破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

155 / 357
その110、オグ事件-7 生身のものは血を流す

 

 

 

 

 

 

「ふ」

 

 短く息を吐き、カーシャは黒剣(カーラナーガ)を振るった。

 赤黒い血が飛び散る。

 

 ――ずいぶん、妙な状況だったけど……。

 

 これが、スキルの影響だか効果なのか。

 だとすれば、

 

 ――スキルというより、呪いね。

 

 こんなものを引っさげた不法入国者など、

 

 ――どうなるのだか、わかったものではないわ。

 

 そんなことを考えているところ、

 

「……」

 

 カーシャは何かの気配を感じて振り返った。

 あるいは空気の乱れか。

 そう遠くない場所で、何事かあるようだ。

 

「まったく、せわしない……」

 

 言いながら、カーシャはその場を目指して――

 

 跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボボ、ボオオォ……ッッ!!

 

 視界の開けた場所で、モンスターが叫んでいる。

 丘と森の、ちょうど間に位置する。

 オウルベアがフクロウの頭を振って、獲物を狙っていた。

 

 狙われている者たち。

 彼らはすでに撤退準備に入っている。

 

 魔導士たちは、巧みにモンスターの動きを妨害、あるいは気をそらしながら、

 

「***……」

 

 距離を測り、相手をひるます攻撃呪文を準備しており――

 

 

 バゴッ

 

 

「え?」

 

「あ」

 

 破壊音。

 その直後、オウルベアは頭から崩れ落ちた。

 胴体が大きく破れて砕け、真っ二つになりかけている。

 

「ずいぶん、災難だったご様子ね」

 

 ふわり、と。

 重さを感じさせない動作で着地したカーシャは、淡々と言った。

 

「あ、これはどうも……」

 

 緊張を解いた魔導士たちは、ホッと息をつく。

 

「スキルについての、あれこれを調べていたところなんですが……」

 

「いきなり、モンスターが飛び出してきまして」

 

「さっき別の研究所も襲われてたわね」

 

「え!?」

 

「それはもう【処理】しました」

 

 カーシャが言うと、魔導士たちはもう一度安堵の顔。

 

「しかし……」

 

 周辺を見まわしてから、

 

「あれは、襲ってきたものじゃなさそうだけど?」

 

 地面に横たわり、あるいはうずくまっているモンスターが数匹。

 

 どれも見たことがない。図鑑などでも知らない。

 妙にカラフルで、

 

 ――小型……。いや、まだ幼獣?

 

 そう思わせるような姿だった。

 

「いえ。あれは彼の使っているモンスターでして」

 

「じゃ、モンスターテイマーかしら。向こうにも、そんなのが? いや……」

 

「はい。ご推察のとおり、スキルと同時に与えられたモンスターのようで」

 

「ふうん」

 

 カーシャは少年に近づきながら、

 

「そのモンスター、どうにかしないと死ぬわよ。治療できないなら、()()()()()()べきね」

 

「……! ……戻れっ!」

 

 少年はハッとして顔を上げると、そんなことを叫んだ。

 

 と。

 モンスターたちは光の粒子に変わっていき――

 小さなメダルとなって、少年との手に。

 

「使い魔?」

 

 カーシャは魔導士たちを振り返ってたずねた。

 しかし、たずねながらも疑問には思う。

 

 ――でも、使い魔はあくまで魔力で造られた分身みたいなもの……。生き物じゃない。

 

 だが。

 さっきの様子だと、明らかに生身の生物としか思えなかった。

 

「いえ。何でも、メダルに封じられたモンスターらしいです。」

 

「普段はメダルの中で休眠状態ですが、必要時には封印を解いて使役するとか」

 

「それはまた……」

 

 カーシャは髪を触りながら、

 

 ――便利ではあるけど、それはつまり……。

 

 遠距離から召喚することもできない、ということか。

 メダルが奪われたりした場合、どうするのか。

 

 ――まあ、どうでもいいか。

 

 カーシャはすぐに興味をなくして、

 

「じゃあ、後の始末は研究所のほうがやるから」

 

 そう言って、音もなく去った。

 

 

 

「かなり、お疲れみたいですね。無理もありません」

 

 魔導士は少年に肩を貸しながら、

 

 ――体に傷はないようだが、精神面のショックは大きいか……。初戦としてはハード過ぎたな、アレは……。

 

 まあ。

 いきなりオウルベアに襲われたら、普通こうなるか。

 

 密かに、少年の状態を確認していた。

 

「……やっぱり、向こう、日本には帰れないんですか?」

 

 少年は声を震わせる。

 

「残念ながら……。別に意地悪で言ってるわけでもないんですが。技術的にも、あと経済面でも」

 

「けいざい……?」

 

「はあ。あなたがた、つまり数十人を特定の場所を選んで安全に送り返す。それをするには大規模な施設や魔石、他にも優秀な、できれば専門の魔導士がたくさん必要なわけで。と、なれば嫌でもお金がかかるわけです」

 

「……」

 

「他にも、そんな大規模で影響が大きい魔法を使うとなれば、国だって〝はい、そーですか〟とはなりませんよ」

 

「……」

 

 聞きながら、少年は崩れ落ちそうになる。

 

「気を落とすな、とは言いませんが……」

 

「まだ、現実感がなかったんだ……」

 

「?」

 

「ゲームで使ってたモンスターが現実で使えるようになって、昔からずっとやってたゲームで……正直、嬉しくってワクワクしてたけど……。けど、現実では……血を流して、大ケガして、死にかけて…………」

 

 言いながら、少年はボロボロと泣き始めた。

 何か言いたいようだが、言葉になっていない。

 

「これは、友人のモンスターテイマーに聞いたことですが」

 

 テイマーは、モンスターを家畜とも道具とも思っていない。

 大事に扱う。

 場合によっては、家族や恋人、パーティーメンバー以上に。

 道具や家畜のように思い、扱う者は必ずしっぺ返しを食う。

 

 強いモンスター、優れたモンスターはありがたい。

 しかし。

 ダメなモンスターは、それだけに情がわく。

 

 また。

 そうでなければ、モンスターテイマーは成り立たない。

 

「……だいたい、そんなことを言ってましたが。自分のモンスターがああなって、まあ、いいか――で、すますのなら、むしろ先行きは暗いんじゃないんですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 モンスター襲撃の少し前……。

 

「ほお……」

 

「拳銃に、散弾銃……これは機関銃らしいが?」

 

「えーと、M249軽機関銃、らしい。よく知らんけど」

 

「ほうほう……」

 

「……ところで、どれもちゃんと弾丸は入ってますが」

 

「弾丸だけを召喚できますか?」

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

「あ、無理みたい……」

 

「……さ、さようですか」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。