破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
私は――ライワ。
ライワ・ヘイメルフント。
ネビズで生まれ、育った騎士だ。
騎士と言っても父は準男爵という貴族としては最下級。
いや……。
領地すらもたない貴族モドキだ。
母は、サキュバス。
仮にも爵位を持ちながら、まともに妻も迎えられない――
そんな父が金で産ませた子。
とはいえ。
同じような境遇の者はいくらでもいるが……。
いや、そんなことはどうでもいいか。
だが、ついつい関係ないことを考えてしまうほどに、今見ている状況は異常すぎた。
ミズイの街から、急遽送られてきた緊急通信。
それはドラゴンの襲撃と、それに対する援軍を求めるものだった。
ネビズからの距離は、遠い。
なので緊急用の、転送ゲートを使用して向かった。
……といっても実質私はオマケのようなものだったわけだが。
街を襲っていたのは10数匹の
『それなり』の防御と軍備を備えた場所でなければ、一瞬で壊滅している戦力だろう。
特に、火炎竜だ。
防御用の魔法陣がなければ、一瞬で街は焼き払われている。
もっと小さな村や、あるいは他国の街であればひとたまりもあるまい。
こういう場合は、魔法大国の技術力を実感する。
だが。しかし。
ドラゴン種というのは厄介だ。
通常の物理攻撃はほぼ通じない。
以前に火薬を用いた強力な武器を使う他国人を見たことがあるが、彼らはドラゴンに挑んで喰い殺された。
加えて、ヤツらドラゴンは並の魔法も跳ね返す。
さらに魔法の属性次第では逆に餌とされてしまうのだ。
火炎竜ならば、熱や炎などの攻撃魔法か。
雷撃魔法を得手とする私では、不利。
この場合だと、氷や水の魔法が有効なのだが……。
そんなものとは無関係に、ワイバーンが死体となっていった。
転送ゲートで到着した時――
ミズイはすでに戦場だった。
いや、そのへんは最初からわかっていたことだが。
あの女は、到着するなりすぐさま動き始めた。
まるで風のように走り、飛び回って……。
さながら、真っ黒な暴風が走るたびに……。
ワイバーンの破片が街に散らばって落ちる。
大量の火薬で吹き飛ばされたか、巨大なハンマーで叩き潰されたか。
そうとしか思えないような有様だった。
時間にして、どの程度たったかもわからない。
おそらく、ごくわずかな時間だったはずだ。
ワイバーンが全滅した後。
あの女は高台に立って、暴れる火炎竜を見ていた。
手には、黒い剣の他にどこから持ってきたのか、大ぶりの
その槍に、黒い煙のようなものが巻き付いていった。
あの女の体から発散されたものだ。
以前にはぐれエルフ……猫のゴトクから聞いたことがある。
魂の根源的な力――オーラ。
そういうものなのだろう。
黒いオーラで染まった槍を、あの女は火炎竜に投げつけた。
恐ろしい速度だった。
それがぶつかった後、火炎竜の頭は消滅した。
文字通り、粉々に粉砕されたのだ。
……信じられなかった。
20メートルを超えるような大型竜だぞ?
しかし、私の心情など関係はなく。
事実は事実だった。
さっきまで街を戦場に変えていた竜は、頭のない
……このサイズの火炎竜だ。
武器、薬、魔道具。素材としては最高のものだろう。
あっけない結末に、ミズイの騎士や魔導士たちは唖然としていた。
私も同じような気持ちだ。
あの女の、戦闘能力は知っていた。
知っているつもりだった。
しかし……。
まさか、これほどまでとは。
気づけば、あの女がすぐ近くにいた。
「終わったようだけど。この後はどうするわけ?」
「……あ、ああ。一応はな。まだしばらくは警戒態勢を敷かねばならないし、どっちにしろ転送ゲートは次の使用までには時間がかかるだろう」
「なら、見張りでもしろと?」
「……そうだな。ああ、それとお前のパーティーにいるヒーラー……フルイと言ったか?」
「――?」
一瞬、女……カーシャは怪訝そうな顔をしたが、
「……ああ。そんな名前だったかしら? フルネームは言いにくいので、忘れかけていたわ」
「そう、彼女だ。ドラゴンのせいで負傷者も多い。彼女の手助けがあると助かるのだが」
「なら本人に直接言えば?」
「お前がパーティーのリーダーだろう?」
「……まあ、一応そうなるのかしら? いいわ。本人が了承すれば、それで」
「わかった。感謝する」
そして、カーシャはマコネとかいう、若いというより子供のレンジャー職と一緒に街周辺の警戒にあたった。
幸い、他のモンスターなどが襲撃することはなかったが。
