破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「是非とも、お引き受けしていただきたいんですよ」
と。
黒い、ギルドの紋章が入ったトランクケースを机に置いた。
ツインテールに銀髪。灰色の肌。
ガジカ・バーバ。
バイナの事件で、一緒に行動したことがある。
「手付で2000万ねえ」
カーシャはトランクケースを見ながら、
「なかなか張り込んだものだわ」
「無事にやり終えてくれたら、残りの3000万ジュラを払うってことで」
「合計で5000万。悪くはないかしら」
最近、ちょっと道楽でお金を使ったし……。
カーシャはおでこを撫でながら、クスッと笑う。
「それで、肝心の内容は?」
「やってくれます?」
「内容次第ね」
「それじゃあ申し上げましょうか。2人ほどね、
「始末とは、穏やかじゃないこと」
カーシャは
「どの口で……」
ツッコまれるようなことを、ぬけぬけと言った。
「いやいや。あなたにね、
「つまり?」
「裏切り者の始末、それの助太刀をお願いしたいって話」
「へえ」
カーシャは少し考えてから、
「それで、場所は?」
「スミオ。まあ、ここと同じような辺境さあ」
スミオの街――
ネビズと同じく国境近くの辺境都市。
「ねえさん、ご機嫌ななめのようだねえ」
「うるせえ」
挨拶に来たガジカに、支部長は不快そうに言った。
くせのない長い黒髪。
ミカリ・バーバ。
ガジカとは古い馴染みで、姉のような存在だった。
「おっと、悪かったよ。茶化す気はないんだ」
ガジカは謝りながら、
「私もここに来る前、噂を聞いたからさ」
「ああ……。あのメスブタども、コケにしくさりしやがって」
「しかし、あの連中がねえ? いったいどういうことだい」
「ふん。くっだらない話だ」
ミカリは吐き捨てるように言って、歯ぎしりをする。
「ゴチャゴチャ言うことはない。つまりは、スケベ野郎にたらしこまれて、うちを裏切りやがった」
「そういうことかよ」
――なまじ真面目なヤツが、
「あのバカどもが誰のペットになろうが、どこで裸踊りしようが、知ったことじゃねえ」
ミカリの瞳には、凄まじい憎悪が黒く燃えていた。
「だがよ。おかげで私の面子ぁ丸つぶれだ。支部の
「踏んだり蹴ったりじゃないか」
「ああ、そうだよ」
ミカリは言いながら立ち上がって、
ガン!!
座っていた机を蹴り飛ばした。
重い木製の机が壁にぶち当たる。
ものをまき散らしながら、壁を破損させた。
ガジカは驚きもしない。
こんなのは、子供の頃から慣れている。
「だから、色々準備をしてるのさ。あいつらぁ……八つ裂きにして魚の
「そいつはまた……」
さすがに、ガジカは冷や汗となった。
藁で編んだ、服……のようなものを罪人に着せ、これに火をつける。
つまり、生きたまま焼き殺す刑罰。
地球でも、似たようなものがあったが――
それらは彼女たちの知るところではない。
――こりゃあ、本気だな。
ガジカはミカリの殺意と憎悪に驚くが、納得もした。
「まあ、話はわかったよ。けど、余計なお世話を承知で言うけど、あいつらはギルドでも有名の腕っこきだろう」
「……」
「ねえさんの腕でも、どうなるかわからねえ。2人同時となりゃまず勝ち目はない」
「……だったら、どうだってんだ」
暗く怖い眼を向けてくるミカリに、
「あわてちゃいけないよ。そんなら、それでさ? こっちは助太刀を用意すればいいじゃないか」
ガジカは、両手をかざしながらちょっと後ずさった。
「助太刀だぁ? まさか、お前が」
「ちがう、ちがう」
ガジカは手を振って、
「ねえさんだって、話は聞いてるだろう。青い
「――あの、ドラゴンスレイヤーか」
「そうとも。あたしも、バイナでいっぺん会ったことがあるし、腕も見た」
「確かに、あいつなら頼りになりそうだが、安くはないだろ?」
「コトがコトだし、銭を惜しんでちゃうまく運ばないんじゃあないのかね」
「スミオに行った?」
雑貨屋の前――
店を開けながら、猫のゴトクは振り返った。
「あー、なんか裏切り者の始末とかどうとか。いや、その助太刀だったかな?」
マコネは
