破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

167 / 357
その110、オグ事件-19 互いに悩む

 

 

 

 

 

 

 

「……この連中は、ひ弱だがすぐカタギになれそうだと踏んでたんですけどね」

 

 褐色の女――

 リガサはソファーに座したまま、淀んだ目で言った。

 

「そら、どこにだって()ねっ返りや悪ガキはおるわな」

 

 机の前で、支部長は苦笑して応えた。

 

 若くはない。

 まず、50は過ぎているだろう。

 頭の真ん中が寂しく、それなのに全体的には長髪。

 背は高く、がっしりとしているが、落ちついた印象。

 

 旧:市庁舎。

 現在は冒険者サトナ支部の中心となっている。

 

「〝けーかん〟、ですか? 統率も取れてるし、なかなか規律もしっかりしている。ある程度鍛えれば、それなりの兵隊になると思ってましたが……」

 

 あんなガキやチンピラにまでなめられてるとはね……。

 

 リガサは、暗く冷たい声で言った。

 

「まあまあ」

 

 支部長はポットを手に立ち上がって、

 

「そう気を張らんで、ちょっと落ちつけ? まあ一杯飲んで肩の力ぁぬけや?」

 

 茶をすすめながら苦笑する。

 

「向こうには向こうのやり方があったんやろ。そういうのんは、なかなか変えられんもんやで」

 

「それでゴロツキになめられてたんじゃ、話にもなりませんよ」

 

「法で縛られてるちゅうこっちゃ。うちかておンなじやがな。法が違えば、やり方も違うわい」

 

「……」

 

「まあ、菓子でもつまめや。この街の名物らしいけど、なかなか美味いで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 バッキーは暗い気持ちで歩いている。

 

「お手数かけました」

 

「いえ」

 

 バッキーは無理に笑顔を作って、案内の警官を振りかえる。

 

「それにしても、あのヒト……。なんであんな無謀なことを」

 

 犯罪者が日本よりはるかに厳しく取り締まられる。

 このへんは、もうわかっているはずだ。

 

「自分が担当というか、取り調べたわけでもないから、そのへんは……」

 

「そうですか……」

 

 バッキーも、治療の前にある程度のことは知らされた。

 

 といっても。

 年齢や体重、ケガの様子などだが。

 

「ええと。……これは、まあ半分ひとりごとですけど」

 

「?」

 

「あのヒトは、あの年まで独身で忙しく働いてたそうです。こういう状況なので、もう職場は潰れちゃいましたが」

 

「なるほど、そういう……」

 

「ええ。もう日本円なんて通用しませんし、そりゃだいぶ混乱しました。まあ、現金を買い取ってもらえたのは不幸中の幸いでしたけど――あれ、なんの役に立つんですかね?」

 

「そういうのを使う魔法もあるんじゃないですかね。私にはまったくの専門外ですけど」

 

「ははあ。えと、ああ……。前々から色々ご近所トラブルもあったんですね。子供がうるさいとか、なんとか。それが、こうなってから余計おかしくなっていたようで」

 

「いきなり〝異世界〟なんかに放り出されたら、みんなそうなります」

 

「それはね? 混乱も大きかったし、パニックになりかけたところもありましたが、偉いヒト同士の交渉とかで何とか落ちついて……。しかし、どうしても文化というか、そのギャップが?」

 

「まあ。でしょうね……」

 

「特に困っちゃったのが、あの――」

 

「ひょっとして、サキュバスですか?」

 

「はい。そうです、そうです」

 

 警官は強めにうなずいて、

 

「日本だったらまず、法律……この場合は、未成年へのアレコレでしょうかね。そっち取り締まるような……」

 

「そっちですかぁ」

 

 バッキーは何とも反応に困って、微妙な気分。

 

「さすがに、小学生には手を出さないと思いますよ? こっちの常識でも」

 

「出されちゃ困りますよ。とはいえ、彼女たちには街全体で恩がありますし。保護者としても強くは言いがたいんですな。それに、当の本人、中高生の男子なんかはねえ……」

 

 警官は苦笑しつつも、肩を落とす。

 

 ――街の支援とか色々、かなりサキュバスがお金や労力を出してるもんねえ。

 

 バッキーは思い出しながら、廊下の窓……外を見た。

 

 荒廃とは無縁。

 いや?

 

 ――ひょっとすると、前よりも活気があるのかも。

 

 バッキーはそんなことさえ思う。

 が。

 その途中で、

 

「……あれ? まさかサキュバスがあの凶行というか暴走に関係が? いえ、確かにそんなことを聞きましたけど」

 

「心の中で、何か色々あったんでしょうかね。うちの職場、女性警官も神経質になったのもいますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ。またトラブル、ですか?」

 

「まあ……はい」

 

 ユオンの問いに、ギルド支部の事務職員は曖昧な返事。

 

「市内にある、結婚相談所なんですが」

 

「ああ。仲人を商売にしているというお店」

 

「そうなんですけど、ここ最近ギルドナイトが介入することも多くって」

 

「はて? あんまり縁のある感じもしませんが。つまり、商売がうまくいっていないと?」

 

「そうなんですよ。男性会員の退会が続いているそうで」

 

「結婚ねえ? ふむ。なるほど。サキュバスですか」

 

「はい。サキュバスと契約結婚するのが激増してるとかで」

 

「しかし、住民はこっちに来ちゃった段階で無一文になっちゃったのが大半でしたが」

 

 ユオンは不思議そうに言ってから、

 

「なるほど。ローンですか」

 

「そうなんです。いえ、元から相場よりも安くしてますね。契約内容によっては、かなり」

 

「でもねえ、そこは法的にどうこういうもんではありませんよ。サキュバスの自由ですから。それに? 別に全員ってわけでもないのでしょう」

 

「いえ、それは。向こうにすれば、サキュバスはわけのわからん存在ですから。警戒したり怖がるのだって当然いますよ。ただ、全体的には」

 

「借金があるのなら、返済しようと仕事をがんばるでしょうから。こっちとしては助かります。アハハ」

 

「そんなのんきな……」

 

「わかりました、わかりました。そこらも上へ報告して何か対策を考えましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。