破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なにそれ」
その話を聞いた時、カーシャはそう言った。
「まあ、おかしな話だけんど……」
薄緑っぽい髪に、緑の肌。
どこかカエルを思わせる雰囲気。
トロルと言われる種族だ。
セーヅの温泉宿。
テラと関わり、クエストを依頼して解決――
それから、3日目のこと。
「名うてのドラゴンスレイヤーさんと見込んで……」
女主人は相談事にやってきた。
「お客様なら、色々と人脈と言いますか、お顔も広いだろうと思いまして……」
「迷子ねえ」
カーシャは青い髪をいじりながら、
「そりゃ迷惑だろうとは思うけど。まさか、そいつの家を探せとでも言うわけ?」
「迷惑というほどじゃありませんけども、まあ見てて気の毒になってるだで……」
「ふーん」
カーシャはよそ見をしながら、気のない相づちを打っていた。
「つまり――その子は、異世界からこっちに跳ばされちゃったってのかい?」
マコネは目を丸くして言った。
「嘘か本当か知らないけれどね」
カーシャは応えながら、外の景色を見ている。
「ただ、あまり大っぴらに……。いえ、できる限り内々にやってくれ。変な大型魔法とか魔道具なんてのが噂になったら、客足にも影響するそうよ」
女主人の話からすると――
だいたい、こういうことらしかった。
3か月ほど前。
街道を魔導馬車で進んでいた時のこと。
たまにあることだが……。
大型のモンスターがわき道から這い出してきた。
コカトリス。
厄介な麻痺毒を持つ、鶏と蛇のキメラ型モンスター。
「こりゃあしまった。命も覚悟しなきゃあと思ったですだ」
そう女主人は語っていた。
だが、直後。
やはりわき道から這い出してきた少年が、
「こう、右腕から爆裂魔法みたいのを発射しましただ。そいでねえ」
一撃で、コカトリスを吹き飛ばした。
が。
その後、少年は倒れこんで気を失ってしまう。
「これがまあ縁と言いますか、ほっとくわけにいかねえだで、うちで世話することになったですだ」
しかし――
「よっぽど遠いとっから来たんですかね。なんか言うことがトンチンカンで……」
ということらしく、
「でも? 妙な魔法だかスキルだかが使えるので、騎士団の手伝いなんかをやらせてたらしいけど」
街道を荒らしていた小規模な野盗。
これと交戦した時。
爆裂で野盗を吹っ飛ばし、かなり戦闘に貢献した。
……のだが。
「そこから、だんだんおかしくなっていったらしいわね」
「あー、そりゃまあ……」
マコネは頭を掻きつつ、
「ヒトを
でもなあ。
「それも結局は慣れの問題だぜ? 心配しなくっても、そのうち死体の前で飯食えるようになるんじゃねーの? 知らんけど」
「あなたはそうなの?」
「いや死体なんて嫌だよ、臭いし汚ねーし。疫病の
「かもね」
「それにバッキーだって最初はそんなんだったじゃん」
「ふむふむ」
カーシャはうなずいたが、
「でも殿方というのは、変なところで繊細で打たれ弱いものらしいわ。まして素人の子供ではね」
「ほーん? で、そいつは今……」
「バッキーが会って、話してるわ」
おでこの、特徴的な少年だった。
まだ未発達の、少年らしい体つきをした男の子。
少年の名前は、
「じゃあ、古井さんもこっちに……」
「私の場合、もう死んじゃってたから、しょうがないと言えばしょうがないけど」
カーシャの手配で話をすることとなった2人。
お互いのことを語り合ううちに、こういう流れに。
「帰っても、もう死人だし。元の体はもうないし。だいたい戸籍もなーんにもないからねえ? 戻ってもしょうがないというか」
下手すりゃゾンビか幽霊だよ。
苦笑するバッキーへ、
「それでもいいよ……」
と、五馬少年はうつむいた。
「ゾンビでもなんでもいいから、帰りたいよ……」
やがて。
少年は両手で顔を
「最初は正直ワクワクしたけど、モンスターと戦うのは、怖かった……」
「そりゃ当たり前だよ。こっちのヒトだって怖いんだから。そう感じなきゃ異常だし……」
あるいは。
ドジを踏んで死ぬか。
あの言葉を、バッキーは何とか飲み込んだ。
「けど……。俺、殺しちゃったんだ……」
五馬の体は、震え出す。
「人を殺しちゃったんだよ……。どうすりゃいいんだよ」
「どうするって……」
