破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
これは後でマコネが語ったことだが――
「まあ、なんちゅうのかねえ?」
「横から聞いてた話だと、あいつらは古い友達、幼馴染ってやつらしいやね」
それが、被害者少年の名前だった。
これが加害者少女の名前。
両者は同じ近所で、幼稚園から現在の高校まで同じ学校。
「小学生、の2年生くらいかな。それまでは、まあ友達だったよ」
そう炊は語っている。
このへんは、ギルドの正式な調査でもわかることだった。
小さな頃の和樹は……。
名前のせいもあり男子と間違われるような、趣味で容姿だった。
「つまり、男のガキが面白がる遊びとかオモチャとか、そんなんが好きだったらしい」
「ふーん」
カーシャはどうでも良さそうな反応だったが、
「話の感じからすると、成長するにしたがってお互いに距離が出てきた。いや、女のほうが離れていったのかしら?」
「よくわかるなー?」
「よくある話だもの。まあ婚約者同士ならともかく、だいたいそんなものらしいわね」
私も
カーシャは肩をすくめてから、
「でも、男のほうは未練があった。いや、片想いでもしてたんじゃないの」
「おっと。それも当たりだ。多分だけどな。あの口ぶりだと、そんな感じだろ」
「ふーん……。で、そんなダラダラした状態の中で、街ごとこっちにきてしまったか。なるほど、なるほど……」
カーシャはきれいな、形の良い額を指先で撫でつつ、
「さらに。来てみればサキュバスがウジャウジャいる環境だった」
「向こうにゃ人間以外の知性種族はいねーらしいからよ。だいぶ驚いたんじゃねーかな」
「でしょうね」
応えながら、カーシャは皮肉げに笑う。
「どしたンだよ?」
「いえいえ。なんとなく、察するものがあったから。まあ同じ女としていくらか同情はできるわねえ」
「?」
「まあ確かに、女は資質のないものだって儀式を行えば魔導士にはなれる……。なれるけれど」
女そのものの価値は極めて低くなるのよね。
ここらの地域では――
カーシャは芝居がかった仕草で、上を仰いだ。
この世界、この国ヤオアムト。
転移してからの混乱は数限りなかったが……。
ここでは
当初、核戦争後の世紀末世界みたいなものを予想し、恐れおののいたが?
ふたを開けてみると、案外治安は良かった。
ただし。
それを乱す者への取り締まりは過酷だったが。
通っていた高校でも、授業内容は一変。
というより。
軍事訓練や奉仕活動みたいなものの連続。
街のインフラ整備や、何やらで若者は駆り出される。
腕力や体力の低い者は補助や食事係に回された。
炊はまあ中間クラスであったために、肉体労働。
何度か食事係にも回されたが、
――あれはあれで大変だった……。
炊はそんな感想。
このへんは、他の経験者も同様。
では、女子は何をしているのかといえば?
魔導士となる儀式魔法を受けていた。
これがすんでも、
「はい。今から魔法使いですよ」
とは、ならない。
ゲームのごとく、レベル1でも魔法の1つ2つ使えたりはしない。
「魔力の使い方を、1どころか
指導員としてギルドに雇われたゴトクはそう語っている。
当然。
みんながみんな、苦労の連続。
一回の訓練が終わった後には
若い世代はともかく、中年以降はより苦労する。
……というのでもなかった。
若者と違って、操れる魔力が少ないだけに、
「暴発させずに、かえってゆっくり丁寧にできたりする。まあ将来性は低いけどな」
これもゴトクの弁。
さて。
それはさておき。
ちょっと落ちついて来ると――
男子たちを狙って、サキュバスたちが動き始めた。
それ以前も水面下で動いていたようだが。
「そっちは精を提供する。こっちはその見返りに得た魔力で色々協力する。ギブアンドテイク。お互いに損はないでしょ」
これはサキュバスたちの言い分。
「あけすけに言ってしまえば、乳牛みたいなもんですな。我々は、ミルクを出す代わりに餌をもらうようなもんだ」
市議会の席で、某議員はこう語っている。
炊の高校においても、大半の男子生徒は【乳牛】となってしまった。
とはいえ。
実質や実態がどうあれ?
いや、そうだからこそ……。
サキュバスからの【お誘い】を断る理由はなくなってしまった。
肉体労働や訓練の後。
いそいそと、サキュバスたちに油を吸い取られる。
学校で目立つ運動部員や、クラスの中心グループ。
逆に、クラスの隅っこのいる階層。存在すら認知されないような生徒。
こうしたものとはまるで無関係、無差別に。
その結果……。
「結局は……」
カーシャは、茶葉の缶を手に取りながら半笑いで、
「自分がうまくいかないのに、見下していた相手が楽しくやっているのが許せなかった。それだけのことよ」
「どういうこったよ?」
「……だから、ね。向こうではそこそこ男にモテていたんでしょう、あの女。でも、こっちに来てから価値は暴落した。自分のステータスでもあった
「サキュバス連中は、さすがに特定の相手がいる男にゃ手を出さねえからなあ」
「そう。逆を言えば? 恋人や妻がいる限り、サキュバスとよろしくはやれない。その程度で壊れる関係性でもあったんでしょうけど」
「だったら、グズグズしてねーで次行けばいいじゃんか」
「こっちでそれが簡単にいくと思う? 今まで尻尾を振ってた男どもだって、もう知らん顔でしょうよ」
「ああーー……」
「そういう時に、あの男がサキュバスとデートしてるところでも見たのかしらね? まあ、なんにしろ」
さぞかし……。
自分に惨めに思えて、プライドを傷つけられたことでしょう。
「ふーん。じゃ、やっぱあの男に未練があったわけでもねーんか」
「そんなの、あなただってわかってたでしょ?」
「まあね……」
「といって全部推測というか、邪推だけど」
カーシャはいれたばかりお茶をマコネの前に置き、
「別に真偽を確かめるほどでもなし、と」