破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その83、サバエナスアシキカミ-2

 

 

 

 

 

 

 

「おやまあ」

 

 つぶやき声。

 

 セーヅからほど近い山中。

 雑木林の中に、エルフの少女が座り込んでいる。

 

 ユオン・キナ。

 

 王宮所属の魔導士。

 

 ――こりゃまた厄介なものが出てきちゃいましたねえ?

 

 銀髪のエルフは――

 杖の先で、土からはみ出しているものをつついた。

 

 紫の水晶……のようなもの。

 魔石に似ているが、同じものではない。

 

 ユオンは魔法で、それを地面から引き抜いた。

 

 空中に浮かぶ全容。

 紫の水晶で造られた、細長い釣鐘(つりがね)のような。

 

 ここにバッキーなどがいれば、

 

銅鐸(どうたく)? 弥生時代?」

 

 そんなことをつぶやいただろう。

 

 紫水晶の物体は、内部から砕けている。

 中にあったものが、出てきた。

 そんな印象。

 

「地上に出てきたってことは……」

 

 【獲物】が見つかったってことですか――

 

 ユオンは肩をすくめてつぶやき、

 

<えーと、やっぱりありました。はい。ある意味……あのご令嬢より厄介案件ですねえ。はい。うーん。獲物がいればそれで満足するんですけどね。えー、そうですそうです。獲物に対する執着はとんでもないです。〝世界〟を移動しても、必ず見つけて追いかけますねえ。そうなってくれたら、むしろ楽なんですけど>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、あの()ですだか?

 

 そりゃ良い()です。

 気もきくし、目端もきいてねえ。

 かゆいところに手が届くって感じで。

 

 ええ。

 

 聞いた話じゃあ、よそから流れてきたそうですね。

 流民。

 そうですねえ、最初見た時は小汚い……。

 ああ、いやボロボロで苦労した感じで。

 

 でも。

 すれてるとか、世を()ねてるとか。

 そんなのはなかったですだ。

 

 前向きっていうのか。

 ある意味、たくましいっていうか。

 図太いんだべ?

 いや、もちろん良いですよ。

 

 はい。

 魔法もねえ、器用に使って。

 

 いえいえ。

 

 そりゃあね?

 お連れさんみたいな、すごい治癒魔法みたいなのは使えねえです。

 ははは。

 あんなぁ、騎士団の凄腕魔導士でも無理でしょうが。

 

 けど。

 普通に生きていく分には、もう十分ですだ。

 ありゃあ、何がどうなってもちゃっかり生き抜いていく器だで。

 

 そういう意味じゃあ……。

 

 むしろ。

 あのイツマのほうが心配だったですだ……。

 

 けどねえ。

 あの()と友達になってからです。

 だんだん元気を取り戻してきてね?

 一時はどうなるかと思ったんですが。

 

 でもねえ。

 やっぱり帰してやれるなら、帰してあげてえです。

 私もね?

 小さな頃、ここらに流れてきて……。

 

 苦労。

 

 ええ、まあ。それなりにはね?

 

 だから、故郷(くに)が恋しいとか、帰りてえとか。

 そういう気持ちはよくわかるんです。

 つらいもんですから……。

 

 はい。

 

 え?

 

 いえいえ。

 あの()はねえ。

 どうするんだって、そのへんをチラッと聞いたですよ。

 

 そしたら。

 

 〝どうせ根無し草だし、一緒に行っても良い〟なんてことをねえ。

 かわいいもんですだ。

 

 いえ?

 

 おんなじ女だからわかりますけど。

 ありゃもう、完全に惚れてますだ。

 見ていてねえ、微笑ましいやら照れくさいやら。

 

 はいはい。

 ですから。

 

 ご相談にうかがって、お頼みしたわけでして。

 

 大変失礼ながら……。

 ダメでもともと、ということで。

 

 いえ。

 そこはですね?

 ダメだったらダメだったでねえ。

 

 あの()をもらって、ここで腰落ちつけても良いべ?

 そう思うだ。

 

 いや。

 

 どっちがもらわれるんだって気にもなりますだが……。

 ほほ。

 そんくらいのねえ。

 気概がなくっちゃあ……。

 このヤオアムトで女を張っていけねえです。

 

 微力ながら?

 うちのほうでも、これも(えん)だってことで。

 世話ぁするつもりですだ。

 

 はい。

 はいはい。

 

 本当にねえ。

 

 え?

 

 ああ。

 名前ですか。

 すっかり忘れておりまして……。

 また失礼を。

 

 ノマ。

 

 ノマ・アザコ。

 

 はい。

 そういう名前で。

 

 はい。

 ええ……。

 はいはい。

 

 あらま。

 

 ホントにどうも……。

 ありがたく頂戴(ちょうだい)させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――胡散臭い。

 

 女主人から話を聞いた後。

 

 カーシャは街を歩いていた。

 イツマ、という少年。

 

 いや。

 

 それに引っ付いている少女。

 ノマ。

 

 どこか――

 危険なものを感じた。

 

 その少年が、ではない。

 

 ――周辺。何か1つ間違うと……。

 

 大惨事。あるいは、災害。

 

「――?」

 

 ふと、カーシャは足を止めた。

 ある気配。ある音。

 

 

 

 

 ガッ

 ボコッ

 

「なんだ、その偉そうな目は?」

 

 そこに、行ってみると――

 

 いかにも。

 そういう風体の男が、子供を蹴りつけていた。

 

