破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
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――……妙なものを押しつけられたものだ。
紫の女は騎士は、疲れた顔でため息をつく。
ライワ・ヘイメルフント。
ネビズのギルドナイト……その1番隊長をつとめる女。
ライワは、汗まみれになった少女の背中を見ていた。
ついさっき。
襲いかかるオーガを、その剣で切り裂いたばかり。
いや。
その前に10を超えるゴブリンを斬っている。
凄まじい剣技だった。
技術だけなら、どこの国でも英雄とされるかもしれない。
――確かに、強い。
だが。
ライワの視点では、ちぐはぐで頼りない部分が目立った。
どこか、歯車が合っていない。
それでも来たばかりの頃と比べれば、かなりレベルアップはしている。
してはいるが。
――バカ正直だ。まるで、式典の演武だな……。
あまりにも素直というのか?
きれいすぎるとも言える。
武術ではあるが、武術ではない。
おかしな矛盾。
単純な思考や攻撃をするモンスターなら、苦戦もしないだろう。
事実、全て瞬殺ともいえる速度で倒している。
――だが……。
経験値の高いしたたかな相手や、1ランク上のモンスター。
そういったものに対して、
――どの程度通用するのか。
それは、非常に疑問だった。
少女の姿にライワは、あの青い乙女……カーシャのことを思い浮かべる。
――真逆だな。
カーシャの動きや戦い方は、一撃必殺とも言えるものが多い。
なので、わかりにくいが……。
――獣や、虫のような動きだ。
かといって、単純ではない。
本能的で迷いがないくせに、恐ろしいまでに応用力が高く、隙がない。
――あんなものは身につくまい……。
自らも並以上の実力者だけに、ライワはそれを肌で実感した。
これに対して――
少女の剣は、研ぎ澄まされ、磨き上げられた武人のそれだ。
しかし。
それに付随しているべき、血や死体の臭いがなかった。
訓練だけで達人になってしまった。
そんな印象。
――いや、そんな者がいるのかどうかは知らんが……。
もし、いるのなら。
――こいつのような剣になるのだろうか?
ライワが考えていると、少女が剣をおさめて歩いてくる。
「死んだかどうかは、確認したようだな」
「はい」
「以前のように、それで不意打ちを喰らったら終わりだ」
「……はい」
指摘され、少女はうなだれた。
――向いていないな。
少女のひととなりを見て、ライワはそう思っている。
――貴族の令嬢、その護衛。いや、それも不適格か。
所作は品も良い。
背筋が伸び、芯が通っている。
初見から、ある程度訓練を積んでいるのはわかった。
おそらく幼少時からだろう。
――しかし……。
高貴の身分を護衛する。
ある意味、それは冒険者以上に難しい。
親衛隊の任務。
普段の所作や外見に加えて、緊急時には護衛する相手を絶対に守らなければならない。
どんな手段を用いても。
もし不手際があれば。
護衛する者が、貴族の嫡男、結婚前の女性であれば。
――本人だけはない。家や仲介者にまで
この少女は、どのような立ち位置になるべきなのか?
ライワにはわからない。
――妹のほうは……まあ、適当な男でもみつけそうだが。
少女の顔を見ながら、ライワはここにいないもうひとりを思い浮かべていた。
「まあ、今のところは――」
ユオン・キナはちょっと空を仰ぐような仕草で、
「いくつかの場所に分けて、経過を観察しています」
ふたりの歩く街の公園には、何組かの親子がいた。
他にも、犬を散歩させている者。
運動をしている者。
色々である。
異世界から、土地ごと跳んできてしまったこの街――
名は、サトナ。
漢字では、
古国名
と、書く。
「研究施設、ではなく?」
カーシャはジロっと、ユオンを見た。
「そういうかたがたもいますが……。日常生活や冒険者、いえ、戦闘記録の継続ですか。そういうアプローチをしてるかたもいるのですよ」
カーシャの問い。
ユオンはそれに、ニコリと笑顔を作る。
「この街で過ごしている、
「ドロー? ああ……」
ボロンとつるむようになった。
というか。
ボロンがつきまとうようになった、転移者の少年。
「本名はわかりにくいので、この愛称で呼ばせてもらってます。ボロンさんはまた別の呼び方をされてるようですけど」
「普段なにをしてるの、アレは」
「主に、これですね」
ユオンが見せたのは、台座のついた小さな
「映像を映すのに使うものですが、これに色んな映像をデータを吹き込む……というものです」
「ボロンがいつも見ているようなヤツね。安っぽいものも多いようだけど」
「でも、なかなかに芸術的なものもあるでしょう。いえ、芸術性と娯楽性が巧みにミックスされた名作も多い」
「そうね」
「他にも、色んな情報、記録映像などもあるので色んなものがわかってます。社会情勢、自然環境、国家間の関係。それはもうたくさん」
王宮にとって、学ぶべきもの、反面教師とすべきものが多いのです。
そう言ってから、ユオンはまた笑った。
「日常ねえ……。その割に、しっかり監視されてるようだけど」
「ははは。他の国や、おかしなことを考える貴族に利用されても困りますので」
「困る、ときたわね?」
カーシャは冷たい眼を細めて、
「むしろ、餌にしてるんじゃないの? そう、
「野暮なことは言いっこなしですよ、ミズ」
ユオンは人差し指を唇に当て、ウィンクをした。
「ふふん」
カーシャは鼻で笑ってから――
ピクリと身を揺すり、視線を変えた。
叫び声。
「サキュバス街のほうですね?」
ユオンはちょっと首をかしげた。
比較的治安の良いこの街には、珍しいこと。
太った中年の女。
肥満の他、生活の乱れが外見に表れていた。
「************……!!!」
女は金切り声をあげて、刃物を振り回している。
どこをどう見ても、まともな状態ではない。
「あのひと、なんですか?」
ユオンは遠巻きにしている野次馬――のひとりへたずねた。
既婚者らしい30代の女。
目つきからして、女を知っているらしい、と踏んだのだ。
「確か、うちの近所にいるヒトよ。不愛想で偏屈な……」
「気難しいかたで?」
「前々から子供の声がうるさいとか、やたらに騒いだり電話してたりね」
そんなことをヒソヒソ話している途中……。
暴れていた女は、ユオンたちのほうを振り向いた。
血走った眼。
歪んだ顔。
ほとんど狂った獣のようだった。