破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

116 / 357
その94、チョーク・ボロンの廃屋-2 怪しいやつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、そいつは」

 

 その少女(・・)を見るなり、ゴトクは眉を寄せた。

 不快、という感じではなくて――

 何だかよくわからない、正体がつかめない。

 こういう感じのものらしい。

 

「昨日買った屋敷にいたのよ」

 

 カーシャは、嘆息する。

 彼女には珍しい、困ったような顔。

 

「人間じゃないな?」

 

「それはわかってる」

 

「ふうん……」

 

 ゴトクは、少女を観察する。

 

 見た目は――13歳くらい。

 白い、というより灰色の汚いウィンプルをつけた尼僧。

 あるいは、尼僧に似た服装。

 瞳も灰色で、肌は白い。

 どっちかというと、これも灰色に近いのだけど、

 

吸血鬼(ヴァンパイア)、でもないと」

 

「そうね」

 

「ふむ……。なあ、おじょうちゃん。俺は、ゴトクという者だがね、お前さん名前は?」

 

「う~~~~ん」

 

 聞かれて、少女は考え込む。

 

「名前か~~~。つらいなあ~~~……」

 

「なんだ? つらいのかい」

 

「つらい……。布団とか夜具、とか呼ばれていたような? 気もするんですけどねえ。ハッキリこれという呼び方は、なかったような……」

 

「……ああ、そう」

 

 ゴトクは、顎を指で掻きながら少女を見る。

 

「えと、あのぅ?」

 

 エルフの後ろに立っていたバッキーは、

 

「この子は、いったいどういう……?」

 

「だから、例のボロ屋敷にいたんだよ。地下室のベッド、というかほとんどゴミだな。そこで寝てた、らしい」

 

 マコネが困った顔で返答。

 

「らしいって……」

 

「だから、らしいとしか言えないんだよ。こっちだって、ぜんぜん気づかなかったんだからさ」

 

「そうなんですか?」

 

「まあ、フツーに考えれば? どっかから潜り込んだ浮浪児ってことになるだろうがよ……。こんなヤツ、見たこともねえ」

 

 マコネは、そういった孤児たちは良く知っている。

 その彼女がこう言うのだから、

 

 ――ホントにわからないんだろうな……。

 

 バッキーも納得するしかない。

 

「おいらは一応孤児院にいたが、あそこも外も、あんま変わりねえしなあ」

 

「変わらないんですか?」

 

「ああ。まあ、ほとんど寝泊りするだけだな、あそこは」

 

「いや、それじゃ……」

 

 機能してないよ、それは……。

 

 内心、バッキーはあきれるばかり。

 

「街はもっと、ちゃんとしないんですか? あれ、でも……」

 

 バッキーは思い返す。

 

 ――そういえば、あんまり路上で寝転がったり、お金とかねだる子供って見たことないような……。

 

 どちらかと、いうなら?

 

 ――ギルドの雑用とか、冒険者のお使いとか、そんなのをやってるのはよく見るよね?

 

 実際、どうなって、どういう風になっているのか。

 バッキーには、まだよくわかっていない。

 

「……それで、お前さんはいつからあの屋敷にいたんだね?」

 

 ゴトクは、少女に質問を続けていた。

 

「さあ~~……」

 

「おいおい、それもわからないか?」

 

「いたといえば? 最初からずっといたような……」

 

「最初って、いつのいつだよ」

 

「いつでしょう?」

 

「知らないよ、そんなもん」

 

 (らち)が明かない。

 

 ゴトクはまいった、という顔でうなだれる。

 

「あなたにも、わからないことはあるのねえ?」

 

 その様子を見ながら、カーシャは言った。

 珍獣でも見るような目つきで。

 

「当り前だろ。俺ぁ、エルフの基準なら、まだ青二才なんだよ」

 

「そうは見えないけど」

 

「ずっと人間社会で生きてきたからな。長寿種族と同じ感覚じゃやってけない」

 

「なるほど? あなた……」

 

 カーシャはジロっと、少女を見た。

 

「はいはい、はい」

 

「チョーク・ボロンという人物を知ってる?」

 

「ん~~~……」

 

 少女は、困った顔でまた考え込む。

 

「なら、あなたの良く知ってる相手は?」

 

「そうですねえ~……。旦那さんとか、持ち主さん? そういうヒトは知ってますけど? チョーなんとか、というようなかたは、見たことないように思いますよ」

 

 ――持ち主?

 

 バッキーはマコネと顔を見合わせた。

 

 ――こいつ、まさか魔導士に飼われてたのか?

 

 人間、というより……。

 知性種族を奴隷、いやペットとして飼う趣味者がいる。

 そういう話は聞いたことがあった。

 

「……なら、その旦那だか持ち主の名前は?」

 

「いやあ~……。〝私はコレコレ、こういう名前だ〟と聞かされたおぼえは、ないですねえ」

 

「ないの?」

 

「はいはい」

 

 カーシャはしげしげと少女を見た。

 

 人間とは、やはり何か違う気配。

 また、嘘をついているようでもない。

 

「どっちにしろ、呼び名がないのは面倒ね。ふむ……」

 

 ちょっと考えてから、

 

「良いでしょう。屋敷の元・所有者の名前をもらって、ボロン、とでもしておくわ」

 

「あ、さようか?」

 

「さようでございますよ」

 

 能天気な少女に、カーシャもちょっとふざけて答える。

 

「では、改めて。ボロン」

 

「はいはい。愚僧かな?」

 

「あなた、僧侶(プリースト)なの? かっこうは、尼僧(シスター)っぽいけど」

 

「おやおや?」

 

「オヤオヤってなんなの」

 

「いやあ」

 

「なにが、〝いやあ〟なわけ?」

 

「うーん。なんでしょうかねー? そのノリというか〝いんすぴれ~しょん〟というか」

 

「ああ、そう」

 

 カーシャはため息をつく。

 

 実にやりにくい。

 殴っても音もしないようなヤツ。

 

 ――というのは、こういう相手を言うのかしら? 怒る気にもなれないわ。しかし……。

 

 なんとなくだが――

 知能の問題がどうだ、という感じもしない。

 

 まったくもって、

 

 ――おかしなやつ。

 

 としか、言いようのない娘。

 

「おい、ボロン? お前さんのつけてる、それ」

 

 ゴトクは急に、ボロンのウィンプルを指して言った。

 

「はいはい?」

 

「今気づいたが、ずいぶんと古臭いものをつけてるんだ?」

 

「古いんですか?」

 

「シスターの僧衣は時代や土地で変わるが、そりゃあ……」

 

 2~300年前のもんだぞ?

 

 エルフはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。