破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

108 / 357
その88、始末の助勢-1  手付2000万ジュラ(日本円で2千万円)なり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「是非とも、お引き受けしていただきたいんですよ」

 

 と。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の少女は言って――

 黒い、ギルドの紋章が入ったトランクケースを机に置いた。

 

 ツインテールに銀髪。灰色の肌。

 ガジカ・バーバ。

 バイナの事件で、一緒に行動したことがある。

 

「手付で2000万ねえ」

 

 カーシャはトランクケースを見ながら、

 

「なかなか張り込んだものだわ」

 

「無事にやり終えてくれたら、残りの3000万ジュラを払うってことで」

 

「合計で5000万。悪くはないかしら」

 

 最近、ちょっと道楽でお金を使ったし……。

 

 カーシャはおでこを撫でながら、クスッと笑う。

 

「それで、肝心の内容は?」

 

「やってくれます?」

 

「内容次第ね」

 

「それじゃあ申し上げましょうか。2人ほどね、始末(・・)したいヤツが2人いてね――」

 

「始末とは、穏やかじゃないこと」

 

 カーシャは他人(ひと)から、

 

「どの口で……」

 

 ツッコまれるようなことを、ぬけぬけと言った。

 

「いやいや。あなたにね、暗殺者(アサシン)みたいことをしてくれって言うんじゃないのさ」

 

「つまり?」

 

「裏切り者の始末、それの助太刀をお願いしたいって話」

 

「へえ」

 

 カーシャは少し考えてから、

 

「それで、場所は?」

 

「スミオ。まあ、ここと同じような辺境さあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スミオの街――

 ネビズと同じく国境近くの辺境都市。

 

 

「ねえさん、ご機嫌ななめのようだねえ」

 

 

「うるせえ」

 

 挨拶に来たガジカに、支部長は不快そうに言った。

 

 くせのない長い黒髪。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の種族的特徴である灰色の肌。

 

 ミカリ・バーバ。

 

 ガジカとは古い馴染みで、姉のような存在だった。

 

「おっと、悪かったよ。茶化す気はないんだ」

 

 ガジカは謝りながら、

 

「私もここに来る前、噂を聞いたからさ」

 

「ああ……。あのメスブタども、コケにしくさりしやがって」

 

「しかし、あの連中がねえ? いったいどういうことだい」

 

「ふん。くっだらない話だ」

 

 ミカリは吐き捨てるように言って、歯ぎしりをする。

 

「ゴチャゴチャ言うことはない。つまりは、スケベ野郎にたらしこまれて、うちを裏切りやがった」

 

「そういうことかよ」

 

 ――なまじ真面目なヤツが、賭博(バクチ)や女に入れあげると始末が悪いとは言うが……。

 

「あのバカどもが誰のペットになろうが、どこで裸踊りしようが、知ったことじゃねえ」

 

 ミカリの瞳には、凄まじい憎悪が黒く燃えていた。

 

「だがよ。おかげで私の面子ぁ丸つぶれだ。支部の出費(ついえ)も、損害も山盛り……。おまけに、ギルドマスターに嫌味のお説教(・・・)を喰らっちまったよ」

 

「踏んだり蹴ったりじゃないか」

 

「ああ、そうだよ」

 

 ミカリは言いながら立ち上がって、

 

 ガン!!

 

 座っていた机を蹴り飛ばした。

 重い木製の机が壁にぶち当たる。

 ものをまき散らしながら、壁を破損させた。

 

 ガジカは驚きもしない。

 こんなのは、子供の頃から慣れている。

 

「だから、色々準備をしてるのさ。あいつらぁ……八つ裂きにして魚の(えさ)にしたって釣り合わねえ。フン捕まえて【藁踊(わらおど)り】にしなきゃ気がおさまらない」

 

「そいつはまた……」

 

 さすがに、ガジカは冷や汗となった。

 

 藁で編んだ、服……のようなものを罪人に着せ、これに火をつける。

 つまり、生きたまま焼き殺す刑罰。

 

 地球でも、似たようなものがあったが――

 それらは彼女たちの知るところではない。

 

 ――こりゃあ、本気だな。

 

 ガジカはミカリの殺意と憎悪に驚くが、納得もした。

 

「まあ、話はわかったよ。けど、余計なお世話を承知で言うけど、あいつらはギルドでも有名の腕っこきだろう」

 

「……」

 

「ねえさんの腕でも、どうなるかわからねえ。2人同時となりゃまず勝ち目はない」

 

「……だったら、どうだってんだ」

 

 暗く怖い眼を向けてくるミカリに、

 

「あわてちゃいけないよ。そんなら、それでさ? こっちは助太刀を用意すればいいじゃないか」

 

 ガジカは、両手をかざしながらちょっと後ずさった。

 

「助太刀だぁ? まさか、お前が」

 

「ちがう、ちがう」

 

 ガジカは手を振って、

 

「ねえさんだって、話は聞いてるだろう。青い悪鬼(おに)のことは」

 

「――あの、ドラゴンスレイヤーか」

 

「そうとも。あたしも、バイナでいっぺん会ったことがあるし、腕も見た」

 

「確かに、あいつなら頼りになりそうだが、安くはないだろ?」

 

「コトがコトだし、銭を惜しんでちゃうまく運ばないんじゃあないのかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミオに行った?」

