破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その81ー5ー2、魔道冥府

 

 

 

 

 夜。

 月がきれいな空だった。

 

 ――変なヤツだった……。

 

 カーシャは湯気の中でぼんやり思う。

 

 温泉。

 宿が特別に用意したものの中では、最高ランクに入る。

 露天型だが、周辺は誰も近づけない。

 その価格と時間帯のせいか、カーシャの他は誰もいない。

 

 テラ。

 

 おそらく――

 元々は〝勇者〟のように、異世界から召喚されたのだろう。

 だが。

 どういう経路か、あの〝地獄〟に送り込まれて、

 

 ――戻ってきたわけね……。

 

 自分と、同じように。

 

 そして。

 カーシャはいろんな顔を思い返した。

 

 ワシロー国。

 

 マクニオ。

 ガイスト。

 

 自分と同じものであろう連中。

 あの2人と比べると、

 

 ――あいつは、私とかなり近かったわけねえ……?

 

 他の2人。

 

 ――あいつらは……。まだ。そう、客観的に見てマシというやつかもね

 

 特に、ガイストという男。

 感性としては、

 

 ――いわゆる……。普通の連中と変わりなさそうだし。

 

 ここで言う普通。

 一般人とか冒険者という意味ではない。

 あの〝地獄〟を体験していない……ということ。

 

「……いったい、何人いることか」

 

 空を見上げて、カーシャは目を細めた。

 

 いつか。

 資料を調べ、ゴトクから聞いた女の話。

 

 やはり。

 

 ――同類でしょうね。

 

 会ったことなどない。

 客観的な確証もない。

 が。

 ある種の勘というやつなのか。

 

 ――ろくでもないヤツであることは、確かか……。

 

 話に聞いたような者なら、

 

 ――〝地獄(あそこ)〟にいたほうが、ある意味幸せだったかもしれないけど。

 

 何しろ。

 否応なしに、永続的な殺戮を要求される場所なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボリボリ、ボリ

 

 喰い終わった残骸を放り出して、怪物は空を見上げた。

 

 月。

 

 ――どうにも、やることがないってのはなあ……。

 

 マクニオ。

 かつて人間であり、魔導により怪物となった男。

 

 しかし。

 

 〝地獄〟での苦行を経た……経てしまったことで――

 その目的さえも、意味をなくしてしまった男でもある。

 

 否。

 意味を見出せなくなったというべきか。

 

 ――いっそ、誰かの家来にでもなったほうがマシかもしれんよなあ?

 

 そんなことさえ思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――寝たか。

 

 小さなたき火。

 その前で、毛布にくるまって黒髪の眠る少年。

 

 ――お前さんとも、変な(えん)だよな。

 

 少年の寝顔に苦笑してから、ガイストは月を見上げた。

 

 ある訪れる者もない、古く小さな神殿。

 

 そこで――

 ガイストは少年に出会った。

 

 いや。

 引き合わされたのか。

 

「他の者からは、神などと大層な呼ばれ方をしたこともある」

 

 妙なことをいう、隻眼の男。

 

 殺気はなかった。

 しかし。

 得体のしれない妙な魔力を宿してもいたが――

 

「お前は目的もなく、守る者も、帰る場所もなく。ウロウロと流されながら適当に生きてきたな?」

 

 耳の痛いことを、ズバリ言われた。

 

「まあ、小物には似合いの……というやつで」

 

 苦笑するガイストに、

 

「なら、その命わしがもらおう」

 

 いきなり。

 そんなことを言われてしまった。

 

 こんな流れで引き合わされてしまったのが――この少年だった。

 

「お前はこの子供の盾となり、剣となって助けてやれ。代わりに、お前はこの男を魔法で手助けせよ」

 

 隻眼は一方的なことを言ってきた。

 

 

 そんなこんなのゴタゴタで、

 

「今は、おかしな2人旅か……」

 

 ガイストはまた苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外では、月が出ている。

 

 しかし。

 

 テラには関係がなかった。

 訪れる者のない、大昔の教会。

 

 テラはその中で夜を過ごしていた。

 壁に背中をあずけ、座り込んでいる。

 

 残された神像は、

 

 ――火の神か。

 

 目を閉じる。

 

 少しだけ、

 

 闇の中。

 

 赤狂い夕日のようなもの。

 死臭。

 断末魔。

 肉や骨を殴り、切り裂く感触。

 

 そんなものばかりが甦る。

 

 転生前(むかし)のことは、もう入る余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺したい。

 それを本当に自覚したのは、いわゆる転生後……だった。

 

 生まれてから。

 特に犯罪を起こすこともなく、普通人として生きてきた。

 

 暴力的な衝動とか、残酷表現、グロ――

 そんなものもなかった。

 

 ただ。

 

 何をしても、さほど楽しくはなかった。

 まったくつまらない、というのではない。

 

 面白さはわかる。

 しかし、とにかく夢中になる、熱中するということがなかった。

 

 そんな人生の中。

 天災に巻き込まれて、死んだ。

 

 気づけば、性別が変わっていたのである。

 

 しかも。

 

 美しい女性。

 きわどい、ある意味バカみたいな衣装。

 以前プレイしていたゲームのキャラ。

 

 いわゆるアクションゲームの主人公。

 彼女を操って、様々な敵を〝殺す〟ゲーム。

 

 暇つぶしに、そこそこやりこんだ。

 

 そんな姿になって――

 

 地獄。

 

 そうとしか表現できない、色んな宗教で語られるような場所。

 得体のしれない異世界。

 

 そこに、立っていた。

 

 殺さなければ殺される。

 殺さなくても、問答無用で殺される。

 

 そんな場所だ。

 

 驚いた。

 もっと驚いたのは、苦痛がなかったことだ。

 

 肉体的な話ではない。

 精神的なもの。

 

 とにかく、殺した。殺した。殺した。

 殴り、締め、あるいは踏みつけ、斬って、突いて。

 

 そのたびに。

 全身を突き抜けるような感覚が走った。

 快楽。

 何度体験しても薄れることがない。

 

 時間など、完全に忘れた。

 

 

 が。

 

 気づけば、今度は――

 

 剣と魔法の世界。

 

 よくネットの素人小説で舞台にされるような……。

 そんな世界に立っていた。

 

 でも。

 

 開けられた(ふた)は、もう閉じることができなかった。

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








今回は短めになってしまいました……。

次回から次のお話に行く予定です。

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
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