破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
皆さんありがとうございます。
※ご注意:今回はR指定な描写や不快なセリフなどが多くあります※
カーシャは、湯船から天井を見上げていた。
ネビズの大衆浴場。
かなり充実した設備で、昼間から客も多い。
元々、このヤオアムトという国が入浴文化で他国に知られている。
カーシャも、貴族令嬢であった頃は毎日のように贅を尽くした専用の浴場に入っていたものだ。
――……戻りたいのか、
などと一人自問などしてみる。
わからない。
結局、どうでもいいような気がした。
それから思い出すのは、ヒーダ王国のことだ。
英雄姫と呼ばれる――いや、呼ばれていたシルトクレーテ。
美しい金髪と青い瞳。
貴金属で形作られたような美姫だった。
ようく思い返してみれば、カーシャもいつか王宮のパーティーで見た記憶がある。
国外で評判の美貌と共に、剣士としての才能と、魔法使いの才能を併せ持った天才的
公爵家の人間として、それなりに交流しておくべき相手だったかもしれない。
もっとも、その時のカーシャにとっては嫉妬の対象でしかなかったが。
――自分のほうが、美貌では勝っている!
そんなことを思って、精神的勝利を得ていたような。
――まあ、どうでもいいけど。
どっちにしろ、過去のことだ。
向こうにしても、どうでもいい相手だったのだろう。
シルトクレーテと、その母パルス女王。
パルス御前とも称される、これもまた美貌の女王だった。
ヒーダはヤオアムトの隣国ながら、交通の便などから交流も少なく、関わりは薄かったが――
――それにしても、ああなっているとは……。
山間の小さな国ながら、豊かさと軍の練度はかなりのもの。
ヤオアムトほどではないが、優秀な魔法技術もある。
出発前にギルドで受け取った資料には、そうあった。
だが。
山道をかきわけて潜入してみれば、そこは亜人の支配下だった。
男は殺されるか奴隷。
女はなぶりもの。
下品な言葉でいうなら、肉便器というやつか。
ギルドで育ちの悪そうな冒険者たちがそんな単語を言っていたな、とカーシャは思い出したものだ。
まあ、まさに的確な表現であろう。
――しかし、あいつらはなんなのかしら?
さんざん殺した対象が、今いちよくわからないカーシャだった。
強いて言うなら?
オークとオーガの性質をミックスさせたような連中である。
手足が太く頑強。
ただ腹が無駄に突き出た肥満体。
見た目は、まあ悪い。
ただあの脂肪に覆われた筋肉と言う体形はなかなか実戦向きかもしれない。
こちらのレベルで言えばだが。
ただ?
ギルドで冒険者たちに配布されている資料によれば……だ。
オーガは人間と似ている部分もあるが、完全に種が違う。
人間を捕食対象にはしても、交尾相手と認識などしない。
オークは、排他的な亜人。
人間との子供もできないことはないが、確率は極めて低く……。
さらに生まれても短命かつ生殖能力はないそうだ。
あるいは、ほとんどが未熟児で生まれる前後で死亡してしまう。
と、すれば。
連中はますます正体不明だった。
言語も発音はひどかったが、人間の共通語を話していた。
人間相手ばかりか、仲間内ですらだ。
オーガなら言葉などしゃべらない。
オークは人間の言語を使うことを嫌がる。
さらに。
話している内容も、そのへんのチンピラみたいだった。
――あんなアホによくもあっさり負けたものだわ。
妙に思いつつ調査を続けていると、
「お姫様はボスの****で****だった」
「***が***でどうだ」
「****されて喜んでいる」
とか、しょーもないことを言い合って笑っていた。
だがまあ、そこからわかったのは、
――つまり、姫も女王もこいつらのボスの妾になってるのか。
そういうことだった。
で、国を売った挙句、国民は殺されるか肉便器というわけらしい。
――くっだらない話……。
あのプライドの高そうなお姫様をどうやってくどいたのやら。
それとも?
ボスとやらは他と違って絶世の美男子か?
などと思い、つい。
カーシャは興味本位で王城に潜入してしまった。
城の中もまあひどいものだった。
ボスらしい亜人は、体格が他よりでかいだけだった。
で、そいつ相手に姫と女王は犬みたいにさかっていた。
変な薬か魔法でも使っていたのか?
ひたすら見苦しいだけだったが、男はアレを見て興奮するの?
カーシャには疑問である、
――あ~あ……。アホくさい。
それなりに歴史があるはずの国も、上がバカだと最後はこうなるのか。
あまりの間抜けさに付き合いきれず、さっさと帰ろうかと思った時。
「化け物め!! 姫と女王陛下から離れよ!!」
「!!」
いきなり、知らない声がしてカーシャは表へ突き出された。
あの時……。
どうやって、放り出されたのかいまだにわからない。
当然、他の亜人も集まってきて囲まれる。
「下賤な怪物ども、隣国より可憐な姫と、美しき女王を救うために推参した。ただちに二人を解放すればよし。さもなくば刃の錆となると知れぃ!!」
足元で、芝居がかったセリフを並べているのは、一匹の黒猫。
――なんなの、こいつ!?