「変なことを頼まれたもんだ」
「だよなー。温泉から帰ったと思えば、すぐコレだぜ」
「しかし、スミオか……」
ゴトクは何か考えるようにつぶやく。
「なんかあるのかい、そこ」
「一言で語るなら、治安のあまり良くない場所だ」
「へえ?」
「すぐ目の前にある隣国……。そこで名うての悪所、気取った言い方すれば暗黒街ってのか。形としちゃあ、その街と向かい合ってるわけだ」
「行ったことあるのか?」
「あるよ」
ゴトクは嫌な顔で答えながら、
「正直言って、あんまり近寄りたい場所ではねえな。場所が場所だけに、おかしなのも多い。ギルドナイトもかなりの激務だろうぜ」
「ほえー」
マコネはうなずいてから、
「もしかするとさ、姐さんはそっち方面の手伝いで呼ばれたんじゃねえの?」
「だとすりゃ失敗だな」
「そうかい?」
「お前んとこのお嬢様が、生ぬるい、面倒なことをすると思うか?」
「あー……」
「今度は死体の始末で忙しくなるだろうよ。下手すりゃ過労で死にかねない」
「なるほど。まあ、話はわかったわ」
カーシャは小さくうなずいた。
「ひとつ、よろしくお願いするよ」
冒険者ギルドーー
スミオ支部の応接間。
向かい合って座るミカリは、重々しく言った。
でも。
同時に、どこか興奮した面差しで、
「あんたが手を貸してくれるなら、勝ったも同じだ」
「どうかしら。あまり楽観的になるのは考えものねえ」
カーシャは意地悪い目で笑う。
「あなた、私が同じように裏切ったり、あるいはその2人に負けるとは思わないの?」
「おっかないことを言いっこなしだ」
青い乙女……いや、悪鬼の言葉。
それにミカリは顔を引きつらせたが、
「しかしね……。前のところは、ともかく……。いや、全部ひっくるめて、あんたがそうなるとは思えない」
「思う、か。思い込みも危ないのじゃなくって?」
「……そりゃ道理だがね」
ミカリは引きつり気味の笑みを浮かべ、
「私だって、100年以上は生きてるし、色んなのを見てきた。だから、そうそう見誤らない自信がある」
「信用は、まあ嬉しいけれど?」
カーシャはついっ、と天井を見ながら、
「ところで、その2人の動向とか経緯とか、わりと調べられてるわね」
「まあ、ね……」
「? なに?」
「そのへんは、同じパーティーの、生き残りとでも言うのか、逃げ帰って来たってのか。ま、そっから聞き取ったのさ、ある程度は」
「2人組じゃなかったの?」
少しだけ、カーシャは目を細める。
「ああ。これは別にどうだっていいが、裏切った2人とは昔からの……つまりは、幼馴染ってヤツらしい」
「で、そいつは?」
「ありゃもうダメだな。ぶっ壊れてる。そのうち首でもくくるか、身投げでもするんじゃないかね?」
ミカリの冷淡な言葉に、カーシャは苦笑。
「そう。なら、もうそんなのは
「ん?」
「つまり、裏切った連中と家族みたいなもの、だった。なら、身内の失態は身内で始末するのが筋というものね。でも、それができない廃人だというのなら……」
カーシャは、ひどく怖くて嫌な目つきで、
「見せしめのためにも、処分したほうがいいんじゃなくって?」
と、言った。
「
カーシャはギルドを出た後――
お茶の片づけをしていた人物が言った。
痩せた老人。
骸骨に皮だけ着せたような……でも。
眼だけはギラッとして迫力がある。
引退した元・冒険者。
ギルドで雑用をしながら、時々助言を求められたりしていた。
「なにがさ」
ミカリは聞いた。
この老人に対しては――
他の者にはない、敬意みたいなものがある。
「あの女をこっちへ呼んだことが、さ」
「何がまずい? あれは、
「それよりも、あいつの放ってる毒気がいけない」
「毒? そんなもんは……」
「物理的な毒っていうのじゃない。気配というか、空気というのか。時々、そんなのをまき散らしていらぁ」
「ならよ、とっつぁん。その毒気はどういう害があるんだい? 気になるじゃあないか」
「お前さんみたいなのには、心配することはねえ。だがよ、若い……特に弱ってたり、追い詰められたりするヤツには、
虫も殺せないガキが――
いきなり、平気でヒトを殺せるようになるとかな。