破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その90、始末の助勢-3 「代償はたっぷり払ってもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、いるんでしょ?」

 

 かわいらしい声。

 それと同時に、ドアがノックされる。

 

 反応はない。

 

 少女は、ドアに耳を当てた後、

 

「入るよ」

 

 言いながら、無遠慮に部屋に入っていく。

 

 散らかり切った部屋。

 閉め切って、日がまるで入ってこない。

 

「あー、きったなーい」

 

 少女はケラケラ笑いながら、部屋を見まわして、

 

「なんだ、やっぱりいるんじゃない」

 

 部屋の隅。

 そこには、死体みたいな影があった。

 少年が1人壁に寄りかかっている。

 ピクリともしない。

 

「ヤッホー、ラック。久しぶり♥」

 

 少女は少年を見おろしながら、またケラケラ笑う。

 ラック。

 少年――プリズラクの愛称。

 この呼び方をする者は少ししかいない。

 

「相変わらず負け犬モード全開だねー。ま、お似合いだけど」

 

 少女は、落ちているゴミを蹴りながら、

 

「今日はね? あんたに良いこと教えにきてあげたんだー♥」

 

 笑顔。 

 しかし、泥と汚物を煮込んだような悪意の瞳。

 

「ほら、ここね。ご主人様のかわいい赤ちゃんがいるんだよ。まだちっちゃいけど」

 

 少女は自分の腹を撫でた。

 

「ラックってば、さびしそーだねー? 相手してくれる女の子もいないんだ? しょーがないよね、ヘタレだし雑魚雑魚だし。魅力ないしー」

 

 少女の蔑みにも、少年は無反応だった。

 

「じゃあね? 今度ご主人様と私のラブラブエッチ動画持ってきてあげようか? レーヌねえも一緒だよ。それでも見て、ひとりでシコシコしてね。キャハハッ」

 

 やはり。

 少年の反応はない。

 

「あれー? ひょっとしてホントに死んじゃったー? かわいそー……なんて、ね」

 

 少女が肩をすくめた時、

 

「よく街ン中に入ってこれたなぁ、アバズレ?」

 

「!!」

 

 少女はハッとして身構えようとするが、

 

 ザムッ

 

「ぎやぃ!?」

 

 風が吹いた。

 同時に、少女の右の膝がザックリと切り割られる。

 

 バランスを崩したところを、

 

 ザクリ

 

「!?!?」

 

 今度は、左の足首が斬り飛ばされた。

 

 ゴッ

 

 立つことができず、転がった少女の腹を誰かが思い切り蹴飛ばす。

 

 たまったものではなく――

 少女はゴミクズみたいに、部屋の外に蹴り出された。

 

「まさか、こんなアホみてーなもんに引っかかるとはなぁ。嬉しい反面、ちょっとガッカリだ」

 

 言いながら、黒髪の女が少女の右手を踏み潰した。

 

 ベキリ

 

「ぎっ……!?」

 

 たまらず悲鳴を上げ、顔を上げた少女は、

 

「ミカリ・バーバ……!」

 

「おうおう。よくぞ忘れてなかったな、カオナ・ムータ。いや、メスブタ? てめえらのおかげで、手間も金もだいぶかかっちまったよ。どうしてくれるんだ、この出費(ついえ)。……代償はたっぷり払ってもらうぞ?」

 

 少女を見おろしながら、ミカリはニタリと凶悪な顔で笑う。

 

「ど、どうして……?」

 

「あ? どうしてだ? それはアレか? お前らに裏切られて、コイツが引きこもって泣きながら【自家発電(シコシコ)】してますって話か?」

.

 

 と。

 

 ミカリは、さっき少女を斬った相手を指した。

 その相手――プリズラクは微妙な顔で聞いている。

 

「ウ・ソ・だ・よ。莫迦(バカ)

 

 ブシ、ベキキ

 

 ミカリは笑い、今度は少女の左手を踏み潰す。

 

「ぎぃあ………!?!?」

 

「うちでも名うてだったてめえが、このザマとはなあ。スケベ野郎にこまされて、股だけじゃなく頭もゆるみきったか? それとも、メッキがはがれただけか?」

 

「……レーヌねえ!」

 

 助けを呼ぶ少女へ、

 

 

「おねえさん? ここにいるわよ」

 

 

 別の誰かが――

 

 何かを少女の前に放った。

 

 ゴロン

 

 と、転がったもの。

 

 それは少女と姉同然に育った相手であり……。

 また、少女と一緒に少年やギルドを裏切った女だった。

 

 今は、醜悪な生首だけとなっている。

 

 首を投げた相手。

 カーシャの存在に、少女は気づかない。

 

 というより。

 

 現実を受け入れることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し戻り――

 

 

 

 

 

「で――やるんだな?」

 

「はい」

 

 と。

 少年――プリズラクはミカリに頭を下げた。

 額や頬に生々しい傷跡が残っている。

 

「前よりも男前になったじゃないのか?」

 

 傷を見ながら、ミカリはニタリと笑った。

 

「は……」

 

 プリズラクは薄い反応。

 

「ふん。まあ、いいさ。本来だったら、てめえなんぞ見捨てるつもりだったよ。ほっといたって野たれ死にするのは目に見えてたらからな」

 

「そいつは、どうも……」

 

「恥じる気持ちがあるのかよ。だったら、この不始末はきっちりつけるんだな」

 

「わかりました」

 

 

 それから。

 プリズラクが退室した後、

 

支部長(かしら)、あの野郎の動きがわかったようですぜ」

 

 報告によって来たのは、痩せた老人。

 〝とっつぁん〟の愛称で呼ばれる、元・冒険者。

 

「どこだ?」

 

