破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その87、サバエナスアシキカミ-6

 

 

 

 

 

 3カ月前――

 この〝世界〟に来てしまってから。

 

 最初の数日間。

 その間、五馬はとにかく苦しんだ。

 

 全身がだるく、発熱が続き、下痢や嘔吐に苦しんだ。

 体中の骨や筋肉が痛み、満足に眠れない。

 

 このまま死ぬかとさえ思った。

 

 朦朧とした意識の中。

 何度も日本の、家や家族の夢を見た。

 

 ――帰りたい……。

 

 何度も思って、死にたくなった。

 

 しかし。

 ある夜から、急に体が楽になる。

 

 誰かがそばにいてくれるような。

 

 そんな気配を感じながら、眠りに落ちた翌日。

 五馬は完全に回復していた。

 むしろ、以前よりも調子が良くなった、とさえ言える。

 

 

 その勢いで、宿の手伝いなどを始めた。

 

 この後、すぐ。

 宿に山菜を売りに来た女の子と友達になった。

 

 ちょっとした世間話がきっかけ。

 

 それほど女の子相手は得意ではない。

 むしろ苦手だった五馬だが――

 

 彼女相手だと、何故か自然体で気後れすることもなかった。

 

 女の子の名前は、ノマといった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく。

 

 なにかと、なにかが――

 得体のしれない動きと、異常な速度でぶつかり合い、削り合う。

 

 そのたびに……。

 

 轟音。

 というよりは?

 耳どころか、肉体を砕くような衝撃波がまき散らされる。

 

 これが街中などなら、大惨事。 

 下手をすれば街そのものが壊滅しかねない。

 

 ヒトのいない山中であっても、そこに棲む生き物にとっては大災害。

 

 

 時間にすると――

 

 

 10分どころか、5分も怪しい。

 

 しかし?

 その間に、周辺の景色は一変していた。

 

 地面がえぐれ、樹木が砕けて、散らばって。

 まったく原形がない。

 

「ふうん……。さすが、エインヘリヤルなだけはあるね?」

 

 空中に浮きながら、ノマは燐光を放つ瞳でカーシャを見る。

 

 ――……やはり、こいつ。

 

 カーシャは、黒剣を握り直しながらノマを見た。

 

「手強い」

 

 声には出さない。

 だが。

 お互いに、それは嫌というほど実感している。

 

 ――非常に厄介で、危険ではあるけれど……。

 

 まったく手に負えない、わけでもない。

 

 カーシャから、ゆっくりと殺気が消え始める。

 いや。

 消えてはいない。

 

 あふれるようなそれが、圧縮するように、収束されるように。

 細く、しかし強靭になっていく。

 

 戻ってきてから(・・・・・・・)、カーシャはほぼ無敵といえた。

 

 でも。

 それは、見方を変えると周辺や敵対者が弱すぎた。

 ……だけ、とも言える。

 

 自分と同格、あるいはずっと上のバケモノ。

 あるいは、数でも武器でも圧倒的に不利な状態。

 

 そんな、ありふれた(・・・・・)ものは、

 

(いや)になるほど体験している……」

 

 いやいや。

 

 それすら通り越して、もはや当たり前の〝日常〟とさえ言えた。

 

「へえ」

 

 カーシャの様子に、ノマは楽しそうな、でも――

 怖い眼で微笑んだ。

 ゾッとして、心臓が握りつぶされるような微笑み。

 

 パキ、パキパキパキ……

 

 広がった、黒い半透明の翼。

 それを中心に、異様な音、あるいは気配が濃くなっていく。

 

 

 ふわり

 ふわり

 ふわり

 

 

「?」

 

 ――なに……?

