破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
バッキーは座禅でも組むような姿勢になっている。
目を閉じて、意識を集中して――
その頭の上には、青白い輝く粒子の
これがふよふよと浮いていた。
さらに。
その前には、分厚い本が浮かんでいた。
本のページが一定の速度でめくられていく。
やがて、
「ぷはあっ!」
バッキーは目を開いて息を大きく吐き出した。
同時に、粒子の玉が消えて本がゆっくり落ちてくる。
「はあああ……」
落下する本を受け止め、バッキーはもう一度大きな呼吸。
それから。
本の表紙に目を落とす。
いわゆる医学書の
「やっぱり、ハードですよこれ……」
「だろうな」
横で見ていたゴトクが片をすくめた。
「けど? 確実でなおかつ早い。ついでに魔力の操作、つまり魔導全般が底上げされる。良いことづくめだ」
「はあ……。それは、わかりますけど」
バッキーは自前のタオルで汗をふきながら、もう一度医学書を見た。
しばらく前から、ゴトクの指導により――
「まずは、そうだな。自分の頭、その上に魔力でボールを作れ。それができたら、ボールに自分の意識や知識をリンクさせる、そういうイメージだ」
「次に、浮遊魔法で本を浮かせる。その本を、ボールを通して本を読む。慣れれば、どんな本でもすぐ読みこなせる」
「この作業を何回も繰り返す。慣れていくうちに、どんどん知識が消化・吸収されていくはずだ。単なる暗記じゃねえ、自分の血肉となる」
おおよそ。
こういったものを繰り返して行っていた。
――確かに、魔法も色々使えるようになってきてる……。
いわゆる。
炎を飛ばす。凍らせる。稲妻で撃つ。魔力を弾丸とする。
そういった、
しかし?
防御や補助、さらに生活や野営などで使うもの。
これらの魔法はかなり上達した。
他にも食料を長期保存するものや、
むしろ、
――こういうやつのほうが、重宝すること多いんだよねえ?
また?
こっちの世界で知ったことは、
――距離って大事なんだなあ……。
剣よりは槍。
槍よりは弓。
特に、
スライムや死肉転がしのような小型なら別。
否。
小型でも毒など危険なものも存在するが……。
そのスタイルは、弓や投げやり、投石。
とにかく、遠距離からの攻撃を重視する。
モンスターの攻撃を受け止めるタンク役。
卓越した技でモンスターを斬る剣。
存在はするが、あくまでもごく少数。
中型以上のモンスターの攻撃。
それは人間など一瞬で絶命させてしまう。
――普通の犬やクマだって、人間をあっさり殺せるって言うしなあ……。
こういうわけで。
敵の動きを妨害する、封じる。あるいは弱体化、
地味な搦め手のほうが大事なのだ。
「そうすりゃ逃げられる可能性も上がるからな」
あまり実戦で使ったことはないが、
「こいつは練度を高めて、効果を上げたり、相手の対魔力も貫通するくらいにはしておけ。ドラゴン相手に一発で通じるくらいを目標にな」
こう言われて、特に念入りに指導された魔法。
――実戦で使ったのは……。
「うぎゃあああああああああああ!?」
馬面の中年男(オッサン)・ジロ。
それが半泣きで悶絶している中、
「ったくよう! こういうのがあるから嫌なんだよ!」
マコネが子供を抱えて身軽に走り、跳ぶ。
「ミズ・バッキー! すみませんが、何か補助をお願いしますよ!?」
ネイテクが叫びつつ、魔力弾を機関銃のように連射している。
キュキュキュキュキュ……!
不気味な声をあげながら、毒針のついた尾を振るモンスター。
その姿は……。
サソリの甲殻と毒の尾を持った巨大トカゲ。
「野原番(のはらばん)と言いまして、大型の草原に潜む中型モンスターですよ。特に、背丈の高い草。そういうのが密生してるあたりにいることが多いです」
後でネイテクからそう説明された。
虫型雑魚モンスター・死肉転がしを駆除していた途中――
このモンスターは襲ってきた。
近くの草原から這い出してきたらしい。
サイズは、クロコダイルほどか。
頑丈な甲殻と、毒の尾。
さらには、
「気をつけろ、目潰しのブレスを吐くぞ! おい、グズグズしてないで退け! 死にたいのか!?」
マコネはバッキーに注意しながら、子供らに怒鳴っていた。
野原番の吐くブレス。
それは、催涙ガスみたいな効果を持つ厄介なもの。
高い防御力を誇る魔導アーマー。
これを着ていたジロが悶絶したのは、そのブレスを喰らったためだ。
――これは、やばいっっ……!
バッキーはとっさに、
一瞬とも言える時間で発動した魔法。
それは正確にモンスターを撃って、
キュキュ、キュ……キュキュ!??
瞬間。
野原番はまったく見当違いに方向を向き、尾を振り回し、ブレスを吐いた。
幻惑魔法。
相手に幻を見せて、惑わすもの――だが。
「正確にはな、相手の感覚をぐらんぐらんに狂わせて、全部の知覚をデタラメにする魔法だ。ないものが見えたり、聞こえるものが聞こえなくなる。練度を上げればスライムみたいなもんにも有効だ」
バッキーはゴトクの言葉を思い出し、その効果を実感した。
――あの後、ブレスを吐いたモンスターが勝手にバテちゃって、なんとか倒せちゃったんだよねえ。
ネイテクが言うところでは、
「ブレスは強力で厄介ですが、そういうものほど反動や消耗が大きい。野原番なんかは続けて吐いたらグロッキーになるのは当然ですよ。どうも魔法で、そのへんも狂っちゃったみたいですね」
とのこと。
バッキーが手にした医学書を見つめていると、
「医術の知識、これと実地の訓練。こいつで治癒魔法もどんどん簡単になっていったろ?」
「それは、はい。そうです。確かに……」
バッキーはうなずいてから、
「……でも、ラミアとか獣人系とか、色々種族がいるから大変ですけどね」
「慣れていけばどうってことはない。」
ゴトクはニッと笑い、
「じゃ、もう一回だ」