破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
えっちらおっちら……。
と。
魔導アーマーを着こんだ大男は力仕事に精を出していた。
ガシャガシャと、音を立てながら。
ジロ――本名を塩谷長治郎。
理由もわからず、【こちら】に来てしまった不幸な中年男。
「運が良いというべきですかねえ?」
浮遊魔法で空中に浮かぶ
ネイテク――人間社会で育った混血エルフである。
魔法で破損した家屋の壁を修理している。
比較的低ランクのクエスト。
とはいえ。
それなりに魔法の技術もいるので、
誰でも彼でも――?
できる仕事ではない。
「フェイジンの群れはこっちじゃなく、今度もマハーリのほうへ行ったそうですよ」
「えらいことになってるンかなあ」
「いや――」
ジロのつぶやきに、ネイテクは顔を向けながら、
「ネビズのほうから腕利きを呼んで駆除させたそうです。まあ、あちこち血の海になって、むしろそっちの片づけが大変らしいですな」
「ほおん」
ジロは適当に相づちを打ちながら、手は止めない。
魔導アーマーの補助により、何人分もの力仕事ができる。
そうなってくると、案外面白くもなってくるのだ。
「しゃあけど、こんな宝物庫ちゅうんか? こんなん持ってたのはどんな金持ちやろね?」
「今は途絶えた、ある貴族が所有してたものだと聞いてます。宝物庫、というより? 正確には展示場みたいなものだったそうで」
「なんか飾ってたん?」
「持ち主は、いわゆる狩猟が道楽だったそうでね。特にモンスターとかも狩ってたようで、ここには色んな剥製が飾ってあったんですな」
「ほう……」
「もっとも、晩年お家騒動と言うのか醜聞というのか。ゴタゴタと面倒なことになって……。家は廃絶したようですね。ここも倉庫というか、ガラクタ置き場になってたと」
「色々あるなあ……。ほんなら飾ってた剥製は古道具屋にでも売ったんかな?」
「あれはねえ……。学問とか魔導研究にそれほど? 役に立つわけでもなし。お金のほうでも、どうですかねえ? ま、色んな素材になるけど、何しろ剥製ですから。使える部分は知れてるし、質も悪い。ほとんどは二束三文で売り払われたんじゃないですかねえ」
「悲惨な話やねえ」
「いや、どうも。ミズ……。今回は手早い仕事をしてもらって、大助かりです」
「それは、終わってからいただきたいわね」
支部長の言葉に、カーシャは首を振る。
「まあ、それは……。しかし、あのフェイジンたちは、広範囲の群れが集まってできたもののようで、もうその個体数はもうわずかになっていると、報告されてます」
「ボスがいる限り、終わりとは言えない。モンスターは勝手にわいてくるダンジョンからも発生するのだから」
「それは、確かに……そうですが」
「ああ、それと」
カーシャは少しだけ目を細めて、
「フェイジンに関する記録はわかるのかしら? あれば、なにかヒントが得られるかも……なんだけど」
「あ、そうですね」
支部長は書類を取り出しながら、
「フェイジンが特異個体のボスに率いられるケースは時々あるそうです。といっても、何十年、場合によっては100年近いスパンがありますが」
「そうですね。今から50年くらい前も、別の土地ですが……ボスが出現したという記録があります。その時は、土地の領主が手勢を引き連れて討伐したそうですね」
「で。その時はどれくらいの数を率いていたと?」
「ええと……多くても20匹程度だったとありますね。なので、今回のパターンとはかなり事情が違いますが」
「……」
おっ。
あんた、大丈夫だったかい?
いやね。
あの【蛇つかい】とかがフェイジンにやられておっ死んだだろう?
ひょっとするとさ。
お前さんも、一緒に……ってことも思ってな。
ン?
ほう、そうかい。縁を切ってたと。
うん。
そりゃいい。大正解だった。
ああいうのとは、関わりにならんほうがいいからね。
それが証拠に、あんな死に様ぁしただろう?
ふむ……。
まあ、そりゃあな。
ほかの土地に比べるとさ?
こっちは、女のお前さんには住みにくいかもしれねえや。
けど。
腐っちゃいけない。
そこは男だっておんなじこった。
つまりは、稼がない男とおんなじように扱われるんだな。
ただ。
女で売る必要は、ほぼないってことでもあるわさ。
なぁに。
女なんてのは、いざ度胸を決めれば男よりも強いもんさ。
自信をもちねえ。
ははは。
こりゃ余計なお世話だったな。
それじゃあ、まあ地に足をつけてな。
ふんばりなよ?
「どうもさ、変な話だよなあ?」
マコネは言った。
何度も、ベッドの上で寝がえりを打っている。
「あんだけの騒ぎだったのに、あっちゅう間に風船がしぼんだみたいになりやがって……」
「でも……?」
と。
バッキーは少し遅れながら反応して、
「群れがほとんど壊滅したから、ボスも怖くなって逃げたんじゃないですかね?」
「それはそうなんだろうけどなあ」
マコネがモヤッとしたものを感じつつ話していると、
「はぁはぁ。けっこうですね、けっこうですね。いいえ、めっそうな。もー恥ずかしながら、世間様のことはなーんにもわからんでしょう。ですから、うちの
「あ、あの?」
「……お前、さっきからなにをブツブツ言ってんだ、ひとりで」
マコネとバッキーは、枕を手にブツブツしゃべっているボロンを見た。
「いやあ。お話がなかなか面白い。今晩は、じっくりと拝聴させていただこうかな」
ボロンは枕を手に抱え、ヘラヘラしている。
「お前、本気で頭がパープリンになったんじゃねえのか」
マコネの声には、少なからぬ不安があった。
「いやあ、こちらのかたがですね? 色々と愉快なことをお話しいただけるんで。一緒に聞かせていただきますか?」
「……」
「……」
どうしよう……。
マコネとバッキーは、ごく自然に顔を見合わせていた。
お互い、同じようなものを抱きながら。