この状況に驚きながらも、カーシャは剣を抜いていた。
「ほっほう? どこの女騎士様かしらんが、わざわざ一人で乗り込んでくるとはな? だが、状況を見てものを言え。そっちこそ、得物を捨てろ。さもなくば――」
一方で亜人のボスは笑いながら、カーシャの前に進み出た。
余裕の態度。
カーシャをなめ腐っているのが、嫌でもわかった。
――いや、言ってない言ってない! こいつが勝手に言ってるだけだし。
あの時のカーシャには亜人よりも、黒猫のほうが不気味で警戒対象だった。
大体姫だの女王を助ける義理など欠片もないのだ。
死のうがどうしようが、知ったことではない。
そう心の中で叫んだものだが、姫たちには他の連中が武器を突きつけている。
「……」
この時カーシャの顔は予想外のことに驚き、歪んでいた。
それは、向こうにとってはさぞ悔しそうな表情に見えたのかもしれない。
「さあ、とっとと剣を捨てろ」
「……」
この時カーシャが思ったことは、
――このバカ。この猫の言葉を本気にしてるの? 罠だとは思わないの???
やろうと思えば暗殺も可能だったのに、わざわざ飛び出して名乗り出る。
しかも、女一人という身で。
どう考えても怪しいではないか。
しかし、あいつらにはそこまで思考が回らなかったらしい。
そのせいか、少しだけカーシャにイタズラ心みたいなものがわいた。
せいぜい顔を歪めながら、剣を捨てる。
無手になる状況など珍しくもない。
〝あちら〟では、装備が充実していることなど滅多になかった。
「ようしできたな? では、次は……ひざまずき、俺の
と、ボスは自慢らしいでかいモノを放り出してみせた。
――こ、こ、こいつ……。
本当にアホだとカーシャは呆れた。
得体のしれない敵相手に、
――殺してくれと言ってるようなものじゃない……?
哀れにすら思いつつ、カーシャはリクエストに従ってやった。
ひざまずき、ゆっくりとボスのモノに手を近づけた。
それから。
〝袋〟を握りつぶしてから、でかい竿を引きちぎった。
「があ………………!?!?!?」
急所を潰され、シンボルを奪われて、ボスは驚きと苦痛でへたりこんだ。
「て、てめえ!?」
「こいつらがどうなってもいいのか!!」
他の亜人が姫たちを盾に叫んでいたが、
「お好きになされば?」
カーシャが言い捨てると、ボスが凄まじい形相でつかみかかってきた。
そのまま、自然とつかみ合う形になる。
ペキ、ミシ、ピキキ……。
「?!?!?!?」
カーシャは、つかんだボスの手を〝ゆっくり〟と、〝哀れみ〟をこめて握りつぶしていく。
ボスの顔は恐怖と苦痛と、驚愕でグシャグシャになっていた。
元から醜い顔ではあったのだが。
「ねえ、聞かせてくれるかしら、名前も知らぬ蛮族の王様」
ボスを見おろしながら、カーシャはたずねた。
「あの薄汚いメスブタどもに何の価値があると思ったのかしら? 私が本気でそのブタどもを救うつもりだと何を根拠に思っていたの? ついでに、その貧弱な力とひ弱な体で何ができると思ったの?」
カーシャの言葉が終わる前に、亜人たちが襲ってきた。
グシャリ。ベショ。メキッ。
カーシャは手足を振るって、そいつらをミンチに変え、壁や床の塗装へと変えた。
「お前は世界で最強の勇者なの? この世で神をも恐れぬ
言いながら、カーシャはボスの腹を蹴り上げた。
「ぎゃぼおお!?」
内臓が破裂して、ボスは大量の血を吐き出す。
「ご、ご主人様……!!!」
ボスの醜態に、元・英雄姫が悲鳴をあげた。
「ほら、おいで」
カーシャはすでに半死半生となったボスの髪をつかんで、引きずっていった。
途中で、こうるさい亜人たちを殺しながら。
その結果、暴動が起こった。
ヒーダも全ての民が支配されていたわけではなかったらしい。
カーシャの起こした騒動にまぎれて、国の兵士たちがあちこちで暴れ出した。
――ふむ?
観察するに、亜人たちは数もそう多くはなく、武力でも格別強いわけでもない。
一般人はともかく、練度のある軍や魔法使いならば十分殺せるようだ。
ボスを引きずるカーシャに、反乱者たちは困惑していたが、
「お好きにどうぞ」
国の兵士たちへ、ボスを放り出してやった。
その後は、当然なぶり殺しである。
「帰ろ……」
バカ騒ぎにも飽きたカーシャは、喧噪を後にさっさと退散しようと。
だが、不意に殺気を感じて振り返った。
見れば、裸に剣を持った元・英雄姫が剣を手にこっちを睨んでいる。
「何か用かしら、メスブタさん」
「黙れっ! よくも、よくもご主人様を!!!」
姫は剣に雷撃魔法を込めて、風のように走った。
――へー?
あんな様になったくせに、武力も魔法も健在だったのか。
――っていうか、あんなブザマな死に方した相手が、まだ恋しいわけ?
そんなにあのボスは床上手だったのか、それともこいつがいかれているのか。
どっちにしろ、カーシャはこの茶番に付き合う気はもうなかった。
「うるさい」
攻撃をかわしながら姫の足をつかんで、何度か地面に叩きつけた。
すると、すぐに静かになる。
英雄姫だったメスブタが死んだのを確認してから、
――そういえば、一応証拠? みたいなものもいるかしらね?
そう思い直して、切り刻まれ首を落とされたボスの首を半分かち割って〝お土産〟にした。
この時、女王も死んだようだと飛び交う声の中で聞いた。
帰り際は、もののついでだから逃げた亜人を殺しながらネビズへ戻ったわけである。
――しかし……?
カーシャは湯舟で顔を洗いながら、考える。
気になるのは、ヒーダのことよりもあの黒猫だ。
いつの間にかいなくなっていたが。
――それに、どこかで聞いたような気がする……。
また思い出すのは、赤黒いあちら――
〝地獄〟のことだった。