破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その100、チョーク・ボロンの廃屋-9 夢のうちにおもひぬ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で……。もう行くのか?」

 

「ええ」

 

 ゴトクの言葉に、カーシャはうなずく。

 横では、マコネとバッキーが荷物をまとめていた。

 

 ボロンは――

 ベッドに座って足をブラブラさせている。

 

「先方は、『できるだけ早くしてくれ』ということらしいので」

 

「そうかい」

 

「じゃ。改めてお願いするけど、後の監視や対応はおまかせするわね」

 

「わかった」

 

 ゴトクがうなずく前で、カーシャは愛用の黒剣(カーラナーガ)を手に取って――

 少し動きを止め、

 

「だけど、あれを持って帰って何をする気なのやら」

 

「そうだなあ……」

 

 と。

 ゴトクは首をひねり、

 

「命のあるゴーレムって感じじゃねえかな」

 

「それは――」

 

「ああ。チョーク・ボロンの研究を盗み……いや、受け継ごうって腹だろ」

 

 本人はとっくに死んでるからな。

 むしろ喜ぶかもしれん。

 

 ゴトクは静かに言って、頭を掻いた。

 

「だけど、そんなもの造ってまともに運用できるものかしら?」

 

「あいつみてえなのを生み出すのが関の山かもしれねえが、そのほうが平和だわな」

 

 金髪のエルフはちょっと笑いながら、ボロンを見た。

 

「なんでございますか?」

 

 尼僧姿の少女は、急に反応して振り返った。

 

 ボケッとしていたくせに――

 意外に耳ざとく自分の名前を聞き取ったらしい。

 灰色の瞳がゴトクを見ている。

 

「いや。お前さんみたいなのは、平和だなと思ってな」

 

「あ、さよか」

 

「言っとくけど、旅先であんまりウロウロするなよ。タダでさえ世間知らずなんだからな」

 

「それです、それです」

 

 なにがおかしいのか。

 ボロンは、手まねきでもするような仕草で、

 

「うぷぷ」

 

 と、笑いを抑えている。

 

「なにが?」

 

「わたし、ちょっと前まで一度もお屋敷から出たことないんです。はばかりながら、まあ世間様のことはなーんにもわかりませんねえ。どうぞお笑いにならんように」

 

「……そんなこと改めて言われんでもわかってるけどな」

 

 ていうか、何がおかしいんだコイツは。

 

 ゴトクはげんなりした後、

 

「あんたなあ、ホントにこいつも連れてくのか? 足手まといにしかならんぜ?」

 

「そうね。まあ、いいでしょ」

 

 カーシャは淡々とうなずく。

 

「いいのかよ。……ホントにか?」

 

「こういうのには、今まで会ったことなかったので」

 

「まあ、そうだろうな。俺も初めて会ったよ、布団が知性種族になったヤツなんてな。……知性って点では正直怪しいが」

 

「下手に小賢しい連中よりもずっとマシかもしれなくてよ」

 

「そりゃまそうだが」

 

「あ、そうそう」

 

 カーシャはちょっと表情を変えて、

 

「これの吐き出した本は、いったいなんだったのかしら?」

 

 ボロンの体内にあった古い本。

 その話題に、バッキーは顔を上げる。

 

「あなたの国……そこから来たものらしいけど」

 

 ゴタゴタしてたから、話をちゃんとしてなかったわね。

 

 言いながら。

 カーシャはバッキーを見て、首をかしげる。

 

「ええと。私も詳しくは知りませんけど……。だいぶの昔のものですし? たぶん、妖怪? つまり、モンスターというかデーモンというか、妖精というか? とにかく、魔性の存在を描いたものだと思います」

 

「しかし……」

 

 ゴトクは考えながら、

 

「預かったから、読ませてもらったけどな? 描かれてたのはみんな道具がモンスター化したもんばっかりだぞ? あいつと同じ……というか、屋敷からゾロゾロ出てきたわけのわからんヤツら(・・・・・・・・・・)みたいな」

 

 言ってから、ゴトクはボロンを見る。

 

「なるほど? ああいうのが、あなたの国にはいるわけ?」

 

「いや、その。私も見たのは、アレが初めてでして……」

 

 バッキーは苦笑して首を振る。

 

 ――まさか、ファンタジー世界であんな妖怪見るとは思わなかったし……?

 

「古い異国の本。内容はさておき、多少の価値はあるのかしら?」

 

「いや、この本は模造品だったしなあ。あ、忘れんうちに返しておく」

 

 ゴトクはため息をついて、例の古書をカーシャに手渡す。

 

「模造品?」

 

「ああ。気づかなかったか? 一見古くてボロボロだが、造りも紙自体もかなり頑丈だ。半永久的に保存するための処置がされてる。ちょっと読んだり触った程度じゃわからんだろうがね」

 

「へえ……」

 

「多分、チョーク・ボロンは何度も読み返すためにコレを造ったんだろうな。内容も同じはずだから、読むだけなら本物ニセモノにこだわる必要はないさ」

 

「これに、無機物……道具を生物に変える方法でも書いてあるのかしら?」

 

 本の表紙を撫でるカーシャに、

 

「いえ……。たぶん、書いてはいないと思います。確証はないですけど」

 

 バッキーはおずおずと意見をのべる。

 

「そうだなあ。こいつは、読んだ感じ技術書だの研究文書だの、そんなもんじゃなさそうだ。どっちかというと、絵草紙……最近はMANGA(マンガ)っていうのか? それに近いもんだと思うぞ?」

 

「――横で聞いてたけどよ? 屋敷の持ち主はなんでそんなもん大事にとっといたんだ? それにさ、道具が化けたモンスターは事実ゾロゾロ出てきたじゃんか」

 

 荷造りを終えたマコネが、不思議そうに言った。

 

「無機物が生命を得た。その点は、チョーク・ボロンの研究と通じるわけだが――」

 

 ゴトクは髪を掻きながら、

 

「調べてみたが、チョーク・ボロンは晩年研究に行き詰って、借金ばかり膨らませて、だいぶヤバいことになってたらしい。経済的にも精神的にもな。そこで経緯は知らんがその本を手に入れちまったんじゃねえのかな。これが、おかしな方向に作用しちまったのかもしれねえ」

 

「つまりはトチ狂っておかしなモノを造り出したわけ?」

 

 カーシャが皮肉げに言うと、

 

「いや。正確には、その結果を見る前に死んだんだと思う――」

 

 ゴトクはどこか同情するように、

 

「ボロンや化け物の残骸を調べてみたが、ああいう風になるのにはかなりの時間が必要だと思う。少なくとも、100近くはかかるな」

 

「……。それ、意味あるのかしら」

 

「やっぱり、実用性はない。チョーク・ボロンが何を目指してたのか知らねえが……」

 

 わずかにうつむいて――

 ゴトクは哀しそうにため息を吐き出した。

 

「全てはみんな夢の中さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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