マコネは、カーシャほどの身体能力ではないが恐ろしく身が軽く、場所を選ばずスルスルと移動していた。
こすっからく、隠れ身が得意だと噂されていたが、それだけでもなかったらしい。
……そういえば。
あのはぐれエルフ、ゴトクは新人冒険者や孤児に色々技術や知識を教えているとも聞いた。
おそらく、あのマコネもゴトクから
そして。
フルイ……通称はバッキーだったか。
彼女は並外れた治癒魔法の使い手だ。
どこか卑屈で、小心そうな印象があったものだが。
見たところ、そのへんも多少は改善されているようだ。
まあ、良いことだろう。
彼女の治癒魔法で、かなりの人間が助かっている。
この一点だけでも、将来的には働き口には困らないだろう。
ただまあ。
同じパーティー内や緊急時以外では、気軽に使うなと釘を刺したことはあるが。
特に一般人相手にもやると、他のヒーラーや医師の仕事を奪いかねない。
「余計なトラブルを避けるためだ」
そう忠告した時は、真剣にうなずいていた。
……しかし、あのレベルの魔法を多用していても平気なのは、それだけ扱える魔力量が多いということだ。
それだけでも、とんでもない人材ではある。
もう少し他の補助魔法を操れるようになれば、より安定するか。
何にしても。
マコネにしろ、フルイにしろ。
あいつらに、何かあるとギルドとしても困る。
以前に、ギルドマスターも言っていた。
「……運の良い偶然が重なった結果だろうけど、あの2人はけっこうストッパーになってくれてるよ。自覚があるかは怪しいけどね。だからまあ、できるだけカバーしてあげてくれ。これも、みんなのためだ。あと、下手に利用するなんて考える必要もない。欲にかられるとろくでもない結果になりかねん」
欲か。
私としては、そんなものにかられる理由はないが――
カーシャの魔法関係なしの理不尽な戦闘能力。
それを利用したがるバカも出てくる可能性は……あるのか。
まるで、火薬庫の中で火遊びをするようなものだがな。
私は諸々の後処理や手続きを片付けてから、フルイのほうへ行ってみた。
負傷者の治療は一段落しているようだ。
カーシャとマコネが、そばにいた。
マコネはどこから持ってきたのか、菓子パンをフルイに渡している。
美味いと評判らしい……。
ふむ。
確かハチミツを使ったもので、この街の名物でもあったな。
私も話では知っているが、食べたことはなかった。
後で買って……いや、この状況では難しいか。
残念だ。
そう思っていると、独特の駆動音が聞こえた。
上空に、専用のフルアーマー装備をまとった
なるほどな。
あのサイズの火炎竜となれば、国軍がドラグーンを出すか。
単体で高速飛行可能の魔導アーマー。
造るのにも、維持にも、飛ばすのにもかなりの予算を使うと聞いたが。
なにせ、この国の持つ最高戦力の一つだからな……。
あれを扱えるようになるのは、過酷な学習と訓練をクリアした選りすぐりの精鋭――か。
……。
私は飛び去っていくドラグーンを見ながら、昔のことを思い出しかけた。
その時だった。
背後の気配で、それは中断される。
「ドラグーンも張り切って飛んできたのに、とんだ無駄足やったな」
「――これは、マルフソ伯。お怪我などは……」
「ないない。奥に引っ込んどる間に終わったからな」
髭をたくわえた若干小柄な人物。
マルフソ伯爵。
このミズイとその周辺をおさめる領主。
そういえば、ここらは方言が独特なことでも有名だったな。
「まあ、おかげさんで被害も少ないうちにすんだわ。礼をいいます」
「いえ……。実際に動いたのは、彼女らですし」
私がカーシャたちへと目をやると――
マルフソ伯はやや青ざめた顔で、カーシャを見たようだ。
「あの娘……顔つきが変わりよったな」
「?」
一瞬意味がわからなかったが、このミズイは商業的にも中央とのつながりが強い。
そして、マルフソ伯も中央にはよく顔を出しているとか……。
とすれば、そのつながりでカーシャを知っていてもおかしくはないのか。
「そのようですね……。私は、以前の彼女を話でしか知りませんが」
といって……。
話でも、没落貴族の噂など興味がなかったので、よく知らないのだが。
「……まるで、地獄から這い出してきた
そう言ってから、伯は一度身震いをして行ってしまった。
しかし……。
似合っているとはいえば、似合った二つ名ではあるか。
マルフソ伯は、政治や商売ごとには強いが、武力の面は得意ではなかったな。
彼らからすれば、そう思えても当然かもしれない。
荒くれ者に慣れ切った私ですら怖いのだから……。