 

 雑貨屋の前――

 店を開けながら、猫のゴトクは振り返った。

 

「あー、なんか裏切り者の始末とかどうとか。いや、その助太刀だったかな?」

 

 マコネは(ほうき)で店の前をはきながら言った。

 

「変なことを頼まれたもんだ」

 

「だよなー。温泉から帰ったと思えば、すぐコレだぜ」

 

「しかし、スミオか……」

 

 ゴトクは何か考えるようにつぶやく。

 

「なんかあるのかい、そこ」

 

「一言で語るなら、治安のあまり良くない場所だ」

 

「へえ?」

 

「すぐ目の前にある隣国……。そこで名うての悪所、気取った言い方すれば暗黒街ってのか。形としちゃあ、その街と向かい合ってるわけだ」

 

「行ったことあるのか?」

 

「あるよ」

 

 ゴトクは嫌な顔で答えながら、

 

「正直言って、あんまり近寄りたい場所ではねえな。場所が場所だけに、おかしなのも多い。ギルドナイトもかなりの激務だろうぜ」

 

「ほえー」

 

 マコネはうなずいてから、

 

「もしかするとさ、姐さんはそっち方面の手伝いで呼ばれたんじゃねえの?」

 

「だとすりゃ失敗だな」

 

「そうかい?」

 

「お前んとこのお嬢様が、生ぬるい、面倒なことをすると思うか?」

 

「あー……」

 

「今度は死体の始末で忙しくなるだろうよ。下手すりゃ過労で死にかねない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。まあ、話はわかったわ」

 

 カーシャは小さくうなずいた。

 

「ひとつ、よろしくお願いするよ」

 

 冒険者ギルドーー

 スミオ支部の応接間。

 

 向かい合って座るミカリは、重々しく言った。

 

 でも。

 同時に、どこか興奮した面差しで、

 

「あんたが手を貸してくれるなら、勝ったも同じだ」

 

「どうかしら。あまり楽観的になるのは考えものねえ」

 

 カーシャは意地悪い目で笑う。

 

「あなた、私が同じように裏切ったり、あるいはその2人に負けるとは思わないの?」

 

「おっかないことを言いっこなしだ」

 

 青い乙女……いや、悪鬼の言葉。

 それにミカリは顔を引きつらせたが、

 

「しかしね……。前のところは、ともかく……。いや、全部ひっくるめて、あんたがそうなるとは思えない」

 

「思う、か。思い込みも危ないのじゃなくって?」

 

「……そりゃ道理だがね」

 

 ミカリは引きつり気味の笑みを浮かべ、

 

「私だって、100年以上は生きてるし、色んなのを見てきた。だから、そうそう見誤らない自信がある」

 

「信用は、まあ嬉しいけれど?」

 

 カーシャはついっ、と天井を見ながら、

 

「ところで、その2人の動向とか経緯とか、わりと調べられてるわね」

 

「まあ、ね……」

 

「? なに?」

 

「そのへんは、同じパーティーの、生き残りとでも言うのか、逃げ帰って来たってのか。ま、そっから聞き取ったのさ、ある程度は」

 

「2人組じゃなかったの?」

 

 少しだけ、カーシャは目を細める。

 

「ああ。これは別にどうだっていいが、裏切った2人とは昔からの……つまりは、幼馴染ってヤツらしい」

 

「で、そいつは?」

 

「ありゃもうダメだな。ぶっ壊れてる。そのうち首でもくくるか、身投げでもするんじゃないかね?」

 

 ミカリの冷淡な言葉に、カーシャは苦笑。

 

「そう。なら、もうそんなのは必要(いら)ないわね」

 

「ん?」

 

「つまり、裏切った連中と家族みたいなもの、だった。なら、身内の失態は身内で始末するのが筋というものね。でも、それができない廃人だというのなら……」

 

 カーシャは、ひどく怖くて嫌な目つきで、

 

「見せしめのためにも、処分したほうがいいんじゃなくって?」

 

 と、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支部長(かしら)良くなかった(・・・・・・)んじゃあないのかね」

 

 カーシャはギルドを出た後――

 

 お茶の片づけをしていた人物が言った。

 

 痩せた老人。

 骸骨に皮だけ着せたような……でも。

 眼だけはギラッとして迫力がある。

 

 引退した元・冒険者。

 ギルドで雑用をしながら、時々助言を求められたりしていた。

 

「なにがさ」

 

 ミカリは聞いた。

 この老人に対しては――

 他の者にはない、敬意みたいなものがある。

 

「あの女をこっちへ呼んだことが、さ」

 

「何がまずい? あれは、本物(・・)だ。とんでもないバケモノだよ」

 

「それよりも、あいつの放ってる毒気がいけない」

 

「毒? そんなもんは……」

 

「物理的な毒っていうのじゃない。気配というか、空気というのか。時々、そんなのをまき散らしていらぁ」

 

「ならよ、とっつぁん。その毒気はどういう害があるんだい? 気になるじゃあないか」

 

「お前さんみたいなのには、心配することはねえ。だがよ、若い……特に弱ってたり、追い詰められたりするヤツには、性質(たち)の悪い効き方をするぜ。例えば――」

 

 虫も殺せないガキが――

 いきなり、平気でヒトを殺せるようになるとかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。