破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ
ヒッ、ヒッ、ヒッ
ヒーヒヒヒヒヒヒッ
「なんだぁ……?」
マコネが顔をしかめた。
バッキーは、ギュッと魔杖を握る。
どこからか――
周辺の木々から漏れるように聞こえてくる音。
いや。
笑い声か。
「……なるほど。確かに」
微かに鼻をひくつかせた。
カーシャは納得したようにつぶやきながら。
ザッ
ザザザッ
音がする。
そう思われた時には、
「ヒーヒヒヒ!」
壊れた笛みたいな。
あるいは、狂人の笑い声のような。
そんな声を発して、モンスターがあちこちから飛び出してくる。
――ホントに、マントヒヒ……。
離れた位置から見ていたバッキーは心の内でつぶやく。
フェイジン。
その姿は、確かに地球に生息するヒヒとそっくりだ。
だが。
動物のヒヒと比べると、巨大でありどこか歪んだような印象を受ける。
「ふぁい?」
歌って歩いていたボロン。
彼女が、まったく能天気に顔をあげた途端、
パンッ
グチャ
ドサ……
フェイジンの群れは血と肉になって飛び散っていた。
カーシャは、片手に黒剣。片手にボロンを抱えて立っている。
ヒ・ヒ・ヒ
ヒ・ヒー……
フェイジンたちは、明らかに動揺して動きを鈍らせた。
一瞬で、苦も無く殺戮された同族の姿。
それは群生のモンスターには、実に効果的なものだったらしい。
だが、
――それでも、逃げる様子はないか。
カーシャはモンスターの動きを見ながら、支部長の話を想い出していた。
「厄介ではあります。でも、過去からの対策ではある程度高い攻撃力で、何割かでも駆除すれば……。つまり、不利を悟れば逃げ出して、他の土地へ行くはずなんですが……」
――ボスの統率で、多少の犠牲を出しても勢いは止まらなかった、わけねえ?
それでもただ睨み合って時間を潰すつもりもなかった。
フッ
カーシャは、無造作に……。
少なくともぱっ見にはそう見える動作で――カーラナーガを振るった。
ボッ……
衝撃が刃となり、鈍器となって、飛んだ。
円が広がるように、周辺全てに。
バシャッ
周りを囲んでいたフェイジンの群れ。
魔猿どもは、赤い雨となって周りに降り注いだ。
ムッとするような、血と臓物の
「うわああ~~~……」
ボロンは若干顔をしかめて、
「えらい臭いですねえ」
そんなことを言った。
モンスター相手とはいえ一方的な殺戮――にではなく。
単に、臭いだけに嫌な顔をしている。
――ふうん。やっぱり、そのへんの感性はちがうのかしら。まあやりやすいけど。
やがて。
おびえた気配が、我先にと離れていくのをカーシャは感じ取る。
が。
その動きは、あるきっかけで止まった。
ヒョオオオオーーーーーーーーーーッッ!
ひと際大きな、獣の吠える声。
これが、空気を一変させてしまう。
「へえ?」
いつしか。
カーシャは、口元に三日月のような笑みを浮かべた。
少しだけ、顔を上げる。
カーシャの水色の視線。
その先には、木々のまばらな小高い場所がある。
そこに、白い大きな影が見えていた。
大型の
その獣毛は、雪のように白い。
大きいだけではなく、爪も牙もより凶悪で凄まじかった。
たった一目で……。
他の個体とは、まるで格が違うことがわかる。
――下手すると、ブレスまで吐きそうねえ。
事前に――
支部長が汗を拭きながら語っていたこと。
「群れるモンスターというヤツは、これまた厄介でして……」
場合によっては、大型の危険なモンスターばかりか?
「幼体、あるいは下位種であればドラゴンでもやられることがあるそうです。あ、もちろん? これはめったにないことなんですが……」
「ヒョアアアアア!!」
ボスが、吼えた。
その途端。
フェイジンの群れが、生きた雪崩のように動き出した。
小高い場所から、さっきまでの動揺が、
「まるでなかったように……」
凶暴な兵士となって、攻め降りてきた。
「なんてえ数だよ!?」
マコネは草陰より飛び出して叫んだ。
もはや。
隠れ潜んでどうにかなる状態ではない。
「どこからこんなに出てきたわけ!?」
バッキーも転びそうになりながら叫び。
その言葉どおり。
群生型のモンスターだとしても、明らかに異様な数。
――確かに。これは……。
カーシャは目を細めた。
10匹や20匹殺しても、勢いは止まるまい。
あるいは。
最後の1匹になるまで、止まることはないかもしれない。
――まあ、それならそれで……。
カーシャはカーラナーガをだらりと下げたまま、
「それなりの応対をするまでのこと」
「うっわ~~~~~…………」
「まっさに、血の海ですねえ?」
ボロンは血で汚れた姿で、げんなりとした顔。
木々がなぎ倒され、地面がえぐれて、岩も砕けて小石になって――
その上に。
ほぼ、ミンチとなったフェイジンが場を埋め尽くしていた。
圧倒的な数の優位。
それは、この場合ほぼ意味をなさなかった。
ヒ、ヒ、ヒ、ヒ
さっきまで同族だった血と肉。
そのぬかるみに、足を取られた個体。
これに、カーシャは足元の小石を蹴りつけた。
ボッ
ヒットの瞬間。
フェイジンの頭部が砕けて、散った。
生き残りがゼロというわけではない。
しかし。
ほとんどは半死半生。
生きてはいても、戦うことはおろか、逃げることすらできない。
振るわれたカーラナーガ。
その余波だけでも、モンスターをひき潰すには十分すぎた。
――さて?
カーシャは、改めてボスを見る。
動きはない。
ただ。
ジッと、こちらの動向を見ているだけ。
「…………」
その時。
カーシャは言いしれない違和感をおぼえた。
――あいつ。本当に、モンスター?
遠くからであっても……。
他の個体と比較した時、どうにも拭い去りがたいものがある。
と。
不意に、その姿が
追いかけようとしかけてから、
――妙な……。
カーシャはそれを止め、フェイジンの死体を見る。
――そもそも……。
こいつらは、ボスザルの命令だからここまで忠実だったのか?