破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その109・5、番外・ヒトの縁(えん)-3

 

 

 

 

 

 

 バッキーは座禅でも組むような姿勢になっている。

 目を閉じて、意識を集中して――

 

 その頭の上には、青白い輝く粒子の(かたまり)

 これがふよふよと浮いていた。

 

 さらに。

 

 その前には、分厚い本が浮かんでいた。

 本のページが一定の速度でめくられていく。

 

 やがて、

 

「ぷはあっ!」

 

 バッキーは目を開いて息を大きく吐き出した。

 同時に、粒子の玉が消えて本がゆっくり落ちてくる。

 

「はあああ……」

 

 落下する本を受け止め、バッキーはもう一度大きな呼吸。

 それから。

 本の表紙に目を落とす。

 いわゆる医学書の(たぐい)

 

「やっぱり、ハードですよこれ……」

 

「だろうな」 

 

 横で見ていたゴトクが片をすくめた。

 

「けど? 確実でなおかつ早い。ついでに魔力の操作、つまり魔導全般が底上げされる。良いことづくめだ」

 

「はあ……。それは、わかりますけど」

 

 バッキーは自前のタオルで汗をふきながら、もう一度医学書を見た。

 

 

 しばらく前から、ゴトクの指導により――

 

 

「まずは、そうだな。自分の頭、その上に魔力でボールを作れ。それができたら、ボールに自分の意識や知識をリンクさせる、そういうイメージだ」

 

「次に、浮遊魔法で本を浮かせる。その本を、ボールを通して本を読む。慣れれば、どんな本でもすぐ読みこなせる」

 

「この作業を何回も繰り返す。慣れていくうちに、どんどん知識が消化・吸収されていくはずだ。単なる暗記じゃねえ、自分の血肉となる」

 

 

 おおよそ。

 こういったものを繰り返して行っていた。

 

 ――確かに、魔法も色々使えるようになってきてる……。

 

 いわゆる。

 炎を飛ばす。凍らせる。稲妻で撃つ。魔力を弾丸とする。

 そういった、()()()()()()攻撃魔法は、基礎の基礎、そのさらまた基礎レベル。

 

 しかし?

 防御や補助、さらに生活や野営などで使うもの。

 これらの魔法はかなり上達した。

 他にも食料を長期保存するものや、

 

 むしろ、

 

 ――こういうやつのほうが、重宝すること多いんだよねえ?

 

 また?

 こっちの世界で知ったことは、

 

 ――距離って大事なんだなあ……。

 

 剣よりは槍。

 槍よりは弓。

 

 特に、(レア)以下の一般、あるいはその他大勢というべき者。

 

 スライムや死肉転がしのような小型なら別。

 否。

 小型でも毒など危険なものも存在するが……。

 

 そのスタイルは、弓や投げやり、投石。

 とにかく、遠距離からの攻撃を重視する。

 

 モンスターの攻撃を受け止めるタンク役。

 卓越した技でモンスターを斬る剣。

 

 存在はするが、あくまでもごく少数。

 

 中型以上のモンスターの攻撃。

 それは人間など一瞬で絶命させてしまう。

 

 ――普通の犬やクマだって、人間をあっさり殺せるって言うしなあ……。

 

 こういうわけで。

 敵の動きを妨害する、封じる。あるいは弱体化、攪乱(かくらん)する。

 地味な搦め手のほうが大事なのだ。

 

「そうすりゃ逃げられる可能性も上がるからな」

 

 あまり実戦で使ったことはないが、

 

「こいつは練度を高めて、効果を上げたり、相手の対魔力も貫通するくらいにはしておけ。ドラゴン相手に一発で通じるくらいを目標にな」

 

 こう言われて、特に念入りに指導された魔法。 

 

 ――実戦で使ったのは……。

 

 

 

「うぎゃあああああああああああ!?」

 

 馬面の中年男(オッサン)・ジロ。

 それが半泣きで悶絶している中、

 

「ったくよう! こういうのがあるから嫌なんだよ!」

 

 マコネが子供を抱えて身軽に走り、跳ぶ。

 

「ミズ・バッキー! すみませんが、何か補助をお願いしますよ!?」

 

 ネイテクが叫びつつ、魔力弾を機関銃のように連射している。

 

 キュキュキュキュキュ……!

 

 不気味な声をあげながら、毒針のついた尾を振るモンスター。

 その姿は……。

 サソリの甲殻と毒の尾を持った巨大トカゲ。

 

「野原番(のはらばん)と言いまして、大型の草原に潜む中型モンスターですよ。特に、背丈の高い草。そういうのが密生してるあたりにいることが多いです」

 

 後でネイテクからそう説明された。

 

 虫型雑魚モンスター・死肉転がしを駆除していた途中――

 このモンスターは襲ってきた。

 近くの草原から這い出してきたらしい。

 

 サイズは、クロコダイルほどか。

 頑丈な甲殻と、毒の尾。

 さらには、

 

「気をつけろ、目潰しのブレスを吐くぞ! おい、グズグズしてないで退け! 死にたいのか!?」

 

 マコネはバッキーに注意しながら、子供らに怒鳴っていた。

 

 野原番の吐くブレス。

 それは、催涙ガスみたいな効果を持つ厄介なもの。

 高い防御力を誇る魔導アーマー。

 これを着ていたジロが悶絶したのは、そのブレスを喰らったためだ。

 

 ――これは、やばいっっ……!

 

 バッキーはとっさに、()()()()を放った。

 

 一瞬とも言える時間で発動した魔法。

 それは正確にモンスターを撃って、

 

 キュキュ、キュ……キュキュ!??

 

 瞬間。

 野原番はまったく見当違いに方向を向き、尾を振り回し、ブレスを吐いた。

 

 

 幻惑魔法。

 

 

 相手に幻を見せて、惑わすもの――だが。

 

「正確にはな、相手の感覚をぐらんぐらんに狂わせて、全部の知覚をデタラメにする魔法だ。ないものが見えたり、聞こえるものが聞こえなくなる。練度を上げればスライムみたいなもんにも有効だ」

 

 バッキーはゴトクの言葉を思い出し、その効果を実感した。

 

 

 

 ――あの後、ブレスを吐いたモンスターが勝手にバテちゃって、なんとか倒せちゃったんだよねえ。

 

 ネイテクが言うところでは、

 

「ブレスは強力で厄介ですが、そういうものほど反動や消耗が大きい。野原番なんかは続けて吐いたらグロッキーになるのは当然ですよ。どうも魔法で、そのへんも狂っちゃったみたいですね」

 

 とのこと。

 

 バッキーが手にした医学書を見つめていると、

 

「医術の知識、これと実地の訓練。こいつで治癒魔法もどんどん簡単になっていったろ?」

 

「それは、はい。そうです。確かに……」

 

 バッキーはうなずいてから、

 

「……でも、ラミアとか獣人系とか、色々種族がいるから大変ですけどね」

 

「慣れていけばどうってことはない。」

 

 ゴトクはニッと笑い、

 

「じゃ、もう一回だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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