破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その13、カーラナーガ

 

 

 

「金もけっこうあるんだから、装備を新しくしねえかぃ?」

 

「私は別に困ってないけど」

 

「いやまあ、姐さんは道具を選ばないでいいだろうがね、あんまりみすぼらしい装備だとなめられちまう」

 

「それも別に困らないのだけど?」

 

「ンなこと言いつつ、前にからんできた連中を半殺しにしたことがあったじゃん。バッキーが一緒じゃなきゃ殺してたぜ、絶対……。いや良い子ぶるわけじゃないが、街中でそういうのはまじぃよ」

 

「ふむ……」

 

 少しカーシャは考える。

 あの『勇者』以外でも、似たようないざこざはいくらかあった。

 たいていの人間はカーシャを避ける。

 だが、他の街から来た人間はカーシャのことはよく知らない。

 

 いや――それもあるが。

 

「姐さんは、悪い意味で色々有名みたいだからさ?」

 

「そうね……」

 

 王都を追放された元・公爵令嬢。

 噂の種にはなりやすいだろう。

 

「それに、バッキーもだぁね」

 

 と、マコネはバッキーへと視線を変えた。

 

「いまだに、そのへんの駆け出しヒーラーみてーだし。もうちょっとそれなりのもんにしなけりゃあ」

 

 現状、服装だけならマコネが一番それらしい。

 

「いいでしょ。で、あてはあるのね?」

 

「もちろんさ。腕っこきで知る人ぞ知るヤツだ」

 

 マコネがニヤリと笑って案内した先には――

 

 

 

 見た感じは、普通の商店が並ぶ場所だったが。

 

「なんか若い子というか、子供が多いですね?」

 

 そうバッキーが言った。

 

 マコネとそう変わらない、あるいは下ぐらいの年齢。

 そんな子供があちこちに見られる。

 他にも、まだ低ランクらしい冒険者なども。

 

「こっちこっち」

 

 マコネは先に立って雑貨屋に入っていく。

 

「武器や防具のお店って感じもないですけど……」

 

 バッキーが不思議そうに言う。

 それは、カーシャも同意見だった。

 店内は無人。

 いや、一匹のトラ猫がカウンターの上で丸くなっていた。

 

「……」

 

 カーシャは、その猫に注視している。

 半分は睨んでいるとさえ言えた。

 

「――何かご入用で?」

 

 猫は顔を上げるなり、言葉を発した。

 

「ええっ?」

 

 バッキーは驚くが、

 

「……使い魔か」

 

 カーシャはすぐに正体が知れた。

 古流の魔導士は、猫を使い魔として使役したことで知られている。

 

 ――まあ、最近じゃ流行らないものだけど……。

 

「おい。店の大将はどうした?」

 

 マコネはごく普通に、トラ猫へ話しかけた。

 

「はいはい。少々お待ちを」

 

 使い魔猫がそう答えて少したってから、

 

「何の用だ、マコネ」

 

 奥から出てきた店主は、あくびをしながら言った。

 

「エルフ?」

 

 バッキーがつぶやく。

 言葉通り、店主はエルフの少年、いや青年だった。

 若干つり目がちで、エルフらしい美貌ながらどこか平民らしいというか、世俗的な雰囲気。

 

「最近おっかないのとつるんでるって噂だったが、本当らしいな。ま、座れよ」

 

 エルフはカウンターにつきながら、席をすすめる。

 その横でトラ猫は立って歩きながらお茶をいれ始めた。

 

「しゅ、しゅごいですね……?」

 

 アワアワしながらバッキーはトラ猫の動作に見入っている。

 

「こんなものは子供騙しだよ――そんで、今日はどうした?」

 

「いやね、こっちの姐さんに良さそうな武器を見つくろってほしいのさ」

 

 マコネはカーシャを見ながら言った。

 

「ほーん……。見たところ武器は選ばずってところだな。しかし……」

 

 エルフはカーシャを観察しながら、

 

「あんたにゃ何を出しても、すぐにボロボロにしそうだな。武器のほうが耐えられねえだろうよ」

 

「……まあ、ほとんど使い捨ててきたから」

 

「……そーだろ? あんたのオーラはどんなナマクラも名剣に変えちまうだろうが、その分刀身への負荷がシャレにならんと思うから」

 

「〝おーら〟ってなんだ?」

 

 マコネが不思議そうに言った。

 

「人間たちはよく生命力ともいうがね、正確にはもっと根源的というか深いというか、魂そのものの力だよ。魔法に必要な魔力にもそいつは関わってるが……。奥の奥にあるものだけに鍛えるのは難しい。いや、そいつは今はどうでもいいか。とにかく、すげえ馬鹿力を出したり、素早く動き回ったりできる力とでも思え」

 

「……」

 

「あ、そういえば時々姐さんの手とかから黒い煙か湯気みてーなもんだが出てくることがあったなあ……。魔法とか魔力とかそんなんと思ってた」

 

「――あんたにゃ魔法は使えねえだろ?」

 

 エルフが言う。

 

「そうね」

 

「国家レベルの封印じゃ、並のことじゃあ解呪できねえ。できたとしても、反動で体はズタズタだろうな」

 

「……」

 

 貴族間では死刑以上に恐れられている魔法封印。

 一度受ければ二度と解けないとは、聞いていたが。

 

 ――そこまで念入りだったとは……。

 

 さすがに驚いたカーシャだった。

 

「けどよ? モンクじゃあるまいし、素手ってのは……」

 

「別に。使い捨ての、量産品(かずうち)でもいいのだけど」

 

 不満そうなマコネに対して、カーシャはどうでも良かった。

 

「かずうちって、なんです?」

 

 バッキーは、聞きなれない言葉に質問。

 

「大量生産の廉価版ってことだよ。それに、最近は数打ちったって馬鹿にしたもんじゃないんだがな……」

 

 エルフは答えながら、

 

「とはいえ、せっかく来たんだ。ものがないでもない」

 

 また奥に引っ込んでいった。

 しばらくの間、茶を飲みながら待っていると――

 

「あんたなら、こいつも十分役に立つと思うぜ」

 

 エルフが出してきたのは、

 

 ――黒い、木刀?

