破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その10・5  ある黒猫の語り

 

 

 

 俺っちは〝アグニチャクラ〟だ。

 火の車輪って意味さ。

 

 名前は……どうでもいいか。

 好きなように呼ぶがいいぜ?

 

 人間は俺っちたちをグルマルキンと呼んだりする。

 悪魔の猫ってことらしい。

 まあ、似たようなものかもしれねえやね。

 

 俺っちらの見た目は、そのへんの猫と変わらねえからな。

 

 ただし、ちょいと違うところもある。

 

 そいつぁ二つに分かれた尾っぽだ。

 先っちょに妖火をともしてるのがオシャレポイント。

 人間が見ているところじゃめったに見せないけどな。

 

 さてさて。

 

 俺っちたちの仕事は、適当に人間を選んで地下世界に放り込むこと。

 ん? いやいや別に死後の世界とかあの世ってわけじゃないぜ?

 宗教家の語る冥界ってのはちょいと違うんだ。

 人間はそう思ってるのかもしれねえがよ。

 

 何で人間を放り込むんだって?

 

 知らね。

 まあ、お偉方にはなんか理由があるんだろ。ないのかもしれんけど。

 

 地下世界を、俺っちたちは〝ナラカ〟って呼んでる。

 そのまんま地下世界って意味さね。

 

 ナラカは地上と色々違ってるが、一番は……時間だ。

 地上とは時間の流れがまるで違うのさ。

 

 そう。

 

 地上の一日が、そこじゃ6万4千年にもなる。

 すっげえだろ?

 人間からすれば永遠みてえな時間だろうぜ、けけけ。

 

 おっとと。

 違うのはそれだけじゃねえ。

 そこには水も食い物もない。

 休憩できるような場所もないぜ?

 その上、やばい猛獣や毒虫がわんさかだ。

 

 さらに?

 

 地上では考えられねえ化け物がウジャウジャいて、人間が落ちてくるのを待ち受けてる。

 だからさ、放り込まれたやつはあっという間にとち狂ってお互いに殺し合いよ。

 人殺しの武器だけはあちこちに散らばってるからなー。

 まあたいていの奴は一瞬で死ぬね。

 

 だが、しかし! 安心したまえ!

 

 ナラカにゃさらに愉快な仕掛けがしてあるのさ。

 特別な魔法の風が、ナラカ全体を何度も何度も吹き抜ける。

 そう、何度も。永遠と言ってもいいぜ。

 この風を受けるとくたばった人間どもも一瞬で生き返るのさ。

 何度だって苦しんで死ねるぜ?

 あんたも行ってみるかい?

 

 そうやって無限に死んで殺してを繰り返せばだ……。

 

 ほら、一瞬で殺人マシーンのできあがりっとくらぁ!!

 おう、そうよ。

 こうやってな、テキトーな人間をナラカで生きた殺人兵器に変えてから、地上に戻す。

 そいつが仕事ってわけだ。

 

 なんで?

 

 だからさあ、知らねえってばよ。

 そんなやつ、見たこともない?

 ん-、かもしれねーな。

 俺っちたちも色んなところからスカウトしてくっから。

 

 だがよ?

 

 それに、ナラカ帰りのやつもわざわざそんなこと他人に言わねえからな。

 もしかすっと、あんたの隣のいるやつが、そうかもしれないんだぜ。

 

 さてと。

 

 そんな俺っちたちにも、休暇ってのあるんだ。

 おう、今な休暇中ってやつ。

 

 でな? 俺っちは休みの前のひと仕事として、俺っちはまた人間をナラカに送った。

 

 どんなやつかって?

