破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
感想をいただくたびに何とかやる気と気力が出てきております
遠く離れた場所――
ユオンはそこから城の様子をうかがっていた。
城内では、青いドラゴンスレイヤーが翼のあるモノと対峙している。
その背後に、近づく者があった。
「おい、ババァ」
エルフの後ろに立った相手は、口汚く言った。
「相変わらずお口が悪いですねえ。せめて、おばあちゃんと言えませんか?」
ユオンは振り返りながら、相手の顔を見る。
ウェーブの銀髪のエルフ。
顔の傷。高い背丈。
「はっ。そんな可愛らしい呼ばれ方するタマかよ」
顔に傷のあるエルフ――ゴーギャ・キナは、軽く吐き捨てた。
「困った孫ですよ、ホント」
ユオンは首を振ってから、また城に視線を戻す。
「そんなタワゴトぁどうでもいい」
あいつはなんだ。
挑むような口調で、ゴーギャはユオンに言った。
「闇のエルフ?」
「ふざけるな」
ゴーギャは、振り向きもしないユオンの返事に顔をしかめた。
「翼も、耳も。肌の色も。まるで別物じゃねえか。角もないし、なんだ頭のコウモリ耳は。あんなもん生えてるエルフなんぞいるもんか。
「じゃあ、コウモリ系の獣人でしょ」
やはりユオンは振り返られない。
「……おちょくってるのか? そいつらは、腕が翼に変わるんだ。背中からはえたヤツなんかいねえ。だいたい……」
タダの獣人が、あんな魔力を持ってるわけがない……。
ゴーギャは言って、ユオンの隣りに立つ。
「そうですねえ」
ユオンはちょっと孫の顔を見てから、
「大陸の種族たち的な呼び方をすると、ドゥルジ・ナス――ですか。単に、ナスと呼んだりもします」
「なんだ、そりゃ」
「勉強が足りませんね? ハエの女王とかハエの悪霊とか、そんな風に呼ばれる
「神? アレが神様、いや女神様か。ずいぶんと――」
「短命の種族から見れば、しょうがないってことです。別に、神様ではありません」
本物の神様なんて、私も見たことありませんけど。
と、ユオンは言って首をかしげた。
「ふふん」
ゴーギャは鼻で笑い、
「そんなモンがなんでいきなり出てきやがった」
「いきなり、でもありませんね。少なくとも3カ月ほど前から出てきてますよ」
「あ?」
ユオンの答えに、ゴーギャは不可解そうな顔。
「彼女たちは身を隠すのも偽るのも、非常に得意でね? 私も、存在を知ったのはつい最近です」
「――出てきた理由は?」
「餌、ですね。あるいは、
「ははっ。
「カマキリや蜘蛛みたいに頭からかじるわけではありません。別の方法です。それに、相手も死ぬわけじゃない。むしろ、健康で文化的な生活を送るんじゃないですかねえ」
「……おい。そいつぁ、まるで」
「一番近いモノを強いてあげるとすれば……乳牛ですかね?」
「お前――」
半透明の翼を持ったモノ――
ノマが言った。
「なにしに来たの?」
「それが、問題ね」
カーシャは淡々と応える。
手にした
――これは、わからないわね……。
相手から感じる危険な気配を受けながら、カーシャはゆっくりと呼吸をはかる。
負けるつもりはない。
でも。
確実に勝てるかは、わからない。
――久しぶりね、これは……。
肉体が、心が――
あの頃に戻っていくのを実感できた。
〝地獄〟で何度も何度も何度も何度も――
殺し続け、殺され続けた、あの時に。
――いや。
戻る、というのもどこか違っていた。
――なんと、いうのかしらね。
薄っぺらいいくつかの皮。
それが、
――本性がむき出しになった、か。
フフッ
カーシャは、小さく笑った。
嬉しくも楽しくもない。
胸が躍るとか、興奮するのとも違う。
なのに。
小さく笑みがこぼれしまった。
「変なヤツ」
無防備に、ノマは言った。
隙だらけだ。
しかし。
攻撃した瞬間、未知の攻撃が
そういう確信が、カーシャの胸によぎった。
……うわ。
……なにっ!
……なんだぁ!?
