破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その110、オグ事件-25 深く静かに

 

 

 

 

 

 

 

 

「森林の中に結界?」

 

 ユオンは、その報告に振り向く。

 ちょうど、上司へ提出する書類の整理中だった。

 

「はい。上空から見たところ、サイズは大したものじゃないんですけど高濃度の魔力を感知しました」

 

「いやはや。アレコレと面倒な仕事が大きな中、またもや……ですか?」

 

 しかし。結界、ねえ?

 

 ユオンは首をかしげつつも、とりあえず現場へ急行することに決めた。

 

 

 そして。

 

 

「おやまあ」

 

 目の前には、ユラユラと陽炎みたいなものがある。

 巨大な幕のように、前方を(さえぎ)っていた。

 

 押してみると手ごたえは柔らかい。

 だが、

 

 ――ちょっとはそっとでは、破壊も侵入もできませんねえ。これは見事な……。

 

 上から見れば――

 ちょうどきれいな円形……いや、ドーム状になっていることがわかる。

 

「目視されたのは、今日の早朝ですが……。何ですかね、これ」

 

 部下の女性魔導士は困惑気味に言った。

 

「一種の魔法空間ですねえ。ダンジョンとはちがうようですが……どっちにしろ、誰かが意図して作ったものにはちがいないと」

 

「こんなのを作って維持するとなれば、すごい手間とお金がかかりますよ。正直、コストに見合うとは思えないですけど」

 

「それは同感ですねえ。とはいえ、さあて……」

 

 ユオンは腕を組みながら、興味深く結界を観察する。

 中の様子は知れない。

 

 ――でも、誰かはいるようですね?

 

 手に触れた時に感じる魔力の波動。

 それに、生命とか呼吸が伝わってくる。

 

「うーん。ひたすら頑丈だけど……」

 

 ユオンの触れた片手。

 そこに小さな魔法陣が発動・展開。

 魔法陣がゆっくりと回転、逆回転を繰り返していく。

 

 しばらくして――

 

「鍵は丈夫な素材でできてるけど、構造は単純ですね。()()()()()はカンタンです」

 

 一部分へ、丸い穴ができた。

 

「さーて、中は……おや」

 

「え。なんですか? 街???」

 

 結界の中には、大きな町が広がっている。

 明らかに外部のサイズに見合わない。

 

「魔法空間なら、中の容量もカスタイマイズできますから、街があってもおかしくはないです。ないですけど、そうなるとこれまた維持には大量の魔力が必要ですねえ。どっから補給してのかしらン?」

 

 言いながらユオンはスタスタと中へ入っていく。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ! まずいですよ、迂闊(うかつ)に入ったら……」

 

「大丈夫です。ちょっとデータを取るだけですから。異世界ってわけでもないし」

 

 ユオンは気楽に言いつつ、近くの草や小石などをガラス(びん)に詰めていく。

 最後に、

 

「じゃ、よろしく」

 

 1羽の鳥を空へと放った。

 使い魔である。

 

「さて。じゃ、帰って報告書をまた作らないといけません。困ったもんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶんと古そうなものばっかりですな???」

 

 並べられた古道具の山。

 それを離れた場所で見ながら、ドローはため息を吐いた。

 

「色々条件が重なったんだろうが……。どれも保存状態が良い」

 

 検査済みの壺を見ながらゴトクは言った。

 

「しかし、みんな売り払っても良いのかね? 大事なもんもあるんじゃないか」

 

「そんなんだったら、もっと扱いに気をつけてると思いますぞ」

 

「はははは。違いねえや」

 

「して、その壺なんかはどれほどの?」

 

「知らん。値段だの美術的価値はあんまり意味がないからな」

 

「じゃあ……浅学でわかりませんが、歴史とか文化とかを調べるんですか?」

 

「そんなところだ。役に立たんでもこういうガラクタを面白がる変人はけっこういるらしいがね。俺にはわからん趣味だが」

 

 ゴトクは言いながら、立ち上がって古道具を見る。

 

 いずれも、ドローこと泥田坊固丸の実家より出たもの。

 半ば放置されていた、古い蔵にあったものだ。

 

 処置に困っていたそれらを、ゴトクの仲介で研究施設へ売却することとなった。

 

「ふーむ? むぅ?」

 

 道具を見ていたドローはふと、妙な顔をした。

 

「何か要るものでもあったのか?」

 

「あ、いえ。確か、古い燭台(しょくだい)があったと思うのですけど、見当たりませんな」

 

「おい。大事なもんなら事前に保管しとけよ」

 

「いえ? 別に捨ててもいいようなものですが、小学校の頃に持ち出して遊んだ記憶があるもので」

 

「それ、ちゃんと元に戻したのか?」

 

「言われてみれば……。遊んでから、忘れてほっぱり出してしまったかも。何も言われなかったので、すっかり忘れておりました」

 

 今頃は、どっかで資源ゴミに出されていますかな。

 

 と。

 ドローは苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけでして。発見から観察、そして接触、ついには会話と相成りましたわけで」

 

「次は交渉か?」

 

 報告を聞き終えたトーザ侯爵はカフェ・シガーを灰皿に置き、ユオンを見た。

 

「ですね」

 

「他人の庭にいきなり犬小屋を建てて、ずいぶんご立派な態度だな」

 

「こっちも再三説明しましたけど……。まあ、これが」

 

「聞く耳もたんか。そうなれば戦争しかないが? それは理解してるのか?」

 

「してないんじゃないですかね?」

 

 ユオンは気楽そうに言った。

 

「……そちらは何か? 狂人か?」

 

「ではないと、思います。たぶん」

 

「お前は――王宮の官職ではなく、ひとりの魔導士としてはどう考える」

 

「あの結界は興味がありますね。これまた実に素晴らしき研究素材です。その過程だけでも大きな技術的進歩が見込めるかと」

 

「だが、リスクが大きい。国内に、違う国家が居座られてはな」

 

「国家じゃなくって街だそうですけど。あ、都市国家とも言えますかね」

 

「場合によっては、軍を動かす可能性もある。こういう状況なれば……」

 

 そこで。

 トーザ侯爵はゆっくりと立ち上がり、

 

「王宮のほうで検討せんといかん」

 

「そうなれば、あの街は全滅確定ですか?」

 

「さてな。それが王宮の協議で決まることだ」

 

「サトナみたいな感じで対応することは?」

 

「その交渉相手が、お前が報告したような相手だ。そっちの線は、絶望的だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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