破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その109、ズーム・ボベラの詩-7 想うなら静かに送れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では。この模型は、あなたが造ったわけではないと」

 

 机の真ん中に置かれた、屋敷の模型。

 カーシャはそれを指してドワーフを見た。

 

「いかにも、これはわしの師匠が晩年に造られたもんでなあ。注文されて売ったはいいが、返ってきたとか。師匠がお亡くなりになった時、形見分けとして譲り受けたもんですわい」

 

 カーシャの質問に、ドワーフのガライ・ワニはうなずいた。

 

 ガライの家……その客間である。

 

 その場にはカーシャの他――

 ナダマッカ家の当主である大旦那こと、ガリア・マーシュ・ナダマッカ。

 問題の中心である若旦那、ムロッカ・マグヌス・ナダマッカ。

 

 そしてバッキーと、ゴトク。

 

 マコネやボロンは後ろで控えているが……。

 ほとんど、単なる見物みたいなもの。

 

「もちろん、色々調べたのよね」

 

「そりゃあもちろん。名工と言われた師匠の品ですからの」

 

 ガライは応えながら、チラリとゴトクを見た。

 

 ゴトクの言う通り。

 エルフ族を嫌っていたガライだが……。

 カーシャが間に立ち、詳しい身元などを明かした結果、

 

「むむ。猫のゴトクといえば、わしも名前は聞いておる。エルフといえど、信用のできる人物らしい。それにまあ、あんたほどの強者(つわもの)が認めるほどの男なら……」

 

 そうカーシャに言って、納得の様子。

 

「いまだ、どのような造りで仕掛けとなっているやら、わからんでなあ」

 

 ガライは模型にそっと触れながら苦笑した。

 

「若旦那、これに見覚えはありませんか? いえ、これと同じ姿かたちのお屋敷におぼえはありませんかね?」

 

 ゴトクが問うが、若旦那は応えない。

 

 代わりに――

 模型へ両手を差し出すようにして、両目とカッと開いている。

 

「このお屋敷は……あのかたの……」

 

 つぅ、と。

 若旦那の指が触れかけた時、

 

 カチャカチャ……

 

 模型はひとりでに変形を始めた。

 そして。

 

「あっ」

 

 若旦那は、小さく声をあげた。

 

 台座のようになった模型。

 その上に、品の良いコンパクトが。

 

「これは……」

 

「どうやら、見覚えがおありのようですね」

 

 ゴトクの言葉に、若旦那は応えない。

 ただ。

 手にしたコンパクトをジッと見ているだけで。

 

「いや。外野がどうのこうの言わなくても。若旦那、あなた例のお嬢様がどういう存在(モノ)か、おわかりになってたんじゃありませんか?」

 

「私は、あのヒトが魔物だって幽霊だって構わなかったです」

 

「ムロッカ、お前は――」

 

「大旦那、失礼を承知でお聞きしますが」

 

 父親が息子に何か叫ぼうとするのを、ゴトクは制する。

 

「ご先代、つまりあなたのお父上だが。元は他国のお生まれで、冒険者を経て今の財をなされたとか」

 

「そうですが……」

 

 大旦那は質問の意図が読めず、困惑している。

 

「ギルドの記録を調べたところ、ご先代はどうやら魔導士系のジョブだったようで」

 

「そんなことを言っていましたな。私も多少のことは知っているが、わき道にそれず商売(あきない)に本腰を入れろと先代からも言われておりまして」

 

「魔導士系といっても、ヒーラーに錬金術師。モンスターテイマーとか召喚士(サモナー)、まあ色々あるが……。ご先代はどうやら、魔導関係のなんでも屋みたいなことをしてたようで。だが、本来は死霊魔術師(ネクロマンサー)を生業となさっていたようだ」

 

「それは……」

 

「ご存じなかったようですな。ご先代も言いたくはなかったんでしょう。生国では嫌な思いもしたかもしれねえ」

 

 ゴトクは少しだけ目を閉じて、ゆっくり息を吐き出すように言った。

 場は静まり返っていく。

 

「あなたがご成人される頃には、もう過去に流れて見えなくなってた。だがその資質、才能ってヤツは若旦那にも流れてた。それが色んな巡り合わせで、ひょいっと顔を出し……」

 

 今回の騒ぎ、その原因(おおもと)になったんですよ。

 

 ゴトクの視線を受け、若旦那は顔を上げる。

 

「若旦那、あなたはね、幽霊にとっ()かれたんじゃない。あなたが眠ってたあのお嬢様を揺り起こして、現世につなぎ止めてんだ。お体の衰弱は、無意識に使っていた無茶な魔術……とも言えねえようなもんで消耗してたんだ」

 

「本人も知らないうちに、死霊魔術師(ネクロマンサー)の力を使っていたと――」

 

 聞き役にまわっていたカーシャが、確認するように言った。

 

「この家は、街の大通りからも近い。若旦那、あなただって何度も普通に近くを歩いたはずだ。ここには死人の想い、いや魂の残骸がこもった遺品があった。他にも風や気温、季節。ヒトの流れ。色んなものが時間をかけて重なった結果」

 

 あのお嬢様は、亡霊として呼び出されちまったんですよ。

 

 ゴトクの言葉に若旦那は真っ青になっていた。

 拳を握り、肩を震わせる。

 

「あの屋敷、造りを見てから調べたところ、だいたい500年くらい前のもんだとわかった。そっからまた記録をあさったら、ありましたよ。この街に建っていた小さなお屋敷、ある貴族の妾宅……そいつのことがね」

 

「そんな昔の……」

 

「ねえ若旦那。野暮の極みと承知でおたずねしますが、あなた一度でもあのかたと臥所(ふしど)をご一緒にされたことがおありですか?」

 

「いえ。それをすれば、あなたは私を嫌いになると――」

 

「こいつは俺の当て推量ですが。あのヒトぁ、相手のお貴族様に相当ひでえことをされてたんじゃありませんかねえ? 死んだ後も、その()()()は残って消えなかった。そんなものを、あなたには見られたくなかったんじゃないですか」

 

 若旦那は無言で、うつむいたまま震え続けている。

 

「素人のあなたが、才能があったとはいえ呼び出せたのは、お互いの相性が合ったからでしょう。惹かれあうのも不思議じゃない。しかしねえ」

 

 ゴトクはチラリと屋敷の模型を見て、

 

「死人を自分の気持ちだけで現世に呼び出してつなぎとめる。そりゃあ、あのヒトを囲ってた貴族と同じじゃないんですか?」

 

 あなたのお気持ちが本物だってなら……。

 静かに眠らせてあげるのが一番じゃないですか?

 

 若旦那は顔を伏せて、声もなく泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

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