 

 バッキーは密かにそんな印象を持つ。

 確かに、それは彼女の知る木刀と外見はそっくりだった。

 ただ、明らかに金属製。

 真っ黒な刀身で、あちこちに稲妻のような文様みたいなものが走っている。

 

「ヴァジュラと黄金の合金製だ。見ての通り(つば)(つか)もないがな。表面も塗装してないから真っ黒のまま。だが、頑丈なのは折り紙付きだぜ?」

 

「これって、ヴァジュラでできてんのか? あれって金色してんじゃねーの?」

 

 マコネが刀身を見ながら首をひねっている。

 

「だから宝物になるようなもんは、表面をちゃんと塗装してるんだよ。真っ黒じゃ見た目よくねえから」

 

「あのー、ヴァジュラって? よくわからないんですけど、お高いんです?」

 

 バッキーが手をあげながらまた質問。

 

「ヴァジュラってのは、死神山脈みてえな場所で採れる金属だ。もちろん他にも鉱脈はあるが、あそこが一番有名だな。武器としても魔導士の杖、他にも色んな用途で重宝される。採取場所もそうだけど、加工するのには手間も魔力もバカ食いするがな。俺もここまで仕上げるのに80年近くかかった」

 

 ――80年……! さすが、長生きのエルフ……。

 

 バッキーは感心して絶句。

 

「……確か、神話の武器が語源だったかしら? そう、ハイエルフの王の持つ武器」

 

 黒い剣を手にしながら、カーシャはつぶやく。

 

「一度だけ、国の行事で王がヴァジュラの杖を持っているのを見たことがあるわ」

 

「ま、ちゃんと加工されて使えるようなのはそれこそ国宝もんだな。ただ、さっきも言ったが加工して安定させるのが難しい。そのためには、他の金属……特に黄金との相性がバッチリなんだが、その作業も骨が折れるんだ、こいつが――」

 

 エルフは、しみじみとそんなことを言う。

 

「刃もないのね」

 

 黒い剣を見つめながら、カーシャは指摘。

 

「ああ、だから切れ味は皆無だ。でも、あんたは繊細な使い方なんざしないだろ。バカみてえに頑丈だからどんだけ乱暴に扱ってもダイジョブだ」

 

「なるほど。で。おいくら?」

 

「1千万ジュラ。今後のこともあるから、負けといてやるよ」

 

「はああ!? なんだよ、その値段!? 宝石買ってるんじゃねえぞ!?」

 

 カーシャよりも先に、マコネが抗議した。

 

 ――……いっせんまんって。確か、1ジュラが大体1円だから……1千万円? うわ。

 

 バッキーも心の中で悲鳴を発していた。

 

「よろしい」

 

 カーシャは剣を置いて、うなずいた。

 

「用意してくるわ。くれぐれも、それは売らないように」

 

「誰も他に買い手はねえよ。それに、ンなことすれば後が怖いからな」

 

「じゃ、そういうことで」

 

「……あ、あの姐さん? そんなに貯めてたのか???」

 

「案外収入が多かったから」

 

 

 こういった経緯で。

 

 

 カーシャはヴァジュラ合金の剣を所持することとなった。

 

「――こいつはサービスだ。いくら刃がないといっても、むき出しじゃちょいと寂しいだろ」

 

 と、エルフは筒のような鞘を出してきた。

 

「はあ。姐さんもちゃんとした武器? をゲットしたけど。なんかなあ」

 

 マコネは若干納得できないようだ。

 

「そういえば、この剣に名前は?」

 

 鞘におさめながら、カーシャはたずねた。

 

「あるわけねえだろ。とはいえ、俺が造ったもんだからな……。じゃあま、カーラナーガとでもつけるか」

 

「由来は?」

 

「カーラは、黒。ナーガは蛇龍って意味だ。つまり黒い龍だな」

 

「へー。けっこーかっこいいじゃん? しかし、高ぇよなあ……」

 

「あのなあ……?」

 

 エルフはうるさそうに、

 

「国の軍隊が持つような鎧や武器は何千万もすることがあるんだぜ? ものによっちゃあ億単位だ」

 

「うっへえ!」

 

「まあ、そんなもの与えられる騎士はわずかだがな」

 

「――そういえば、あなたの名前を知らなかったわね?」

 

 カーシャの問いに、

 

「ああ。俺はゴトクだ。猫のゴトクで通ってる」

 

「そう、まあヨロシク」

 

 

 

 

 

 

「だいぶ散財した分、またクエストを受けないと――」

 

 装備を得た足で、カーシャたちはギルドへと向かった。

 途中、

 

 ――あ。バッキーの装備忘れてた……。

 

 密かにマコネが思い出すが、後の祭り。

 

「ああ、カーシャさん。ちょうど良かった」

 

 入ると、

 ギルドマスターに、騎士のライワ。ネクロマンサー・ミゾイ。

 いつもの、ギルド本部の3人がそろっていた。

 

「……というのもなんですが、至急向かってもらいたいクエストが舞い込みましてねえ」

 

 ギルドマスターは眉をひそめて困り顔だった。

 

「なにか?」

 

「はあ、実はドラゴン襲撃の知らせをさっき受けまして。できれば、今すぐ向かっていただきたいんですよ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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