破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
次からまたいつもの時間になると思います
「む」
「うわぁ」
目の前で、口を開けるアンピプテラ――
……のようなもの。
そいつの口、いや全身からムッとした悪臭が漂ってくる。
部屋の中にそんなでかい怪物がいるわけだから、
――ひどい臭いね。
とはいえ。
カーシャにとっては、顔をしかめるほどですらない。
何しろ、
――〝
が。
そうはいかない者が、すぐそばにいる。
「うわ、うわ、うわあ~~…………」
ボロンは、目をあっちこっちへグルグル動かしながら、
「つらいなあ~~~……!」
顔を押さえてジタバタしていた。
「まったく」
カーシャはボロンを抱え、壁を蹴り破って外に出す。
***********…………!
雑巾の怪物も、体をのたくらせて追いかけてきた。
表現しづらい奇声を発しながら――
――なんなのかしら、こいつは……。
今まで見たどのモンスターとも違う。
ゴーレムやアンデッドとも。
また。
当然ながら? 普通の動物とはまったく違う。
「ふん」
カーシャは、少しだけ胸の奥が弾んだような気がした。
「ついてこい」
振り返りながら、怪物に言った。
そして。
窓を破って、外に飛び出していく。
怪物もそれを追った。
「……ええっ!?」
驚いたのは、庭で焼却炉を造っていたバッキー。
いきなり。
おかしな叫びが聞こえたかと思えば、
「り、リーダー!?」
飛び降りてくるカーシャと、
「な、なにあれ!??」
それを追いかけているドラゴン……の、ようなもの。
「うぐっ!? なに、これ!?」
怪物が現れた同時に感じる強烈な悪臭。
バッキーは鼻を押さえて、
――こ、これって。
牛乳をふいた雑巾。
まさに、そんな臭いだった。
「下がってなさい」
着地したカーシャは、バッキーに命じた。
静かな……しかし、鋭く、よく通る声で――
「は、はい」
「それから、お前も」
と。
ボロンをバッキーのほうに放り投げた。
「そいつも一緒に連れて行きなさい!」
「ぬおお!?」
バッキーは、飛んでくるボロンを浮遊魔法でキャッチ。
低空で浮かせたまま、一緒に逃げ出す。
「さてと」
カーシャは悪臭の怪物に向かい合った。
やはり、すごい臭い。
鼻が曲がる。息もできない――と、普通なら思うだろう。
――あんまり、触りたいものじゃないけど……。
***********!!!
叫びをあげながら、突っ込んでくる怪物。
「うるさい」
その鼻先を、カーシャはつかんだ。
ただ、これだけで怪物の動きは封じられる。
******!??
怪物は必死にのたうつが、カーシャはまるで動じない。
ねっちゃりとした、嫌な手ざわり。
――こいつ?
だが。
そんなモノではなく、カーシャを困惑させたのは、
――軽い?
そう。
怪物が見かけよりもずっと軽いことだった。
少なくとも?
同サイズのドラゴンなどよりもはるかに。
「まあ、とりあえずはいいか」
つぶやき、カーシャは怪物を振り回し、地面に叩きつけた。
何度か繰り返し、怪物が動かなくなったのを確認してから、
「そっちは、なにかあった?」
いつの間にか。
カーシャがあけた穴から覗いているゴトクに呼びかけた。
「いいや」
応えながら、ゴトクも外へ飛び降りてくる。
「なんだい、こいつは。どっから出てきたんだ?」
「さあ? 見たところ、古雑巾が膨れ上がって、こうなった」
カーシャは、どこかあきれたような顔で言った。
転がっている怪物を見返しながら。
「しかし、ひでえ臭いだな? 確かに古雑巾だぜ」
「雑巾でできたドラゴンね。やっぱり、あなたもわからないの?」
「わからねえなぁ。形は似てても、ドラゴンじゃないことぐらいはわかるが……」
ただ?
ゴトクはわずかに眉を寄せて、
「あの、おかしな
「確かに」
青い乙女とエルフは、同時にボロンのほうを見た。
「いやあ~~。えらい臭いですねえ、まいったなあ~、これは……」
一方のボロンは、まったくのん気な態度。
「度胸があるのか、鈍いのか……」
カーシャはつぶやいた後、
「一難去ってまた一難……というほどでもないかしら?」
つぶやき、屋敷のほうを振り返った。
同時に、
「じょ、じょ、冗談じゃあねえよ!!」
マコネの大声が、響いてきた。
かと思えば――
窓を破って飛び出してきたマコネが、壁づたいに降りてくる。
まるで、滑るような動きで。
「バケモノ屋敷かよ、ここは!?」
マコネは転がるように地面に着地。
そのまま、猫みたいな動きで駆け寄ってきた。
「お前の言う通り、みたいね?」
カーシャは、屋敷を見る。
ガシャリ、カチャリ
何か大きなものが、歩いている。
その様子が、窓越しに見えた。
やがて。
開いた穴から姿を見せたのは――
――ゴーレム? いや、なにかちがう……。
奇妙な形の、巨人を模したナニか。
一見、プレートアーマー姿の戦士、という感じだが。
「なんだありゃ、焼き物でできたゴーレムか?」
ゴトクの言葉が実に的を得ていた。
巨人の体は、皿や壺など、陶器類で構成されている。
「あんな材料で造って……役に立つのかしらね?」
「どう見たって、すぐに壊れるなアレは」
カーシャの声に、ゴトクは困惑した顔で応えた。
そして、巨人はそのまま足を踏み出して、
ヒューン、ガチャン……
巨人は高所から落下して、砕けた。
――やっぱりね。
予想通りの結果に、カーシャはため息。
自分がものすごく馬鹿馬鹿しい状況にいるのを実感する。
「しかし、なんであんなもんを」
ゴトクが言いかけた時、
シュウウウウウウ……
巨人の残骸は縮んでいき、普通サイズの陶器へ変わった。
いや。
「な、なんだぁ?」
そこへ、マコネの声。
見ると――
雑巾ドラゴンが、元の古雑巾へ戻っていた。
「幻術なの?」
「いや、そういう感じじゃなかったな。さっきまで、確かにでかくなってた」
ゴトクは言いながら、雑巾を拾い上げていた。
「う、臭ぇ……」