破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「フェイジン?」
カーシャは顔をあげて、相手を見た。
手にした書類には、
『マハーリの街、及びその周辺を荒らすモンスターの群れを討伐』
そういう内容の依頼が書かれているのだが――
「ええ。そうです。これが非常に厄介で……」
と。
目の前のギルド支部長は、ハンカチで汗をぬぐっている。
暑い寒いのせいではない。
どうやら――
本気で困っているらしい。
・主に群れで行動する。
・大きさは1.8~2メートル弱。
・毛皮は打撃と斬撃両方に強い。また耐火性と防寒性を併せ持つ。
「まあ強いといっても、あくまで一般人から見てということですけど」
「1個体なら、さほど脅威ではないということ?」
「はい。準備や対策をしていれば、駆除できないものではありません。他のモンスターに喰われることも多いので」
「こりゃ、猿か?」
資料に添付されている画像を見ながら、マコネが言った。
確かに――
フェイジンなるモンスター、その姿かたちは大型の猿という感じ。
「見た目はマントヒヒみたいですね」
バッキーはそんな感想をつぶやく。
「こんなのが、お前の
「近くの山とかで見るわけじゃないですけど。それに、モンスターじゃなくってタダの動物です」
そんなことをマコネとバッキーが言っている横で、
「ふうん……」
カーシャは目を細めた。
さらに――
書類と支部長の顔を何度か見比べながら、
「でも――それだけなら、他の冒険者でも十分できるのよね?」
「まさしくその通りでして……。サイズのでかいボスに率いられてから、どんどん狂暴というか悪質になってきまして……。恥ずかしながら、かなりの被害を出している次第です」
「ボスの画は、ちゃんとしたものがないようだけど」
カーシャがいくつかの画像を見ながら言うと、
「個体でもかなり強力なうえに、仲間を手足みたいに使う厄介なヤツで……。記録や調査だけでもかなりの労力を使わざるをえないんです」
「これを見る限り、他のヤツよりサイズが大きいのはわかるけれど」
「フェイジンは、普通なら大きくても2メートルほどですが……」
報告によると、ボスは3メートル近くあったと確認されています。
支部長は苛立ったように首を振った。
「ふうん。基本は数で攻めてくるタイプか……。こういうのは面倒くさいわ」
「1~2度の襲撃で街や村が壊滅するほどではありません。しかし、それが何度も続けば住民は疲弊するし、経済とか流通にも影響が出てしまうので」
――真綿で首を締めるみたいに、ジワジワと痛めつけられるわけね。
「なるほど、なるほど。で、フェイジンってモンスター……鳴き声に特徴があると書かれているけど」
「笑ってるような鳴き声が特徴なので、俗に〝
「ふん、ふん」
「知性種族……特に人間とかエルフを襲うことが多くって。俗説では、女をさらって子供を生ませるとも言われてますが――」
「うへ。まるでゴブリンみてーだな?」
聞いていたマコネがオエッと舌を出した。
「そうね。ゴブリンにも、そんな俗説があるけど。アレにはそもそも生殖機能がないそうよ」
また聞きだけどね。
カーシャはそう言って、読み終えた資料を置く。
「で。今回の場合、実際にそういう被害があるというわけかしら?」
「……そうなんです」
支部長はうなだれる。
「街や街道、近隣の村などでも、何度か若い女性が連れ去られておりまして……」
「獣にしろ、モンスターにしろ? 子供とか若い女を狙うのは珍しくないけどよぉ」
そんなンが、ホントに起こってるのか?
マコネの疑問に、
「わかりません。さらわれた者は誰も帰っていないので……」
「だったら、喰われたんだか犯られたんだか、ワカンネーな?」
「ふうん……」
カーシャはその青い髪を触りながら、
「知性種族なら……リスクを冒してまで異種族の女を奪うメリットは少ないけれど……」
少なくとも。
サキュバスなどがあちこちにいる、このへんの地域では――
「それに、猿型モンスターの子供を実際生めたとしても、まともに育てられるのかしら? 女の側からすれば、そんな子供をきちんと育てるモチベーションも利益もないのだけど」
「そりゃまそうだよなあ。おいらだって
「もしかして、モンスターが見張ってたりする可能性は?」
カーシャに同意するマコネ。
また別の意見をのべるバッキー。
「ま? どっちにしろ、私の仕事はモンスターの生態についてゴチャゴチャ考えることもでないか」
カーシャは苦笑して支部長に向き直り、
「それで。今現在、一番このモンスターが出現しそうな場所は?」
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通るもののない道を、ボロンは1人で歩いていた。
何だかよくわからない歌なのか、呪文なのかわからないもの。
それを能天気な顔で口ずさみながら。
「あいつはいったい全体、何を歌ってんだ?」
マコネは首をかしげてボロンを見ながら言った。
ボロンをのぞくパーティーメンバー。
彼女らは少し離れた場所でボロンの様子を見ている。
陰に身を潜めながら――
「これって大丈夫なんでしょうか?」
バッキーが言った。
「さあ。とりあえず、向こうから出てきてくれれば手間が省けるのだけど?」
カーシャは淡々と返す。
つまり。
ボロンを囮にモンスターをおびき出そうという、極めて安易な作戦だった。
作戦とすら呼べないかもしれない。
「あんな大声出してたら、逆に警戒して近寄らねーかもよ?」
「クマじゃあるまいし……」
マコネの言葉に、バッキーはため息。
「ボスの居場所がわかれば一番手っ取り早いのだけどね」
「だけど、モンスターが総動員で攻めてきたら?」
「その場合も、ある意味やりやすいけど。ボスが残ってればまた別の群れを作るでしょうから」
根本的には解決しないわねえ
カーシャはそう言って、ボロンの動向を監視し続ける。