「この辺りに潜んでいるようで。ここらは、廃村の跡がまだ残ってて、隠れ場所には不自由しねえ」

 

 〝とっつぁん〟は、地図で示しながら説明する。

 

「あのクソゴミ……。今度ぁ生かしておかねえ」

 

 ミカリは、暗い声で言った。

 ゾッとするような憎悪の燃える眼。

 

「しかしねえ、支部長(かしら)

 

「……なんだい?」

 

「どうやら、兵隊の人数は増えてるようだ。あるいは、全員そろってるかもしれねえ」

 

「ははっ。だったら、なお好都合ってもんだ」

 

 ミカリは愉快そうに笑い、

 

「後腐れがないよう、皆殺しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだったかい」

 

 〝とっつぁん〟は、言った。

 ほとんど物のない、古い家屋にプリズラクはいた。

 

 ギルド・スミオ支部の裏手にあるもので――

 冒険者たちが、武器の手入れなどで使うことが多い。

 

 実際。

 プリズラクも静かに武器の手入れをしていた。

 

「なるように、なっちまったな」

 

「ああ」

 

 〝とっつぁん〟の声に、プリズラクは返事だけをする。

 

「因果なもの、というかなあ」

 

 プリズラクはやれやれと言う顔で、手入れしたばかりの武器を見る。

 

「なっちゃったもんは、しょうがないよ」

 

()るんだな?」

 

「でなきゃ、俺が殺されるもの」

 

 嘆息しながら、プリズラクは首を振った。

 

「あの2人はまあ強いんだけど……。あの悪鬼(おに)を敵にするよりは億倍もマシさ」

 

「そうかい」

 

「〝とっつぁん〟は違うと思うのかい?」

 

「いや――」

 

 〝とっつぁん〟は、静かに否定。

 

「俺も、こんなおいぼれになるまで、色んなヤツを見てきたがよ。あんなバケモノは初めてだ」

 

「そうなのかい、いや、そうなんだろうね」

 

 刃を鞘におさめて、プリズラクは息を吐く。

 

「あんなのには、殺されたくないなあ」

 

 まあ。

 ほとんど殺されかけたけど……。

 

 プリズラクは、何とも言いがたい顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミオでの不手際は、なんとかなりそうかい?」

 

「どうかなあ。ただ、あの御令嬢が助太刀するなら――いけるとは思うよ」

 

 ゴトクの質問にギルドマスターがそう答えた。

 

 小さな路地裏で、男2人は話している。

 ゴトクはしゃがみこみ、ギルドマスターは壁によりかかっていた。

 

「あちこちで面倒ごとがあるもんだな」

 

「まったくだよ。今に始まったことでもないがね」

 

「ちがいねえ。あんたの親父さんも苦労してたよ。知ってるだろうけどな」

 

「わかってるつもりじゃいたけど、こうして我がことになると、ね」

 

 ギルドマスターは苦笑して頭を撫でた後、

 

「ただ、どうもね。スミオの件じゃあ不安がなくもない」

 

「世の中には、100%ってものは早々ないからな」

 

「それもそうなんだが……」

 

 困った顔のギルドマスターに、

 

「相手ってのが、厄介なようで」

 

「女使い、か何かだろ」

 

 ゴトクはつまらなそうに言った。

 

「あんたの耳に入ってたようだなあ」

 

「女をたらしこんで調教して、奴隷にして兵隊として使う。まあ、わりと? よくあるヤツだよ」

 

「羨ましいというべきなのかねえ」

 

「どうだろうな。本人は大いに楽しいだろうが」

 

 ゴトクはあくびでもしそうな表情だった。

 

「だいたいが、魔王にしろ何にしろ、そういう(たぐい)は、どれだけイキっても長く続くもんじゃない」

 

「続かれるとこっちが困るよ」

 

「そうだな」

 

 ギルドマスターの言葉に、ゴトクは少しだけ笑う。

 

「……で、だ。その手の魔法は敵側がうろたえて戦意喪失したり、冷静さを欠いてこそ威力を発揮するもんだ」

 

 (エロ)本なんかじゃ、そのあたりでページが終わるがよ。

 

 と。

 ゴトクは今度こそ、あくびをしながら、

 

「最初はうまくいっても、その分憎しみやら怒りやら、余計に敵の戦意を燃え立たせる。つまり後から反動が来るようなもんだな。それになあ……裏切り者ってのは、怨敵以上に憎しみを買うもんだ」

 

「あー、なるほど……」

 

 ギルドマスターは、ほうっと息を吐き出し、

 

「何やら、肩がこってきたな……」

 

 若干、不景気な表情で言った。

 

「確かに――聞いても話しても、楽しい話題じゃないな」

 

 ゴトクはギルドマスターに応えながら――

 金属のボトルを取り出す。

 

()るかい?」

 

「あんたの奢ってくれる酒なら、是非もないな」

 

 笑うギルドマスターに、ゴトクは小さな木製のコップを投げる。

 

「美味いねえ」

 

 一口味わった後。

 ギルドマスターは小さく感嘆の声。

 

「自家製の薬膳酒(コーディアル)だ。味にも滋養にも自信があるぜ」

 

「そりゃあ嬉しいねえ。何しろ疲れることが多いもんだから」

 

「気苦労の多い仕事は大変だな」

 

「まあねえ。かと言って放り出すわけにもいかないから、困ったもんだ」

 

 誰か代わりに背負ってくれるヤツがいると良いんだが……。

 

 ギルドマスターはしみじみと言った。

 

「さっきの話だが。まあ大丈夫だとは思うぞ?」

 

 ゴトクはややしんみりした顔のギルドマスターに、

 

「女使いの手練手管は、あの女にゃ通じまいよ」

 

「そうかね」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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