破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「――こちらの男性になるんですけどね?」
と。
ユオンは空中に2枚の画像を映し出した。
ひとりの、若い男。
少なくとも、二十歳になるかならない、という年齢。
その、【顔写真】と【全身写真】。
黒髪に、深い青系の瞳。
顔立ちは整っており、体躯もスラリとして涼やかだった。
「身長体重などはコレコレでして……。年収は、まあ一定はしにくいのですが、? 若くして大きな成功を収めたかたでして、昨年は手取りで2000万ジュラでした」
ユオンは書類を見せながら、説明を続ける。
「……こ、このヒトとお見合い、いえ結婚できるの!?」
女が鼻息荒く迫るのを、
「まあまあ落ちついてください。さきほど説明したように、我が国では事実上の一夫多妻が認められておりまして。結婚した場合、あなたはそのおひとりに加わることになるのです。そこは、おわかりでしょうか?」
ユオンは静かに抑えながら、
「……むむむむうう」
「抵抗があるのは同じ女として同意いたします。ですが、これはもう仕方のないことと、妥協していただかないと。代わりと言ってはなんですが、多くの妻を持てば扶養義務と同時に税金の控除があります。つまりより収入も増えるわけですね」
どうです?
銀髪のエルフは、静かに問うた。
「おや、ゴトクじゃないか。相変わらず忙しそうだねぇ」
ゴトクが少し早めの夕食をとっている時――
カウンターから、女が声をかけてきた。
場所は、どういうことのないラーメン屋。
こちらに来てから。
仕入れを含めて色んなものが困難となり、途方に暮れていたそうだが……。
現在は持ち直して、客も増えているらしい。
紅いウェーブヘアの女だった。
ふるいつきたくなるような、美女。
肉感的だが、全体的に引き締まった力強さがある。
エルフだった。
「ねえさんこそ、だいぶ稼いでるって話を聞いたぜ」
「あははは。まあ、せわしくなくクエストをこなしてるよ。所帯がちょいと大きいんでね? 数をこなさなきゃ儲けが出ないのサ」
女はゴトクのテーブルに移動しながら、肩をすくめる。
手には酒瓶と、酒の入ったコップ。
「前のパーティーは? いや、聞くまでもねえか」
「ああ。リーダーは見込みがあるヤツへ任せたよ。だいぶこなれてきたしねえ、まあ
「そろそろカタギになる気はないのか? 実績もあるし、
「
前にも、そう100年ほど前さ。
引退しかけたけどねえ、退屈でさァ。
女は苦笑して、追加の酒と料理を注文する。
「
ファスティトカロン――。
太陽の生息する、島のように巨大な魚類型モンスターのこと。
その排泄物などが栄養豊富な餌となるため、周辺には無数の魚が群れる……。
と、されている。
実在するかも不明な、謎ばかりのモンスターだが。
世間話をするうちに、話題がまた変わり、
「リバオ・ヨーム?」
ゴトクは少し首をかしげてから、
「あー、話には聞いてる。**から流れてきた腕利きだってな。金を貯めて、羽振りも良いんだったか」
「商売のほうもやってて、そっちも調子が良いねえ。元は貴族の生まれだが、ミソッカスでね。家じゃ冷や飯喰いだったと言ってたよ」
「その、成功者がどうしたって」
「今に爵位も
「成功者とか富裕層が、女性を多く囲うのは事実上の義務だろ。社会貢献というやつだ」
ゴトクは言ってから、目を見開き、
「まさか」
「あいつが成功したのは、実力や工夫、がんばりもあるよ。だけど、貴族やギルド支部長の協力や後押しも理由のひとつさね。つまりは、恩もあれば義理もあるってこと。下級貴族の娘も女のひとりだしさ」
「おいおい」
「他にも、だ。そういう成り上がり、まして元は
儲けを税でガボガボ持ってくとか。
言って、イエーカは苦笑をもらす。
「……」
「けど、中央だってバカじゃない。それならそれで、有効活用さ。税金免除の代わりに、社会貢献しろってね」
「ひでえ話だな、あまりもの女を成金におっつけるってことかよ?」
「そりゃ正妻にはならないだろうけどサァ。形の上だけでも結婚できる。若い亭主を持てる。生活費も出る。良いことしかないじゃァないか」
「あんたなぁ……」
微笑を浮かべるイエーカに、ゴトクはげんなりした顔で、
「本気で言ってるのか? 揉め事が起こらんわけがねえだろう。いや、わかって言ってるな?」
「さあねえ。まあおとなしくしてれば食うにも困らない。そいつは確かだろ」
応えながらイエーカは酒瓶をゴトクに向けて、
「ひとつ、どうだい?」
「姐さん、これって面白いのか?」
おいらにゃよくわかんねーんだけど……。
マコネは後ろからカーシャに言った。
「どうかしらね。でも、退屈もしない」
カーシャは映像を見たままそう返す。
ソファーに座り、ジッと――
映像の中で繰り広げられる物語。
モノクロの映像。
傲慢な男と、その被造物の物語だった。
男に創造された醜い巨人。
善悪の理解も乏しい、力だけの怪物。
怪物は無知ゆえに罪を犯し、人々に追われる。
やがて。
炎の中に怪物は消えた。
創造者の男は、女と共に
「……
なんだかんだで最後まで付き合っていたマコネは、嫌そうな顔で言った。
「そうね」
カーシャは同意して、
「……そういえば、アレは原作の小説もある、とか言ってたかしら」
ボロンとつるんでいる転移者を思い出していた。