破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

154 / 357
その110、オグ事件-6 嘯~うそぶき~

 

 

 

 

 

 そこは――

 オグの街から、ほんの少しだけ離れた場所である。 

 

 王宮所属の研究所。

 その別棟(べつむね)が建てられていた。

 森の一部を切り開き、時間や金をかけて建造されもの。

 

 目立ちにくく、かなり注意をしなければ外からはわからない。

 危険性の高い実験や研究を行う場所でもあった。

 

 さて。

 そんな施設の、庭に当たる場所へ……。

 

 ボオオォ……ッッ!!

 

 巨大なモンスターが、凶悪な前脚で防壁を叩きつけている。

 オウルベア。

 

 打たれた壁は、揺れる。

 特殊な合金と防御魔法で加工処理された防壁。

 オウルベアの攻撃でも破れることはない。

 

 ないのだが――

 

 いるのは、オウルベアだけではない。

 

 子供でも駆除できるから小型。

 危険だが、食肉として狩りの対象ともなるモノ。

 さらに、ゴブリンやオーガの姿まで。

 

「こりゃ嫌でも籠城になりそうですね……」

 

 3階の窓から状況を見て、魔導士が言った。

 

「統率されてないのが、救いと言えば救いだけどね……」

 

 その言葉通り。

 集まったモンスターたちは、それぞれ勝手に行動している。

 中には争ったり、小型を喰っているものもいた。

 

 共通しているのは、

 

「どれも、ひどく興奮して凶暴化してるってことですな」

 

「おかげで同士討ち……いや、別に仲間でもないのか」

 

 状況を観察している魔導士たちへ、

 

「いや、なんでそんなに冷静なんだよ!?」

 

 近くにいた少年が叫んだ。

 ほぼ半泣きになっている。

 

「落ちついて、落ちついて。場所がら相応の対策はしてますし」

 

「この施設には警備も整えてありますよ」

 

「我々も魔法に関しては、それなりのことができます。応援も呼んでますから、ここは冷静に」

 

 対する魔導士たちは、のほほんとしている。

 少なくとも、少年にはそう見えた。

 

「だいたい……何なんだよ、あの変なクマ……いや、鳥? ムチャクチャだ! デカすぎる!!」

 

「オウルベアですな。確かに危険なので、あまり刺激しないほうが得策です」

 

「まるで怪獣じゃないか! 何メートルあるんだよ!?」

 

 少年は魔導士の答えに、逆切れしたように怒鳴る。

 

「平均で6メートルほど。あれはやや大きいみたいですね」

 

「重さは軽くても、10トン以上かと」

 

「~~~~~~~~!?」

 

 少年は声もなくわめきながら、グルっとある場所を向いた。

 

 そこには、先ほど彼が召喚したモノが台座に置かれている。

 

 89式5・56mm小銃。

 

 モンスター襲撃前までは、これの調査が行われていた。

 

 少年はしばらく銃を睨んだ後、

 

「あんなのに、こんな銃が効くもんか……!」

 

 床を叩いて怒鳴った。

 

「いや、まったく効果がないとか、それはないでしょうけど」

 

「でも。あのサイズだし、それなりの魔力を持ったオウルベアには効果は薄いですかね」

 

「しかしねえ?」

 

 魔導士たちは幼児に言い聞かせるように、

 

「銃火器の召喚スキルはすごいものですけど……。あなた、ちゃんと扱えるんですか?」

 

「素人が下手にいじくると大事故になりますよ?」

 

「うぐう……」

 

 指摘されて、少年は反論もできなかった。

 

 彼のスキルはあくまで〝召喚〟。

 剣聖や槍戦士のように、武器を扱えるわけではない。

 

 少年の様子を見ながら魔導士たちは、最初のスキル調査を思い出す。

 

 

「え? 銃を知ってるの?」

 

「いや。まあ、そりゃあ――」

 

「それはあの、魔法とかを弾に込めて撃つとか、そういう」

 

「そういうタイプもありますよ。弾丸に魔法をプラスするとか、魔法そのものを発射するとか」

 

「えええ……」

 

 

 こういった会話があったのだが――

 

 ――まあ、調べた結果あくまで物理的破壊力しかないのはわかったけど。矢返しや矢除けの魔法を使われたら無意味だぞ、これは。兵器としては非常に優秀であるけど。

 

 この少年は、死ぬまで軟禁されるだろうな。

 

 魔導士たちの意見は一致していた。

 

 

 

 

 それはさておき。

 

 何故、こうなったのかというと。

 

 

 

「――性質として、ヘイト・コントロールに似たもののようですねえ」

 

 魔導士の言葉に、少女は首をかしげた。

 

「何それ?」

 

「簡単に言うと、モンスターを自分のほうに引き寄せる魔法ですね。つまり、囮になるわけで」

 

「そういうのがあるんだ?」

 

「危険なので、そのまんま使うことはほぼないですが。自分の使い魔とか、ゴーレムを通して使用することがほとんどです」

 

「え? ってことは、使ったらモンスターが寄ってくるわけ? ヤバいじゃん!」

 

「はい。だから、今まで使うのを禁止させてもらってましたでしょう?」

 

「……それで? ずーっと私に張り付いてたわけ?」

 

 少女は嫌な顔をする。

 スキルが確認されてから、食事から就寝、入浴。

 さらにはトイレの時監視役がついてまわっていた。

 

「はい。それだけ危険なので。しかし、女同士ですし」

 

「いくら女同士ったって、ヤだよ!」

 

「まあまあ」

 

 怒る少女をなだめて、十分な監視のもと使用されたスキル。

 それは、

 

 (うそぶ)き。

 

「――つまりは、古い言葉で口笛のことですが……」

 

 

 

 

 

 これが使用された、数分後。

 

 

 

 

 研究所は、モンスターの群れに囲まれてしまった。

 

「こりゃ、ホントに警戒してて良かったですねえ……?」

 

 魔導士の1人が、肩をすくめた。

 使い魔を通して外の状況を確認している。

 

「ほぼ自爆スキルとも言える」

 

「しかしまあ……。あの()も監視対象だな」

 

「それも、極めて厳重な、ね。気の毒な話じゃあるけど」

 

「で、外の様子は?」

 

「喰い合いはまだ続いてるけど、どれも逃げる様子はないなあ……」

 

「つまりスキルの影響がそれだけ長いわけか。こらますます厄介だ」

 

「ドラゴンでも呼ばれたら国が傾くなあ」

 

「念のために、大型爆裂魔法の……」

 

 そう言いかけた時――

 

 

 モンスターの群れが、弾けた。

 

 

 オウルベアが頭を砕かれ、倒れる。

 その地響きの中、文字通り血の海ができあがっていった。

 まるで、巨大なハンマーで叩き潰されるように。

 

「うわあああ……」

 

 しばらくして。

 

 モンスターを駆除した女が、黒い剣を手に研究所のほうを向く。

 

「まさに、バケモンだな……」

 

「いわゆる魂の力、オーラを使っているようだけども、あんなのは……」

 

「上が彼女の研究しろっていったらどうする?」

 

「辞表を出すか、トンズラするね。死にたくねーもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。