破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その109、ズーム・ボベラの詩-4 乙女の影

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど。これが、例の……」

 

 詩文が書かれた紙を見ながら、ゴトクは首をひねった。

 

 ナダマッカ家屋敷から、ほど近くのクラブハウス。

 近隣の富裕層、上流階級の集まる社交場だが……。

 

 そこの、特別個室。

 いわゆるVIPルームに、ゴトクたちはいた。

 

「さようで……。これまでは、若旦那が肌身離さず持っていらしたんですが……。いえ、大旦那様にも奥様にも、とにかく、どなたにもお渡しにならなかったので。はい……。」

 

 何とも困り果てた顔で応えるのは――

 ナダマッカ家の番頭。

 

「ふうん。なるほど、なるほど。確かにきれいな字だ……。うん。貴族のご令嬢って見立ても、あながち間違いじゃあないかもな」

 

 ゴトクはうなずきながら、紙をテーブルに置く。

 

「――でも。この文字の書き方、ずいぶんと古風ね」

 

 横から紙を見たカーシャが首をかしげた。

 

「ありゃ。確かに……。ま、古文だ古い詩なんかに()ってるヤツぁ、こんな字を好んで真似たりするが」

 

 カーシャの指摘にゴトクは、紙の文字を改めて見る。

 

「知り合いの貧乏貴族もいるなあ。やたらに読みづれえ、古臭い上に冗長でまわりくどい文章を書くのが。何か、あんまり売れそうにない怪談を書いてたよ」

 

「聞くかぎりでも、この文字だけでも。相当に手がかりはありそうだけれど」

 

「はい、はい。わたくしどもも、事の次第を知ってからあちこちたずね歩いたり、ヒトをやったり……」

 

「その中には、私たちも入ってるわけで」

 

 あくまで控えめにしていたネイテクが、片眼鏡(モノクル)をいじりながら苦笑した。

 帽子を脱いでいるため、その黒髪があらわになっている。

 

「だいたいの話、まずは近くから探しますよね。このヒチュタから始まって、近隣の村や街とか。が、しかし? それらしい人物は見つからず。当然大旦那は――」

 

 と。

 黒髪の半エルフは、室内を見まわした。

 

「このクラブのコネクションからも、相当に探しましたが」

 

「やはり見つからずと」

 

 ゴトクは確認するように番頭を見た。

 

「はい。ところが、そんな折に……――」

 

 ある夜。

 病床の若旦那が、消えた。

 

 正確には、家の者が気づいたのは朝がた。

 様子を見に行った使用人が、空のベッドを発見したわけだが……。

 

「それはもう大騒ぎで……。大旦那様はお怒りになるやら、奥様はあわてて飛び出そうとされるやらで……」

 

 説明しながら、番頭は汗をふいている。

 かなりの心労が見て取れた。

 

「幸い、ご近所のかたが道を歩いておられた若旦那を連れてきてくださったんですが」

 

「その後、何回も同じことが起こったと」

 

「何回もどころか、毎晩でございますよ。いえ、もちろん厳重に見張りを置いて寝ずの番をしているのですが、どこからどう抜け出すのか……。大旦那様自ら、若旦那の寝間で見張っておりましても、ほんの一瞬で煙みたいに……」

 

「なるほど? 確かに怪談だなあ」

 

 ゴトクはため息をつきながら、カーシャと顔を見合わせる。

 

「その悪霊だか亡霊に()かれたらしい若旦那様が、例のお嬢様が会いに来たと。そう言っているのかしら?」

 

 カーシャはつまらなそうに、まだお茶の残っている茶器をつつく。

 

「はい……。そのようなことをおっしゃっておりまして……」

 

「不思議に思っていたのだけどね?」

 

 カーシャは髪をかきあげながら、

 

「神殿への参詣の時、若旦那は1人ではなかったんでしょう?」

 

「それはもちろん。(とも)は数人おつけしております」

 

「なら。その連中も、噂のお嬢様を見ているはずよね。それだけの美形なら当然おぼえているはずではなくって?」

 

「はい、おっしゃるとおりで。ですが、どうもよくわからない、と」

 

「わからない?」

 

「はい。とても美しいかただったのは、おぼえているけれど。具体的な、いえ、髪や眼の色。大よその服装などもおぼえてはいるそうで。しかし……」

 

「わかりやすい特徴などは、記憶にないと」

 

「無い、と申しますか、ぼんやりとしていると、お恥ずかしい話、胡乱(うろん)なことを言っておりまして……」

 

「……ぼんやりとねえ」

 

 何か、引っかかるものがある。

 そこはゴトクも同じであり、眉を寄せて考え込んでいた。

 

「まさか、若旦那も相手の顔がハッキリしないとか言わないでしょうね?」

 

「若旦那様はおぼえている、とはおっしゃっておられます。なので、話をお聞きして似顔絵を描かせてみたりいたしました。ああ、ちょうど一枚ここにございます」

 

 と。

 番頭は似顔絵の紙を出してきた。

 

「ふーん。どうれ……」

 

 それをジッと見たゴトクは、カーシャのほうを振り返り――

 

「確かに目鼻立ちはよく似てるな。しかし、雰囲気とか表情とか。そういう部分がまるで違う」

 

「はあ。さようですか? ふむ、ははあ……」

 

 番頭は指摘されて、カーシャをチラリと見た。

 そして。

 納得したようにうなずく。

 

「なまじ、絵師の腕が良かったせいで外見の類似がわかりにくくなってたか。いや、どうやらヒト違いには変わりなさそうだが」

 

 そこには――

 たおやかで優しげな、どこか寂しそうな女性が描かれている。

 亜麻色の髪に、水色の瞳をした控えめに微笑む乙女が。

 

 ――確かに。まるでちがう。昔の私ともぜんぜん別物ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっは~~。あ、さようで。なるほど、わからんもんですねえ?」

 

「……」

 

 ナダマッカ家当主は困惑した顔でその様子を見ている。

 

 それも無理はない――

 例の、詩文が書かれた紙を。

 それを手に、尼僧らしき姿の少女が1人で笑ったりうなずいたりしている。

 

「おい。そろそろ良いだろうが」

 

 尼僧? の頭を野良猫みたいな短髪の少年? が叩く。

 

 すると。

 尼僧の両眼から怪光が飛び出して、壁に何かを映し出した。

 

 おおう……。

 

 その場にいる者たちから、驚きの声。

 

 壁には、亜麻色の髪をした驚くほどに美しい乙女が映っている。

 美貌の乙女はどこか寂しそうに微笑み、若旦那に詩文の紙を渡す。

 

 ――ありゃ? 確かに、顔は似てるか。うん、よく見りゃそっくりだ。あっちは純粋に深窓のご令嬢って感じだけど。

 

 マコネは変な気分で映像を見ていた。

 隣のカーシャは、ただ黙然としているだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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