破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
コン、コン
ドアをノックするが、反応はない。
――いないようね。
中に気配がないのを確かめてから、
「まあ、いいか」
と。
つぶやいた後、
バキッ
ドアノブを砕いて、ドアをこじ開けた。
締め切った部屋。
散らかし放題のゴミだらけ。
おかしな臭いもする。
わかりやすいほど、荒れた室内。
「ふん」
カーシャは冷笑してから外に出る。
そこで。
手早く近所の者を捕まえて、
「あなた、あの部屋に住んでるヤツを知ってるかしら?」
と。
高額紙幣を見せながら質問。
「……え。ああ。でも、ここしばらく帰ってないなあ。なんか、あちこちでフラフラ歩いてるようだったけど。なんか、もう浮浪者みたいな感じで」
「どのあたりで?」
「色々らしいけど、俺が見たのは……」
これこれしかじかの場所。
カーシャは聞き終えると、
「なるほど」
紙幣を押しつけてから、背を向けた。
「あなた、あいつのなに?」
「なにが?」
「あー、いや。前は女と女の子がけっこう訪ねてきてたから……」
「モテていたのね」
「かもしれないなあ……」
「ま、別に色っぽい話じゃない。借金の取り立てみたいなものよ」
「――プリズラクというのは、あなた?」
街の中央近く。
申し訳程度、という感じの広場。
その端っこに座っていた相手に、カーシャはたずねた。
「…………」
相手は、答えない。
ずっと無言のまま。
「顔を確認してきたから、まあ答えなくっていいけど」
カーシャは近づいて、相手の顔を見る。
年は若い。
まだ少年と言っていいだろう。
青みがかった黒髪。
顔立ちは悪くない。
いや、きちんといれば、
――なかなかの美男子ね。
ただ。
現状はまるで生気のない、
少年は、ただ過去の幻影を見ていた。
幼い頃に遊んで駆け回った場所。
いつも一緒だった、姉や妹みたいな2人。
だが。
今はもう、ここにはいない。
自分の手の届かない場所へ行ってしまった。
かつてのように。
優しい顔も、きれいな眼も、どこにもない。
もう、今は。
少年を嘲って、虫けらのような眼で――
――聞いてないわね、こいつ。
「……?」
反応のなかった少年だが、ふとカーシャを見て、
「……!」
ギョッとなった。
カーシャの容姿というよりは、その内から発する禍々しいモノ。
それをようやく感じとったのだ。
すると、
ガッ
「……ぅあっ」
カーシャはいきなり、少年を蹴飛ばした。
転がる少年に歩み寄り、
「ネビズの本部から来た者よ。ギルドから、裏切ったヤツの始末を依頼されてね。正確にはその助勢だけど」
何とか貌を上げる少年を踏みつけた。
「あなた、裏切り者の身内らしいわね。けじめとして、その2人を潰してきなさい。一応加勢はしてあげる。仕事だからね」
「……できない」
「は?」
「俺は……や、……とは、戦えないし。やっても、勝てない」
2人の名前を呼びながら、少年はうめいた。
「その場合、お前も処分されるわね。連帯責任というやつよ」
「……死にたい」
絞り出すように、少年は言った。
「……も、……も、2人とも、行ってしまった……。俺のことは……」
何かボソボソと言っている少年に、
「なら、死ぬ?」
カーシャは髪の毛をつかんで、つり上げた。
「一度地獄に落ちてみる? あそこは文字通り、地獄としか言えないところよ」
そして。
顔を背けている少年に、カーシャは指先を向けた。
そして。
いきなり、
ザク
人差し指は腹に突き刺さった。
「あ」
叫んだ直後。
少年に体に、耐えがたい激痛は走った。
肉を、生きたまま焼かれるような。
呼吸ができなくなり、汗が噴き出していく。
あっという間に、汗で水たまりができた。
ブスブスブス
と、傷口から黒い煙か
「………~~~~~~~~!!!」
声も出せない。
そんな少年に、
「とりあえず――ギルドからの伝言」
「裏切ったメス犬2匹を半殺しにして連れてこい。最低でも首を持って帰れ」
「嫌だというのなら、この場で殺処分してくれ、と頼まれてる」
カーシャは淡々と言った。
「聞いている? 聞こえないか。でもね?」
指を引き抜きながら、カーシャは言った。
かと思えば、
メリ、プチ……
何をどうやったのか。
左手の爪――
それを一気に、全て。
軽く引きはがしてしまった。
「………!!!」
少年は、声にならない悲鳴をあげる。
「
もはや。
返答する余裕など少年に、カーシャは静かな声で、穏やかに言った。
ただ、日常会話でもするように。
