破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「ねえ、いるんでしょ?」
かわいらしい声。
それと同時に、ドアがノックされる。
反応はない。
少女は、ドアに耳を当てた後、
「入るよ」
言いながら、無遠慮に部屋に入っていく。
散らかり切った部屋。
閉め切って、日がまるで入ってこない。
「あー、きったなーい」
少女はケラケラ笑いながら、部屋を見まわして、
「なんだ、やっぱりいるんじゃない」
部屋の隅。
そこには、死体みたいな影があった。
少年が1人壁に寄りかかっている。
ピクリともしない。
「ヤッホー、ラック。久しぶり♥」
少女は少年を見おろしながら、またケラケラ笑う。
ラック。
少年――プリズラクの愛称。
この呼び方をする者は少ししかいない。
「相変わらず負け犬モード全開だねー。ま、お似合いだけど」
少女は、落ちているゴミを蹴りながら、
「今日はね? あんたに良いこと教えにきてあげたんだー♥」
笑顔。
しかし、泥と汚物を煮込んだような悪意の瞳。
「ほら、ここね。ご主人様のかわいい赤ちゃんがいるんだよ。まだちっちゃいけど」
少女は自分の腹を撫でた。
「ラックってば、さびしそーだねー? 相手してくれる女の子もいないんだ? しょーがないよね、ヘタレだし雑魚雑魚だし。魅力ないしー」
少女の蔑みにも、少年は無反応だった。
「じゃあね? 今度ご主人様と私のラブラブエッチ動画持ってきてあげようか? レーヌねえも一緒だよ。それでも見て、ひとりでシコシコしてね。キャハハッ」
やはり。
少年の反応はない。
「あれー? ひょっとしてホントに死んじゃったー? かわいそー……なんて、ね」
少女が肩をすくめた時、
「よく街ン中に入ってこれたなぁ、アバズレ?」
「!!」
少女はハッとして身構えようとするが、
ザムッ
「ぎやぃ!?」
風が吹いた。
同時に、少女の右の膝がザックリと切り割られる。
バランスを崩したところを、
ザクリ
「!?!?」
今度は、左の足首が斬り飛ばされた。
ゴッ
立つことができず、転がった少女の腹を誰かが思い切り蹴飛ばす。
たまったものではなく――
少女はゴミクズみたいに、部屋の外に蹴り出された。
「まさか、こんなアホみてーなもんに引っかかるとはなぁ。嬉しい反面、ちょっとガッカリだ」
言いながら、黒髪の女が少女の右手を踏み潰した。
ベキリ
「ぎっ……!?」
たまらず悲鳴を上げ、顔を上げた少女は、
「ミカリ・バーバ……!」
「おうおう。よくぞ忘れてなかったな、カオナ・ムータ。いや、メスブタ? てめえらのおかげで、手間も金もだいぶかかっちまったよ。どうしてくれるんだ、この
少女を見おろしながら、ミカリはニタリと凶悪な顔で笑う。
「ど、どうして……?」
「あ? どうしてだ? それはアレか? お前らに裏切られて、コイツが引きこもって泣きながら【自家発電(シコシコ)】してますって話か?」
.
と。
ミカリは、さっき少女を斬った相手を指した。
その相手――プリズラクは微妙な顔で聞いている。
「ウ・ソ・だ・よ。
ブシ、ベキキ
ミカリは笑い、今度は少女の左手を踏み潰す。
「ぎぃあ………!?!?」
「うちでも名うてだったてめえが、このザマとはなあ。スケベ野郎にこまされて、股だけじゃなく頭もゆるみきったか? それとも、メッキがはがれただけか?」
「……レーヌねえ!」
助けを呼ぶ少女へ、
「おねえさん? ここにいるわよ」
別の誰かが――
何かを少女の前に放った。
ゴロン
と、転がったもの。
それは少女と姉同然に育った相手であり……。
また、少女と一緒に少年やギルドを裏切った女だった。
今は、醜悪な生首だけとなっている。
首を投げた相手。
カーシャの存在に、少女は気づかない。
というより。
現実を受け入れることができなかった。
時間は少し戻り――
「で――やるんだな?」
「はい」
と。
少年――プリズラクはミカリに頭を下げた。
額や頬に生々しい傷跡が残っている。
「前よりも男前になったじゃないのか?」
傷を見ながら、ミカリはニタリと笑った。
「は……」
プリズラクは薄い反応。
「ふん。まあ、いいさ。本来だったら、てめえなんぞ見捨てるつもりだったよ。ほっといたって野たれ死にするのは目に見えてたらからな」
「そいつは、どうも……」
「恥じる気持ちがあるのかよ。だったら、この不始末はきっちりつけるんだな」
「わかりました」
それから。
プリズラクが退室した後、
「
報告によって来たのは、痩せた老人。
〝とっつぁん〟の愛称で呼ばれる、元・冒険者。
