破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「……なに、あれ?」
バッキーは、立ち止まった。
黒い石の埋まった神社。
そこから離れ、帰路についている途中――
陽炎みたいな揺らぎ。
その向こう。
「ま、魔法少女???」
バッキーは思わずつぶやいた。
とにもかくにも。
黒いコスチュームの――
そうとしか言いようのない女の子が、空中を飛び回っている。
翼を持つ何者かと戦いながら。
「ふふふふ」
カーシャはおかしそうに肩を震わせて、
「別に驚くことでもないかもよ? だって、あんなバケモノがいる世の中だもの」
バッキーの肩に、その白くきれいな手を置きながら、
「
「まあ、そうかもだけど……」
「私やあなただって、似たようなものだし」
「ですかね」
バッキーは一応同意してから、
「あれは、ある種の結界ですか」
「みたいね。つまり、外部から感知されない工夫。秘密のうちに、悪者と戦うということかしら」
でも。
カーシャはまた笑って、
「戦いになってないわね、アレは」
彼女の言葉どおり。
魔法少女は必死で、ビームみたいなものを撃ったり、格闘したりとがんばっているが?
相手はまるで動じていない。
片手で、ハエでも追い払うようにしているだけ。
むしろ?
殺さないよう、傷つけないよう。
手心を加えてとしか思えない。
「――あいつは」
「え?」
カーシャは、少し妙な顔をする。
魔法少女の戦っている相手。
黒い半透明の、コウモリみたいな翼。
全体的に悪魔っ
頭には角ではなく、コウモリの耳。
「いかにも、悪い感じではあるけど……」
「妙な縁ね」
2人がそんなことを言っていると、
ボゴッッ
揺らぎの向こうから、魔法少女が叩き出されてきた。
「まったく。こっちが優しくしてたらつけ上がって……」
翼の少女が、ふわりと降りてくる。
「殺すまでもなく――」
ふわり――と、魔法少女の体が宙に浮いた。
翼の少女が片手を突き出している。
「あんたの〝力〟をもぎ取って、捨てることだってできるんだよ」
「ぐう………」
魔法少女は、苦しそうにもがいた。
見えない魔力で持ち上げられて。
「ん?」
すると。
光の粒子――魔法少女の体は、それを伴いながら消え始めた。
「ああ、なるほど。どっちにしろ、こっちにいられる時間は短かったわけね」
完全に魔法少女が消えた後。
「……で? 変なところでまた会ったね」
翼の少女。
ノマという名の、人外はカーシャを見て首をかしげた。
どうやら、
バッキーこと古井椿は、除霊師みたいなものをしているようだ。
別に?
除霊を仕事にしているのではない。
色々人づてで、頼まれてやるだけだ。
お礼もせいぜい物品。
多少高めだが、基本お気持ち程度。
時どき商品券などをもらうくらい。
正確には除霊師というより、陰陽師のニセモノみたいなものか。
ある相手から勝手に見込まれ、教え込まれてしまった。
今回は、やはり人づてに変な占い師から頼まれたのだが、
「数年後に現れる魔性を今のうちに封じてくれ」
そういう内容だった。
放置すれば、近いうちに魔性が這いだしてくる。
魔性が出てこなければ、Bの犯罪によって女の子が犠牲となる。
どっちにしろ、ひどいことになるわけだが。
「封じてくれれば、Bは何としても自分が片をつける」
占い師は、断言した。
「へえ。つまり? あんたたちも似たようなことするために、やって来たんだ?」
黒い石の前で、ノマは不気味な笑みで言った。
愛らしい顔に似合わない、背筋の凍るような眼。
「あなたを見る限り、意味はなさそうだけどね」
カーシャはそう言ってからバッキーを振り返る。
「封印なんか、できませんね絶対」
バッキーはむしろ、安心して息を吐いた。
自分ではどうにもならない。
その事実が、責任の重圧を消してしまった。
現代社会の常識では、呪殺など迷信か空想の産物。
だが。
実際にやるバッキーからすればたまったものではない。
――最初っから、断れば良かったのに……。
今さらながら、大きな後悔。
バッキーが沈んだ気持ちになっているところで、
「えいっ」
ゴガ
「「あ」」
ノマは黒石を蹴り飛ばした。
黒い石は実にあっさりと、ウェハースみたいに砕け散る。
「そういう選択肢もあったわね」
カーシャが感心したように笑った。
空気が、変わる。
黒い瘴気の中で、女の形をしたモノが現れて――
「なに!?」
「……なんだぁ!?」
魔法少女とマスコットは驚き、うめくように叫んだ。
巨大な――
黒い、
まさに漆黒の体。
その頭部は、巨大ないくつもの複眼。
肉食獣のような牙と口。
異形のサソリの姿をした
もはや――
美女の面影はどこにもなかった。
「なんなの、これ!?」
ピンクの魔法少女は、思わず後退する。
「アレが本当の姿なんだ……。きれいな顔をした、女のひと……。それは、見せかけ、偽りの姿だったんだよ!」
驚いて2人の前で、
ゴシュシュシュシュ……
黒いサソリは不気味な音を発して、
「うわあああああ?!」
Bという、さえない
そして。
ズブズブと、真っ黒な泥沼のような瘴気の中へ身を沈めていく。
Bを捕らえたまま。
「ま、待ちなさい!」
魔法少女が叫んだ時。
黒いサソリは、もう消えて失せていた。
「…………」
呆然と――
魔法少女とマスコットは立ち尽くす。
「結局、なにもできなかった……」
虚脱した顔でつぶやく魔法少女へ、
「仕方ないよ」
マスコットは首を振った。
「彼自身の心が、あの魔物を引き寄せてしまったんだ。誰にもとめられなかったかもしれない」
「多少時間が早まっただけで、あまり結果は変わらなかったと。でも良いんじゃない? 魔法少女もなんかやった気持ちにはなるでしょ」
「あれもう、詐欺ですね」
「といって。あのまま揉め続けたら、殺されてたわよ。あの連中」
「そうですけど」
「どっちにしろ、あの男は行方不明になって二度と出てこない。表向きはそうなる。これでお互いに損はなし。円満解決というものじゃないかしら」
「でも、その表向きにしても、人間が一人行方不明になるんですよ?」
「ふふ。人間の命なんてのは、立場によって大きく変わるもの。特にああいう男はゼロを超えてマイナスね」
「いや、でも……」
「あいつの親族にしたって、さほど価値を見出してなかったようだし。まあ、いっかとなるんじゃない?」
「そうかなあ……?」
「でも?
「なんか、異世界からやってくる魔物と戦ってる……みたいなこと言ってましたけど」
「あまり適任とは思えないけど。人助けやボランティア活動でもしてるほうが合ってるんじゃないの?」
「同類として、ひとつアドバイスをしましょうか」
「なに?」
「それはね――」
………………………。
「それは、変化のひとつで、別に
「知ってる。同類だもの。まあ、服を着替えるようなものね」
「そんなことに、どういう意味があるの?」
「まー納得というか、なんというか……」
「はあ?」
「つまり? 気持ちの悪いロリコンが美女のふりをしたおぞましいバケモノに捕まり、餌食になった」
そういうことだと勝手に思ってくれるわけ。
「????」
「女の子にモテないダメ男を、無条件で愛してくれる美女。その正体は……って感じでね」
「別に無条件というのではないけど」
「向こうからはそう見えるの。感覚も、価値を決める尺度も、まるでちがうから。理解不能なわけよ」
「そういうものなの?」
「うん。そういうものらしいよ」
「ふうん……?」
「だからまあ。せいぜい
次エピソードは恋愛ものでやってみる予定であります