破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その109、ズーム・ボベラの詩-8 かえりみちで

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、話の幽霊……えらく不運なヒトだったんだなあ」

 

 帰り道。

 マコネが両手を頭で組み、嘆息した。

 

「まあな。衣食住には不自由しねえし、忠義なメイドや従者もいたんだろうが。かといって、幸せとも限らねえ」

 

 ゴトクが小さくうなずく横で、

 

「でも――まるで芝居みたいな推論だったわね。貴族に囲われて、オモチャにされてって」

 

 カーシャは淡々と言って、ゴトクを見た。

 

「ありゃあ、とっさの思いつきだったがね。だが、大きく外れてもいねえとは思う。ま、体に残るような跡があったかどうか、なんてのはわからんがね。逆に、なめるみたいに大切に扱ってたかもしれんし」

 

「じゃ、なんであんな……。ああ……」

 

 マコネは言いかけて、何かを察したようだった。

 

「そういうこった。若旦那の様子から、熱の入れようから。下手なこと言うと、本気で死人の仲間入りしかねないと思ったんでな」

 

「しかし、さっきのは。なにか、奥歯に物が挟まったみたいな言い草だったわね?」

 

「――記録には残ってないが、当時を実際に見聞きしたヤツがいないわけでもなかった」

 

「あなたと同族?」

 

「エルフは長生きだからな。ま、当時は50にもならねえ、エルフとしちゃガキだったらしいが――」

 

「じゃ、そっちの筋から聞いたのかい?」

 

 マコネは少し驚いた顔。

 

「ああ。あのお嬢様を囲ってた主人は、このあたりの領主だったおかたでね。といって、その家系はもうバラバラになってるが、それはいいや」

 

 

「ヒチュタの? あー、アレね。そうそう。おぼえてる、おぼえてる。そっちの趣味で一部じゃ有名だった男さ。美少年や美青年とよく()()()()ねえ。わざわざ女の格好させてさ」

 

 

「……てなことだったらしいや」

 

「え?」

 

 ゴトクの話に、バッキーはギョッとした。

 

「いや、え? じゃあ、あのヒトは」

 

「まあ男だな。生き物としてみればだが」

 

「おいおい。なんか妙な話になってきやがったな?」

 

 マコネは微妙な顔になって、頭を掻いた。

 

「あの詩ってのも、妙な気はしてたんだ。ありゃあ、女を想って詠んだ(うた)じゃない。男に対して詠んだもんだ」

 

「ふうん。なるほど」

 

 カーシャは軽く手を打って、

 

「そう言えば? ズーム・ボベラはあれこれ芸術に通じてたことで有名だけど。男色家だって話だという話も何かの本で読んだわね。ま、そういう噂はよくあることだけど」

 

「あまり知られてもいないが、武術のほうで相当の使い手だったらしい。親父の代からこのへんの土地を与えられたが、もとは南のほう……つまり、マウサストから来たんだな」

 

「なるほど。そっちが盛んな場所だわ」

 

 カーシャはうなずいた。

 

「それって、この前聞いた……」

 

 バッキーは以前の、衆道関係での話を思い出す。

 

「ええ。ヤオアムトでも南端にある地域。組み込まれたのは1000年ほど前だったかしら。ヤオアムトに降った後、けっこうな数の武将が国土のあちこちへ送られたそうよ。当然下級の連中だが」

 

軍事力(ちから)を削ぐためかい?」

 

「それもあるけど、それだけでもなかろうね。マウサストが尚武の気質ってのは伊達じゃない。そこを見込んでってとこもあるだろうよ」

 

「確か、血の気が多いので有名なとこだもんな」

 

「今だってモンスターやダンジョンは厄介なもんだ。その頃は、もっと厄介だったろうぜ。まあ前線で戦うような下級貴族や騎士が仮にも領主様になれるんだ。悪い話でもなかろうよ」

 

「そういう新人領主のもとに、ヤオアムトからも貴族の娘が輿入れしていったとか。もっとも、身分の低い女に産ませた庶子でしょうけど」

 

「だが貴族の血を引いてるのは間違いねえよ」

 

「あのお嬢様、いえ、若様と言うべきかしら? アレもどこかの貴種だったんでしょうねえ」

 

 カーシャはそう言って、少し上を向いた。

 空を流れる雲が見える。

 

「当然、素性は隠してただろうがな」

 

「でも……なるほど? マウサストの流れを汲んでいれば、色んな習俗なんかも持ってきたでしょうね」

 

「だなあ」

 

「ねえ。とぼけているけど」

 

 カーシャは、そっと右肘をゴトクの肩に乗せて、

 

()()の素性だって、ホントは調べて、知っているんじゃなくて?」

 

 ゴトクは少し目を開いてから、ため息をつき、

 

「カシーズ・バンガオ。そう名乗っていたらしいが。バンガオってのは、別荘の名前だな。カシーズは、古い言葉で静かとかおとなしいって意味だったか……」

 

「本名は?」

 

「そいつを、聞くのは野暮ってもんだ。あのヒトも言いたくねえし、知られたくなかったろう。それに、もうバラバラになって、家自体は残ってねえよ。ンなものは」

 

「はいて捨てるほどある、か」

 

「残った血筋をたどっていけば、ボージュコッツ家へとつながるとだけ言っておく」

 

「それは――」

 

 カーシャは、眼を見開いた。

 その表情に、マコネもバッキーも驚く。

 こんな表情(かお)も見せるのか、と。

 

「なるほど。似ていたって不思議じゃなかったわけね」

 

 皮肉な顔でカーシャは肩をすくめた。

 

「……」

 

「……」

 

 マコネも、バッキーも言葉を出せない。

 何かがあるのは、察せたからだ。

 

「ボージュコッツは、母方の家よ。そういえば、顔つきは母親似と言われていたかしら?」

 

 無言の2人へカーシャはつまらなそうに言った。

 

「まあ、あそこまで似てもいなかったけれど……」

 

「流れを汲む血筋に似た顔の子が生まれるってのも、わりとある話だ」

 

「妙な気分だこと」

 

 カーシャは楚々と微笑み――

 口元をその白い手で隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのぅ、ちょっと気になったんですけど? 一緒にいた従者やメイドさんは……」

 

「従者のほうは女だし、メイドのほうは男だよ――」

 

「え?」

 

「まあ、そういう趣向をしたがるのも世の中にいると聞くわね」

 

「男に女のカッコさせて囲い者にしてたってか? 変わりもんだよな~」

 

「お互い納得ずく、同好の士ってんなら勝手だろ」

 

「旦那の趣味でそんな真似させられるほうは、どうだって話」

 

「まあ……。カッコだけなら嫌ではなかったかもなあ」

 

「三次元だと、色々キツいものがありますね……」

 

「~~~~~~~~****♬」

 

「品のねえ歌ばっか歌いやがるなあ、こいつ。どこでおぼえたんだよ?」

 

「前の持ち主……の、趣味かもね」

 

 

 

 

 

 

 

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