破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「おっちゃん、肉入りマントゥ10個ほどおくれ」
マコネは紙幣を見せながら、物売りに言った。
肉入りマントゥとは――
つまりは、現代日本ではコンビニなどでおなじみの肉まん。
これとだいたい同じようなもの。
ヤオアムトを始めとする文化圏では、昔からある食べ物で、
いつ誰が考えたのか?
それは誰も知らない。
諸説はあるものの、いずれも真偽は不明。
これプラス、気にする者はゼロに等しい。
「あいよう」
マントゥ売りは愛想良く応えて、紙袋に商品を入れていく。
「おっちゃん、いい体してるけど冒険者かい?」
「そうだよ。何しろしがない
マコネの言葉に、マントゥ売りは苦笑した。
これは珍しいことではなく――
むしろ、普通のことだった。
物売りや日雇い仕事。
あるいは、ギルドから回される雑業。
【1人前】とされる
「そういやあ、猿モンスターの群れがあちこちに出て大変だよな」
「物騒なこった。いやあ、俺もなあ? 近くの村で日雇いをしてた時に襲ってきたもんで……。あの時は、肝を冷やした」
「へえ……」
マコネは一瞬だけ目を細めた。
だが。
それはおくびも出さず、世間話を続けていく。
「女がさらわれたってのは本当かい?」
「おう。俺が見た時もな、ありゃあ
そう言いかけた時マントゥ売りは、
「ああ、そういえば……。引っ捕まって、連れてかれる途中……。いや、その前だったかな?」
そ、そんなバカな!
「……てなことを、言ってたなあ」
「? そんなバカな? なんだよ、そりゃあ」
「さてなあ。よっぽどてめえの
「へえ~。そのねーちゃんは、そんなに凄腕だったのかい?」
「とんでもない」
マントゥ売りははパタパタ手を振る。
「あんまり死んだヤツの悪口言うのも野暮だが、まあ~ひと山いくらってとこだな。ま、こちとらもおンなじようなもんだけどよ。もともと? 補助とか後衛専門だったから、正面からの切ったはったは不得手だったのかもしれねえがね」
「そのねーちゃん、なんて名前だい?」
「なんだ、そんなこと気になるのか? 変なガキだな」
「ひょっとすると、パーティー仲間の身内かもと思ってさ」
「そうか? えーと……あいつは確か、【蛇つかい】のタイージャとか言ったな。最近、よそから流れてきた女だった。ヤオアムトじゃあ向こうと勝手が違ってたようで、ブツブツ愚痴ばかりたれてたらしいや」
タイージャ……? あー、アレね。
せこいビーストテイマーだったな。
【蛇つかい】たぁ、言いも言ったりだよ。
魔法で仕込んだ蛇を使ってこせこせしてやがった。
噂じゃ、**から流れてきたって話だね。
船、海路だろうね、来るのに使ったのは。
最初は何人かの野郎とつるんでたようだが。
そのうち、てんでにバラバラになったようだね。
あの
ハハッ。
サキュバスが【商売】やってるとこじゃ、意味もねえわな。
いや。
ないこともねえだろうが……。
どっちにしろ?
そこらの冒険者ならわざわざ女のご機嫌うかがいするより、サキュバスの商売を選ぶわな。
考えようによっちゃあ……。
雑魚が寄ってこないから助かるんじゃねえのかね?
知らんけど。
で、あの蛇飼い女は色々うまくいかねえ、美味い話がねえって。
ちょくちょく酒場でクダまいてたって。
馬鹿な話じゃないのさ。
だったら物売りでも屋台引くなりして、カタギを目指せばよかったのになあ。
あたしだってさ?
昔はNランクでせこくやってたんだ。
今は何とか床屋でやってるけど。
ン?
あははは。
そうだった、そうだった。
あの女はさ、どうも陰でつまらねえことを考えてたか、仕掛けたのか。
どっちにしろ、一度ギルドナイトに睨まれたようだね。
連中にゃ色仕掛けも袖の下も、ご利益は少ないもん。
そのうちに
どっちかだろうと思ってたんだが。
こうすると、はかないもんだよなあ。
なんだって?
ああ……。
最後に見たのは、なんか女ばかりでつるんでた時だな。
んん?
うう~ん……。
さてねえ、あんまり興味もなかったから特に注意しちゃいなかったんだが。
ああ。
でも、アレはおぼえてる。
あいつぁ、あちこち借金があってヤバいって聞いたが。
つるんでたのだって、どうせろくな理由じゃなかろうさ。
「――まあ、こういう感じで」
「そいつだけ、どうにも異質ね」
マコネの話を聞き終えたカーシャはそんな言葉を返す。
手元にある、数枚の資料を指で叩きながら。
「すると、どういうこったい?」
「ギルドのまとめてた犠牲者のリスト。さらわれたのはみんな若い女で、一般人。中には13歳までいたようね」
「タイージャって女も、オバハンじゃなかったようだけど?」
「それでも。他に比べると一番年上よ。適齢期で言うのなら、とっくに行き遅れだわ」
「まあ、そうか」
横で聞いていたバッキーはちょっと首をかしげ、
「えーと。ちなみに、そのヒトはいくつくらいだったんです?」
「見た感じじゃ、25から上……。30まではいかねえくらいだったらしいね」
「十分若いと思いますけど……?」
バッキーはつい、【現代日本】的な見方で言った
「あんたの
「はあ、そういう……」
なんとなく――
微妙な気分でうなずくバッキー。
さらに。
その横で、
「肉入りマントゥは、おいしいもんですねえ」
マコネが買ってきたマントゥを、ボロンはほぼ1人で食べつくしかけていた。