破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「素敵な晴れ姿だな、
引きずられ、拘束され、放り出された――
顔を血まみれにしたカオナを見ながら、ミカリは笑った。
「あ。お前、もとは親も家もねえ宿なしだったか。こりゃ悪かったね」
と。
悪意のこもった声をもらした。
「とはいえ……。せっかく、ギルドの他でも名を売って、順調にいけば出世もできたろうになあ。てめえで全部台無しにしたな? そんなに良かったか? 【ご主人様】のチンポコは」
言いながら、
ガッ
その鼻先につま先を蹴り込んだ。
「………~~!??」
悶絶しながら転がるカオナを見て、
――忌々しいが……。まあ、これでせいせいすらぁな。
ミカリは、怒りと喜びを同時に感じていた。
もともと……。
ミカリは、いち冒険者だった。
そこから実力を発揮して、ギルドナイトに昇格したわけだが。
その中でも、もっとも上とされる1番隊長。
同じ女ながらも、何度も衝突していた。
ヒマル・ヨーフグ。
スミオだけではなく――
冒険者ギルド全体でも、5本の指に入ると言われたシャドウナイト。
シャドウナイトとは……。
アサシンと魔法剣士の両特性を併せ持った特殊ジョブ。
他にもレンジャーやシーフなど、様々なジョブの能力が必要とされる。
実力と美貌を兼ね備えた女戦士。
カオナもレーヌも、もとは彼女の下にいたわけである。
――いや……。腹は立つが、ひょっとするとギルドでも一番の使い手かもしれねえ。
常にいがみ合う関係であったミカリでさえ……。
と、腹の中では常々思っていたほどだ。
ヒマルは確かに、強かった。
ミカリも含め、誰もがそれは認めるしかない。
あるいは。
本人は無自覚ながら、そこをもっとも評価していたのはミカリだった。
それは、もはや尊敬とさえ言えたものか。
だが。
ミカリから言わせると、
「ギルドは、愛と正義を守る白馬の騎士様じゃねえ……」
ヒマルのやりかたは、そういうものだった。
また。
なまじに実力があるだけに、足元をすくわれやすい。
「あいつがヘタを打ってどうなろうが、知ったことじゃねえが……。その巻き添えでこっちまで泥をひっかぶるのは我慢ならねえ」
もっとも、向こうから言わせればミカリは、
「野盗と同レベルの
らしかった。
実際、それはそうなのだが。
――もっと割り切ってやってれば、良かったんだ。
2年前。
ヒマルは他国の暗黒街との争いで、行方知れずとなった。
相手は、
主に女を扱う。
ヤオアムト中心の地域、あるいは文化圏。
そこでは、サキュバスが娼婦の職を全て占拠しているのだが……。
だからこそ、なのか。
女の奴隷を欲しがる【好事家】はいるらしい。
「まあ、なんだな。希少価値? のあるものをありがたがってるわけだ。フツーなら、そんなリスクのあるモノ、欲しがるヤツはほぼいないよ」
ギルドマスターは、そう語っていた。
要するに、
――てめえの、権力だの銭だのをひけらかすための道具、ブランド品だな。
ミカリはそう解釈している。
そして――
争いの時、相手は〝商品〟である女たちを盾にした。
これが……。
ミカリであれば、構うことなくまとめて皆殺しにしただろう。
しかし、ヒマルはそれをしなかった。
あるいはできなかったのか。
結局。
それでグダグダになり、相手の幹部クラスを逃がした上に、
――当の本人は行方不明だ。バカらしくって話にもなれねえ。
だが、しかし。それでも。
ヒマルの――あの腕だけは、
――惜しい……。まったく、惜しい……。
と。
ミカリは晩酌の時などに、思い出している。
「な、なんということを……! 私の子供を孕んだ者たちを…………」
「そんなに大切だったら、金庫にでもしまっておくべきだったわね」
男の放った言葉に、カーシャは穏やかな声で応えた。
「――あなたには、報い……いや、償いをしてもらわなければいけない」
ジトッとした目つきで、男はそう言った。
雰囲気が、徐々に変わり始める。
粘質の魔力が、見栄えのしないからだから噴き上がり出して、
バゴッ!
カーシャの足裏が、その腹に叩きこまれた。
男の体は壁に激突。
そのまま壁を破壊しながら、隣の部屋に吹っ飛んでいった。
「……」
カーシャは、カーラナーガを手にゆっくりと進み出す。
――逃げる気配はない……。なにか魔法を使うつもり?
そのように考えていると、
シュウ……
シュウ……
壁に空いた穴から、毒々しいピンクの蒸気が漏れ出してきた。
「これは……」
毒。
いや、
「?」
似たようなものは、何度も喰らったが……。
どうも、少し違うようだ。
――ふうん?
