破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その103、白毛と乙女-3 血と肉と、骨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、ね……」

 

 あたり一面、血の池地獄。

 この凄惨な現場を背に、カーシャは頭を掻いた。

 

 腑(ふ)に落ちない。

 

「あの、それはどういう?」

 

 後処理の指揮を取っていたギルドナイトは、ややおびえた顔。

 

 これほど大量のモンスターがいたという事実。

 さらには。

 その脅威を単独で、ほぼ全滅させた眼の前の乙女。

 

 どちらも、おびえるには十分すぎた。

 

「あらかた始末した後、少し残った連中もあまり逃げる様子はなかったわ」

 

「は、はあ……」

 

「群生型、というのはそこまで自分を殺して集団に尽くすもの、なのかしら?」

 

「さ、さあ……。私も、専門家ではないので」

 

「まあ、そうね」

 

 カーシャそれ以上聞かなかった。

 もとより……。

 ちゃんとした回答を期待していなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姐さん、どうもどうも」

 

 マコネは店の中を猫のような動作で歩き、カーシャの前に立った。

 

 前に置かれた、酒瓶と小皿の(つまみ)

 それを手を出すこともなく、ぼんやりと……。

 少なくとも、周りにはそう見える様子だったカーシャは、

 

「少し、遅かったわね」

 

 ちょこんと前に座ったマコネにそう返した。

 同時に、店のメニューをひょいっと投げる。

 

「いやあ、どうも色々ね。話が長かったりしたもんで……」

 

 マコネはメニューを軽く受け取って、

 

「あ、先にやってやがるな?」

 

 隣の席で食事中のバッキーたちに笑いかけた。

 

「うん。おつかれ」

 

 バッキーは応えたが、

 

「はふぁはふぁ……はふぁ、はふぁ」

 

 ボロンは気づいているのか、いないのか。

 時々おかしな声を出しながら、食事を止めない。

 

 大型の食堂――

 といっても、半分は酒場のようなものだが。

 冒険者をはじめ、あまり品の良くない客層の店である。

 

 ハッキリ言って、うるさい。

 

 だが。

 それだけに、他者の会話は聞き取りにくいようだ。

 

「まあ、さすがに? 直接現地に行ったわけじゃあねえんですが……」

 

 と。

 マコネはこんな前置きをしてから、

 

「あっちこっちの被害ってのは、軽く小さいもんですねえ。いや、少なくっとも……」

 

「100を超える大群のそれにしては、小さすぎると」

 

「へえ、そのとおりなんで」

 

 カーシャの言葉に、マコネはうなずく。

 

「なんて言えばいいのかねえ? あっちでひとつまみ。こっちでひと(かじ)りってなもんで。ごたいそうな数の割にゃあ、さっと来てさっと引くって感じで。いや、むしろ?」

 

 討伐クエストに参加した連中の話からすると――

 こっちの戦力が多い時ほど、しつっこかったようで。

 

「そうねえ……」

 

 カーシャは自分の――形の良い顎をゆっくり撫でながら、

 

「確かに。あれだけの数なら、小さな村の1つ2つ、すぐに全滅するわ」

 

「そうなりゃあ、女の1人や2人さらわれるどころじゃねえや。家畜から何から、全部やられちまう。人間を喰ってるなら、それこそ死にかけのジジィババァから赤ん坊まで、み~ンな」

 

 これだよ。

 

 マコネは、芝居がかった顔で(のど)をかき切るジェスチャー。

 

「ふむ。それに、さっきので全てが片づいたという感じでもなかったわねえ……」

 

 カーシャは――

 あの、ボスザルの気配や雰囲気から、そう考えている。

 

「じゃあ、他にも」

 

「あちこちに別働隊がいる。その可能性は高い」

 

「そいつぁまた、厄介な」

 

「もしかすると。ここらいったいどころじゃなく、あちこちの群れが集まり、統合しているのかもしれない。だとすれば、まさに軍隊のような大群――いや、大軍か」

 

「うひゃっ」

 

 マコネは首をすくめるが、

 

「でもねえ。国軍、いえ、ギルド全体がその気になって動けば、決して絶望的というわけでもなし? それなりにお金と時間、人手を使えば確実に対処できる」

 

「だったら……」

 

「これまでの被害からして、そこまでする必要もないと判断されたのでしょうねえ。それよりは、多少単価は高くても、使い勝手の良い相手に処理させるほうが、大きな目で見ればお金も手間も少なくてすむ」

 

 そう言ってから、カーシャはクスクスと笑った。

 

「こうして考えてみるなら、あのサルたち、いえ……それを指揮するボスはまるで、やりすぎないように(・・・・・・・・・)、手ごころを加えているみたいね」

 

「すると、姐さん。こいつはまさか」

 

 声をひそめるマコネ。

 

「本当に指揮を執っているのは、ボスザル……モンスターじゃなく知性種族、かもしれないわね?」

 

 カーシャは、そう言ってから初めて酒瓶を手にした。

 

「それで……いったいどうするんだい?」

 

「ふむ。やっぱりさっさと追いかけるべきだったかしらね。下手に様子見なんかしたから、面倒なことになった……」

 

 これは、失敗した。

 

 カーシャはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん?」

 

 後日。

 現場のさらに奥で。

 

 フェイジンたちの根城。

 カーシャは、それらしき岩場を見つけた。

 

 よくよく見ると、

 

「……食べ残し、というわけでもないか」

 

 バラバラになった人間の骨が散乱している。

 ちぎれた衣服の残骸も。

 骨はほぼ肉がしゃぶり尽くされ、きれいなもの……とさえ言えた。

 

 そんな中、岩の間に光るものが――

 見つけたのは、小さな金属片。

 

 ――何かの刃物を砕いたものか。

 

 血で赤く錆びかけている欠片を拾い上げ、カーシャは首をかしげた。

 

 ――あの猿モンスターどもが、刃物を使うかしら。そんな様子はまるでなかった。

 

 あるいは。

 偶然落ちていただけの、関係ないモノかもしれない。

 

 しかし。

 どうにも、何かが引っかかった。

 

 それから――

 岩場で明らかに、大量の血が流れた跡を見つけた。

 

「やはり、ね」

 

 さらわれた女たちが、フェイジンどもの胃袋におさまった。

 これは確かのようだ。

 

 が。

 

 ――餌としては数が少なすぎる。

 

 奪われた穀物にしても、家畜にしても。町村の者たちにしても。

 あの大群の飢えを満たすには、まるで足りていない。

 

 そう思いながらさらに調べていたカーシャは……。

 人骨のあった近くで大量の骨を見つける。

 

 雑多な動物や、モンスターのいりまじった骨の海を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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