破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その12、カーシャとユオンと調査員

 

 

 

 

 クエストを終えて、ネビズの街へ戻ってからすぐに、

 

「あ、ちょっとよりたいところあるんで。いいですか?」

 

 ギルドへの報告へ向かう途中でバッキーは小走りに足を速めた。

 

「別にいいけど」

 

「おーい。どこいくんだ?」

 

 バッキーの後をマコネもついていく。

 

 急ぐわけでもない。

 なので、特に考えもなくカーシャもそれに続いた。

 

 バッキーが入ったのは、大型の書店。

 といっても、専門書などが置かれているというよりは、娯楽物が中心。

 客層も一般人ばかり。

 

 ――そういえば、こんなところ来たこともなかった。

 

 カーシャは、令嬢時代を思い出す。

 必要な本などは、御用聞きの本屋に注文していたものだ。

 

 ――これは……いわゆる絵草紙というやつ?

 

 ほとんどイラストばかりで構成された、紙質も今いちの本。

 そんなのが大量に積まれている。

 

 ――うん?

 

 奥を見ると、本屋の一角でバッキーは熱心な顔をして本を物色中。

 魔導書でも探しているのかと思ったが。

 

「おー、またエロ本みてるのかよ。男同士がケツ**するやつ」

 

 無神経な声で、マコネがバッキーの横に。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 声をかけられたバッキーは、飛びあがらんばかり。

 いや、実際飛び上がって驚いた。

 

 ――……男同士?

 

 どういうことだと、カーシャも近づいてみる。

 見てみれば、そのコーナーにある本はやたら扇情的な美少年や美青年の絵ばかり。

 

「なにこれ?」

 

「あン? ホモの絵草紙だろ。あ、こういうのはマンガっていうのか」

 

「ち、ちゃいますよ! これはその、いわゆるボーイズラブというものでして……」

 

 バッキーは、何か言い訳じみたことをモゴモゴ言っている。

 

「ああ……。衆道の絵草紙ね。聞いたことはあるわ」

 

 カーシャは首をかしげた。

 考えてみれば、以前にそんなことを社交界の隅っこでボソボソ言っている連中を見た。

 

「まあ、小姓の愛人を絵に描かせる貴族もいるし……」

 

 倒錯的な趣味の貴族など、それほど珍しいわけでもない。

 本の値段的に、庶民向けのものなのはわかった。

 

「世間じゃこういうのが流行ってるわけ?」

 

「男と女のあるぜ? あっち」

 

 マコネが指すコーナーには、なるほど男女の艶本もあるようだ。

 

「ふーん……」

 

 ヤオアムトは魔法大国であると同時に文化大国でもある。

 他国よりもそういった技術や娯楽は身分の上下関係なく広がっていた。

 

「り、リーダーも、そういうオタク……じゃない、マンガとかお好きなんですか? ふひ」

 

 カーシャが一冊手に取っていると、バッキーがすり寄ってきた。

 

 若干気持ち悪い。

 

「さあ……。同性愛なんて珍しいものでもないし」

 

 何にしても、所詮は絵。

 つくりごとだ。

 もっとえげつない見世物なんて、社交界の裏ではけっこうあるものだ。

 

「でも、こういうきれいな絵を描く職人はすごいわね」

 

「わ、わかりますぅ? いひひひ」

 

「おいらにゃよくわかんね。男同士のケツのほじり合い見て何が面白いんだか……」

 

 勝手に興奮しはじめたバッキーに、マコネのさめた声。

 

「そ、そういうのが萌えるんじゃないですか!?」

 

「声でけえよ。そりゃきれいな顔したやつなら、ちょっとはわからんでもないけどよぉ。バッキーお前、毛むくじゃらのおっさんがよがってる趣味悪ぃのも買ってたじゃん」

 

「わ、私雑食なので」

 

「いや、意味わかんねえから」

 

「……」

 

 カーシャは盛り上がってる二人を無視して、店内をさらに見て回る。

 色々見たこともない本も多く、それなりに面白い。

 その時、ふとある本が目に入る。

 

『魔王ミニ事典』

 

 絵が多いが、いわゆるマンガではなさそうだ。

 しかし、専門書と言うには値段も低く、ページ数も少ない。

 これが目に入ったのも、

 

「どこそこに魔王が現れた……」

 

「どこかの廃城に魔王が潜んでいる……」

 

 そんな噂を耳にするからだ。

 本気にしている者は少数だが、話題に上がることは多い。

 

「魔王への関心というか興味はみんなあるようですねえ」

 

「……!」

 

 横からの声に、カーシャはキッと振り返った。

 動きや気配が見えなかったのだ。

 

「あ、どうも」

 

 ――こいつ。

 

 並の人間なら失禁しそうなカーシャの形相に、その相手は平気な顔。

 あの、『勇者』とやらのパーティーにいた美少女エルフ。

 まあ不細工なエルフというものが、まずありえないのだが。

 

「この間は大変失礼をいたしました」

 

 そう言って頭を下げるエルフに、カーシャは目をはなさない。

 

「おーい、姐さん。あれ、誰だそいつ?」

 

