前如きが藍崎様とセッションだとぉ?あの方の演奏を汚す気か、この蟻ん子がっ!」
(色んな人から沢山批判されて…!)
「藍崎静音様の演奏を汚したで賞で、死刑を求刑する!」
「えー、判決、死刑っ!!」
(っていう事にぃ…!!)
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?……パァン」
「ひ、ひとりちゃん!?ひとりちゃんが奇声を上げながら破裂したっ!?」
「あらあら〜」
「え、全然驚いてない!?日常的にあるのこれ!?」
破裂して辺りに飛び散ったひとり。
そんなひとりをみて慌てる静音。
静音の存在にフリーズ中の父親。
そしていつも通りな二人と一匹。
後藤ひとりの自室は混沌と化した様子になってしまった…
「いや〜、びっくりしました…」
「僕はまさか家の前で酔い潰れてた人が超有名人だった事にびっくりしてるよ…」
「その節は本当にすみません…」
散らばったひとりの修復を美智代とふたりとジミヘンが行なっている間、静音は一階で直樹と一緒にお茶を味わってた。
「あ、サインとか貰っていい?」
「いいですよ……はい、どうぞ」
「ありがとう!これ家宝にするよ」
「いや少し大事にしてくれれば良いので…」
「あはは…今でも少し信じられないよ、あの藍崎静音が、ウチの娘とセッションだなんて…」
直樹がそう言うと静音は「ふふっ」っと笑って、お茶を口に含む。飲み込みながら先程の演奏の事を思い出し、直樹に言う。
「ひとりちゃんは、本当に凄いですよ。天才の部類だと思っています」
「……え、嘘、ま、ええ…?ご、ごめん、まさかウチの娘が静音君からそう言ってもらえるなんて…」
「ええ、断言しますよ。あの子いつか、私と同じ人々から称賛を受ける人間になる…あ、この話、ひとりちゃんには内緒で」
「う、うん…そっかぁ、ひとりが…なんだか信じられないなぁ…」
その後も二人は音楽について色々談笑していると、ふと、二階からドタドタと音が響く。そして何かが階段を駆け降りてくる音を聴いて二人は階段の方を見ると、ズサァ!っと滑り込む感じでひとりが現れ、静音を一目見た瞬間。
「お、お願いします!!先程までの無礼は全てお詫びしますし私になんぞに出来る事ならばなんでもやりますので死刑だけは、死刑だけは〜!!」
「な、何の話!?てか土下座止めて!頭上げて!」
「いや、ならないから」
「え、で、でも…」
「私とセッションしたくらいでそんな世の中の人は怒らないよ。てか、逆にひとりちゃんの事スゲーって思ってくれるかもよ?」
「そ、そうなんですか…?」
「私って他人と一緒に演奏した事殆ど無いから。自分が一緒にやりたいと思った人としかやらないって、公言したからね〜。ひとりちゃんで一緒に演奏したのは二人目…かな?」
「二人目…え、えへへ…神からご指名を受けた二人目…」
「あ、うん、ちょっとした自慢話が出来た程度に思ってくれれば良いよ」
(ひとりちゃんって調子の振れ幅凄いな)
静音はさっきの話はひとりに秘密にしておき正解だったなと思った。多分ひとりを天才と思っている発言をしたら調子乗り過ぎるなと感じた為である。
「…さて、そろそろお暇させていただきます」
「あら、もう帰っちゃうの?」
「はい、どうやら私、やる事があるみたいなので……ひとりちゃん、本当に今日はありがとう。楽しかったよ」
「あ、はい、いえ!こ、こちらこそ、楽しかったです…!」
「次会えるのはいつになるか分からないけど、私はひとりちゃんの事を応援する。今日から私は君のファンだ」
静音はそう言ってひとりの頭に手を乗せる。
「これからも頑張って」
「…は、はぃ…」
「うん…じゃあ、今日は本当にありがとうございました。またいつか絶対に来ます」
「いつでも来ていいからね〜」
「今度はひとりとの演奏僕にも撮影させてね」
「お兄さんばいばい〜」
「ワン!」
静音は後藤家に見送られながら、その家を出たのだった…
「行っちゃったね…ひとり?さっきから固まってるけど、大丈夫?」
「ファン…ファン…神が、私のファン」
「ひとり〜?お〜い…」
直樹が反応の無いひとりを心配し、肩に触れた瞬間…
パァン
「ひとりぃぃぃぃぃぃ!?」
「あ、お姉ちゃんまたばくはつした〜」
ひとりはまたも限界を迎え、辺りに飛び散ったのであった…
「自分に夢中になる、か…」
駅に向かう静音はそう呟くと、スマホの自撮りカメラで自分の顔を見る。
「思えば、この容姿は結構気に入ってたな。顔のパーツは母さんそっくりだけど、目と眉毛の形とか、背の高さは父さん譲りだし!」
満足気に自分の顔を見つめた後、スマホをしまって再び歩き出す静音。その表情はどこか晴れやかだった
「認めよう。家族を愛する私が、今この世で最も気に入っているのは、他でもない両親が与えたこの身体そのもの。ふふ…やるかー!自分磨き!」
新たな道を定めた静音は、軽やかな足取りで駅へと向かうのであった…
後藤ひとりとかいう生態が謎過ぎて書くのが難しいキャラ。一応キャラ説明…
藍崎静音(あいさきしずね)
年齢は星歌さんの一個上。身長は188cm。
お母さんがヤバい奴で自分の人生縛られて全てを音楽に捧げてきたかが、その事に不満を持つレベルか寧ろ幸福を感じるほどに家族愛がヤバい奴。母親からの狂気を家族愛で凌駕した。女装は自身の趣味では無いが、小さい頃からやり続けていたので習慣化している。母親が亡くなってから金遣いが荒くなったが恐ろしいほどの幸運でプラスになって帰ってくるので気にした事は無い。とってもお金持ち。よく飲み仲間のアル中ベーシストにおにころを買ってあげている。生きる意味を無くしてダラダラと過ごしていたが、ひとりちゃんに救われて新しい人生を歩き出した。
後、ひとりちゃんに会った時の静音さんと学生時代の静音さんを『長髪お兄さん』という創作メーカーの力をお借りして作りましたので貼っておきます。水視ずみ様、ありがとうございます。
【挿絵表示】
清楚な学生時代の藍崎静音
【挿絵表示】
ひとりちゃんと出会った時の藍崎静音