破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「――ネイテクから、な」
ゴトクは、紹介状を確認しながら言った。
持ってきたのは、馬面の大男。
塩谷長治郎――通称をジロちゃん。
カーシャたちとは、いくらか縁のある人物。
「で。ヒト探しか」
紹介状をたたみつつ、ゴトクはジロを見た。
「そうですがな」
馬面男はうなずいて、
「何でも? 占いの先生に聞いたら、こっちのほうへ手がかりがあるちゅうことで」
「ああ、それも書いてあったよ。頼み手は、ヒチュタのナダマッカ家か。こっちでも知られた豪商だな」
「それで、どうです?」
「どうですっと言われてもな。こいつにゃ、若い女としか書いてなかったぜ」
ゴトクはため息まじりで、困った顔。
たたんだ紹介状をピラピラと振りながら。
「だいたいがさ。そもそも、どういう話なんだよ。まさか、親の仇というわけでもあるまいよ」
「それですがな……」
と。
ジロは腕を組んで話し始めた。
「どうも、旦那さん」
「おおっ。ジロさんか、まあ座っておくれよ」
「今日呼んだのは他でもない。実は倅 のことだ」
「若旦那の?」
「いかにも、いかにも。聞いているかもわからんが、ひと月ほど前から病の床にあってなあ。どうにもこうにもならん」
「お医者は?」
「色んな、医者。あるいは腕利きだというヒーラーを呼んでみたが、どれもいかん」
「それはどうも……」
「しかしな? 最後に呼んだ医者がな――」
これは
「きやまい」
「つまり、気。心だなあ。精神的なものが悪く働いて、体のほうまでおかしくなってしまったと。こういうことらしい」
「ふううーーん!? つまり何かをお悩みで寝込んでしもたと……」
「その通り」
「なるほどなぁ……。そいで、そのお悩みというのは?」
「それがジロさん、わからんのだ」
「わからんって……。こんだけのご
「何しろ、私が聞いても言わん。母親がたずねても答えん。番頭がいってもダメ、と。もう手にあわんことになってしまった」
「へええ……。よっぽど言いにくいことなんですかなあ」
「それでな? それならお前は誰になら言うのだと聞いたら……」
ジロさん。あんたになら言ってもいい、とこう言うんでなあ。
「わしにですか?」
「お前さんとの付き合いは長くはない。といって昨日今日の付き合いでもない。それに、あのネイテク殿のお仲間だし。ま、私もはばかりながら、こういう家の当主だから? 相応に相手を見る目はあるつもりだ」
「はっはあ……。なるほどねえ」
「親に言えんことを、とは思いもしたが。いやいや、むしろ親だからこそ言えんということもある。親の言うことはきかんでも、近所のオヤジの小言はきく、ということもありますからな」
「ふうううんっ。わかりました、ほんならひとつ若旦那にお聞きしてみますわ」
「ジロさんか……」
「若旦那、ご病気やそうでっ」
「大きな声だなぁ……。頭に響く」
「あきまへんで。男前で金持ちで、青春真っ盛りで。そんなおひとが気ぃ病んで寝込むやなんて、そんなん
「そんな、
「せやけど。わしみたいなしょーもないオッサンを指名してくれるやなんて、嬉しぃやないですか。若旦那、できること……は、まあ知れてますけどな。あんさんのお頼みなら、やれるだけのことはやりまっせ?」
「ありがとう……。ジロさんにまでそう言われると……」
「泣きはんな、ええ若いもんが。そいで、何をお悩みです? さあ、おっしゃンなはれ」
「言ってもわらわないかい?」
「めっそうな! 若旦那のお悩み聞いて、なんで笑いますかいな。もう、気合入れて聞きますわ」
「別にそんな睨むことはないよ……。それなら、まあ……。遺言だと思って、聞いてもらおうか」
「またまた。縁起悪いこと言わんと。あっさりとおっしゃってしまい?」
「わかったよ。恥を言うことになるけど――」
さて。
そして?
病床の若旦那が語ったところによれば……。
ひと月ほど前だなあ。
ほら。
神殿へお参りにいった……。
その帰りだ。
近くに土産物屋を兼ねた、お茶……喫茶店ってやつだね。
という店だ。
そこでひと休みしていた。
しばらくすると……。
おともを2人ほど連れた、お年の頃なら18ぐらいか。
それはもう……。
水もたれるような、美しいお嬢さんが入ってらして。
そう……。
亜麻色の、つややかで流れるような長い髪で……。
サファイアみたいな、おきれいな眼で……。
はあ……。
世の中には、これほど美しいおかたがいるのだと思ったよ。
しばらく……。
失礼とは思いながら、つい見とれていると……。
後からきて、先におたちになってしまったのだけど……。
その時。
さきほどお顔を見ていらした、品の良いコンパクトを忘れていらした。
それで……。
追いかけていってお渡しすると、ていねいなお礼を言いなさって……。
おともに文房道具……紙とペンだな。
それを出すようにおっしゃった。
するとな?
あのかたは、紙へさらさらと何かをお書きになった。
おともを介して紙をお渡しになった後。
まるで……。
逃げるように行ってしまわれて――
受け取った紙には、上品な字で、
水よ
河を流れゆく水よ
瀬に浮かぶ岩に裂かれ
道をわかつ
この詩文が書かれていた。
え?
いや、違う違う……!
呪文やおまじないじゃない。
その昔な。
ズーム・ボベラという大貴族がいらっしゃった。
このおかたが残された詩だよ。
さっきの詩はまだ半分でね?
後半は、
されど
流れの末
またひとつの道
ともにゆかんと願う
あんなおかたが、後半の文をご存じないわけがないだろう?
これは……。
今はもうお別れをしなければならないけれど……。
この先に、またお会いできますようにと……。
あのかたのお心を悟った後は……。
もう……。
情けないことに頭が上がらないことになって……。
「と、まあ。だいたいこんなとこですわ」
出されたお茶をぐいっと飲んで、ジロは言った。
聞いていたゴトクのほうは――
唖然とした顔で、ジロを見ている。
いや。
ジロを通して……。
今も床についたままであろう、