破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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後半も終わりに近づき
解明編に迫ってきた感じです


その109、ズーム・ボベラの詩-6 エルフは忍び込む

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねえ?」

 

 家の周辺を歩きながら、ゴトクはうなずいた。

 

「確かにうっすらとだが、魔力の残滓(ざんし)があらぁ。よほど気をつけなきゃあわからんだろうが」

 

 と。

 ゴトクはカーシャを振り返りながら、肩をすくめる。

 

「何せ、魔法を使うでも威力を発揮するでもないからなあ。それこそ、屁みたいなもんだ。昼になる頃には消え失せちまうわな」

 

「変なところでお土産を買う羽目になったけど。別に偏屈というわけではなかったわよ、あのドワーフ」

 

 カーシャは小さな小箱を手に、ドワーフの家を見た。

 

昨夜(ゆうべ)は、仕事の疲れでイライラしてたらしいわ。商品の代金に色をつけたら、すぐに愛想良くなった」

 

「あのオッサンは、エルフが好きじゃないらしいからな。まあ、()()のエルフは他の種族……とくに人間やドワーフとはよく揉めるからよ」

 

「他から聞いた話だと、あのドワーフは細工物が得意でお金持ちかつ暇な趣味人にアレコレ造ったり、技術(わざ)を教えたりしてるそうよ。あとは、こういうものを売ったり」

 

 カーシャが小箱を開けると――

 精巧に造られた、古風な屋敷の模型が入っている。

 

「他にも1000年前のお城とか、色々あると言っていたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜は、星も月もない闇夜だった。

 だが。

 若旦那はフラフラとしながらも、転ぶことも迷うこともなく歩いていく。

 

「いやホント、なんかにとっ()かれてるとしか思えねえなあ?」

 

 近くの建物――屋根の上。

 マコネは野良猫みたいに身を伏せていた。

 

「そこも、近いうちにわかるでしょ。たぶん」

 

 片膝をついたカーシャは、静かに応えた。

 

「あのエルフが、どうにかすると言ってたし。腕のほうは、確実に信用できる男だからね」

 

 

 

 

 

 

「ふん。確かに、わかりやすくなったぜ」

 

 ゴトクは気配を消しながら、一定の側で進む。

 背中にボロンをおぶった状態で――

 

「おや? なんか、ゆうべとおンなじような感じになってきましたですねえ?」

 

「しっ」

 

 次第に濃くなっていく(もや)

 あっという間に視界はおおわれてしまうが、

 

「お前さんのおかげで、昼間よりも楽なもんだ」

 

「あ、さよか」

 

「さようでござるよ」

 

 そんな会話の途中。

 視界が少しずつ開いていき、昨夜と同じ別荘が見えてくる。

 

「なるほどねえ……?」

 

 ゴトクは身を潜めながら、庭の様子をうかがった。

 ボロンひとりの時とは違う。

 身を隠し、気配をなくしての隠形。

 

「また、おいでになってしまったのですね……」

 

 亜麻色の髪が揺れる。

 水色の瞳を伏せながら、乙女は悲しそうに言った。

 

「あなたのことを思うと、自然に足が向いてしまうのです」

 

 乙女の手を握り、若旦那は言った。

 静かな声だが、強い熱がこもっている。

 

「ムロッカ様――」

 

 乙女は若旦那の名を呼んだ。

 

 ムロッカ・マグヌス・ナダマッカ。

 若旦那の正式な名前。

 

「これ以上お会いしては、あなたは……。今も命が削られていくのが、おわかりになりませんか?」

 

「あなたに会うためなら、命など惜しかろうはずがありません」

 

 若旦那は乙女を抱き寄せる。

 しかし。

 乙女は白い手で、小さくそれに抗った。

 

「……あなたがお求めになる限り、私には拒むことなどできないのに」

 

「私がお嫌いなら、仕方もありません。ですが……」

 

「……そのように言えるほどの、強さがあれば良かった」

 

「なら、何をためらうことがありましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴトクはあの乙女を遠目に見て、

 

 ――どうやらあのお嬢様、どなたかの囲い者らしいな。

 

 囲い者。

 つまりは愛人ということだ。

 

 雰囲気や所作から、そのように推測する。

 

 ――しかしまあ、古い田舎芝居じゃねえぞ……。

 

 ゴトクは2人のやり取りに苦笑しながら、ゆっくりその場を離れる。

 

 それから。

 別荘の周辺をゆっくりと探り始めた。

 

 もちろん?

 ボロンを抱えたまま。

 

 ――なるほど、けっこう前の造りだな。女ひとりを囲っておくには、それなりに贅沢か……。

 

 家屋を観察して、そんなことを思う。

 

 ――にしても……。魅了で引き込んだにしては、ちょいと妙だな。

 

 先ほど見た乙女の様子。

 というよりは、その周辺から感じる魔力の質など。

 

 相手を誘い込み、(とりこ)にするというものとは、違っている。

 

 ――そもそも、あの美人さんにゃ主導権ってものがないようだがな……。なら、それを持ってるのは誰だ?

 

 ゴトクの頭で色んな情報や推論が行き交う途中、

 

「誰だ」

 

「おっと……」

 

 声と共に、目の前に立った相手。

 ゴトクはそれを見ながら、わずかに後退する。

 

 昨夜。

 ボロンを追い払った美少年。

 

「またお前か。しかも、今度はちがうヤツまで」

 

 少年はボロンを不愉快そうに睨む。

 

「なるほど。近くで見るとハッキリわかった。お前さんたち、何の未練で這い出てきた?」

 

 なあ、幽霊さんたち。

 

 ゴトクは少年を見つめながら、目を光らせた。

 

「黙れっ!」

 

 少年は言葉をさえぎるように、どこからか片端の剣を抜いていた。

 

「こいつは物騒だ!」

 

 ゴトクは腰を落とす。

 

「おやぁ?」

 

 だが、しかし。

 場の空気をまるで無視したボロンの一声。

 

 同時に、

 

 バキ

 メリ……

 

 空間から、一本の腕が突き出てきた。

 その腕はボロンをむんず、と(つか)んで(おの)がほうへ引きずり込む。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 少年が顔をこわばらせて叫ぶと、

 

「ありがてえ」

 

 ゴトクも、それに続いて【外】へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

「いやはや。おかげで助かった」

 

 飛び出したゴトクは立ち上がりながら、礼をのべる。

 

「妙な気配はあるけど、こんなところに棲家(すみか)があるとはね」

 

 ボロンをつかんだまま、カーシャが応える。

 

「おいらぁ、てっきりとどっかのお墓かと思ってたけどな。怪談じゃよくあるパターンだろ?」

 

 マコネがそう言うと、

 

「さてねえ。もう少し調べてみないとハッキリしないな、こりゃあ……」

 

 ゴトクは腰に手を当てて、暗い夜空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

「こ、これは……」

 

 若旦那は、目の前に出てきた物に顔色を変えていた。

 亜麻色の乙女が持っていた、あのコンパクトに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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