破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なに、オジサン?」
少女――ノマは嫌な顔で男を見ていた。
先ほど。
カーシャに蹴飛ばされた男は、ひょこひょこ歩いてるところを、
――あの
そうなると。
男の行動は決まっていた。
「そう怖い顔をすることはねえよ」
ノマを壁に押しつけて、ニヤニヤ笑うばかり。
「お前によ、本当の大人の男ってものを教えてやりたくってな?」
勝手なことを言って、ノマを肩をつかむ。
この先。
何をどうするのかは、もう知れていようというのもので。
男の手はまったく遠慮もなく――
ノマの服にもぐりこんだ。
しかし。
この時……。
スッと、ノマの顔から表情が消えた。
その瞳から、感情というのがなくなり――
まるで仮面のような、モノに変わっていた。
その気配、雰囲気も一変する。
絶望とか諦め。
そういう種類のものではない。
まるで、踏み潰す前の虫けらでも見るような……。
これに、男のほうは全く気づいていない。
おまけに。
後ろから、凄まじい形相の少年が走ってくる。
これにもぜんぜん気づいていなかった。
少年……五馬。
声は出さなかった。
ただ、血走った眼で、思い切り――
ボシュ
手斧。
それで、男のふくらはぎを打った。
「ギャアッッ!?」
完全な奇襲に、男が転がって悲鳴を上げる。
そこへ、
「~~~~~~~~~!!!」
わけのわからない叫びをあげ、
ザクリ
五馬は男の腕に手斧を振り下ろす。
「!?!!?」
衝撃と驚きと、痛み。
それらを同時に喰らって、男は声も出せない。
さらに五馬は、
ブン!!
手斧を振り回して、頭を狙う。
本能的、動物的な行動。
しかし。
手元が狂った。
斧は男の腕をかすめて、飛んでいってしまう。
「こ、この、ガキ……!」
片腕、片足を使えなくされた男は、憎悪を目で五馬を睨む。
「こんな真似して、どうなるか……!!」
「うるせえ。死ね」
五馬は、そう返した。
自分でも驚くほどに冷静に――
瞬間。
ボッ!
放った爆裂が、男の腕を吹き飛ばしていた。
これで。
両腕を失ったことになる。
「ぎゃ!?!?!」
踏みつぶされた蛙みたいな声。
ガッ
吹っ飛んだ男を――
正確には、その頭を誰かがつかむ。
青い髪をした、美貌の乙女。
「悪いけど――これは冒険者ギルドのほうで始末するから」
「お、おねえさん……」
返り血を浴びた五馬は、呼吸を乱しながら
「本来なら、こういう
「あの……」
「まあ、ご協力感謝いたしますわ。後で、お礼にうかがいましょう」
「……」
「そういえば」
「え?」
「爆裂のスキルは使えるようね」
「……あ!」
カーシャの指摘に、五馬は自分の手を見る。
「あと、それ――血」
驚いている五馬――
カーシャは、その受けた返り血を指摘して、
「早く洗わないと、臭うわよ?」
「あ、はい」
うなずく五馬から視線を変えて、
「さて。バッキー、一応応急処置はしておいて。とりあえず生きていればいい」
カーシャは後ろのバッキーに、死にかけた男を突き出した。
「りょ、了解です」
バッキーはあわてながらも、慣れた仕事を淡々とこなしていく。
「あ、あの……。おねえさん」
そんなカーシャへ、五馬はおずおずと声をかける。
「あ、ありがとう、ございます。色々と、その……」
ギュッと拳を握り、少年はカーシャを見た。
興奮と緊張。
でも。
震えてはいない。
「ええ。大きな恩ね? 忘れてもらっては困るわ」
「あ、は、はい!」
「バカ。冗談よ」
思わず、気をつけの姿勢で応える五馬――
カーシャはそれに苦笑をもらす。
「……で。お前」
それから。
カーシャは、転がっている男に近づく。
命令通り、とりあえず止血と延命処置だけされていた。
とりあえず、落ちついたのだろう。
男は下から五馬を睨んで、
「て、てめえ、後で、覚悟しとけ……。てめえも、そのメスガキも……」
「次?」
しかし。
カーシャはそこに割って入り、
「のんきなこと。お前、次なんてものがあると、本気で思ってるの? 能天気というか、どんくさいというのか……」
「……!?」
その冷たい笑いに、男はサッと顔色を変えた。
「今まで生きてこられたのは、ここのギルドがのろまだったからよ? まさか、自分の命に価値なんてものがあると思っていたのかしら?」
「……そ、そんな」
「そんな? お前、今までどれだけ甘えた暮らしをしていたの?」
カーシャは呆れた顔で男の頭をつかみ、
「心配いらない。別に拷問されるわけでもないわ。さっさと死ぬだけよ。楽なものね」
