破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

164 / 357
誤字報告、いつも本当に助かってます。
まことにありがとうございます!


その110、オグ事件-16 どう扱うのか?

 

 

 

 

 

 

 ――……妙なものを押しつけられたものだ。

 

 紫の女は騎士は、疲れた顔でため息をつく。

 ライワ・ヘイメルフント。

 ネビズのギルドナイト……その1番隊長をつとめる女。

 

 ライワは、汗まみれになった少女の背中を見ていた。

 

 ついさっき。

 襲いかかるオーガを、その剣で切り裂いたばかり。

 

 いや。

 その前に10を超えるゴブリンを斬っている。

 

 凄まじい剣技だった。

 技術だけなら、どこの国でも英雄とされるかもしれない。

 

 ――確かに、強い。

 

 だが。

 

 ライワの視点では、ちぐはぐで頼りない部分が目立った。

 

 どこか、歯車が合っていない。

 それでも来たばかりの頃と比べれば、かなりレベルアップはしている。

 

 してはいるが。

 

 ――バカ正直だ。まるで、式典の演武だな……。

 

 あまりにも素直というのか?

 きれいすぎるとも言える。

 武術ではあるが、武術ではない。

 おかしな矛盾。

 

 単純な思考や攻撃をするモンスターなら、苦戦もしないだろう。

 事実、全て瞬殺ともいえる速度で倒している。

 

 ――だが……。

 

 経験値の高いしたたかな相手や、1ランク上のモンスター。

 そういったものに対して、

 

 ――どの程度通用するのか。

 

 それは、非常に疑問だった。

 

 少女の姿にライワは、あの青い乙女……カーシャのことを思い浮かべる。

 

 ――真逆だな。

 

 カーシャの動きや戦い方は、一撃必殺とも言えるものが多い。

 なので、わかりにくいが……。

 

 ――獣や、虫のような動きだ。

 

 かといって、単純ではない。

 本能的で迷いがないくせに、恐ろしいまでに応用力が高く、隙がない。

 膨大(ぼうだい)な経験値、殺戮や暴力の経験がなければ、

 

 ――あんなものは身につくまい……。

 

 自らも並以上の実力者だけに、ライワはそれを肌で実感した。

 

 これに対して――

 少女の剣は、研ぎ澄まされ、磨き上げられた武人のそれだ。

 しかし。

 それに付随しているべき、血や死体の臭いがなかった。

 

 訓練だけで達人になってしまった。

 そんな印象。

 

 ――いや、そんな者がいるのかどうかは知らんが……。

 

 もし、いるのなら。

 

 ――こいつのような剣になるのだろうか?

 

 ライワが考えていると、少女が剣をおさめて歩いてくる。

 

「死んだかどうかは、確認したようだな」

 

「はい」

 

「以前のように、それで不意打ちを喰らったら終わりだ」

 

「……はい」

 

 指摘され、少女はうなだれた。

 

 ――向いていないな。

 

 少女のひととなりを見て、ライワはそう思っている。

 

 ――貴族の令嬢、その護衛。いや、それも不適格か。

 

 所作は品も良い。

 背筋が伸び、芯が通っている。

 初見から、ある程度訓練を積んでいるのはわかった。

 おそらく幼少時からだろう。

 

 ――しかし……。

 

 高貴の身分を護衛する。

 ある意味、それは冒険者以上に難しい。

 

 親衛隊の任務。

 普段の所作や外見に加えて、緊急時には護衛する相手を絶対に守らなければならない。

 どんな手段を用いても。

 

 もし不手際があれば。

 護衛する者が、貴族の嫡男、結婚前の女性であれば。

 

 ――本人だけはない。家や仲介者にまで(るい)は及ぶ……。と、なれば。

 

 この少女は、どのような立ち位置になるべきなのか?

 ライワにはわからない。

 

 ――妹のほうは……まあ、適当な男でもみつけそうだが。

 

 少女の顔を見ながら、ライワはここにいないもうひとりを思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、今のところは――」

 

 ユオン・キナはちょっと空を仰ぐような仕草で、

 

「いくつかの場所に分けて、経過を観察しています」

 

 ふたりの歩く街の公園には、何組かの親子がいた。

 他にも、犬を散歩させている者。

 運動をしている者。

 色々である。

 

 異世界から、土地ごと跳んできてしまったこの街――

 名は、サトナ。

 

 漢字では、

 

 古国名

 

 と、書く。

 

「研究施設、ではなく?」

 

 カーシャはジロっと、ユオンを見た。

 

「そういうかたがたもいますが……。日常生活や冒険者、いえ、戦闘記録の継続ですか。そういうアプローチをしてるかたもいるのですよ」

 

 カーシャの問い。

 ユオンはそれに、ニコリと笑顔を作る。

 

「この街で過ごしている、()()()()()もそのひとりですねえ」

 

「ドロー? ああ……」

 

 ボロンとつるむようになった。

 というか。

 ボロンがつきまとうようになった、転移者の少年。

 

「本名はわかりにくいので、この愛称で呼ばせてもらってます。ボロンさんはまた別の呼び方をされてるようですけど」

 

「普段なにをしてるの、アレは」

 

「主に、これですね」

 

 ユオンが見せたのは、台座のついた小さな宝珠(オーブ)

 

「映像を映すのに使うものですが、これに色んな映像をデータを吹き込む……というものです」

 

「ボロンがいつも見ているようなヤツね。安っぽいものも多いようだけど」

 

「でも、なかなかに芸術的なものもあるでしょう。いえ、芸術性と娯楽性が巧みにミックスされた名作も多い」

 

「そうね」

 

「他にも、色んな情報、記録映像などもあるので色んなものがわかってます。社会情勢、自然環境、国家間の関係。それはもうたくさん」

 

 王宮にとって、学ぶべきもの、反面教師とすべきものが多いのです。

 

 そう言ってから、ユオンはまた笑った。

 

「日常ねえ……。その割に、しっかり監視されてるようだけど」

 

「ははは。他の国や、おかしなことを考える貴族に利用されても困りますので」

 

「困る、ときたわね?」

 

 カーシャは冷たい眼を細めて、

 

「むしろ、餌にしてるんじゃないの? そう、()()()()()()()()()()()()を引っ張り出すために――」

 

「野暮なことは言いっこなしですよ、ミズ」

 

 ユオンは人差し指を唇に当て、ウィンクをした。

 

「ふふん」

 

 カーシャは鼻で笑ってから――

 ピクリと身を揺すり、視線を変えた。

 

 叫び声。

 

「サキュバス街のほうですね?」

 

 ユオンはちょっと首をかしげた。

 

 比較的治安の良いこの街には、珍しいこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太った中年の女。

 肥満の他、生活の乱れが外見に表れていた。

 

「************……!!!」

 

 女は金切り声をあげて、刃物を振り回している。

 どこをどう見ても、まともな状態ではない。

 

「あのひと、なんですか?」

 

 ユオンは遠巻きにしている野次馬――のひとりへたずねた。

 既婚者らしい30代の女。

 目つきからして、女を知っているらしい、と踏んだのだ。

 

「確か、うちの近所にいるヒトよ。不愛想で偏屈な……」

 

「気難しいかたで?」

 

「前々から子供の声がうるさいとか、やたらに騒いだり電話してたりね」

 

 そんなことをヒソヒソ話している途中……。

 

 暴れていた女は、ユオンたちのほうを振り向いた。

 血走った眼。

 歪んだ顔。

 ほとんど狂った獣のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。