小うるさい声が、あちこちから聞こえる。
別に。
巻き添えが出ようが知ったことでもないが、
「…………」
カーシャは、ノマを見ながら――
外に向かって親指を向けた。
――ついてこい。
そういうジェスチャー。
「へえ」
これに、ノマは目を細めた。
そして。
腕の中にある少年を愛しげに、優しく抱きしめた。
セーヅ・温泉宿。
自室で、帳簿のチェックをしている途中。
女主人がどうにも集中できず、
「ふう」
何度目か、中断をした。
あの時。
「無理、ですだか」
やはり。
まあ、そうなのだろう。
女主人が諦めの中で、ほうと息を吐いた後――
「そういうことにしておきなさい」
「……すると」
何か、
思わず近くに寄ろうとする女主人を、
「特に、言うことはないわ」
と。
カーシャは軽く手をあげて制した。
「聞かないほうが良い」
青い乙女の仕草。
そこには、警告というか命令がこめられていた。
「はい、はい……」
女主人も、そこはすぐに引いた。
それから。
ほどなくして――
「
出入りの職人が報せに来た。
五馬は、本名よりもその愛称で呼ばれ、知られている。
――あ。こりゃあ、いけない……。
女。
あるいは、長年客商売をしてきた者の勘だろうか。
それが鋭く反応した。
領主の騎士団には、街の守りなどで世話になっており、恩もある。
つまり。
相応の付き合いもあった。
また。
騎士の中には、親しく話す者もいる。
が……。
それだけに、きな臭さはよくわかった。
――どんなもんだって、後ろ暗いところはあるけども……。
こと、五馬に関してはどうにも看過しがたいものがあった。
なんのかんのと言って、モンスター退治だ野盗討伐に連れ出す。
それが祟って――
五馬は野盗を殺して、
ノマという存在がなければ、
――危なかったかもしれねえだ。
そこを危惧して、ダメで元々という気持ちでカーシャに相談を持ちかけた。
というわけで。
だが。
こうなってしまうと、もはや彼女ではどうにもならない。
――あの、青髪のヒトに期待するしかねえども……。なるのか、ならねえのか……。
「へえ?」
と、ノマは面白そうに言った。
人里はなれた山中。
大昔に掘られた、鉱山跡のそば。
カーシャとノマ。
両者はそこで対峙していた。
「あんたみたいなのを……そう、エインヘリヤルとか言うんだっけ?」
「なに?」
予想もしなかった呼ばれ方。
これに、カーシャは面食らう。
といっても。
顔にはまるで出なかったけれど。
――確か、古い異国の神話にあったような……。あれは、確か。
・死後、軍神に招かれた戦士者たち。
・来たるべき悪魔たちの決戦に備え、日々殺しあい、腕を磨く。
・日中は殺し合い、夜には蘇って宴会を楽しむ。
「フフフフフフ」
カーシャは口元を押さえた。
「まあ……。一部分はあってなくもないわね。別に、戦死者の幽霊ではないけれど」
「あれれ? ちがうの?」
不思議そうなノマに、
「私は軍神に招かれたおぼえも、戦乙女に運ばれたおぼえもないのよね」
「なにそれ。知らない」
「は?」
小さく首をノマ。
その反応にカーシャは首をかしげたくなった。
「運ぶってなに? 死人の魂? ヴァルキリーたちはそんなことしない。あいつらは」
戦争。
殺し合いが趣味で生きがいの、アブナイやつらだし。
いきなり。
ノマは見てきたように、おかしなことを言い出した。
「血みどろドロドロ。自分が殺されたって
言いながら――
ノマはやれやれと首を振り、肩をすくめる。
「……お前、何者?」
カーシャは、ノマを睨む。
警戒。
それに伴う、適応と鋭敏さをもたらす恐怖。
恐怖は怒りに、防衛本能に、相手の分析に、肉体の活性化に――
カーシャの【スイッチ】をあっという間に切り替えていく。
「へえ? そういう気なんだ。だったら、」
ノマは気絶したままの五馬を優しく、ゆっくりと。
すぐ近くに、いつの間にか、空間にできた裂け目。
そこへ軽く押し込んだ。
途端に、裂け目は閉じて無くなってしまう。
「それなりに対応しないとね?」
裂け目が消えたと同時に、ノマはふわりと浮き上がった。
――異なる空間に、結界を張って隠した? なんなの、この魔法は……。
聞いたこともない。
できたとしても、どれだけの研鑽を積んだ魔導士なら可能なのか。
そんな人材がいたとしても、
――個人の力でできるとも思えない……。
少しずつ。
殺気と魔力を増していくコウモリに似た少女。
それと向かい合いながら、
――こいつ……。
カーシャは、久しぶりに〝死〟を意識した。
――ここで死んだら、また
そんな思考もやがて消えてなくなる。
やがて。
ぐにゃりと歪んだ空気が破裂――
いや。
爆発した。
「あーあ。始めやがった」
遠く。
カーシャたちを追跡していたゴーギャは、呆れた顔でため息。