破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その106、白毛と乙女-6 大山鳴動して……

 

 

 

 

 

 

 

 えっちらおっちら……。

 と。

 

 魔導アーマーを着こんだ大男は力仕事に精を出していた。

 ガシャガシャと、音を立てながら。

 

 ジロ――本名を塩谷長治郎。

 理由もわからず、【こちら】に来てしまった不幸な中年男。

 

「運が良いというべきですかねえ?」

 

 浮遊魔法で空中に浮かぶ片眼鏡(モノクル)の黒髪エルフは言った。

 ネイテク――人間社会で育った混血エルフである。

 

 魔法で破損した家屋の壁を修理している。

 

 比較的低ランクのクエスト。

 とはいえ。

 それなりに魔法の技術もいるので、

 誰でも彼でも――?

 できる仕事ではない。

 

「フェイジンの群れはこっちじゃなく、今度もマハーリのほうへ行ったそうですよ」

 

「えらいことになってるンかなあ」

 

「いや――」

 

 ジロのつぶやきに、ネイテクは顔を向けながら、

 

「ネビズのほうから腕利きを呼んで駆除させたそうです。まあ、あちこち血の海になって、むしろそっちの片づけが大変らしいですな」

 

「ほおん」

 

 ジロは適当に相づちを打ちながら、手は止めない。

 魔導アーマーの補助により、何人分もの力仕事ができる。

 そうなってくると、案外面白くもなってくるのだ。

 

「しゃあけど、こんな宝物庫ちゅうんか? こんなん持ってたのはどんな金持ちやろね?」

 

「今は途絶えた、ある貴族が所有してたものだと聞いてます。宝物庫、というより? 正確には展示場みたいなものだったそうで」

 

「なんか飾ってたん?」

 

「持ち主は、いわゆる狩猟が道楽だったそうでね。特にモンスターとかも狩ってたようで、ここには色んな剥製が飾ってあったんですな」

 

「ほう……」

 

「もっとも、晩年お家騒動と言うのか醜聞というのか。ゴタゴタと面倒なことになって……。家は廃絶したようですね。ここも倉庫というか、ガラクタ置き場になってたと」

 

「色々あるなあ……。ほんなら飾ってた剥製は古道具屋にでも売ったんかな?」

 

「あれはねえ……。学問とか魔導研究にそれほど? 役に立つわけでもなし。お金のほうでも、どうですかねえ? ま、色んな素材になるけど、何しろ剥製ですから。使える部分は知れてるし、質も悪い。ほとんどは二束三文で売り払われたんじゃないですかねえ」

 

「悲惨な話やねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、どうも。ミズ……。今回は手早い仕事をしてもらって、大助かりです」

 

「それは、終わってからいただきたいわね」

 

 支部長の言葉に、カーシャは首を振る。

 

「まあ、それは……。しかし、あのフェイジンたちは、広範囲の群れが集まってできたもののようで、もうその個体数はもうわずかになっていると、報告されてます」

 

「ボスがいる限り、終わりとは言えない。モンスターは勝手にわいてくるダンジョンからも発生するのだから」

 

「それは、確かに……そうですが」

 

「ああ、それと」

 

 カーシャは少しだけ目を細めて、

 

「フェイジンに関する記録はわかるのかしら? あれば、なにかヒントが得られるかも……なんだけど」

 

「あ、そうですね」

 

 支部長は書類を取り出しながら、

 

「フェイジンが特異個体のボスに率いられるケースは時々あるそうです。といっても、何十年、場合によっては100年近いスパンがありますが」

 

「そうですね。今から50年くらい前も、別の土地ですが……ボスが出現したという記録があります。その時は、土地の領主が手勢を引き連れて討伐したそうですね」

 

「で。その時はどれくらいの数を率いていたと?」

 

「ええと……多くても20匹程度だったとありますね。なので、今回のパターンとはかなり事情が違いますが」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっ。

 あんた、大丈夫だったかい?

 

 いやね。

 あの【蛇つかい】とかがフェイジンにやられておっ死んだだろう?

 

 ひょっとするとさ。

 お前さんも、一緒に……ってことも思ってな。

 

 ン?

 ほう、そうかい。縁を切ってたと。

 

 うん。

 そりゃいい。大正解だった。

 ああいうのとは、関わりにならんほうがいいからね。

 

 それが証拠に、あんな死に様ぁしただろう?

 

 ふむ……。

 

 まあ、そりゃあな。

 ほかの土地に比べるとさ?

 こっちは、女のお前さんには住みにくいかもしれねえや。

 

 けど。

 腐っちゃいけない。

 そこは男だっておんなじこった。

 

 つまりは、稼がない男とおんなじように扱われるんだな。

 ただ。

 女で売る必要は、ほぼないってことでもあるわさ。

 

 なぁに。

 女なんてのは、いざ度胸を決めれば男よりも強いもんさ。

 自信をもちねえ。

 

 ははは。

 

 こりゃ余計なお世話だったな。

 それじゃあ、まあ地に足をつけてな。

 ふんばりなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもさ、変な話だよなあ?」

 

 マコネは言った。

 何度も、ベッドの上で寝がえりを打っている。

 

「あんだけの騒ぎだったのに、あっちゅう間に風船がしぼんだみたいになりやがって……」

 

「でも……?」

 

 と。

 バッキーは少し遅れながら反応して、

 

「群れがほとんど壊滅したから、ボスも怖くなって逃げたんじゃないですかね?」

 

「それはそうなんだろうけどなあ」

 

 マコネがモヤッとしたものを感じつつ話していると、

 

「はぁはぁ。けっこうですね、けっこうですね。いいえ、めっそうな。もー恥ずかしながら、世間様のことはなーんにもわからんでしょう。ですから、うちの旦那(だん)さんからも、バ・カ、というようなお叱りを受けて……」

 

「あ、あの?」

 

「……お前、さっきからなにをブツブツ言ってんだ、ひとりで」

 

 マコネとバッキーは、枕を手にブツブツしゃべっているボロンを見た。

 

「いやあ。お話がなかなか面白い。今晩は、じっくりと拝聴させていただこうかな」

 

 ボロンは枕を手に抱え、ヘラヘラしている。

 

「お前、本気で頭がパープリンになったんじゃねえのか」

 

 マコネの声には、少なからぬ不安があった。

 

「いやあ、こちらのかたがですね? 色々と愉快なことをお話しいただけるんで。一緒に聞かせていただきますか?」

 

「……」

 

「……」

 

 どうしよう……。

 

 マコネとバッキーは、ごく自然に顔を見合わせていた。

 お互い、同じようなものを抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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