破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なるほど。確かに、腕利きらしい」
いきなり。
声をかけられて、女は振り返る。
と。
同時に腰の刃を引き抜いて、
「シィ……!
小さく短い気合。
それと同時に、斬撃を相手に放っていた。
魔力を刃に変え、磨かれた剣技で遠距離の敵を裂く。
並の魔法剣士では扱えない。
冒険者で言うのなら……。
それこそ、SRの技。
が、
パン
――な……!?
相手は、あっさりとそれを打ち払い、消しとばた。
まるで。
虫でも追い払うような手つき。
「なるほど、なるほど」
感心したように言って、相手を近づいてくる。
隙だらけだ。
青い髪、水色の瞳。
深窓の姫君か貴婦人を思わせる美貌。
でも。
それと矛盾するような、死臭に似た嫌な気配。
――こいつは。
相手の容姿に、女は気づく。
「
「たいそうな呼び方よね? あなたはどう思う?」
相手は砂つぶほどの気負いもなく、そう言った。
友達にでも話しかけるように。
「レーヌ・オムナーー風雷の剣士。お互いに、大げさな呼び名よねえ」
相手は、女の名前を口にする。
「カーシャ・チーフウォール」
「それは昔のことだけどね。もう家名なんてものはないから」
言った後、
「ああ、そこはあなたも同じか。今はもう風雷の騎士でも戦士も出ない」
タダのメスブタ。
下賤な言い方をすれば、【肉便器】かしら?
カーシャは何とも言えない、
「貴様……」
女――レーヌは怒りの眼となった。
褐色の肌に銀髪。
長年鍛えられたゆえの、優れたプロポーション。
美貌の女剣士という風貌。
「ところで。妹分はどうしたの? 一緒にギルドを裏切ったのよねえ?」
妹分。
カオナ・ムータ。
片刃の小剣を二刀流で操る、俊敏さを誇るレンジャー。
レーヌよりも年下で小柄。
2人そろって、ギルドでは名の通った冒険者。
……だった。
「――ああ、なるほど」
レーヌが反応する前に、カーシャはポン手を打って、
「お前が安全を確保しながら、妹分が自由に行動しやすくする。なるほど、なるほど」
その時。
ガィン!!
風と稲妻をまとった刃が、カーシャに襲いかかっていた。
一方で。
カーシャはそれを小剣で受ける。
ボボボボボ……!
斬撃は防いだ。
しかし。
稲妻は刃を通じて、カーシャの身を激しく打って、焼く。
――ドラゴンスレイヤーといえど……。生身なのは、同じ!
レーヌは手ごたえを感じて、小さく笑う。
そう推測しての攻撃。
が、
ゴン!
「ぐっ……!」
肉薄した状態。
そこから、カーシャは頭突きをレーヌの顔に浴びせてきた。
離れた。
それから、数秒。
否。
1秒もあったかどうか。
ガラン……
レーヌの剣が、地面に転がる。
金属製手甲を持った腕と一緒に――
「あ」
思わず、硬直したレーヌは、
ゴッ
「ごふっ……!」
胸を踏まれ、地面に叩きつけられていた。
ベキ、ゴリ……
鎧にひびが入り、カーシャの足裏がめりこむ。
――く……! しかし!
踏みつけられた状態。
しかし。
レーヌはそこから反撃を試みた。
剣を失ったが、魔法はまだ健在。
ゴリュ
「がっは……」
魔法を発動。
……する前に、踏みつける足が胸骨を砕き、内臓に圧力を加える。
「敵地にわざわざ何をしに来たか……。まあ、それは聞きますまい」
レーヌを見おろし、カーシャは言った。
「まさか? 【飼い主】の子供を妊娠したとあの坊やに教えに来たわけではないでしょう?」
「……!!」
「あら……」
レーヌの反応に、カーシャは目を丸くした。
死ぬほど、わざとらしい態度。
「なんとまあ。そんなことをさせるために、妊婦を敵地に送るなんて……。ひどい相手に飼われたものねえ」
ま、メスブタにはお似合いの相手かもしれないけど。
カーシャは同情するように言って、
グシャ
レーヌの腹を、踏んだ。
「ああああああ!?」
腹を押さえて、絶叫するレーヌ。
「あら。ごめんなさい。せっかくの子供がダメになってしまったわね」
転がるレーヌを見ながら、カーシャを驚いてみせる。
「けど。それも良いんじゃないかしら? どうせまともに育てられないでしょうし。育っても、どうなることやら」
そして。
レーヌの髪をつかんで、つり上げる。
「どう転んでも、お前は藁踊りになるか、なます斬りにされる運命だったの。私が関わろうと、関わるまいとね。ことが大きくなれば、他の支部からどんどん刺客が来たと思うわよ。何しろ」
