破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その93、チョーク・ボロンの廃屋-1 おばけやしき

 

 

 

 

 

 

 

「あのねえ、ミズ? いいかげんで家の1つも買ったらどうさね?」

 

 と。

 ミゾイ・シーダは言った。

 

「家?」

 

 カーシャは飲み干したグラスを置き、死霊魔術師(ネクロマンサー)の女を見た。

 

「そうだよ」

 

 ミゾイはうなずいた。

 フェイスベールのまま、器用に肴(つまみ)のナッツを食べながら、

 

「あんたさ、スミオのカジノで遊んだらしいけど。それでも、まだ銭が金庫で腐りかけてるじゃあないのさ」

 

「それ以前にも、開店資金でけっこう出したけれどね」

 

 開店資金。

 女性用の【店】を開くのに、カーシャは資金提供をしている。

 相当の高額だった。

 

「といってもさあ」

 

 ミゾイは、次の酒をバーテンに注文してから首をひねり、

 

「なにしろ? あんたはドラゴン種をボカスカ狩ってただろ? 報酬はとんでもないはずだ」

 

「そうね」

 

「ドラゴンの死体……いや、素材か。そいつは地元のもんになったから、儲かってはいるようだけどねえ」

 

 なにせ、ドラゴンだ。

 国内外で需要は山ほどあるってもんさ。

 

 ミゾイは言って、切れ長の目でカーシャを見つめる。

 

「なら、いいんじゃないの?」

 

「ギルドマスターも、以前に言ったと思うけどね? 金ってのは使ってもらわなきゃあ困るんだよ、みんなが」

 

「ふむ……」

 

 カーシャも――

 次の酒を頼んでから、少し考える。

 

「黄金は川の水のごとし。海に流れ、雨となって降る。ため込んでたら腐っちまうよ。腐ったもんは疫病のもとだ」

 

「それも道理よね」

 

「だいたいさあ……。あんたはもう押しも押されもせぬ最強格の冒険者で、ドラゴンスレイヤーだ。そんなのがいつまでも、安宿でゴロついてたんじゃあいけないよ。贅沢しろとは言わないが、儲けに相応しい銭を使ってもらいたいねえ?」

 

「――で、さっきの家?」

 

「そうそう」

 

 ミゾイはうなずき、

 

「あんたなら、ネビズのどこだろうと一等地が買える。1から新築にしたっていい。どうだい?」

 

「まあ、それも良いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはダメ」

 

「気に入らない」

 

「うるさそうだから、なしね」

 

「教会のそば? 辛気臭い」

 

 と……。

 家探し、土地探しはなかなか決まらなかった。

 

「そ、それはどうも……」

 

 気の毒なのは、相手の商人で――

 相手が相手なだけに、色んな意味で神経をすり減らす。

 かといって?

 有数の【金持ち】でもあるので、

 

 ――このチャンスは無駄にしたくない……。

 

 わけである。

 

 さんざん引っ張りまわされた後。

 

「ふうん……?」

 

 疲れ果てている商人の前で、カーシャは目を細めた。

 

 水色の視線。 

 その先には、古風ながら歴史と格式を感じさせる屋敷。

 かなり老朽化が進んでているが、

 

 ――面白い。

 

 どこか本能的に、カーシャはそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ずいぶん汚ねえところを選んだもんだなあ?」

 

 埃だらけの屋敷を歩きながら、マコネはあきれ顔。

 

「広い庭付きと言ってもさ? こりゃ改築どころか、ぶっ壊して1から建て直したほうが早いぜ?」

 

「ふふ」

 

「な、なんだよ?」

 

 クスクス笑うカーシャに、マコネは少したじろぐ。

 

「いえ、なんとなく、ね。おかしな気分になったものだから」

 

「んー……。それにさあ? ここぁ、変な噂だの、逸話があるとこだぞ」

 

「あら、さすがに知ってるのね」

 

「そりゃ有名だもの」

 

「昔、高名だけど悪名も高い魔導士が住んでいたという屋敷、でしょ?」

 

 買う時に聞いたわ。詳しくね。

 

 カーシャは歩きながら、また笑う。

 

「うん。おかしな実験してただの、モンスターを合成して作ってただの、女を解剖して標本にしてるだの……。そりゃあもう。肝試しも使うヤツだっていねえさ」

 

「その割には、残ってるものはないわね。あるのはゴミばかり」

 

「魔導士がくたばった後、借金取りやなんかが持ってったんだよ、みーんな」

 

「そうそう。だいぶも借財もあったらしいわねえ?」

 

「ああ。向こうだって貸すのは嫌だったんじゃねえかな。下手すりゃ踏み倒されかねない相手だったって話さ」

 

「愉快な人物だったようで」

 

 カーシャは言いながら、床に視線を落とす。

 あちこち板をひきはがされ、地下へ続く通路が見えていた。

 

「こんなところも、入念に調べたのね。魔導士相手なら、当然だけど」

 

「変なもんとかあるんじゃねえの、この下……」

 

「まあ大丈夫でしょう」

 

「そうかなあ?」

 

「さっき言ったじゃない、みんな持っていったって。魔導士が地下に隠し部屋を持つなんて、ありふれたことだし」

 

 カーシャの言う通り。

 地下の部屋にも、残っているのはゴミだけだった。

 

「ホントに、なんにもねえのな?」

 

「この地下室はなにかと使えそうだけど」

 

 そんなことを言いながら、2人はあちこちを見る。

 

「でも、バッキーは連れてこなくて良かったのか?」

 

「彼女の魔法が活かせることでもないでしょ。訓練で忙しそうだし」

 

「それもそうか」

 

 と、いうような雑談の中、

 

「……」

 

 カーシャは急に黙り込み、あるものを見た。

 

「ベッドか、ありゃあ? これまたひっでえなぁ」

 

 そこにあったのは――

 古くて汚いベッド。

 いや。

 かろうじて、ベッドの形をしている廃材。

 

 その上に、ボロボロ……。

 これまた?

 かろうじて、寝具の形を保っているボロクズ。

 

 ネビズあたりは、かなり寒い気候なせいか。

 その寝具もかなり分厚いようだ。

 むしろ、日本の布団に近い。

 

「借金取りがほっといたってこたぁ、その時からボロボロだったんだな、きっと」

 

 よくもってたもんだ。

 

 マコネがあきれていると――

 

 カーシャはそれに近づき、

 

 ガッ

 

 軽く、蹴った。

 

 途端に、ベッドは完全に崩壊して、室内に埃がまう

 その、中で。

 

「ふあ~~~わわ……」

 

 あくび。

 そうとしか思えない音。

 いや、声が小さく響いた。

 

「はぁ!?」

 

 驚くマコネ。

 カーシャは、ジッとそれを見ている。

 

 モコリ、モコリ

 

 と。

 

 寝具――だったものが、動き出して、起き上がる。

 

「ああ~、どうも。おはようございます」

 

 ボロボロの、尼僧のつけるウィンプルをかぶった――

 小汚い少女が、挨拶をしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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