 

 まあ、一言でいうとお芝居の悪役令嬢みてえなやつだよ。

 いや……ほんとにそうだったんだって。

 

 性格は悪い。才能もからっけつ。

 家柄とその顔がなけりゃ何もいいところがないクソ女。

 お前も会ってりゃぶん殴りたくなってるぜ、間違いなく。

 

 こいつは、ある魔法大国の公爵令嬢だった。

 けど、そんな国に生まれて大貴族だったが、魔法の才能がちょいとせこかった。

 で、自分よりも才能のある従妹をそらいたぶってたもんだ。

 立場をかさに着てなー。

 妬み嫉みってえやつかね、みっともねーよなあ。

 

 その従妹との間にゃあ、親の代から因縁があるようだったね。

 ん-む。

 詳しくは知らねえし、調べてもねえが。

 

 どうもこいつの親父は優秀だった兄弟……つまり、従妹の父親だな、それを暗殺して家督を奪い取ったらしいや。

 で、従妹は身分を奪われて、ほとんど小間使いとしてこき使われたりしてた。

 泣ける話じゃねえか。

 ……こういう場合なら、さっさと始末すりゃいいのにな?

 

 でも、その他色んな悪事が祟って悪徳公爵は国の王子様に処断されちまった。

 

 王子様が従妹に惚れたのがきっかけらしいや。

 まるでお芝居みてえだよな、女受けしそうだ。

 

 王子に糾弾された時な?

 悪徳公爵、どうしたと思う?

 みっともなく命乞いか、言い訳か?

 

 いやいや。

 

 なんとそいつは今までのことを従妹に詫びて、家督の権利は全て従妹に譲ると正式な書類を書いた。

 それから、いきなり自殺しちまったよ。

 

 つまんねーな、おい。

 

 なんか今際の際にさあ、暗殺した兄弟の嫁さん? つまり、従妹の母親なんだけど、それの名前を呼んでたよ、従妹の顔見ながら。

 

 うーん。

 

 ここは俺っちの想像だけどな?

 思うにこの悪徳公爵は従妹の母親に惚れてたんじゃねえかな。 

 でも、それを優秀な兄弟にとられちまった。

 そっからこじらせて、簒奪だの暗殺をしでかしたのかもな。

 けど、そうなっても母親の面影がある従妹には思い切ったことができねえ。

 だから何年も半端な状態にしてたんだな。きっと。

 

 情けないねえ、まったくさ。

 

 そうかと思えば、てめえの娘はほぼ無視してたからな。

 放置状態よ。

 てめえが死んだ後のこともどうでもよかったんだろ。

 

 とすりゃあ、ご令嬢がクソ女になったのも、親父が原因ってわけかね。

 聞くヤツによっちゃ同情するかもしれんけどよ。

 けどまあ、そんなもん被害を受ける相手からすりゃ知ったこっちゃねえわな。

 

 おまけに。

 

 このご令嬢、形だけとはいえ、王子様との婚約者でもあったんだ。

 けど王子は従妹に惚れて、親父の悪事を糾弾。

 公衆の面前で婚約破棄を喰らっちまった。

 

 そん時はすごかったぜえ?

 

 泣くわ、わめくわ、ものを投げるわ……。

 密かに大笑いしちゃったねえ、俺っちは。

 そこだけは素直に感謝しちゃったよ。

 

 楽しませてくれて、ありがとさんってな。

 

 まあ、身から出た錆で破滅して没落。

 身分も財産も奪われて、多少使える魔法も永久封印。二度と使えなくなった。

 その後、命は助かったが辺境へ追放って素敵な終幕さ。

 

 

 『ざまぁ』ってやつだろ、これ?

 

 

 でも俺っちがそれが逆におもしれえと思ったね。

 

 だからよ。

 運んでる馬車の連中にちょこっと幻術をかけた。

 ご令嬢がそのまま後ろの檻にいる、と見えるようにな。

 

 その間に、クソ女令嬢をナラカに放り込んだ。

 ご令嬢がさんざんのたうちまわって、頃合いとなったあたりでまた檻に戻したわけ。

 もちろん服装は元通りにしてよ。

 楽なもんだ。

 

 

 てなわけで、今期のお仕事も終了。

 しばらくは地上でのんびり過ごすつもりだよ。

 ついでだから、このご令嬢の〝ご活躍〟を陰から見物させてもらうかねえ。

 さあて、どんなことになるのやら……。

 

 楽しみ。

 楽しみ。

 けけけ。

 

 なに、性格が悪い?

 しょーがねーだろ、魔物なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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