破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その92、始末の助勢-5 おかしなやつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素敵な晴れ姿だな、故郷(くに)に帰ったら大成功者だ。銅像でも立つんじゃないのか?」

 

 引きずられ、拘束され、放り出された――

 顔を血まみれにしたカオナを見ながら、ミカリは笑った。

 

「あ。お前、もとは親も家もねえ宿なしだったか。こりゃ悪かったね」

 

 と。

 悪意のこもった声をもらした。

 

「とはいえ……。せっかく、ギルドの他でも名を売って、順調にいけば出世もできたろうになあ。てめえで全部台無しにしたな? そんなに良かったか? 【ご主人様】のチンポコは」

 

 言いながら、

 

 ガッ

 

 その鼻先につま先を蹴り込んだ。

 

「………~~!??」

 

 悶絶しながら転がるカオナを見て、

 

 ――忌々しいが……。まあ、これでせいせいすらぁな。

 

 ミカリは、怒りと喜びを同時に感じていた。

 

 

 

 もともと……。

 

 ミカリは、いち冒険者だった。

 そこから実力を発揮して、ギルドナイトに昇格したわけだが。

 

 その中でも、もっとも上とされる1番隊長。

 同じ女ながらも、何度も衝突していた。

 

 ヒマル・ヨーフグ。

 

 スミオだけではなく――

 冒険者ギルド全体でも、5本の指に入ると言われたシャドウナイト。

 

 シャドウナイトとは……。

 アサシンと魔法剣士の両特性を併せ持った特殊ジョブ。

 他にもレンジャーやシーフなど、様々なジョブの能力が必要とされる。

 

 実力と美貌を兼ね備えた女戦士。

 カオナもレーヌも、もとは彼女の下にいたわけである。

 

 ――いや……。腹は立つが、ひょっとするとギルドでも一番の使い手かもしれねえ。

 

 常にいがみ合う関係であったミカリでさえ……。

 と、腹の中では常々思っていたほどだ。

 

 ヒマルは確かに、強かった。

 ミカリも含め、誰もがそれは認めるしかない。

 

 あるいは。

 本人は無自覚ながら、そこをもっとも評価していたのはミカリだった。

 それは、もはや尊敬とさえ言えたものか。

 

 だが。

 

 ミカリから言わせると、

 

「ギルドは、愛と正義を守る白馬の騎士様じゃねえ……」

 

 ヒマルのやりかたは、そういうものだった。

 

 また。

 なまじに実力があるだけに、足元をすくわれやすい。

 

「あいつがヘタを打ってどうなろうが、知ったことじゃねえが……。その巻き添えでこっちまで泥をひっかぶるのは我慢ならねえ」

 

 もっとも、向こうから言わせればミカリは、

 

「野盗と同レベルの(やから)

 

 らしかった。

 

 実際、それはそうなのだが。

 

 ――もっと割り切ってやってれば、良かったんだ。

 

 2年前。

 ヒマルは他国の暗黒街との争いで、行方知れずとなった。

 

 相手は、人身売買(ひとかい)を行う組織。

 主に女を扱う。

 

 ヤオアムト中心の地域、あるいは文化圏。

 そこでは、サキュバスが娼婦の職を全て占拠しているのだが……。

 

 だからこそ、なのか。

 女の奴隷を欲しがる【好事家】はいるらしい。

 

「まあ、なんだな。希少価値? のあるものをありがたがってるわけだ。フツーなら、そんなリスクのあるモノ、欲しがるヤツはほぼいないよ」

 

 ギルドマスターは、そう語っていた。

 

 要するに、

 

 ――てめえの、権力だの銭だのをひけらかすための道具、ブランド品だな。

 

 ミカリはそう解釈している。

 

 そして――

 

 争いの時、相手は〝商品〟である女たちを盾にした。

 これが……。

 ミカリであれば、構うことなくまとめて皆殺しにしただろう。

 

 しかし、ヒマルはそれをしなかった。

 あるいはできなかったのか。

 

 結局。

 

 それでグダグダになり、相手の幹部クラスを逃がした上に、

 

 ――当の本人は行方不明だ。バカらしくって話にもなれねえ。

 

 だが、しかし。それでも。

 ヒマルの――あの腕だけは、

 

 ――惜しい……。まったく、惜しい……。

 

 と。

 ミカリは晩酌の時などに、思い出している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんということを……! 私の子供を孕んだ者たちを…………」

 

「そんなに大切だったら、金庫にでもしまっておくべきだったわね」

 

 男の放った言葉に、カーシャは穏やかな声で応えた。

 

「――あなたには、報い……いや、償いをしてもらわなければいけない」

 

 ジトッとした目つきで、男はそう言った。

 

 雰囲気が、徐々に変わり始める。

 粘質の魔力が、見栄えのしないからだから噴き上がり出して、

 

 バゴッ!

 

 カーシャの足裏が、その腹に叩きこまれた。

 

 男の体は壁に激突。

 そのまま壁を破壊しながら、隣の部屋に吹っ飛んでいった。

 

「……」

 

 カーシャは、カーラナーガを手にゆっくりと進み出す。

 

 ――逃げる気配はない……。なにか魔法を使うつもり?

 

 そのように考えていると、

 

 シュウ……

 シュウ……

 

 壁に空いた穴から、毒々しいピンクの蒸気が漏れ出してきた。

 

「これは……」

 

 毒。

 いや、麻痺魔法(パラライズ)に近いのか。

 

「?」

 

 似たようなものは、何度も喰らったが……。

 どうも、少し違うようだ。

 

 ――ふうん?

