破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「うむむむむむむ…………」
バッキーは黒い石を見つめて、うなっている。
夢の中。
しかし、遠いどこかの、確実に存在する【現実】。
――またコレ? しばらく見ないで助かってたのに……。
どこかの誰か。
あるいは、自分にこんなものをおっつけた運命か。
特にどうということもない、地方都市。
ただ。
そこは、以前関わった少年・
ここのところは、ひとまず脇に置いて――
街の郊外にある、これまたどういうことのない神社。
その境内の片すみ。
小さな石碑にも見えなくない、黒い石が埋まっている。
何かしら?
文字が刻まれているわけでもなく。
伝承があるわけでもなく。
地元の人間も、
「ああ、そういえば? そんなのがあったなあ」
と。
この程度の反応。
しかし――
これが大きな問題と言うのか、
――今まさに? 分岐にあるわけだよねえ……。
バッキーは嘆息した。
これより
おおよそ、数年後になるわけだが。
「あのさ……」
その、若い男はおずおずと言った。
いかにもさえない、異性に縁がなさそうな男。
痩せて貧相である。
仮にAとしておく。
Aは、ファミレスで同じような男と相席していた。
こちらも似たような男。
仮にBとしておこう。
痩せとデブの、さえない2人組。
2人とも大学生なのだが……。
「Bくん、そのどっか悪いんじゃないの?」
「うん……」
Bはうなずいた。
ドリンクバーの炭酸飲料にも、あまり手をつけない。
Bは、もともと肥満に足を突っ込みかけたような――
つまり締まりのない、だらしない体形をしていたのだが、
「その、痩せたというか」
やつれた、という言葉をAは飲みこむ。
「うん」
Bの返事は、実に頼りない。
「ダイエットしてるわけじゃないんだよな?」
「うん」
「……病院、いったほうがいいんじゃないの?」
「……」
Aがこう言うと、Bはうつむいてしまった。
「ああ……」
聞いているのか、いないのか。
よくわからない返事。
「そ、そういえば? 最近、彼女できた? みたい話聞いたけど」
ビクリ
いきなり、Bは震えた。
表情が強張っている。
「ど、どうしたんだよ?」
「……その」
これは何かある。
絶対にある。
と。
Aは嫌でも確信するしかなかった。
AとB。
両者は数少ない友人同士だったが――
ここ1か月ほど、疎遠になっていた。
大学でも顔を合わせることが少なく、会ったとしても、
「あ、ごめん。最近ちょっと忙しくて……」
などと。
今ひとつ歯切れが悪い。
付き合いも悪くなった……というより、
――あまり、家にも帰ってなさそうだよなあ……。
家というのは、大学に通うために借りているアパートなのだが。
帰り道にあるので、時どきその前を通っても?
灯りがついていない。
気になって直接訪ねても、留守。
ただ。
郵便物がたまっている様子はなかった。
他の知り合いに聞いてみよう、といっても。
Bには、A以外の親しい友人がいない。
いわゆる、オタク系サークルでも弾きだされる。
そんな人物だったのだ。
「あ、あの? 彼女でもできたとか?」
つくり笑顔で、Aはそうたずねた。
内心では、
――それはありえないよなあ。
などと、思っていたのだが。
ビクッ
また。
Bは震えた。
この時、
「おや?」
きれいな、声がした。
透き通るような、というのか。
鈴の音みたいな、というのか。
ともかく?
嫌でも心に残るような美声。
それでいて、際立った個性がある。
Aは後に思い返して、
――あれで演技とかできたら、顔出しNGでも絶対声優で売れてたよなあ……。
そう確信していた。
いつの間にか。
女がテーブルの前に――
いや。
Bのそばに立っていた。
女を一目見るなり、Aは背筋に震えが走った。
誰でもそうなるだろう。
Aは、後々そう思っている。
背の高い女だった。
さらり、とした癖のない黒髪。
誰が見ても、美人・美形と認める顔立ち。
眼はやや鋭く、キツそうな印象。
体つきはマッチョとか、そういうものではない。
バストもヒップも大きかった。
だが、どこか強そうというのか?
女としてとかではなく……。
物理的? 生物的 ?な強さを感じさせる。
「こんなところで、お昼?」
女は美声で言った。
なるほど。
確かに、時間はそろそろ昼食という頃合い。
ごく、自然に。
女のきれいな手、陶器のような指がBの肩に置かれていた。
「え、あ? あのぅ?」
女慣れ、どころか。
デート経験すらないAはただアタフタするだけだった。
目の前の美女。
それはもう、同じ人間とは思えない存在だったから。
「Bくんのトモダチ、ですか?」
引きつった、実に無様な態度でAは何とか笑顔をつくる。
「どうかしら?」
女はBの肩に手をまわし、もう片方で無精ひげのはえたBの顎を撫でる。
「あ、あの、おじゃ、お邪魔みたいだから? これで……!」
Aはどうにもたまらなくなり、席を立った。
と。
女は、会計伝票をいつの間にか手にしていた。
「会計はこちらでもつから。お気になさらず」
そう言って、微笑む。
だが。
女の目は言外に、
「とっとと失せろ」
こう命令しているのがわかった。
Bが、その女と最初に出会ったのは――
駅の構内だった。
ベンチに座って、スマホを見ながら。
ただ電車を待っていたわけだが。
「……?」
ふと見ると、目の前に誰かが立っている。
顔を上げると、その女はいたのだ。
ゾッとするような美貌。
極端にデフォルメされ、理想化された〝二次元〟でもかなうまい。
ある意味、化け物のような美女。
そういう女が、ジッとBを見ている。
女から嫌悪や侮蔑の視線を向けられる。
それはもう何度もあった。
慣れっこである。
しかし。
女の顔つき、目つきはまるで違う、異様なもので。
媚びるとか。
騙すとか。
そんなものではない、得体のしれないグツグツと煮込んだようなナニか。
やがて。
Bより背の高いその女は、かがみこんだ姿勢で……。
まるで――
のぞきこむように、Bを見た。
凝視、とさえ言えるレベルで。
目をそらせない。
その時になってやっと気づく。
女の頬は、微かに紅潮していた。
でも。
そこにあるのは、可憐さとか恥じらいとか、ときめきとか。
ともかく、そんな生ぬるいものではない。
おぞましいほどの欲望がギラギラと光っていた。
じゅるり
女は、舌なめずりをした。
血で染めたような
Bが女を知るのは、この少し後である。
※
現在、カクヨムにも投稿する準備中
このため毎日更新ができなくなる可能性もありますが……
ハーメルン版とは構成などを変えて投稿予定です
無事投稿できた際には、そちらも応援してくださると
非常に嬉しくて助かります