 子供……いや、少年。

 そっちは一方的にやられても、眼はどこかギラついていた。

 

 黒い髪。

 何より、その風貌。

 

 ドガッ

 

「ぎゃん!?」

 

 カーシャは、横から男を蹴りつけた。

 

「~~~~~~~~………」

 

 男は悶絶して声も出せない。

 

「ふむ」

 

 カーシャは男を軽く蹴って転がしながら、観察。

 手の甲に、ギルドの紋章がある。

 

 ――冒険者か……。こんなバカをろくにしつけられないとは。

 

 なるほど。

 騎士団に負けるわけだ。

 

 カーシャは失笑して、少年に近づく。

 どうやら、紋章はない。

 つまり、ギルドに所属する冒険者ではないということ。

 

 ――冒険者同士ならまだしも、他の所属か、一般人に手を出すとは……。さっさと始末すればいいものを。

 

 冒険者はギルドから色々援助を受けられる。

 仕事(クエスト)の斡旋から、足を洗って一般人(カタギ)となる手伝いまで。

 

 が。

 逆に言えば。

 極端な話、生殺与奪を握られているということもである。

 

 ネビズなら、

 

 ――あんな真似してれば速攻で捕縛、縛り首ね。

 

 カーシャがアレコレと目こぼしをもらっていたのは……。

 あくまで同業者やモンスターが相手であり、その実力が異常だったから。

 ただし。

 何かやった時はペナルティを喰らって、

 

 ――厄介なクエストをさせられたり、ね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがと」

 

「ありがとう?」

 

 カーシャは少年を肩に担いで、宿に戻る――

 その途中で、宿近くの河原に立ち寄った。

 

 カーシャにおろされた後、少年はお礼を言ったわけだが。

 

「助けてもらったから……」

 

 腫れた顔で、それでも少年は笑顔を向ける。

 

「ああ」

 

 カーシャは顔を空に向けて、

 

「まあ、同業の尻ぬぐいみたいなものよ。ああいうのは」

 

 さっさと始末しなければ、ギルドとしても迷惑だろう。

 

 後の言葉は、口に出さなかった。

 

「それで。あなたが、迷子の男の子、かしら?」

 

「へ?」

 

 少年は、カーシャの言葉に変な顔をした。

 

 

 

 それから。

 おおよそのことを、話した後――

 

 

 

「よーするに」

 

 カーシャは冷笑しながら、

 

「可愛い女の子と仲良くやってる男の子がむかついたから、難癖をつけて痛めつけてたわけねえ……」

 

 どうしようもないバカだ。

 ホントにもう、すぐ殺したほうが良いわね。

 

 カーシャは内心で肩をすくめて、

 

「けど。あなた、爆裂魔法? みたいなスキルがあるんでしょ? 手加減できるならさっさと……」

 

「撃てないんだ……」

 

「は?」

 

「アレ以来、怖くって怖くって……。撃てなくなった……。やろうとすると、体が震えて……」

 

「ふーん」

 

 そんなこともあるのか――

 と、カーシャはどこか不思議な気分になった。

 

「で。あのゴロツキに殴られてたと」

 

 せっかくのスキルも意味がないわね。

 

 カーシャは淡々と感想を述べる。

 

「情けないよな」

 

「半端だからよ」

 

 カーシャは、水色の瞳を微かに光らせた。

 

「……え?」

 

 顔を上げる少年に、

 

「何かのきっかけで、2~3人ほど殺してみなさい。すぐ慣れるわ」

 

「な、慣れるって……」

 

「そういうものだからよ」

 

「……い、いや、でも」

 

「別に――」

 

 カーシャは背を向けながらのびをして、

 

「ご大層なスキルなんか使う必要もない。槍でも投石でも、要は殺すことに慣れてしまえばいい。それで解決するわ」

 

「む、ムチャクチャだよ……!」

 

「そお?」

 

 カーシャは、少しだけ少年を振り返る。

 つまらなそうな顔。

 

「できなきゃ、何かあれば泣き寝入りするしかないわね。それとも、身投げでもする? 首でもくくる?」

 

「…………!」

 

「あなたの可愛い〝オトモダチ〟がピンチになっても、撃てませんと泣くわけ?」

 

「そんなこと……!」

 

 五馬は、噛みつくように叫んだ。

 

「ふむ」

 

 少年の表情に、カーシャは自分の白い顎をなで、

 

「なら、割り切るのね」

 

「割り切る?」

 

「そ。相手に価値とか、そんなもの認めなければいい。つまりは虫けらか何かと思いなさい。そうすれば、殺すのも吹っ飛ばすも……」

 

 どうってことないわ。

 もちろん、死ぬまで殴りつけるのも。

 

「スキルが使えないなら、毒でも弓でも使えばいい。後ろから、そうね」

 

 と、カーシャは河原に転がる石を指す。

 

「あれくらいなら、両手を使えば持ち上げられるでしょ? あれで思い切り殴ればいい。1度で死ななければ、何度でも」

 

「…………」

 

 とんでもないことを――

 まるで、日常会話みたいに語る青い乙女。

 

 五馬は絶句するばかりだった。

 

「それと」

 

 カーシャは意地の悪い笑みで、

 

「さっきのバカは、手加減したからまたすぐ元気……か、どうかは知らないけど歩き出すでしょ」

 

 そうすると――

 何を企んで、しでかすかしらねえ?

 

 陰湿な響きのある、カーシャの言葉。

 それに。

 少年はハッとして、よろけながらも立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
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