 

 その時。

 

 フワフワとした綿毛のようなものが空から降ってくる。

 サイズは、テニスボールほど。

 

 綿毛は地面に落ちると、ふわっと羽毛みたいなものをまき散らして――

 消える。

 

 そんなことが、あちこちで繰り返される。

 何の意味もなく。

 

 あまりにも場違いな現象。

 これに、2人は一瞬気がそがれた。

 

 と、

 

「え~~~~、あ~~~。しばらく、しばらく……」

 

 横から、銀髪のエルフがチョコチョコと出てきた。

 

「あんた、なに?」

 

 ノマが軽く睨むと、

 

「ま、ま、ま、ま」

 

 エルフーーユオン・キナは両手をかざしつつ、

 

「事情はよくわかりませんけど、とりあえず……お2人ともケンカする意味ありますか?」

 

「だって、あっちが危ない感じだもの」

 

 ノマはカーシャを指した。

 

「…………」

 

 ユオンは無言のカーシャに、

 

「え~~。どうでしょ? このままドカンボカンやり合っても、お互いにタダではすまないと思いますし……。ここでひとまず、休戦ということにされては」

 

「私はそれでもいいよ」

 

 ノマは言って、地面に降り立つ。

 

「わかった」

 

 カーシャも少し後ろに下がった。

 

 とりあえず――

 全面対決は回避。

 

 それを確認したユオンは周りを見て、

 

「あ~あ~……。ムチャクチャしちゃって……。とんだ自然破壊ですよ」

 

 大きく、ため息を吐いて肩を落とした。

 

「後で直すのが大変ですねえ。また仕事増えちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん」

 

 五馬は、ぼんやりした中で目を覚ました。

 

 近くで何か――

 チカチカと光っているものがある。

 

「気がついたね」

 

 少年は、自分がノマに抱き起こされているのに気づいた。

 

「あれ……」

 

 どうやら。

 大きな洞窟? みたいな場所にいるらしい。

 

 周りには、

 

「……あ、おねえさん?」

 

 カーシャの姿がある。

 

「なかなか肝の太いこと」

 

 青い乙女は、チラッと五馬を見てから――

 前方のあるものを見た。

 

「え?」

 

 五馬は、思わず跳ね起きた。

 

 そこにあったのは、空中に浮かぶ円形の光。

 いや。

 巨大な魔法陣。

 

 良く見れば、そこの空間はものすごく広い。

 巨大な地下空洞。

 

 そこは、光る紫の水晶みたいなものに(おお)いつくされていた。

 

「あ、あれなに?」

 

 つぶやく五馬に、

 

「異空間に通じる、というか移動するための魔法陣ですね」

 

「え?」

 

 横で説明した相手に、五馬はまた驚く。

 

 銀髪の美少女エルフ。

 エルフという種族がいるとは聞いていた。

 が。

 じかに見るのは初めてである。

 

「私のことなんかどうでもよろしい。今重要なのは、アレと」

 

 エルフは魔法陣を指してから、

 

「あなた、いえ、あなたがた2人です」

 

 やや決めつけるような口調で言った。

 

「は、はい?」

 

 五馬はその雰囲気に押されながら、

 

「あれ? ノマ、その羽……」

 

 ノマの姿に気づいた。

 

「うん。これ見せるのは初めてだったね」

 

「まあ、うん」

 

 うなずきあっている少年少女に、

 

「……あなた、そいつの正体知っていたの?」

 

 カーシャは微かな不審をこめて言った。

 

「まあ、人間じゃないってのは知ってたけど」

 

 

 知り合ってから、わりとすぐ。

 

「あの、他のヒトには秘密にしてほしいんだけど」

 

 そう言いながら、ノマは自分の頭からぴょこんとコウモリ耳を出して見せた。

 ついでとばかりに。

 細い尻尾も見せてきて、触らせてきた。

 

「君にはちゃんと言っときたいと思って」

 

「ふうん、けど。なんで……」

 

 秘密に? と言いかけたところへ、

 

「色々あるから」

 

 伏し目がちにそう言われると、五馬はもう何も言えなかった。

 