 ケンカ? を終えたらしいマコネは駆け寄ってくるなり、

 

「あ。あの時の……」

 

 マコネも、このエルフをおぼえていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「で――王宮の魔導士が何の用?」

 

 本屋を出た後、カーシャたちは近くの広場に場所を移していた。

 人も多く、屋台などもいくつか出ていた。

 

「そーですねー。まあ、まずは勇者の代行を無事はたしていただき、感謝の念を」

 

「……」

 

「いやまあ、その原因を作っちゃったのもあなたですけど。それはさておきまして」

 

 と、美少女エルフ・ユオンは屋台で買った焼き菓子を食べながら、

 

「どうです? おひとつ」

 

「けっこう。それより、お話をしていただきたいものね?」

 

「そうですか? ではまあ、簡単に言いますと……。上のほうはあなたのことを疑ってるんですよね。あなたが偽物というか、身代わり? で、本当のカーシャ嬢はどっか別に逃げてるんじゃないかって」

 

「へー。それはそれは……」

 

「とはいえ、追放処分の時には私より上の王宮魔導士も何人かいたわけですし。生命認証魔法の措置も何度かチェックされましたが、全て本物だと結果が出ました」

 

 まあ、そうだろう。

 実際にカーシャは本物の、カーシャである。

 ただ経験と体感年数が違ってしまっただけだ。

 

「でもですね? 納得しない人もけっこう多いんです。それに、あなた勇者をムチャクチャにやっつけてしまってるので、ますますそういう声が強いんです」

 

「……あの女に、そんなことできるわけがない、と?」

 

「言いづらいですけど、つまりそういうことなんです。だから、ですね。一度こちらへ王宮からの調査員が来ることになりまして。ご協力していただけると、非常に助かるんでお願いします」

 

「……」

 

「あのよー、その調査なんとかってのは、いつ来るんだ?」

 

 後ろで聞いていたマコネが、ジロジロとユオンを見ながらたずねた。

 

「それはですねえ――」

 

「それは、あっちで様子をうかがってる連中のことかしら」

 

 カーシャは振り向きもせずに、ある方向を親指で示す。

 

「あ。はい。そうなんですよ」

 

 ユオンがちょっと驚いた顔でうなずく。

 すると、飴売りの屋台にいた連中が、いっせいに振り向く。

 鋭い眼光だった。

 

「うひっ……」

 

 おびえたバッキーは、マコネの後ろに隠れるようにひっついた。

 

「へっ。きったねーな、不意打ちじゃねえか? わざわざ小細工の変装までしてよ?」

 

「いやー、そうじゃないと何かされるんじゃないかって意見がありまして……」

 

 ユオンは頭をかきながら、冷たい顔のマコネにペコペコする。

 

「……やるなら、早くしてほしいわね」

 

「あいすみませんです」

 

 

 

 

 

 

 

「っとに……どんだけしつっこいんだよ!」

 

 歩きながら、マコネが毒づく。

 〝調査〟というか〝検査〟が終わるまで、結局半日近くかかった。

 

「まるで健康診断みたいでしたねえ……?」

 

 バッキーの言葉通り。

 血液採取から始まって――取り調べというよりそういうものに近かった。

 調査員の態度はかなり横柄だったが、

 

「すみません。すみません」

 

 間に入るように、ユオンが平身低頭だったのでバランスはとれていたのか。

 ようやく、検査が終わった後。

 結果は、問題なし。本物……となった。

 

「いやあ、長々と本当にすみません。あ、これは協力費といいますか」

 

 金貨の入った袋を渡してきた。

 

「……使い走りは気をつかうわね」

 

 袋を受け取りながら、カーシャはそんなことを言った。

 

「……あはははは。そこが宮仕えのつらいところでして」

 

「そ。じゃあ」

 

 さっさとその場を去ったカーシャたちは、ようやくギルドに向かっていた。

 

 ――あのエルフ……。

 

 気に入らない。

 あの態度が、どうにも胡散臭かった。

 逆に、カーシャを見下しているのがわかった他の連中が可愛いほどに。

 カーシャがおとなしくしていたのは、半分以上あのユオンを警戒していたからだ。

 近くにいると、〝地獄〟で何度も殺し殺された怪物どものことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユオン様! 金まで払うことはないのでは!?」

 

 カーシャたちが見えなくなってから、調査員たちが不満そうに言った。

 

「あいつは、身分を剥奪されて追放された罪人ですよ!」

 

「それを……王宮魔導士の態度があんなに卑屈な……」

 

「んー。そう言われてましても」

 

 不満の声に対してエルフはどこ吹く風。

 

「実際戦闘能力は本物ですし。ただでさえ魔王関係できな臭い時に、余計な揉め事起こすなと上からも厳命されているんですよ? 大体王宮の近衛騎士でもかなわなかった勇者様を、彼女はやっつけてしまってるわけで……」

 

「ですが……!」

 

「じゃあ、どうするんです? 王都まで連行するんですか? 辺境ならともかくあの人に王都で暴れられたら、誰がどう責任とるんです? 私、無理ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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