破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「それで、相談された一件だけどね」
「は、はい」
セーヅの温泉宿。
その中で、最上級の部屋。
カーシャは、向かい合っている女主人に、
「あれこれ言ったり聞いたりしてみたけど、まあ無理ね」
と。
すげなく言った。
「え?」
「だから、無理なの」
カーシャは重ねて――
噛んで含めるように、そして冷淡に言った。
この後。
カーシャの3人パーティーは、宿を出た。
出る前に、
「色々世話になったわね」
と、見送りに出た使用人たちに【心付け】を渡していった。
ちなみに。
直接渡したわけではない。
その役をつとめたのは、マコネだった。
「あのー、すぐ帰るんですか?」
「そうね。ま、本部からうるさくも言われてるし」
「もうちょいと、のんびりしたかったけどなー」
3人の女たちはあれこれ言いながら、転送ゲートに向かっていった。
それから。
ほどなくして――
「少し、急ぎの用だ。一緒に来てくれ」
「へ?」
街でノマと歩いていた五馬は、顔見知りの騎士に呼び止められていた。
宿の女主人より、
「これはね、ドラゴンスレイヤーのかたがあんたにって。ありがたく
預かったという【おこづかい】を受け取っていた。
こういうわけで。
ノマと一緒にデート? のようなものをしていた途中。
「先日、スキルが使えるようになったと聞いて。いや、ご領主も心配しておられてね? 良くなったと聞いて、お祝いついでに君と会ってみたいとおっしゃるんだ」
「そうだったですか?」
「うん。魔道馬車を用意している」
「あ、でも」
五馬は困った顔になる。
「いやなんなら、そっちのお嬢さんも一緒でかまわない。祝い事だからな」
「それなら……」
納得する五馬に、
「すごいじゃないっ。えらいヒトにお呼ばれするなんて」
ノマはニコニコして、軽く五馬の背中を叩いていた。
が――
そのわずか合間。
感情の見えない、得体のしれない視線を、騎士に送っていた。
騎士のほうは、まるで気づいていなかったが。
「姐さん、変なことになったぜ」
セーヅの街……。
から離れ、街道沿いの林。
街道を見張っていたマコネは戻るなり、早口で言ったが。
「領主の騎士団が、あの子を連れていったんでしょ」
軽装に着替えながら、カーシャは言った。
振り向きもしない。
「そうだよ、高そうな魔道馬車でさ。おまけに――」
「もしかして、あの茶色髪も一緒かしら?」
「いかにもその通り……って。まさか姐さん、わかってたのかい?」
「なにかするんじゃないか、とは思っていたけど」
ずいぶんせっかちなことね。
カーシャはそう言って、消えた。
一瞬、強い風を起こして。
マコネは思わず目をつむった後、
「姐さ……。っとに、相変わらずとんでもねえ足だな……」
姿のないカーシャにため息。
「どういうことなの?」
バッキーはオロオロするばかり。
「さてね。おいらの頭じゃよくわかんねーけど……」
マコネはポリポリ
「ただ、ちょいと聞いた話じゃあよ? ここの領主様はけっこうなお年らしいぜ」
「へ? はい。はい……?」
いきなり変な話題。
バッキーは意図がわからず、とりあえずの相づち。
「さて、そろそろ家督を譲ってご隠居に……といきたいらしいが。そうもいかねえようだ」
「いえ。あの? それがいったい……」
「ま、一応聞きなよ。ご領主には2人息子がいなさるが、どっちも互角というかドングリの背比べってのかね? どっちが跡目継いでもおんなじみてーな?」
そいでさ。
このバカ息子……いや、ご子息2人が跡目争い。
公然の秘密って感じだな。
マコネは皮肉な顔で言った後、
「こいつはさらに表立って言えないがよ。あのガキ……」
「五馬くん?」
「うん。あいつ。アレの処遇ってのかい、それに関して意見がわかれてるようだぜ」
マコネは人差し指を立てて、声を潜めた。
「?」
「一方はフン捕まえて、その変な能力を研究しようと言ってる」
「な……!?」
バッキーは息を飲んだ。
それでは、まるで
「もう一方はな、いや下手にそんなものをつっつくとヤバい。だから、中央に送って忠誠心を示しておこう、と。こういうことらしいな。
「そ、そ……」
うまく言葉の出ないバッキー。
「今まで放置っつうか、露骨なことをしなかったのは、意見が割れて動きがまとまらなかったのか。それとも、じいさん領主が止めてたのか……。そりゃ知らんけどね」
そこにさ、姐さんが来ちゃっただろ?