 当然。

 そのことは誰にも話していない。

 世話になり続けの、女将さんにすら。

 

 

「ふうん。そういうものかもね」

 

 淡泊な少年の態度に、カーシャもすぐ納得した。

 この国で、人間以外の種族など珍しくもない。

 相手が他種族だと……。

 いちいち騒いでは身が持たないだろう。

 

「それじゃ、まあ。あまりグズグズしててもしょうがないですから」

 

 どうぞ。

 

 ユオンは、魔法陣に手をかざしながら五馬たちに言った。

 

「どうぞって……」

 

「異なる世界と世界をつなぐゲート、いえ道ですかね。あの魔法陣はそういうものです」

 

「それって……? まさか」

 

「あなたのいた世界。あるいは、日本、地球とでも言いましょうか。そこにつながるものです。つまり、あなたは帰れる。良かったじゃないですか」

 

「………!!!」

 

 いきなりかなった望み。

 それに、五馬は感情を揺さぶられてわけがわからなくなった。

 思わず涙が出そうになるが、

 

 ――あ。

 

 重大なことを気づき、ハッとした時、

 

「ねえ」

 

 少女の手が、少年の手を握った。

 

「私も一緒に行っていいかな?」

 

「え……」

 

 ノマの声に、五馬は驚いて、戸惑(とまど)う。

 

 それは。

 もちろん。

 

「良いよね?」

 

「うん」

 

「へへっ」

 

 五馬の答えに、ノマは嬉しそうに笑った。

 

 ――やれやれ。ああいうのを猫かぶりというのかしら……。

 

 少年少女のやり取り。

 横で見ているカーシャは、ため息をもらす。

 

「良かっただなあ……」

 

 少し離れた場所。

 また別の誰かが嬉しそうにつぶやく。

 

「え!?」

 

 その声に、五馬は反応して振り返る。

 

「お、女将さん!?」

 

 この時――

 五馬は隠れるようにしていた宿の女主人に気づいた。

 やっと、という段階で。

 

「ははは。よくわかんねえけども、無事にすんで、ちゃんと帰れるんなら何よりだ」

 

「女将さん……」

 

「今度はさ、お前がノマを助けてやれよ。あっちにいったらこの()がよそ者だもの」

 

「うん」

 

 そんなやり取りに、

 

「あのトロルの女将さんまで連れてくる必要、あったんですか?」

 

「おまけ、みたいなものよ」

 

「ふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうした出来事の後。

 

 少年と、少女。

 2人は遠い場所に旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは、いったい何だったの」

 

 カーシャの問いに、

 

「えーと、異国の資料だと……彼女らについて――言語だと」

 

さわにほたるびのかがやくかみ・および・さばえなすあしきかみあり・また・くさきことごとくによくものいうことあり。

 

「だったですね、文字は確か……」

 

 【多有螢火光神及蠅聲邪神、復有草木咸能言語】

 

 ユオンはおかしな言語を話し、得体の知れない文字を空中に映す。

 

「私は学者じゃないんだけど」

 

「うーんと。そーですね。運命と相手と出会うために、ずっとずっと眠り続けていたお姫様ってところですか」

 

「は?」

 

「自分の(つがい)となる相手。それが見つかるまで仮死状態で待ち続けて、見つかれば即座に目を覚まして活動し始める。そういう生き物ですね。いえ、あるいは?」

 

 ユオンはちょっと髪を掻きながら、

 

「あの少年をこっちに引っ張り込んだのは、あの()だって可能性もありますねえ。意図してか、無意識だったかはいざ知らず」

 

「はは。で、あのおでこくん(・・・・・)が、王子様?」

 

「むしろ、あっちがお姫様かもしれませんねえ、立場的に。ではまた、機会があれば」

 

 ユオンはムフフと笑いながら、

 

 ふわり

 

 と、消え去った。

 

「ふん」

 

 カーシャは鼻で笑ってから――

 バッキーとマコネの待つ場所に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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