破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その109・5、番外・ヒトの縁(えん)-1

 

 

 

 

 

 

 

「……バッキーさん。どうも、おはようございますっ」

 

 やや上ずった声。

 それでも、一生懸命……という感じの声。

 

「あっ。クーラくん?」

 

 バッキーは振り返って、相手の名前を読んだ。

 

 ヒチュタの一件より帰った朝。

 

 ――朝食を買うついでに散歩でも……。

 

 そう考えながら、朝のネビズを歩いていたところだった。

 

 声の主。

 だいたい16~8くらい。

 現代社会で言えば、高校生くらいの少年。

 

 すすけた金髪に、緑の眼。

 少年らしい細目で引き締まった体。

 

 体つきや所作。

 また年齢的にも、(レア)以下の冒険者だとわかる。

 

「朝飯ですか?」

 

「君は……クエストの帰りかな」

 

 服の汚れ具合。あちこちの小さな傷跡。

 これは見ただけでわかる。

 

 加えて。

 隠しているのか、無自覚なのかは知らないが、

 

 ――体の疲れ……。かなりのもんだね、これ。

 

「はい。3日がかりで……。でも、なんとか死人も出ずにすみましたよ」

 

 クーラは照れ臭そうに笑う。

 

 冒険者は――

 特に、ノーマルやHN(ハイノーマル)クラスの者は、クエストの中で死ぬことも多い。

 

 いや。

 むしろ、ごく日常のことだとも言える。

 

 そういう犠牲者に、うだつの上がらない連中はあまりいない。

 自信のない者は、余計な危険など冒さないからだ。

 

 武力や戦闘用魔法に関して使える者、見込みのある者ほど……。

 報酬が高い、つまり危険なクエストを受ける。

 

 結果。

 失敗して、命を落とす。

 

「だけど、先月やっと(レア)になれたもんだから。ここで一発とパーティーのみんな張り切って……」

 

「私が言っても何様だって思うかもしれないけど、死んじゃったらなんにもならないと思うよ」

 

「いや、とんでもない。バッキーさんには色々お世話になってますから」

 

 クーラはあわてて手を振る。

 

 

 バッキーとクーラ。

 と、いうよりはカーシャのパーティーとの関わり。

 

 これはカーシャが冒険者になったばかりの頃――

 そこまで戻る必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番最初。

 まったくの偶然から……。

 野盗とそれが飼っていたレッサードラゴンを刈ったすぐ後。

 カーシャは残ったスライム駆除のノルマを終えてから、ギルドに戻った。

 

 粗末な囚人服姿。

 手には安物だが、血で赤黒くなった槍や小剣。

 

 どうしても目立つ。

 ……どころではない。

 冒険者から見ても、異常な姿だった。

 

「あれか?」

 

「王都を追われた……例の?」

 

「ヒト違いじゃないのかね?」

 

「……いや、新聞に出てた顔にも間違いはないし」

 

「だけど、ありゃ……。どう見たって乳母日傘のお嬢様じゃないぜ?」

 

「なんて眼だ……」

 

「4、50人は殺してそうなツラだよ……」

 

 そういったヒソヒソ話も、聞こえてはいたが――

 

 ――まあ、いいか。

 

 愉快ではない。

 かといって、怒ることでもない。

 

「スライムの駆除。それから、野盗とかなんとか」

 

 カーシャは知らん顔をして、受付で報酬を要求。

 

「あ、は、はい。確かに……。こちらになります」

 

 支払いは、紙幣で行われた。

 合計で、端数をのぞいて150万ジュラ。

 つまり日本円で150万円。

 

「こういうのが相場なのかしら?」

 

「ま、まあ……野盗というか、レッサードラゴンの分が大きいですね」

 

「へえ」

 

「……あ、よければどうぞ」

 

 受付は、こぶりな(ひも)付きの革袋を出してきた。

 

 カーシャは囚人服姿。

 ポケットもなければ、財布もない。

 大金をしまえるものがなかった。

 

「……ありがとう」

 

 カーシャは袋に報酬を入れて、さっさと出ていく。

 その途中で、

 

「おい。お嬢様」

 

「……」

 

 声というよりは、罵り。

 

 カーシャは表情を変えずに振り返る。

 

 実のところ。

 すでに小さな殺気は感じ取っていた。

 

 ただ。

 すぐ先制攻撃をかけないだけの、TPOはわきまえていた。

 

「私のことかしら?」

 

 相手は、安物の装備を身に着けた少年。

 そこそこの経験はある。

 だが。

 一人前とされる(レア)クラスはまだまだ先……。

 という感じの若い冒険者。

 

 後ろには、似たような少年少女がいた。

 

「どういうコネか知らないがな。ふところには気をつけとけよ」

 

 侮蔑を浮かべて、少年は言った。

 

「ぶん殴られて、金とられたって。役人は相手してくれないぜ? もう護衛もおつきのメイドもいないんだろ? ああ、家もないのか」

 

 ――ああ、こういうのを……『喧嘩を売られている』というのかしら。

 

 カーシャは、妙に新鮮な気分だった。

 

 今まで嫌というほど経験したのは、単なる殺し合い。

 貴族時代も、こういうわかりやすい、あからさまな暴力をちらつかせたものなどあるはずもなく――

 

「なんだよ、その眼は? ()()()だか執事に言いつけるぞ、かっ?」

 

 吠える子犬。

 カーシャがそれを連想しつつ、目を細めた。

 

 この時、

 

「お、おい! 殺しはまじぃよ!」

 

 後ろにいたマコネの叫び。

 

 これが後の結果に影響したのかもしれない。

 

「あ、何言ってんだ、このチビ?」

 

 少年が失笑したと同時に、カーシャの白い手がその手をつかんでいた。

 

 パキリ

 ペキペキペキ……

 

「え? あ……」

 

 枯れた小枝のように、少年の手は砕けて折れた。

 

 バキッ

 

 次の瞬間。

 その体は床に転がる。

 両足から骨が突き出ていた。

 

 カーシャが、軽く……草でも薙ぐように蹴りはらったのだ。

 

「……ずいぶんと貧弱だこと」

 

 つまらなそうに行った後、カーシャは他の仲間へと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!!」

 

 紫の騎士。

 ギルドナイトの、ライワが叫んだ。

 

 その一喝で場は鎮まる。

 物や建物。こういったものへの破損は、ない。

 

 ただ。

 

 両足を砕かれてもがく者。

 血の海で痙攣している者。

 顔を押さえて震えている者。

 

 よく見れば、何をどうやったのか――

 仮面の引きはがされた顔の皮。

 それが床に転がっている。

 

「それ以上揉めるなら、ただではすまんぞ。たとえ、冒険者同士でもな……」

 

 ライワの眼が、カーシャを射る。

 カーシャは何も応えない。

 

 その右手には、血のついた髪の毛が握られている。

 よく見れば……。

 髪の根元には、一緒にはがされたらしい皮膚まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

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