破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なんだ、そいつは」
その
不快、という感じではなくて――
何だかよくわからない、正体がつかめない。
こういう感じのものらしい。
「昨日買った屋敷にいたのよ」
カーシャは、嘆息する。
彼女には珍しい、困ったような顔。
「人間じゃないな?」
「それはわかってる」
「ふうん……」
ゴトクは、少女を観察する。
見た目は――13歳くらい。
白い、というより灰色の汚いウィンプルをつけた尼僧。
あるいは、尼僧に似た服装。
瞳も灰色で、肌は白い。
どっちかというと、これも灰色に近いのだけど、
「
「そうね」
「ふむ……。なあ、おじょうちゃん。俺は、ゴトクという者だがね、お前さん名前は?」
「う~~~~ん」
聞かれて、少女は考え込む。
「名前か~~~。つらいなあ~~~……」
「なんだ? つらいのかい」
「つらい……。布団とか夜具、とか呼ばれていたような? 気もするんですけどねえ。ハッキリこれという呼び方は、なかったような……」
「……ああ、そう」
ゴトクは、顎を指で掻きながら少女を見る。
「えと、あのぅ?」
エルフの後ろに立っていたバッキーは、
「この子は、いったいどういう……?」
「だから、例のボロ屋敷にいたんだよ。地下室のベッド、というかほとんどゴミだな。そこで寝てた、らしい」
マコネが困った顔で返答。
「らしいって……」
「だから、らしいとしか言えないんだよ。こっちだって、ぜんぜん気づかなかったんだからさ」
「そうなんですか?」
「まあ、フツーに考えれば? どっかから潜り込んだ浮浪児ってことになるだろうがよ……。こんなヤツ、見たこともねえ」
マコネは、そういった孤児たちは良く知っている。
その彼女がこう言うのだから、
――ホントにわからないんだろうな……。
バッキーも納得するしかない。
「おいらは一応孤児院にいたが、あそこも外も、あんま変わりねえしなあ」
「変わらないんですか?」
「ああ。まあ、ほとんど寝泊りするだけだな、あそこは」
「いや、それじゃ……」
機能してないよ、それは……。
内心、バッキーはあきれるばかり。
「街はもっと、ちゃんとしないんですか? あれ、でも……」
バッキーは思い返す。
――そういえば、あんまり路上で寝転がったり、お金とかねだる子供って見たことないような……。
どちらかと、いうなら?
――ギルドの雑用とか、冒険者のお使いとか、そんなのをやってるのはよく見るよね?
実際、どうなって、どういう風になっているのか。
バッキーには、まだよくわかっていない。
「……それで、お前さんはいつからあの屋敷にいたんだね?」
ゴトクは、少女に質問を続けていた。
「さあ~~……」
「おいおい、それもわからないか?」
「いたといえば? 最初からずっといたような……」
「最初って、いつのいつだよ」
「いつでしょう?」
「知らないよ、そんなもん」
ゴトクはまいった、という顔でうなだれる。
「あなたにも、わからないことはあるのねえ?」
その様子を見ながら、カーシャは言った。
珍獣でも見るような目つきで。
「当り前だろ。俺ぁ、エルフの基準なら、まだ青二才なんだよ」
「そうは見えないけど」
「ずっと人間社会で生きてきたからな。長寿種族と同じ感覚じゃやってけない」
「なるほど? あなた……」
カーシャはジロっと、少女を見た。
「はいはい、はい」
「チョーク・ボロンという人物を知ってる?」
「ん~~~……」
少女は、困った顔でまた考え込む。
「なら、あなたの良く知ってる相手は?」
「そうですねえ~……。旦那さんとか、持ち主さん? そういうヒトは知ってますけど? チョーなんとか、というようなかたは、見たことないように思いますよ」
――持ち主?
バッキーはマコネと顔を見合わせた。
――こいつ、まさか魔導士に飼われてたのか?
人間、というより……。
知性種族を奴隷、いやペットとして飼う趣味者がいる。
そういう話は聞いたことがあった。
「……なら、その旦那だか持ち主の名前は?」
「いやあ~……。〝私はコレコレ、こういう名前だ〟と聞かされたおぼえは、ないですねえ」
「ないの?」
「はいはい」
カーシャはしげしげと少女を見た。
人間とは、やはり何か違う気配。
また、嘘をついているようでもない。
「どっちにしろ、呼び名がないのは面倒ね。ふむ……」
ちょっと考えてから、
「良いでしょう。屋敷の元・所有者の名前をもらって、ボロン、とでもしておくわ」
「あ、さようか?」
「さようでございますよ」
能天気な少女に、カーシャもちょっとふざけて答える。
「では、改めて。ボロン」
「はいはい。愚僧かな?」
「あなた、
「おやおや?」
「オヤオヤってなんなの」
「いやあ」
「なにが、〝いやあ〟なわけ?」
「うーん。なんでしょうかねー? そのノリというか〝いんすぴれ~しょん〟というか」
「ああ、そう」
カーシャはため息をつく。
実にやりにくい。
殴っても音もしないようなヤツ。
――というのは、こういう相手を言うのかしら? 怒る気にもなれないわ。しかし……。
なんとなくだが――
知能の問題がどうだ、という感じもしない。
まったくもって、
――おかしなやつ。
としか、言いようのない娘。
「おい、ボロン? お前さんのつけてる、それ」
ゴトクは急に、ボロンのウィンプルを指して言った。
「はいはい?」
「今気づいたが、ずいぶんと古臭いものをつけてるんだ?」
「古いんですか?」
「シスターの僧衣は時代や土地で変わるが、そりゃあ……」
2~300年前のもんだぞ?
エルフはそう言った。