「わからないの? わからないなら、わからせてあげましょうか?」
言うなり――
カーシャは顎をつかんで、2本の指を少年の鼻に突き入れた。
それも、ゆっくり、ゆっくりと。
「が……! も…………!!」
激痛で思わず暴れるが、カーシャはビクリともしない。
巨大な岩山みたいだった。
さらに、そこからも黒いモノが立ち昇り出す。
鼻の穴から、溶けた鉄でも流し込まれるような……。
想像したこともない
「女を失った痛みは死にたいほど、なんでしょう?」
なら、これくらいのことは笑ってすませなさい。
できないのなら……。
まあ、その程度だったということよ。
ムチャクチャなことを言いながら――
カーシャの拷問というのも生易しい行為は続いた。
しばらくしてから。
暴れる少年を、カーシャは放り投げる。
そして。
地面に落ちた少年に、何かを投げた。
カラン
近くに転がるのは、どこにでもあるような小剣。
「!!??」
少年は――
本能的に、拾い上げて引き抜いていた。
死にたくない。
肉体の底、そのまた底からわき出してくる衝動。
それに動かされての行動だった。
「フフン」
カーシャは薄く笑い、同じく剣を抜いた。
ギルドから勝手に持ってきたもの。
うっすらと、だが。
黒く、暗い炎をまとった刀身。
「なんだ、あなた死にたいんじゃなかったの? だったら」
私を殺すしかないわねえ。
できたら、の話だけど。
ヒュン
どこから、どう斬ったのか。
まるでわからない。
斬られた……。
と、わかった瞬間に、激痛と背筋が凍りつくような感覚。
「ひいいいいいいいいいいいいい!?」
少年は、たまらずに叫んだ。
傷は浅い。
しかし、耐えがたいものが全身に走り抜ける。
ヒュンヒュン
ヒュン
何度も、何か所も。
肉を刻まれて、痛みで叩きつけられた。
ついに。
気力も体力も失い、倒れこんでしまう。
そこまでの時間。
あっけないほど、実に短いものだった。
「起きなさい」
カーシャはうつ伏せになったところを蹴りつけ、ひっくり返す。
サク
「…………っっぎゃああああ!!」
カーシャは剣の切っ先で、左目を突いた。
そして、やはり――
傷が焼け焦げていく。
「ふん。ずいぶんと、生き汚い」
たまりかねた、ショックか。
少年は発狂寸前で、失禁。
いや……。
続いて、
この時。
もはや。
少年の中に、感傷や悲嘆に沈む余裕など欠片もなくなっていた。
絶望や無力感。
そんなものに溺れていることもできなくなっていた。
垂れ流した汚物と一緒に、少年の中にあった――
あるいは、尊いかもしれないモノ。
それらが無慈悲に、全て流れ去っていく。
恐怖と
その暗闇にひたすら落ちていきながら……。
少年は、自分が何か別のものに生まれ変わったような気がした。
「まあ、こんなところかしらね」
カーシャは剣をおさめてから、周りを見る。
何しろ。
こんな大騒ぎを起こしたわけだから――
「な、なにぃ?」
「……なんだぁ!?」
「死んでるんじゃないの、あいつ……」
遠巻きにしている見物人……の1人へ、
「そこの――」
カーシャは、指で銀貨を弾いた。
銀貨は、スポッと手の中に。
「冒険者ギルドに行って、ヒーラーを集められるだけ集めるように言いなさい。あと、お金だけ取って逃げる……なんて、考えないほうが良いわよ?」
顔はしっかりと覚えたから。
「ひぇっ……」
命じられた相手は、へたりこみそうになりつつ、
「は、はい。今すぐに……」
転がるように走り出した。
「――しまった」
その後すぐに、カーシャはつぶやく。
――洗浄魔法を使えるのも連れてこい、と言えば良かったわね。でもまあ、いいか。
意識を失い、転がっているのを見ながら――
カーシャは軽く空を見た。
「……正直、ものすごい疲れたよ」
ヒーラーの1人が言った。
どんよりとして、口から魂が出ていきそうな顔。
「そんなにすごかったのかい」
答えるのは、痩せた元・冒険者の老人。
「とんでもないよ、あの女は……」
「やはり、そうか……」
「致命傷じゃあないとはいえ、ズタズタにして、蹴飛ばして……とにかくひでえもんだ。ありゃ稽古じゃないね、拷問だ」
「ふうむ」
「そんなのを何度も治させるんだから、たまらんよ。魔力じゃなくって心が疲れ果てる」
「切った張ったの冒険者が情けないこと言うない」
「しかし、とっつぁん。とにかく、あの女の殺気が凄まじいんだよ。横で見てるだけで、しめ殺されるような気分になる。じかにやられたあいつは、たまったもんじゃあなかっただろうぜ」
「だが、それなりの
「そうじゃなきゃあ、やってられんよ。夢でもあの女にうなされそうだ。二度とごめんだね」