ただ。
まったく初めてというのでもない。
どこかで、感じたようなもの。
「ああ」
手にした黒剣を、もう片方の手でポンポンとしながら――
カーシャは令嬢時代のことを少し思い出す。
夜。
特に眠れないような時が多かったか。
日常で感じ続ける、モヤモヤとした気持ちを誤魔化すように。
ベッドの中で、こっそりと、ひっそりと、
――【ひとり遊び】をしていた感覚か。
そういえば……。
戻ってきてから、この手のこととは無縁だったわね?
すっかり、忘れていた。
いつの間にか、そういうことは感じなくなっていたのか。
――あるいは、そういう発想も忘れていた?
カーシャは苦笑しかけた口もとを押さえる。
今さら。
我がことながら、おかしなものだという気分になった。
「どうです。熱く、情熱的な気分になってきたでしょう?」
男の声が響いた。
ねっとりとして不快な、いかにも、
――
カーシャがそう思っていると、
ヌルリ
壁の穴から、何かが這い出して来る。
それも複数。
タコかイカのような、粘液をしたたらせた触手の群れ。
「おかしな相手だとは思っていたけど……。ひょっとして、異界からのお客様だった、というわけ?」
触手を足のように使って出てくる男に、カーシャは言った。
「さよう。いかにも、その通りですよレディ」
男は言った。
さっきとは違い、ヒトの形はしていなかった。
「…………」
下半身は触手。
背中や腹からも触手。
眼は赤黒くなり、瞳は薄気味悪い紫。
いや。
下品な紫か。
といっても
――形を変える種族も、変化する魔法も珍しいものではないし。
現に、スミオ支部長であるミカリも
霧に変わり、翼で飛び、獣に変じる。
「こことは違う、遠い場所からね……。まったくドジなことでこちらに跳ばされてしまいましたが、なに、こちらでも花を咲かせて、子種をまけばいいわけで。ちょっとトラブルもありましたが、すぐにこの国も淫らの楽園にしてみましょう。楽しいですよ?」
異形となった男は、
カーシャの体をなめ回すように見ながら。
「……」
カーシャは、無言だ。
ただ。
心の内では、
――コイツ、変なクスリでもやっているのか?
呆れるというより、わずかに同情すらしていた。
「どんどん熱く、ほてる体をたっぷり愛してさしあげましょう。ふふ、私の子や妻たちを殺した相手に、何と慈悲深いでしょうね、私は」
触手を伸ばしながら、男は笑った。
「代わりに、というのもおかしいが……。あなたには私の子を産んでもらいますよ、何人も、何人もね。ムフフ、あなたは強いのできっと強い子が――」
ゴギャッ
言いかけた男は、触手ごと下半身がなぎ倒された。
散らばる肉片が黒い
「ひぃ!? な、なにが……!?」
上半身だけとなりながら、男は、
カッ
眼から、魔力を帯びた視線――光を放つ。
「うるさいわね」
それを正面から受けカーシャは、鬱陶しそうに言った。
わずかに
「な、なぜ……!? 私の魔力には、逆らえないはず……」
「そんなこと、私が知るものか」
メラメラと。
黒い
「どっちにしろ、お前の楽園は長続きしないと思うわよ?」
媚薬かなにかしらないけど……。
それで頭が溶けた連中に、どんな国を作れると言うの?
憐れむように言って、切っ先を向ける。
「な、何を言うかあああああああ!!」
カーシャの言葉と視線に、男は激怒した。
「……もう、許してあげませんよ!! お前の穴という穴をいたぶり犯し、地獄の快感に沈めてあげましょう。何千倍も
失った触手を再生させ、肉体を膨張させて、カーシャに迫る。
…………。
「つまり、まあ」
と。
カーシャはほぼ焼け焦げた肉塊を放り出しながら、
「これが騒ぎの黒幕らしいわ」
ミカリに言って、鼻から息を出す。
「うっふ。良い仕事をしてくれるねえ。5000万ジュラの価値はあらぁ」
スミオの支部長は嬉しそうに笑い、
――こんだけのヤツを味方にできた。5000万なら安い、安い。
そう胸の内で言った後、
「なあ、オッサン? なかなか楽しいことをしてくれたなぁ? 面白かったぜ、笑えなかったがよ」
黒こげの肉を踏みつけながら、牙をむき出した。
「ううう………」
焼けた肉。
異世界から来たという何者かは、半死半生の中で、
カッ……
妖しく目を光らせた。
そこに、
ザクリ
「ひいいいいいいい!!」
焼けた火箸が突き刺さって、男が悲鳴をあげた。
「そんなチャチな
ミカリは、忌々しそうに言った。
後ろのほうで、厳重に拘束され――
分厚い藁の服を着せられた少女を見ながら……。