「どこだ?」
「この辺りに潜んでいるようで。ここらは、廃村の跡がまだ残ってて、隠れ場所には不自由しねえ」
〝とっつぁん〟は、地図で示しながら説明する。
「あのクソゴミ……。今度ぁ生かしておかねえ」
ミカリは、暗い声で言った。
ゾッとするような憎悪の燃える眼。
「しかしねえ、
「……なんだい?」
「どうやら、兵隊の人数は増えてるようだ。あるいは、全員そろってるかもしれねえ」
「ははっ。だったら、なお好都合ってもんだ」
ミカリは愉快そうに笑い、
「後腐れがないよう、皆殺しだ」
「ここだったかい」
〝とっつぁん〟は、言った。
ほとんど物のない、古い家屋にプリズラクはいた。
ギルド・スミオ支部の裏手にあるもので――
冒険者たちが、武器の手入れなどで使うことが多い。
実際。
プリズラクも静かに武器の手入れをしていた。
「なるように、なっちまったな」
「ああ」
〝とっつぁん〟の声に、プリズラクは返事だけをする。
「因果なもの、というかなあ」
プリズラクはやれやれと言う顔で、手入れしたばかりの武器を見る。
「なっちゃったもんは、しょうがないよ」
「
「でなきゃ、俺が殺されるもの」
嘆息しながら、プリズラクは首を振った。
「あの2人はまあ強いんだけど……。あの
「そうかい」
「〝とっつぁん〟は違うと思うのかい?」
「いや――」
〝とっつぁん〟は、静かに否定。
「俺も、こんなおいぼれになるまで、色んなヤツを見てきたがよ。あんなバケモノは初めてだ」
「そうなのかい、いや、そうなんだろうね」
刃を鞘におさめて、プリズラクは息を吐く。
「あんなのには、殺されたくないなあ」
まあ。
ほとんど殺されかけたけど……。
プリズラクは、何とも言いがたい顔で笑った。
「スミオでの不手際は、なんとかなりそうかい?」
「どうかなあ。ただ、あの御令嬢が助太刀するなら――いけるとは思うよ」
ゴトクの質問にギルドマスターがそう答えた。
小さな路地裏で、男2人は話している。
ゴトクはしゃがみこみ、ギルドマスターは壁によりかかっていた。
「あちこちで面倒ごとがあるもんだな」
「まったくだよ。今に始まったことでもないがね」
「ちがいねえ。あんたの親父さんも苦労してたよ。知ってるだろうけどな」
「わかってるつもりじゃいたけど、こうして我がことになると、ね」
ギルドマスターは苦笑して頭を撫でた後、
「ただ、どうもね。スミオの件じゃあ不安がなくもない」
「世の中には、100%ってものは早々ないからな」
「それもそうなんだが……」
困った顔のギルドマスターに、
「相手ってのが、厄介なようで」
「女使い、か何かだろ」
ゴトクはつまらなそうに言った。
「あんたの耳に入ってたようだなあ」
「女をたらしこんで調教して、奴隷にして兵隊として使う。まあ、わりと? よくあるヤツだよ」
「羨ましいというべきなのかねえ」
「どうだろうな。本人は大いに楽しいだろうが」
ゴトクはあくびでもしそうな表情だった。
「だいたいが、魔王にしろ何にしろ、そういう
「続かれるとこっちが困るよ」
「そうだな」
ギルドマスターの言葉に、ゴトクは少しだけ笑う。
「……で、だ。その手の魔法は敵側がうろたえて戦意喪失したり、冷静さを欠いてこそ威力を発揮するもんだ」
と。
ゴトクは今度こそ、あくびをしながら、
「最初はうまくいっても、その分憎しみやら怒りやら、余計に敵の戦意を燃え立たせる。つまり後から反動が来るようなもんだな。それになあ……裏切り者ってのは、怨敵以上に憎しみを買うもんだ」
「あー、なるほど……」
ギルドマスターは、ほうっと息を吐き出し、
「何やら、肩がこってきたな……」
若干、不景気な表情で言った。
「確かに――聞いても話しても、楽しい話題じゃないな」
ゴトクはギルドマスターに応えながら――
金属のボトルを取り出す。
「
「あんたの奢ってくれる酒なら、是非もないな」
笑うギルドマスターに、ゴトクは小さな木製のコップを投げる。
「美味いねえ」
一口味わった後。
ギルドマスターは小さく感嘆の声。
「自家製の
「そりゃあ嬉しいねえ。何しろ疲れることが多いもんだから」
「気苦労の多い仕事は大変だな」
「まあねえ。かと言って放り出すわけにもいかないから、困ったもんだ」
誰か代わりに背負ってくれるヤツがいると良いんだが……。
ギルドマスターはしみじみと言った。
「さっきの話だが。まあ大丈夫だとは思うぞ?」
ゴトクはややしんみりした顔のギルドマスターに、
「女使いの手練手管は、あの女にゃ通じまいよ」
「そうかね」
「ああ」