マコネは意味ありげに、バッキーの顔を見る。
「……
「おうよ。下手に荒事になりゃどうなる? 悪名高い
「ふふん」
と。
木陰から、カーシャは冷笑した。
領主の構える城。
地方であり、国境近くというわけでもない。
比較的〝安全〟な土地ではあるためか、
――古いわね。古式ゆかしい、というのかしら。
ま、中身は相応に強化やら補修されてるかもしれないけど……。
胸の内でつぶやきながら、音もなく城へ近づいていく。
「……」
しかし。
カーシャは途中で足を止め、城を見つめた。
瞬間。
ボッ!!!
轟音と共に、城の一部が吹っ飛んだ。
どうやら、
――内部からか……。もしやとは、思ってたけど。
カーシャは肩をすくめて、走った。
古城の内部。
そこはもう阿鼻叫喚。
多くの者が逃げ出したり、叫んだり。
――おかげで? まあ入り込むのに手間はいらなかったけど……。
激しい震動。
時々落ちてくる建物の破片。
悲鳴。
おたけび。
カーシャは、中庭から城を見上げる。
――ちょっと、面白いな。
トンッ
そんな気持ちを抱きながら、カーシャは跳んだ。
あちこちを蹴り、調整しながらそれらしい場所を目指す。
――このへんかな?
と、目星をつけた時だった。
ボゴォ……!
白の壁が吹き飛んで、瓦礫と一緒に鎧姿の……おそらくは、男。
こういうものがいくつも飛び出してくる。
――ふうん?
落下していくその体、鎧。
大きな穴があいていたり、頭の半分がきれいになっていたり。
ただ。
流血はない。
――たぶん、一瞬で焼けて固まった……。熱線の魔法?
魔力を一点に集中して、収束して放つ攻撃魔法。
バッキーならば、
「ビーム攻撃?」
というようなモノ。
――威力は高いけど、なかなか習得も難しいらしいけど……。いや、ちがうかしら。
落ちていく死体を観察したところ。
流血はないが、焼けたという感じでもない。
鎧や肉体の1部分が消えてくなっている。
まるで。
最初から、そこに存在していなかった……ように――
「どれ」
城に、ぽっかりひらいた穴。
カーシャはそこからひょいと侵入する。
「おや」
そこで見たものに、カーシャは奇妙な感覚。
あちこちに、武装した男たち、いや女もいるが……。
これが、何人も床に転がっていたり、
――なに、これ?
壁にめり込んでいたり。
――いやいや。これは……。
よくよく見れば、めり込んでいるのではなく、
――一緒に、混ざり合ってる?
たとえるなら。
赤い粘土と青い粘土。
その2つがまざこぜになったような状態。
もはや。
どれが生身の肉体と、どれが鎧か壁なのか。
よくわからなくなっていた。
そして。
部屋の中央に、何かがいた。
巨大なコウモリの、黒……いや、半透明の翼。
全身に走る赤い奇妙なタトゥー。
細長い尻尾――先端が矢尻のような突起。
頭には、コウモリの耳。
――サキュバス? いや、
なんなの、こいつは。
カーシャは、初めて見る種族を観察した。
「………」
ユラユラと、燐光を放つ眼。
それがカーシャを見返す――
ノマという名の少女。
その腕には、気を失った五馬が抱えられていた。
「やれやれ……」
山中。
そこにある目立たない洞穴。
奥内で、ユオン・キナはため息。
目の前には、奥深くまで広がる穴。
上下左右いたるところに魔石……その材料となる魔力の結晶。
「こりゃあまいりましたね……」
ユオンはしゃがみ込んで、じーっと奥を見つめる。
人間とは異なる、視力。
それは、奥深くに放り出されている物体を発見した。
放射能の、ハザードシンボル。
「……こんなところで、魔石の大量生産ですか」
ユオンはまたもため息。
それから。
目の前にあるモノを確認した。
薄い、しかしどこまでも強靭で収束した結界。
――こんなもんがあっては、どうにもなりませんねえ……?
自分には手に負えない結界。
それを見ながら、ユオンは首を振った。
――派手な大型魔法を使うつもりかしらん? いったい全体、どういう魔法なのやら……。
立ち上がりながら、ユオンは外へ意識をやり、
――あ~あ……。派手に暴れ出しちゃったようで。まあ、アレからするとコバエを追い払ったようなもんでしょうけど。
困りましたねえ。
ブツブツ言いながら、ユオンは洞穴を出ていった。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人