バッキーは返答に困る。
「そうしないと、生きていけないところなんだよ。向こうだって……嫌な言いかただけど、殺されてもしょうがないことやってきてるんだから……」
憐れみを感じつつも、より強く感じるギャップ。
――つまり、こっちは命がすごい軽いってことなんだよねえ。場合にもよるけど……。
少なくとも。
野盗に身をやつして、犯罪を行う者など――
命の重さは、虫けら以下である。
「す、すいません。変な愚痴こぼしちゃって……」
五馬は顔を上げて、苦笑した。
だいぶ恥ずかしいそうだが、
――やっぱり? 病んでるって感じじゃないよね。意外にタフなのかも。
「でも君はえらいよ。いきなりこんなとこに放り出されて、それでも一生懸命やってるんだから」
「た、助けてくれたヒトがいたし」
五馬は照れ臭そうに頭を掻いた。
「なるほど、宿の女将さん」
――……トロルか。見た感じは、どっちかというと河童みたいな印象だけど。
トロルの外見というのは、だいたいあんな感じらしい。
別に岩みたいな巨人とか、そういうのではないようだ。
「あと、友達とか……」
「ともだち」
「色々はげましてくれたり、助けてくれたり」
――ほーん。トモダチねえ?
少し、うつむきかげんの五馬。
少年の微妙な表情に、バッキーはどこかピンとくるものがあった。
「それって、やっぱり男の子?」
「え、いや、女……の子ですけど」
「そうなんだ。いや、男の子だし、相手もそうかなって」
少し目をそらしながら、バッキーは流すように言った。
――エロガキめ……。
そんなことを思ってから、
――まあ、私の頃だって早い子はませてたけど……。
バッキーはちょっと情けない気分にもなる。
つまり。
世代がどうこうではなく、
――私にそういう経験とか相手がいなかっただけなんだよねえ。あははは……。
それから。
「ともかく。知り合いに詳しそうなエルフがいるから、話してみるよ。でも、難しい話だから、あんまり期待はしないで?」
「はい。ありがとうございます」
こういうことで。
五馬は去り、バッキーはそれを見送った。
と。
「あ。話、終わったんだ」
ひょいっと。
どこからか。
いきなり現れたように感じた。
五馬と同年代くらいの少女。
長い栗色のに可愛い広いおでこ。大きな瞳も栗色だった。
女の子はごく自然に五馬の横に立って歩き出す。
「あ、うん」
「なんとかなりそう?」
「難しいかもって……」
「そっか」
「しょうがないよ。ぶっ飛んだ話だし……」
「うまく言えないけど、元気出しなよ」
少女は軽く少年の肩に触れる。
優しい。
でも、どこか色気のある仕草だった。
「サンキュ」
「うん」
話しながら、歩いていく少年少女。
それは――
部外者としてみると、実に微笑ましい光景。
――リア充め……。
バッキーはちょっと苦笑して、ため息。
仮に戻れなくっても、
――こっちでそれなりに、幸せに暮らせるかもね?
そんなことを思っていた。
時、だった。
ギョロッッ
―――??!
強烈な圧力。
いや、視線か。
一瞬ものすごい力で締め上げられるような。
呼吸さえできなくなりそうなプレッシャー。
バッキーはそれを受けて目を見開いた。
やや難しそうな言葉を使うと――
ほんの一瞬。
少女が、こっちを見ていた。
特に睨んだとか、そういうことはない。
しかし。
まるで、カーシャやテラのような、
――いや、ちがう。ぜんぜん、ちがう。
凄まじい圧力。
そこは同じだが、感じ取れる雰囲気、気配。
うまく言えない。
的確な表現が難しい。
わかるのはまるで別物。
それだけだった。
――でも、どっかで感じたような気もするなあ、似たようなのを……。
「……」
カーシャは廊下を歩きながら、足を止めた。
【迷子の少年】と話しているバッキー。
その様子を見ておこうと思ったのだが、
――妙な……。
殺気ではない。
しかし、相手を威圧するような強い気配。
どこかでそれを放っている者がいる。
――噂の子……。おかしなものと関わっているかもしれないわねえ?
気配の方向を見ながら、カーシャは首をひねる。
その先には――
五馬と笑いながら話している、少女の姿があった。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人