ここの支部は、5000万ジュラも使ったのだから。
いずれ賞金首になって、死ぬまで追い回されたでしょうねえ。
言いながら、カーシャは何かをレーヌの首筋に当てた。
小剣ではない。
大きな、ノコギリーーだった。
「な……」
「とどめはこれでやってくれ、と。支部長からは注文を受けてるの。悪く思っても、怨んでも良いわよ?」
言って、
カーシャは、
ノコギリで――
…………。
「さて」
切り落とした女剣士の生首を、カオナの前に放った後――
さっさと背を向け、歩き出すカーシャへ、
「もう帰るのかい?」
たずねたのは、ガジカだった。
「いえ。【飼い主】のほうをどうにかしようとね」
「そ、そうかい。あれ? でも」
「クエストは、裏切り者を始末する手助け。これはまあ、オマケよ」
「オマケ」
「そ。オマケ」
「ふーん?」
「私の
「なるほど?」
ガジカはうなずくが、何となく納得できない。
「まあ、それに……」
カーシャは軽く青い髪をかき上げて振り返る。
そして。
少年――プリズラクのほうを見た。
「面白い状況も見れたから」
「さぁて……」
と――
宙に浮いた男は、面白そうに言った。
古びた部屋の中には、白いものがいくつも転がっている。
全裸、あるいは半裸姿の女が複数。
犬のように這いつくばっていた。
「あの子たちは、うまくやっているでしょうかねえ」
小柄で、小太り。
どう見ても、女に魅力的……と思われない。
そんな風貌。
「ご主人様……」
窓から、女の声がした。
かと思えば――
黒い装束の女が、床に片膝をついている。
「はて。どうしました?」
「こちらに向かってくる者が1人」
「ほう。1人」
「スミオから来たようです。ギルドが送ってきたのやもしれません」
「おやおやまたですか。何回も返り討ちにされているのに……こりませんねえ」
男は笑って首を振る。
「それで、どんな屈強な男ですか? 単独ということは、それなりに自信があるのでしょうね」
「いえ――女です」
「おや、これはこれは……」
男はニヤニヤしながら、
「ギルドは今までのお詫びにプレゼントを贈ってくれたようですねえ。それなら、ありがたく受け取らないと」
「では」
「そうですね。
「はっ」
「ああ、殺したりしてはいけませんよ。私がいくまで時間を稼げればよろしい」
「心得ました――」
答えて、黒装束は姿を消した。
「ご主人様、また新しい
女の1人が、媚び切った眼で男を見上げる。
「うっふふふ。そう妬いてはいけませんよ」
男は男は着地すると、
「みんな、ちゃんと愛してあげているんですから。自分だけ、と欲張ってはいけませんねえ」
女の胸を粘着質につかみながら言った。
「は、はい……」
「新しい子とも、仲良くするんですよ? うふ、うふふふ……」
…………。
ゴロ、ゴロン
「へ?」
床に転がったものを見て、男はあっけにとられていた。
自分が、出迎えのため送った女たち。
その生首だけが無情に転がっている。
「犬を送るのなら、お座敷犬ではなく猟犬か軍用犬にすべきだったわね?」
青い髪の乙女は淡々と言う。
「な、なんという……」
「?」
男の反応に、カーシャは不思議さを感じた。
「まさか、こいつらを見て私が動揺する、とでも?」
首をかしげた後、
「ああ、それとも……。彼女たちも犠牲者だから、とでも言って穏便に済ませようとする、とか?」
「な、な……」
「――あああ。おおかた、あのマヌケな2人はそんなことでも言ったんでしょうね。なるほど、それはダメだわ」
死んで正解。
あるいは、裏切ってくれたほうが良かったかもね。
ギルドも遠慮くなく始末できるから。
カーシャはうなずきながら言った。
その時、男のはべらしていた女たちがカーシャを取り囲む。
ベシャ
最後の1人が、壁で紅いシミとなった。
「お前、いったい何がしたいの? 女をはべらせて楽しみたいならギルドと敵対する意味、ある?」
「なんという……わ、私の可愛い子たちを」
「あ。ふーん」
わなわなと震える男に、
「あんたの子がおなかにいた、と。それは気の毒だったわねえ。でも、そんな大事なものに危ないことをさせてたのだから――」
そちらの責任よねえ。
カーシャは笑いもせず、怒りもしない。
「それに、あんたが
「ば、バカな」
「いや……敵地に送ったら死ぬかもしれないのは、当然でしょう? あんた、本当に何を考えているの???」
カーシャは男の行動理由も、意味もまるでわからなかった。
まるで。
狂人とでも話しているような気分で――