破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「ファイア・ボム!!」
叫びと同時に、炎の玉がモンスターに直撃した。
断末魔をあげながら、モンスターは横倒しになる。
コカトリス。
ニワトリと毒蛇のキメラ型モンスター。
体長は、大型で3メートル近くなるという。
――麻痺毒のブレスを吐き、なかなかに厄介と本にはあったかしら。
カーシャはそれを思い出しながら、状況を確認。
この個体は、3メートルに至らないがなかなかのサイズらしい。
「はぁ、はぁはあ…………」
魔法を放った少年は、憔悴した顔で膝から崩れ落ちた。
小さく体が震えているようだ。
――魔力量からしてそれほど消耗したとも思えないけど。ああ、そういえば?
最初の頃。
バッキーもこんな感じになったな、とカーシャは思い出した。
――とはいえ……。
魔導士に助け起こされている少年に、
「やはり、初めてのモンスター駆除はハードでした? だけど、最初から最後まで一発だったじゃないですか。すごいことですよ?」
あえて。
優しい声と顔でたずねかける。
「……無我夢中だったけど、あんな、あんなでかいのが本気で殺しにきてると、それがわかったら、体が」
少年はブツブツとよくわからないことを言っている。
「慣れていないだけでしょう」
「……」
「数をこなせば、そのうち冷静に対処できるようになりますよ」
「そうでしょうか……」
「ええ。生き物は慣れて、適応するものですから」
カーシャそう言いながら、少し前――
こうなった
「冒険者の仕事を体験させる? クエストをやらせると?」
「はい。実戦データもあったほうが良いですし」
「あの連中に、モンスターを殺せと。まあ、あのスキルなら可能でしょうね。まさか、スライムや虫の駆除をさせるわけでもないのでしょう?」
「それはもちろん」
「だけどねえ。どうやら、あの子たちは生き物を殺した経験はあまりないようなので。せいぜい虫か魚程度でしょう。いえ……」
カーシャは言った後にすぐ首を振り、
「何事も、慣れか」
慣れてしまえば。
赤ん坊だろうと、無抵抗の病人だろうと。
殺したところで何も思うまい。
「反対意見もありますけどね。過剰適応して、ムチャクチャをやるというケースも考えられると」
「そういうものかしら」
「はい。向こう様から見ると、こっちは夢とロマンのあふれる剣と魔法の世界らしいですから」
「
「そういう非現実的な状況で、空想の産物みたいな能力を得る。若者が暴走する可能性は、十分すぎるほどありますよ」
「ふうん」
カーシャは首をかしげる。
客観的には――
カーシャ自身も、箱入りのお嬢様がいきなり殺戮兵器みたいになった……そう見えてもおかしくはない。
ただ。
彼女の場合は、一朝一夕で得たものではない。
膨大な時間の中、否応なしに積み重ねた経験でそうなっただけだ。
つまるところ、結局は慣れである。
「面倒くさいこと……。で、そうなったら?」
「ミズ……あなたにお願いすること可能性は高いです」
「そこは仕事だもの。ちゃんとやります」
「はい。その時は、ひとつ……」
荒い息の下、少年は石の床を見つめ続けている。
汗が止まらない。
初めて入ったダンジョンという場所。
色々不思議な場所であったが、それはさておき――
モンスターとの戦闘。
その先にある、殺害。
やれば、できた。
戦闘型のスキルは、体を動かし、技を繰り出してモンスターを殺す。
しかし。
肉や内臓を斬り、突いた感触。
相手の断末魔。
血の臭い。周囲に満ちる獣臭。
何よりも、自分を餌と認識する捕食者との対峙。
ペットや、檻に入った相手ではない。
いや。
地球の猛獣よりはるかに高い殺傷力を持ったモンスター。
それは、完全に未知の領域で、
「ぐえっ……」
気がつけば、吐いていた。
止まらない。
胃の中にあるものを、吐き出し続けてしまう。
「そろそろ、引き上げたほうがよろしいですね」
カーシャはそれを見ながら、魔導士に確認。
「立てますか? いや、肩を貸します。あ、その前に水でゆすいで……」
魔導士たちが世話をしているのを横目に、
――戦闘型スキル……。
確かに、凄まじい。
あれだけの魔法を扱える人材。
魔導大国たるヤオアムトでも、どれほどいるか。
――ただまあ、冒険者としてはともかく。軍人としてはねえ……。
この少年が軍務を任せられるレベルとなるには、相応の時間がかかる。
それは、軍事に疎いカーシャでもわかった。
――いきなり戦場に放り込めば、ロクデモナイ結果にしかならないでしょうね。
カーシャは手にした資料を見る。
:戦闘型スキル一覧
・剣聖……剣術特化。
・槍戦士……槍術特化。
・格闘武……素手の格闘技術。気功型魔力操作技術。
・弓戦士……弓術特化。
この少年のスキルは、
・戦闘魔法……攻撃魔法特化。
であるらしい。
「……細かく分類してるけど、つまり他の技術は使えない? 槍使いは、弓や格闘技ができないと……?」
「……基本素人のようです」
「……」
魔導士たちとのヒソヒソ話。
カーシャはその中で、変な気分となった。
確かに、何事も個人で得手不得手はあるのだが……。
騎士は先の4つの技術など、基本できる。
というか。
できないものは、ない。
剣の達人。槍の使い手。弓の名手。
そういった者はいる。
いるが、そういう者とて他の武器は使えないということはない。
こと、国軍所属の騎士となれば、
――魔法も加えて、武芸百般。できないことは、ない。
剣聖にしろ槍戦士にしろ、
――特化した武器を失えば、完全な素人だと? それはいったい……。
何なのだろう、とカーシャは軽く混乱した。
――こいつらを送り込んだ女神というのは……。
むしろ。
悪魔じゃないのか。
だとすれば。
転移者たちは、悪魔の駒、それとも
いや?
そもそも、神というものは……。
気まぐれや嫉妬、つまらない理由で下界の民を苦しめ、殺し、あるいは滅ぼす。
カーシャは魔導士たちに付き添われて出口に向かう少年。
それが、バッキーと重なる。
「運命か意図的なものか……。どっちにしろ」
悪趣味な話だこと。
カーシャは口の中でつぶやき、少しだけ笑った。