 

 ただ。

 まったく初めてというのでもない。

 どこかで、感じたようなもの。

 

「ああ」

 

 手にした黒剣を、もう片方の手でポンポンとしながら――

 カーシャは令嬢時代のことを少し思い出す。

 

 夜。

 特に眠れないような時が多かったか。

 

 日常で感じ続ける、モヤモヤとした気持ちを誤魔化すように。

 ベッドの中で、こっそりと、ひっそりと、

 

 ――【ひとり遊び】をしていた感覚か。

 

 そういえば……。

 戻ってきてから、この手のこととは無縁だったわね?

 

 すっかり、忘れていた。

 いつの間にか、そういうことは感じなくなっていたのか。

 

 ――あるいは、そういう発想も忘れていた?

 

 カーシャは苦笑しかけた口もとを押さえる。

 

 今さら。

 我がことながら、おかしなものだという気分になった。

 

「どうです。熱く、情熱的な気分になってきたでしょう?」

 

 男の声が響いた。

 ねっとりとして不快な、いかにも、

 

 ――好色家(スケベオヤジ)という感じね。

 

 カーシャがそう思っていると、

 

 ヌルリ

 

 壁の穴から、何かが這い出して来る。

 それも複数。

 タコかイカのような、粘液をしたたらせた触手の群れ。

 

「おかしな相手だとは思っていたけど……。ひょっとして、異界からのお客様だった、というわけ?」

 

 触手を足のように使って出てくる男に、カーシャは言った。

 

「さよう。いかにも、その通りですよレディ」

 

 男は言った。

 さっきとは違い、ヒトの形はしていなかった。

 

「…………」

 

 下半身は触手。

 背中や腹からも触手。

 眼は赤黒くなり、瞳は薄気味悪い紫。

 いや。

 下品な紫か。

 

 といっても

 

 ――形を変える種族も、変化する魔法も珍しいものではないし。

 

 現に、スミオ支部長であるミカリも吸血鬼(ヴァンパイア)

 霧に変わり、翼で飛び、獣に変じる。

 

「こことは違う、遠い場所からね……。まったくドジなことでこちらに跳ばされてしまいましたが、なに、こちらでも花を咲かせて、子種をまけばいいわけで。ちょっとトラブルもありましたが、すぐにこの国も淫らの楽園にしてみましょう。楽しいですよ?」

 

 異形となった男は、わけのわからないこと(・・・・・・・・・・)を言っている。

 カーシャの体をなめ回すように見ながら。

 

「……」

 

 カーシャは、無言だ。

 

 ただ。

 心の内では、

 

 ――コイツ、変なクスリでもやっているのか?

 

 呆れるというより、わずかに同情すらしていた。

 

「どんどん熱く、ほてる体をたっぷり愛してさしあげましょう。ふふ、私の子や妻たちを殺した相手に、何と慈悲深いでしょうね、私は」

 

 触手を伸ばしながら、男は笑った。

 

「代わりに、というのもおかしいが……。あなたには私の子を産んでもらいますよ、何人も、何人もね。ムフフ、あなたは強いのできっと強い子が――」

 

 ゴギャッ

 

 言いかけた男は、触手ごと下半身がなぎ倒された。

 散らばる肉片が黒い(もや)に包まれて、灰になっていく。

 

「ひぃ!? な、なにが……!?」

 

 上半身だけとなりながら、男は、

 

 カッ

 

 眼から、魔力を帯びた視線――光を放つ。

 

「うるさいわね」

 

 それを正面から受けカーシャは、鬱陶しそうに言った。

 わずかに(まばた)きをしながら。

 

「な、なぜ……!? 私の魔力には、逆らえないはず……」

 

「そんなこと、私が知るものか」

 

 メラメラと。

 黒い(もや)……いや、炎が燃えるカーラナーガを振りながら、カーシャは吐き捨てる。

 

「どっちにしろ、お前の楽園は長続きしないと思うわよ?」

 

 媚薬かなにかしらないけど……。

 それで頭が溶けた連中に、どんな国を作れると言うの?

 

 憐れむように言って、切っ先を向ける。

 

「な、何を言うかあああああああ!!」

 

 カーシャの言葉と視線に、男は激怒した。

 

「……もう、許してあげませんよ!! お前の穴という穴をいたぶり犯し、地獄の快感に沈めてあげましょう。何千倍も肉体(からだ)の感度を高めてね!!」

 

 失った触手を再生させ、肉体を膨張させて、カーシャに迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、まあ」

 

 と。

 

 カーシャはほぼ焼け焦げた肉塊を放り出しながら、

 

「これが騒ぎの黒幕らしいわ」

 

 ミカリに言って、鼻から息を出す。

 

「うっふ。良い仕事をしてくれるねえ。5000万ジュラの価値はあらぁ」

 

 スミオの支部長は嬉しそうに笑い、

 

 ――こんだけのヤツを味方にできた。5000万なら安い、安い。

 

 そう胸の内で言った後、

 

「なあ、オッサン? なかなか楽しいことをしてくれたなぁ? 面白かったぜ、笑えなかったがよ」

 

 黒こげの肉を踏みつけながら、牙をむき出した。

 

「ううう………」

 

 焼けた肉。

 異世界から来たという何者かは、半死半生の中で、

 

 カッ……

 

 妖しく目を光らせた。

 そこに、

 

 ザクリ

 

「ひいいいいいいい!!」

 

 焼けた火箸が突き刺さって、男が悲鳴をあげた。

 

「そんなチャチな魅了魔法(チャーム)が、吸血鬼(わたしら)に効くかよ。け、どんな細工があるかと思えば、こんなもんに引っかかりやがったのか。まあ、らしいと言えばらしいわな?」

 

 ミカリは、忌々しそうに言った。

 後ろのほうで、厳重に拘束され――

 分厚い藁の服を着せられた少女を見ながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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