破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「どうも、ね……」
あたり一面、血の池地獄。
この凄惨な現場を背に、カーシャは頭を掻いた。
腑(ふ)に落ちない。
「あの、それはどういう?」
後処理の指揮を取っていたギルドナイトは、ややおびえた顔。
これほど大量のモンスターがいたという事実。
さらには。
その脅威を単独で、ほぼ全滅させた眼の前の乙女。
どちらも、おびえるには十分すぎた。
「あらかた始末した後、少し残った連中もあまり逃げる様子はなかったわ」
「は、はあ……」
「群生型、というのはそこまで自分を殺して集団に尽くすもの、なのかしら?」
「さ、さあ……。私も、専門家ではないので」
「まあ、そうね」
カーシャそれ以上聞かなかった。
もとより……。
ちゃんとした回答を期待していなかったのだ。
「姐さん、どうもどうも」
マコネは店の中を猫のような動作で歩き、カーシャの前に立った。
前に置かれた、酒瓶と小皿の
それを手を出すこともなく、ぼんやりと……。
少なくとも、周りにはそう見える様子だったカーシャは、
「少し、遅かったわね」
ちょこんと前に座ったマコネにそう返した。
同時に、店のメニューをひょいっと投げる。
「いやあ、どうも色々ね。話が長かったりしたもんで……」
マコネはメニューを軽く受け取って、
「あ、先にやってやがるな?」
隣の席で食事中のバッキーたちに笑いかけた。
「うん。おつかれ」
バッキーは応えたが、
「はふぁはふぁ……はふぁ、はふぁ」
ボロンは気づいているのか、いないのか。
時々おかしな声を出しながら、食事を止めない。
大型の食堂――
といっても、半分は酒場のようなものだが。
冒険者をはじめ、あまり品の良くない客層の店である。
ハッキリ言って、うるさい。
だが。
それだけに、他者の会話は聞き取りにくいようだ。
「まあ、さすがに? 直接現地に行ったわけじゃあねえんですが……」
と。
マコネはこんな前置きをしてから、
「あっちこっちの被害ってのは、軽く小さいもんですねえ。いや、少なくっとも……」
「100を超える大群のそれにしては、小さすぎると」
「へえ、そのとおりなんで」
カーシャの言葉に、マコネはうなずく。
「なんて言えばいいのかねえ? あっちでひとつまみ。こっちでひと
討伐クエストに参加した連中の話からすると――
こっちの戦力が多い時ほど、しつっこかったようで。
「そうねえ……」
カーシャは自分の――形の良い顎をゆっくり撫でながら、
「確かに。あれだけの数なら、小さな村の1つ2つ、すぐに全滅するわ」
「そうなりゃあ、女の1人や2人さらわれるどころじゃねえや。家畜から何から、全部やられちまう。人間を喰ってるなら、それこそ死にかけのジジィババァから赤ん坊まで、み~ンな」
これだよ。
マコネは、芝居がかった顔で
「ふむ。それに、さっきので全てが片づいたという感じでもなかったわねえ……」
カーシャは――
あの、ボスザルの気配や雰囲気から、そう考えている。
「じゃあ、他にも」
「あちこちに別働隊がいる。その可能性は高い」
「そいつぁまた、厄介な」
「もしかすると。ここらいったいどころじゃなく、あちこちの群れが集まり、統合しているのかもしれない。だとすれば、まさに軍隊のような大群――いや、大軍か」
「うひゃっ」
マコネは首をすくめるが、
「でもねえ。国軍、いえ、ギルド全体がその気になって動けば、決して絶望的というわけでもなし? それなりにお金と時間、人手を使えば確実に対処できる」
「だったら……」
「これまでの被害からして、そこまでする必要もないと判断されたのでしょうねえ。それよりは、多少単価は高くても、使い勝手の良い相手に処理させるほうが、大きな目で見ればお金も手間も少なくてすむ」
そう言ってから、カーシャはクスクスと笑った。
「こうして考えてみるなら、あのサルたち、いえ……それを指揮するボスはまるで、
「すると、姐さん。こいつはまさか」
声をひそめるマコネ。
「本当に指揮を執っているのは、ボスザル……モンスターじゃなく知性種族、かもしれないわね?」
カーシャは、そう言ってから初めて酒瓶を手にした。
「それで……いったいどうするんだい?」
「ふむ。やっぱりさっさと追いかけるべきだったかしらね。下手に様子見なんかしたから、面倒なことになった……」
これは、失敗した。
カーシャはため息を吐いた。
「ふうん?」
後日。
現場のさらに奥で。
フェイジンたちの根城。
カーシャは、それらしき岩場を見つけた。
よくよく見ると、
「……食べ残し、というわけでもないか」
バラバラになった人間の骨が散乱している。
ちぎれた衣服の残骸も。
骨はほぼ肉がしゃぶり尽くされ、きれいなもの……とさえ言えた。
そんな中、岩の間に光るものが――
見つけたのは、小さな金属片。
――何かの刃物を砕いたものか。
血で赤く錆びかけている欠片を拾い上げ、カーシャは首をかしげた。
――あの猿モンスターどもが、刃物を使うかしら。そんな様子はまるでなかった。
あるいは。
偶然落ちていただけの、関係ないモノかもしれない。
しかし。
どうにも、何かが引っかかった。
それから――
岩場で明らかに、大量の血が流れた跡を見つけた。
「やはり、ね」
さらわれた女たちが、フェイジンどもの胃袋におさまった。
これは確かのようだ。
が。
――餌としては数が少なすぎる。
奪われた穀物にしても、家畜にしても。町村の者たちにしても。
あの大群の飢えを満たすには、まるで足りていない。
そう思いながらさらに調べていたカーシャは……。
人骨のあった近くで大量の骨を見つける。
雑多な動物や、モンスターのいりまじった骨の海を。