ずるずると、引きずりながら歩き出した。
「バッキー、一応その子を診てあげなさい」
「そうですね。君、痛むところは?」
バッキーは小走りに五馬に駆け寄ろうとして、
「うひっ」
妙な声でこけそうになった。
いつの間にか。
少女――ノマが五馬のそばにいた。
少年に、肩を貸している。
「あ、えーと? す、すいません……」
「なにやってるの?」
振り返るカーシャに、
「いえ、あの。昨日のお酒がまたぶり返してきちゃって……ふひっ。ちょっとその、調子が」
「あっそ。まあいいけど」
カーシャはどうでも良さそうに言ってから、
「――あなたのことになったら、その騎士様は目の色を変えたわよ?」
ずいぶんと、愛されているわね。
女冥利につきる、というやつかしら。
ノマにそう言って、また歩き出す。
バッキーはひょこひょことその後についていった。
ノマは――
極めて分かりにくいが……。
カーシャたちに向けていて、得体のしれない視線。
サッと。
それを消して、少年に治癒魔法をかけ始めた。
五馬は、顔を赤くして斜め横を見ている。
いや。
何も見てはいない。
視線をそらしているだけで。
「あ、あのリーダー? あの
「そうね」
カーシャは不思議そうな顔で空を見ながら、
「まあ、
「はあ……」
バッキーは首をかしげるばかり。
「たぶん、だけど。人間じゃないですよね」
「人間以外の種族なんて、珍しくもないでしょ」
「それはまあ、はい。確かに……」
獣人にエルフ、トロル。
そんなのが普通にいて、中には人間社会で暮らしている世界。
「あれ? そういえば、マコネさんは?」
バッキーは辺りを見回す。
はしっこくて猫っぽい少女。
彼女の姿が見えない。
「どこかで買い食いでもしてるんじゃないの?」
「そうですか?」
あまり納得のいかないバッキー。
でも。
特に深くは聞かなかった。
それからまた、しばらくして――
「話どおり、健気ないい
カーシャは、女主人にそう言った。
「ええ、ええ。そりゃあもう」
うなずいている彼女へ、
「それはそれとして……。男の子、あっちのほうには変なのがウロウロしているみたいだけど」
「……。え?」
ちょっと首をかしげている女主人に、
「とぼけなくってもいい」
カーシャは小さく笑った。
「変なの、というのはおかしいわね。領主がたの騎士団かしら」
「……お見それいたしました」
女主人は観念したように、頭を下げる。
「ずいぶんと、大事なことを黙っていたものね」
「お、恐れ入りまして……」
ほとんど土下座しかけた女主人へ、
「ギルドと微妙な関係の連中とのことが知れたら、手を引かれるか。あるいは対抗意識で余計に揉めるか」
「本当に、まったくもって……」
「できるだけ、内々に。まあそう頼むのが道理かしら?」
カーシャはククッと笑う。
横で知らん顔をしているマコネをチラッと見ながら。
少し前――
「どうもおかしな感じだったぜ?」
帰ってくるなり、マコネはそう言った。
「あの野郎、周りにチラチラ妙なのがいやがる。気づかれねえようにはしてるが……」
さらに――
「それにさ、領主がたの騎士団? 手伝いをさせてたっていうが、妙にあいつを構っているつうか……。いや、事によれば無理にでも引きずっていくような気配があったね。表には出してないが、わかるヤツにはわからぁな」
「へえ? 稚児にでもするつもりかしら」
稚児。
つまり、男色の相手をさせる少年のことだが……。
「さあね。ただ親切ごかしにアレコレ言ったりやったりしてるのは確かだよ」
こういった情報を聞きながら、
――考えれば、アレも異世界から来た転生、いえ、この場合は転移者か。それに、妙なスキルも持っている……。
あの爆裂魔法。のようなもの。
――魔法とはちがう。つまり、対魔力の防御が効かないか、効きにくい……。特殊能力。
「あなた、〝できれば帰してやりたい〟と、言ってたわね?」
「は、はい」
「そうしなければ、いずれ領主の騎士団に引っ張っていかれる。ついでに、ギルドも頼りにならない」
「……はい、おっしゃるとおりでして」
どうやら――
女主人は観念したらしかった。
「ま、そこは事実だし。私には別にどうでもいいことだけど」
放置すると、どしゃぶりみたいな血を見ることになりそうね。
カーシャは淡々と、凄まじいことを言った。
「それもまた、私にはどうでもいいこと、ではあるけど……」
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人